26、ルーミルの危機(4)
どんな場所かと身構えていたら、拍子抜けするほどありふれた家だった。
俺の心配を返して欲しい。
この世界では、少なくともこの村では、家といえば二階建てらしい。右を見ても、左を見ても、二階建てばかりだ。
家に入って一番手前のドアを開けると、初老の男の人が座っていた。
ただのおじいさんかと思っていたが、そうでは無いらしい。
後ろ姿からは分からなかったが、彼の前に座ると、そのことがよく分かる。このゴリラみたいな村長より、目力が強いのである。
そして、何となくだが、只者ではないオーラも感じる。カードゲーマーだったら、県で一位くらいのオーラはある。
冬哉の首筋は、汗で少し光っていた。
「シル、何のようだ?」
「この者が商品を卸したいと申し出てきまして」
「私に取引しろと?」
「そういう訳ではありません、老子。ただ目利きをしていただきたくて」
まさか、このゴリラみたいな村長が、ここまで怯むとは。
元Aランク冒険者らしい村長が老子と呼ぶ、このおじいさんは一体何者なのだろうか?
じっくり観察してみたくもあったが、機嫌を悪くされると困るので、大人しく猫を被っておくことにした。
窓の外では、風に合わせて木がカサカサと乾いた声を上げながら、左右に揺れている。
「私に頼むということは、それほどの人物なのだろうな?」
「まだ幼かったので......」
まだ幼いと言っても、もう十六歳なのだが。
この世界なら、もう成人と言っても過言では無いはずだ。
「まあ良い」
老子はかっと目を見開いて、俺の方を見た。
何もかも見通していそうな黒い瞳に飲み込まれそうだ。
ホラーゲームで、目の見えないゾンビに遭遇して、時間が止まったかのごとく微動だにせず、それが立ち去ってくれるのを待っている時と同じ気持ちである。
一呼吸でもしたら、噛みつかれそうである。
何分経っただろうか、やっと俺から目をそらしてくれた。
「ほぅ、少し面白そうだ」
こういう時に、はっきり言ってくれないのが一番もどかしい。
こっちは自分の評価が大丈夫なのか気が気でないのに、こんなふうに誤魔化されると、ちょっとムカつく。
面白いは、良い意味にも悪い意味にも使えるのだ。
そんなことはおくびにも出さず平然とした顔で、どんなふうに商売をしようか考えることにした。
「それで、卸したい商品を見せてもらえるか?」
「はい」
持って来たのは以下の8種類だ。
焼く前の焼き鳥。アイテムボックスに入れれば腐りにくくなるので、冷蔵がない異世界でも中距離輸送くらいまでなら可能だ。
獣人の戦士が使う剣と盾。切れ味とか耐久性は知らないが、少なくとも希少価値はあるはずだ。
豚の貯金箱と招き猫。デザイン性は良いに違いない。まあ、豚の貯金箱は、壊されること無く、ずっとお金を貯め続けることになりそうだが。
屋台にあった輪投げとお面。お面は気持ち悪がられるかもしれないが、輪投げは子供のおもちゃとしては高評価を得られるだろう。
俺の拳大のダイヤモンドが3つ。緊急事態の賄賂として持って来たから、できるだけ温存したい。
ガリウスさんに選んでもらったから、欠陥品は無いはずだ。
あとは、出す順番を考えるだけ。
今までに大量のカードパックを開けてきた俺には、どんなものがどんな順番に出ると、印象に残りやすいのか分かっている。
例えば、最後がショボいのだと、全体の印象が悪くなる。でも、全部がレアなカードだと、ちょっと興奮度が下がってしまう。あとは、ショボいカードの次に最高レアが出ると、すごい嬉しくなる。
要するに、上手く緩急をつければ良いのだ。
「まずは、これです」
一枚目は、相手を惹き込むのが重要だ。
ここで普通のものを出すと、俺に対する注目度が落ちてしまう。
「ほぅ、それは?」
さすがに仏頂面を守り通せなかったようだ。眉がピクッと動いている。
俺が出したのは、輪投げとお面だ。
剣や盾やダイヤモンドみたいに、パッと見て、使い方が分かるようなものはダメだ。
使い道を考えさせることで、より俺の話を集中して聞いてもらえるようになる。
一呼吸置いて、相手を焦らすのも忘れずに。
「右のを輪投げ、左のをお面と言います」
「わなげ、おめん、か」
「輪投げはどんな人も気軽に遊べます。やってみますか?」
「ああ、遊び方を教えてくれ」
実際に遊んでもらった方が、輪投げについてより知ってもらえると思う。
結果は結構好評で、老子と村長が童心に返って、はしゃいでいた。
お面と輪投げの次は、豚の貯金箱、招き猫。少し小腹が減ったところで焼き鳥。その次は剣と盾、締めはダイヤモンドだ。
さすがにダイヤモンドを出した時には、二人の顔から笑顔が消え去っていた。
俺はダイヤモンドとガラス玉の違いさえ分からないから、きれいだなぁ、としか思えないのだが、俺が思っている以上の価値があるらしい。
二人とも、どこで採れたのか、どれくらい持ってるのか、どこで加工したのか、いくらで売るのかと、とやかく聞いてきた。
あまつさえ、村長は俺が盗んできたものかと、疑ってもいた。
「いかがでしたか?」
「全てが興味深かった。久しぶりに、商人の血が騒いだよ」
いつの間にか、仏頂面から、大店の店長みたいな底の見えない微笑をたたえている。
手応えは悪くない。
「私はレオパルト・ルミエールだ。一応、レミール商会の会長を務めている」
「私は冬哉です。こちらこそ、よろしくお願いします」
「では、契約内容について話し合おうか」
「はい」
ブルーテス獣人国を出る前に、智将のガリウスさんに交渉術について教えてもらっていたから、少しばかり自信はあったのだが、俺はまだまだ未熟だった。
レオパルトさんが悪い商人だったらと思うと、ぞっとする。
なぜなら、この話し合いは終始、彼のペースに載せられていたからだ。
しっかり俺のことも考慮してくれた契約が完成した。
彼らは準備ができ次第、ルーミルの街に来るようだ。
俺はおそらくすべき事があるので、一足先に村をできることにした。
ちょうどルーミルの街の方から昇ってきた太陽が、俺たちをこれでもかと照らしてくる。しかし、すぐに雲の後ろに隠れてしまった。
雲の隙間から漏れ出てくる刺すような光は、だんだんと減り、そのうち、そこに太陽があるのかさえ分からなくなってしまった。
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<契約> (要点だけ)
①冬哉がレミール商会に卸した品物の製造法は、誰にも言わずに独占すること。
②(売値の半額)✕(仕入れ個数)が冬哉のもらえる金額とする。
③仕入れ個数は、前月の1.1倍までとする。ただし、レミール商会からの要請がある場合は上限突破可能である。要請終了後の仕入れ個数は、要請する前の月の1.1倍までとする。
④商品が壊れた際は、仕入れ地からルーミルの街までが冬哉、その他ではレミール商会が補償するものとする。
⑤商品に、不具合・欠陥が見つかった場合は、冬哉が全額補償すること。
⑥別途、卸したいものがあれば、その都度相談すること。 (等々)
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