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23、ルーミルの危機(1)

 異世界に来た興奮は、たった五人によって覚まされた。


 冬哉には絶対に関わるなと言われていた不良五人組によってだ。


 あいつらがドラゴンなんかを召喚したせいで......本当に勘弁して欲しい。


 ちょうど冬哉が逃げる姿を目の端で捉えて呼びかけようとしたが、少し気の迷いの間にいなくなっていた。


 カードゲーム最強のあいつなら、この世界は大丈夫だろうと思いつつも、安堵はできなかった。


 もし冬哉が......いや、止めておこう。


 起こって欲しくない未来を口に出すのはダメだと、あいつも言っていた。別にあいつの言ったことを信じている訳では無い。ただ......。


美桜里(みおり)......ねえ、美桜里!」


「えっ」


 私の目の前には、未来(みらい)が立っていた。


 いつも通り、ちょっと上目遣いで、意地悪そうな顔をしている。


「また、冬哉君のこと考えてたでしょ」


 かっと熱くなった顔を横にそむけて、紅潮しているかもしれない頬を隠した。


 私が恥ずかしがることなんてない。うん、そうに決まってる。


 しかし、そんな思いとは裏腹に、忘れようとすればするほど、心臓の音が大きくなっていく。もう、耳まで赤くなった気がする。


「相変わらず分かりやすいわね」


「何が?」


「まあ、いいわ。これからどうする?」


 不良たちに聞かれないように、声をひそめる。


 未来はちょっと嬉しそうだった。


 典型的な映画、特にスパイ映画好きだから仕方ない。


 彼女(いわ)く、「人生楽しまなきゃ損」らしい。その通りなのだが、こういう時まで楽しむのはちょっと違うかなと思う。


 まあ、でも、それが私の親友の未来なのだ。


 みんなのピンチでも、趣味が勝ってしまう未来だが、これでもクラス委員を務めている。


「とりあえず、あいつらの言う事を聞いておきましょう」


「それから?」


「ずっと待つのよ。必ず来るわ」


 未来がはあと溜め息をついた。


 やれやれといった表情のまま、不良たちの方に視線を送っている。


「来るのはチャンスじゃなくて、白馬の王子様かしら?」


「ドラゴンに乗ってるかも」


「ええ、そうだと良いわね」




 力を得すぎた者の末路はおぞましい。


 それまで大事にしていたものも、欲望の前にはただの塵に等しい。


 自分に期待し、それを満たすために、他人のことを犠牲にしてでも欲望のままに行動する。


 そんな人間が集まると、簡単に集団は崩壊する。


 グチャッ


 確かに、そう聞こえた。


 鶏肉をまな板の上に放ったような音がした。どこか違和感を覚えるような音だった。


 ドサッ


 次の音は、そっちを見ていなくても、何が起こったのかは用意に想像できた。


 誰かが倒れた音だと思う。


 しかし、そんな気になることが起きながらも、私は後ろを振り返ることができなかった。


 なぜなら、好奇心に負けた未来が青い顔をして、魂ここにあらずといった感じで突っ立っているからである。


 いつも、いたずらっ子のような笑みを浮かべている顔も、今はそれを忘れてしまっている。


「ねえ未来、どうしたの?」


「......」


 唇が震え、歯はカチカチと音を立てているが、口が開くことは無かった。


 後ろを見ないように周りを見ても同じ事が起きていた。


 好奇心に負けて青い顔をしている子、その子の服を引く子、その二種類がいくつかの組を作っていた。


「ねえ未来、聞いてるの?」


「......」


 風船のように張り詰めている空気でも、誰か一人が針で突いてしまえば、その均衡は一気に崩れる。


 風船であれば、突然パンと大きな音を上げて爆発するか、そのままプシューと死体のようにしわくちゃになる、


 そう、きっかえさえあれば。


 キャァァーーーーッ!


 クラスの誰であろうか、少し気持ちが落ち着いた女の子が甲高い叫び声を上げた。


 それを合図に決めていたのだろうか、一部を除いた全員に何かしらの変化をもたらした。


 私は後ろを見なかったから、平常心のままだったかと言われると、決してそういう訳では無い。


 周りの知り合いが狂人のようになっているのだ。どうして、平常心でいられようか。


 その時、一つの声が響き渡った。


「おい、静かにしろ!死にたくなかったら、俺らの言う通りにしろよ!」


 人間は心が一度折られてしまうと、それまでの感情のほとんどを捨てる。そして、強者に従うべきなのだと、自分に言い聞かせてしまう。自分を守るためだから仕方がないと。


「じゃあ、全員黙ってろよ!」


 さっきの声とは違う人の声だ。


 少しだけ自信のなさが伺える。


 ゆっくりと後ろに視線をやると、しゃがみこんだクラスの皆が目に映った。その中で、三人だけが自分たちの権力を誇示するかのように、仁王立ちをしている。


 真ん中にいるのは不良のリーダー格の剛野君。他の不良たちは地面に倒れている。


 その右にオタク部部長の吉田君。陰キャ部と揶揄されているオタク部の部長に、一年生からなっているということで、だいぶ女子からは忌避されている。


 左には、高橋君。多分、教室の端で本を読んでいた。あまり話したことは無いから、よく分からないが。


 三人の服に付いている赤い染みが何かは、何となく分かっている。


 でも、それが事実だとは認めたくはない。


 あとは、なし崩し的に進んでいってしまった。


 目の前で人を殺されるのを見た人、その人がおかしくなるのを見た人、結果的には全員の頭が正常に働いていなかった。


 気付いた時には、左手に黒い腕輪がはめられていて、全員同じ場所で寝ていた。




 今、思い返すと、こんな感じだったと思う。


 剛野君が他の不良たちからカードを奪い取って、反乱を恐れた彼が殺したらしい。


 隣に立っていた吉田君と高橋君は、共犯者だったと聞いた。


 あとで聞いたのだが、この三人は私たちより一週間くらい前には、この世界に着ていたらしい。


 どうりで、接点の無さそうな三人が連携を取れている訳である。


 これ以上の詳しい話は聞かないでおくことにした。聞くとしても、彼が来てからだ。


 そして、私たちの左手にはめられているのは、服従の腕輪だ。俗に言う、異世界もので、奴隷が付けているアレだ。


 おかげさまで、私たちは彼らの立ち上げたギルド(冒険者のグループまたはチーム)、暗黒街に入れられて、ルーミルという街でブラック企業の社員のような生活をしている。


 まさか、たった16歳からブラック企業で働くとは思ってもいなかった。


 でも、もう終わる。


 誰かが私の胸の中で、そう言っている。


 私の待ち望んだ王子様が、三人の家族のような仲間と一緒に訪れると。

まだ初心者で改善点があると思うので、何かあれば感想で教えていただけると助かります。


もし面白いなと思っていただけたなら、ブックマーク登録、ポイント、リアクションもお願いします。


ぜひ他の作品も読んでみてください。

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