22、獣人国の一騒動(14)
紅葉は少し神妙な顔で部屋に入ってきて、そのまま俺の左隣りに座った。
こんな時、きっと女の子を励ますべきなのだろうが、俺にはそこまで気を回す余裕が無かった。
なにせ、俺と紅葉が今座っているベッドの中には、楓と椿がいるのだから。時々、後ろの布団がもそっと動く。
もしバレたら、励ますどころの話では無くなってしまう。ある意味で元気にはなるのだろうが、そんなことになったら後でどうなることやら......。
「冬哉、その......ありがと」
「大したことはしてないから、気にしなくて良いよ」
「どうして私と共闘してくれなかったんですか?」
紅葉が真剣な顔で俺に尋ねる。
やっぱり、俺が村のそばにいたのは分かっていたのだろう。
これの答え次第で、この先の運命まで決まってしまいそうで話し初めづらい。どれだけ自分の呼吸の数を数えただろうか、やっと自分に踏ん切りがついた。
「紅葉は過去を精算するために行ったんじゃないか?だったら、俺が加勢するのは場違いかなって思って」
「はぁ。そうですか」
彼女の首ががっくりとうなだれた。
顔を上げた彼女の顔を涙が伝わっている。
答え方を間違えたかな......?
「やっぱり、冬哉から離れられない......」
小さな声でそうつぶやいたように聞こえた。
「離れなくても良いんじゃない?」
楓と椿の暴走を止められなくなりそうだし、いなくなるのは寂しい。
それに、こんな顔をした紅葉を放ってどこかに行くのは、後味が悪いに違いない。
紅葉は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに納得したような顔になった。
「でも......」
「俺は紅葉に一緒にいて欲しいんだ」
「そんなこと......」
「俺じゃ、力不足か?」
「そういう訳じゃないんです。ただ、今回みたいに迷惑をかけたくないんです。これからも迷惑をかけ続けて、ずっと与えてもらうだけなんて、そんな私はイヤなんです。私だって、冬哉を助けたい。冬哉に認めてもらいたい。冬哉の隣に立っていたい......」
何かを強く訴えかけるような目で、俺をまっすぐ見ながら、俺に言葉を投げかけてくる。
ダムの堤防が決壊して、中に貯めていた感情が溢れ出したかのように話しながら。
最後の方は、声が涙に打ち消されてしまっている。
「なぁ、紅葉。俺たちって、どんな関係だ?」
「私は、私たちは......」
言葉に詰まってしまい、またもや泣きそうになっている。
考えるより先に手が動いた。
紅葉の左頬に優しく右手を当てた。そして、顔を紅葉に近付けた。
右手には、涙のひんやりとした寂しさと、紅葉の中から伝わってくる熱を感じる。
「俺たちは、仲間、そして相棒だ。それに婚約者にもなった」
次の言葉は、人生を背負っている。もう、言う覚悟がないとか、順序があるとか、細かいことを言っている場合では無い。
ただ、この日のために、その言葉があるのだと思った。
「俺たちは、もう夫婦だろ?」
「ふうふ?」
「ああ、夫婦だ。夫婦はずっと隣りにいて、お互いを支え合う存在なんだ。だから、俺が迷惑かどうかなんて考えなくて良い。それに、俺は紅葉にいっぱい迷惑をかけて欲しい。それが今を生きている証であり目標なのだから」
勢い余って、柄にも無く、格好をつけてしまった。
でも、これくらい言わないと、紅葉が消えてしまいそうで怖い。
もう俺の大切な人がいなくなるのはイヤだ。
ふと頭に浮かびかけた父親と祖母の姿を、頭を振って消し去った。その影響でか、いつから失ってたかは分からないが、冷静さを取り戻した。
改めて、今までの自分の行動を振り返ると、一つの疑問が浮かんでくる。
あれ......どこからが本音なんだ?
「冬哉、その......私は良い奥さんになれるかな?」
「う、うん......今も良い奥さんだよ」
冷静さを取り戻した今、顔が赤くなり、舌も上手く回らなくなり始めた。
さっきまで、平気な顔をしてこんなことを言っていたと思うと、余計に心臓が大きく、そして早く鼓動を鳴らし始めた。
二人とも何を言っていいのか分からず、下を向いて顔を赤らめている。
意を決したように視線を相手に向けると、お互いのタイミングが被ってしまい、バツが悪そうに下を向く。そんなもどかしさを数回感じた。
この均衡を破ったのは紅葉だった。
「私は冬哉に甘えて良いの?」
「良いよ」
「じゃあ、ちょっと失礼します」
紅葉の体が少し右に傾くとすぐに、俺の太ももの上に、彼女の頭がちょうど収まった。
俺に膝枕されている紅葉の顔はよく見えなかったが、横顔からでも分かる。
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに寝ているのに起こすのは可哀想で、彼女の頭を俺の太ももから枕へ移せなかった。
それに、枕に移すために抱きかかえるとき、目を覚まされたら、何か変なことをしようとしていると誤解を受けて、嫌われかねない。
他にも色々思うところがあり、結局このままを維持することにした。
後ろの布団がガサッと動いた。
「社会の不平等さを感じました」
「二人とも、お熱いわね」
布団から出てきたのは、楓と椿だった。
ともに、声色がいつもと違って不機嫌そうだ。
「あ、その顔!」
「さすが椿ね。ええ、完全に私たちのことを忘れてましたね」
この二人、いつから仲良しになったのだろうか?
それにしても、顔からバレてしまうとは。
しかし、勘が鋭い楓ならともかく、椿にまで俺の心が読まれるろは思ってもいなかった。似た者同士、同じことができるのだろう。
一応、否定しておくのが重要である。
ここで開き直ったりしたら、確実により怒らせてしまう。これは過去に実証済みだ。
カードゲーマーたるもの、しっかり実証して、自分の行動に確信を得るのが重要だ。
「いや、覚えていたよ」
ちょっと目が泳いでる気もするが、これくらいなら。
「目が泳いでますね」
「ええ、そうね。まったく隠せてないわね」
「でも、お願いを一つ聞いてくれるなら許してあげますよ」
いつまでも不機嫌そうな顔をされてると、いつも笑ってる分、それだけギャップを感じる。
それに、女の子との諍いは早めに解消しておいた方が良い。
中学校の頃、身を持って学んだ。
「分かったよ。でも、俺ができる範囲のことだけだよ」
「では、一日に三十分で良いですから、私たちに冬哉様の時間をいただけませんか?」
「そうそう、平等にするべきね」
そう言い終えると、ドアを開けて、部屋から出ていってしまった。
俺の意見は聞かないということだろう。
俺が呆気にとられていると、紅葉が目を覚ました。
いやはや、タイミングが少しでもズレていたら、大惨事になりかねなかった。
「なあ紅葉、いつまでこうしてるんだ?」
「もう少しだけ......」
そのまま目をつぶってしまった。絶対に動かないつもりなのだろう。
頭を撫でてあげると、子猫のように気持ちよさそうな顔をした。
そんな子猫に癒やされつつも、明日から始まるであろう一日を想像すると、少し溜め息がこぼれてしまう。
足から伝わってくる温もり飲み込まれて、俺も眠ってしまった。
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
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