表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/35

22、獣人国の一騒動(14)

 紅葉は少し神妙な顔で部屋に入ってきて、そのまま俺の左隣りに座った。


 こんな時、きっと女の子を励ますべきなのだろうが、俺にはそこまで気を回す余裕が無かった。


 なにせ、俺と紅葉が今座っているベッドの中には、楓と椿がいるのだから。時々、後ろの布団がもそっと動く。


 もしバレたら、励ますどころの話では無くなってしまう。ある意味で元気にはなるのだろうが、そんなことになったら後でどうなることやら......。


「冬哉、その......ありがと」


「大したことはしてないから、気にしなくて良いよ」


「どうして私と共闘してくれなかったんですか?」


 紅葉が真剣な顔で俺に尋ねる。


 やっぱり、俺が村のそばにいたのは分かっていたのだろう。


 これの答え次第で、この先の運命まで決まってしまいそうで話し初めづらい。どれだけ自分の呼吸の数を数えただろうか、やっと自分に踏ん切りがついた。


「紅葉は過去を精算するために行ったんじゃないか?だったら、俺が加勢するのは場違いかなって思って」


「はぁ。そうですか」


 彼女の首ががっくりとうなだれた。


 顔を上げた彼女の顔を涙が伝わっている。


 答え方を間違えたかな......?


「やっぱり、冬哉から離れられない......」


 小さな声でそうつぶやいたように聞こえた。


「離れなくても良いんじゃない?」


 楓と椿の暴走を止められなくなりそうだし、いなくなるのは寂しい。


 それに、こんな顔をした紅葉を放ってどこかに行くのは、後味が悪いに違いない。


 紅葉は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに納得したような顔になった。


「でも......」


「俺は紅葉に一緒にいて欲しいんだ」


「そんなこと......」


「俺じゃ、力不足か?」


「そういう訳じゃないんです。ただ、今回みたいに迷惑をかけたくないんです。これからも迷惑をかけ続けて、ずっと与えてもらうだけなんて、そんな私はイヤなんです。私だって、冬哉を助けたい。冬哉に認めてもらいたい。冬哉の隣に立っていたい......」


 何かを強く訴えかけるような目で、俺をまっすぐ見ながら、俺に言葉を投げかけてくる。


 ダムの堤防が決壊して、中に貯めていた感情が溢れ出したかのように話しながら。


 最後の方は、声が涙に打ち消されてしまっている。


「なぁ、紅葉。俺たちって、どんな関係だ?」


「私は、私たちは......」


 言葉に詰まってしまい、またもや泣きそうになっている。


 考えるより先に手が動いた。


 紅葉の左頬に優しく右手を当てた。そして、顔を紅葉に近付けた。


 右手には、涙のひんやりとした寂しさと、紅葉の中から伝わってくる熱を感じる。


「俺たちは、仲間、そして相棒だ。それに婚約者にもなった」


 次の言葉は、人生を背負っている。もう、言う覚悟がないとか、順序があるとか、細かいことを言っている場合では無い。


 ただ、この日のために、その言葉があるのだと思った。


「俺たちは、もう夫婦だろ?」


「ふうふ?」


「ああ、夫婦だ。夫婦はずっと隣りにいて、お互いを支え合う存在なんだ。だから、俺が迷惑かどうかなんて考えなくて良い。それに、俺は紅葉にいっぱい迷惑をかけて欲しい。それが今を生きている証であり目標なのだから」


 勢い余って、柄にも無く、格好をつけてしまった。


 でも、これくらい言わないと、紅葉が消えてしまいそうで怖い。


 もう俺の大切な人がいなくなるのはイヤだ。


 ふと頭に浮かびかけた父親と祖母の姿を、頭を振って消し去った。その影響でか、いつから失ってたかは分からないが、冷静さを取り戻した。


 改めて、今までの自分の行動を振り返ると、一つの疑問が浮かんでくる。


 あれ......どこからが本音なんだ?


「冬哉、その......私は良い奥さんになれるかな?」


「う、うん......今も良い奥さんだよ」


 冷静さを取り戻した今、顔が赤くなり、舌も上手く回らなくなり始めた。


 さっきまで、平気な顔をしてこんなことを言っていたと思うと、余計に心臓が大きく、そして早く鼓動を鳴らし始めた。


 二人とも何を言っていいのか分からず、下を向いて顔を赤らめている。


 意を決したように視線を相手に向けると、お互いのタイミングが被ってしまい、バツが悪そうに下を向く。そんなもどかしさを数回感じた。


 この均衡を破ったのは紅葉だった。


「私は冬哉に甘えて良いの?」


「良いよ」


「じゃあ、ちょっと失礼します」


 紅葉の体が少し右に傾くとすぐに、俺の太ももの上に、彼女の頭がちょうど収まった。


 俺に膝枕されている紅葉の顔はよく見えなかったが、横顔からでも分かる。


 恥ずかしそうに、でも嬉しそうに寝ているのに起こすのは可哀想で、彼女の頭を俺の太ももから枕へ移せなかった。


 それに、枕に移すために抱きかかえるとき、目を覚まされたら、何か変なことをしようとしていると誤解を受けて、嫌われかねない。


 他にも色々思うところがあり、結局このままを維持することにした。




 後ろの布団がガサッと動いた。


「社会の不平等さを感じました」


「二人とも、お熱いわね」


 布団から出てきたのは、楓と椿だった。


 ともに、声色がいつもと違って不機嫌そうだ。


「あ、その顔!」


「さすが椿ね。ええ、完全に私たちのことを忘れてましたね」


 この二人、いつから仲良しになったのだろうか?


 それにしても、顔からバレてしまうとは。


 しかし、勘が鋭い楓ならともかく、椿にまで俺の心が読まれるろは思ってもいなかった。似た者同士、同じことができるのだろう。


 一応、否定しておくのが重要である。


 ここで開き直ったりしたら、確実により怒らせてしまう。これは過去に実証済みだ。


 カードゲーマーたるもの、しっかり実証して、自分の行動に確信を得るのが重要だ。


「いや、覚えていたよ」


 ちょっと目が泳いでる気もするが、これくらいなら。


「目が泳いでますね」


「ええ、そうね。まったく隠せてないわね」


「でも、お願いを一つ聞いてくれるなら許してあげますよ」


 いつまでも不機嫌そうな顔をされてると、いつも笑ってる分、それだけギャップを感じる。


 それに、女の子との(いさか)いは早めに解消しておいた方が良い。


 中学校の頃、身を持って学んだ。


「分かったよ。でも、俺ができる範囲のことだけだよ」


「では、一日に三十分で良いですから、私たちに冬哉様の時間をいただけませんか?」


「そうそう、平等にするべきね」


 そう言い終えると、ドアを開けて、部屋から出ていってしまった。


 俺の意見は聞かないということだろう。


 俺が呆気にとられていると、紅葉が目を覚ました。


 いやはや、タイミングが少しでもズレていたら、大惨事になりかねなかった。


「なあ紅葉、いつまでこうしてるんだ?」


「もう少しだけ......」


 そのまま目をつぶってしまった。絶対に動かないつもりなのだろう。


 頭を撫でてあげると、子猫のように気持ちよさそうな顔をした。


 そんな子猫に癒やされつつも、明日から始まるであろう一日を想像すると、少し溜め息がこぼれてしまう。


 足から伝わってくる温もり飲み込まれて、俺も眠ってしまった。


まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。


もし面白いなと思っていただけたなら、ブックマーク登録、ポイント、リアクションもお願いします。


ぜひ他の作品も読んでみてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ