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21、獣人国の一騒動(13)

 さっきまでの喧騒は消え去った。


 紅葉が最期に使った『アトミック・ブレイカー』は、一定範囲の全てのものにドラゴンのブレス以上のダメージを与えるのだ。


 そう、まさに人が使える神の技に等しい。その神が創造神か邪神かは分からないが。


 しかし、その代償も大きい。


 三日間、体が動かなくなるのである。だから、戦闘時に使うとするならば、自分が生きるのを諦めたその時である。


 私は生きるのを諦めたわけでは無い。


 できることなら、もっと冬哉と一緒に冒険をしたかった。そんな願いはオークの村に侵入する時に捨てたはずなのに......。


 でも、私のやりたいことは分かった。




「紅葉!」


 誰かが私を呼んでいる?


「紅葉!」


 冬哉が私を呼んでいる!


 ああ、このままじゃ幽霊になっちゃうな。


 でも、また大好きな人を一目見れるなら......。


「紅葉、それでいいのか!」


 そうだね......私も幽霊になるのはイヤかな。


「目を開けろよ!何でも言うことを聞いてやるから!」


「ほらぁ、早く起きないと、冬哉様をもらっちゃうわよ〜」


 ん、誰だ、この人?


 母さんでも、椿でも、近所のおばさんでも無い。いや、この際、誰なのかは大した問題じゃない。


 幽霊になって、冬哉が女の子と仲良しているのを見る方が苦痛なのではないか?


 椿は思い切りが良すぎるから、冬哉と二人きりにするのはマズいのではないか?


 今も女の人といちゃいちゃしているではないか。


 獣人族の戦士として、一人の女として、冬哉をどこの馬の骨ともしれない女に奪われるわけにはいかない。


 まぶたに力を入れると、眩いばかりの光が入ってきた。


 やっぱり、私は死んでいないようだ。


 五感を集中させてみると、しっかり冬哉の温もりが手から伝わってくる。


「と......と、冬哉!」


 息を思いっきり吸って、言葉と一緒に吐き出した。


 その反動でか、さっきまで薄っすらとしか開かなかった目も、今ではほぼ完全に開いている。


 私を優しく包みこんでいたのはやっぱり冬哉だった。そして、その隣に......。


「この人、誰?」


「そんなこと気にしなくて良いよ。それより」


「誰?」


 紅葉が俺を追及する目がいつもより厳しい。


 極限状態まで追い込まれて、危うく死にかける体験までしたからか、一皮むけた気がする。


「代わりに私が答えるね、紅葉ちゃん」


 きっと紅葉が楓を睨む。まさに獲物を捕らえたとでも言っているような目だ。


 楓は相変わらず余裕たっぷりな微笑だ。


 どうしてか、空気が張りつめている。


「あなた、私にも冬哉にも馴れ馴れし過ぎですよ」


 冬哉か、俺のことをお兄ちゃんと呼んでくれた紅葉はもういないようだ。


「あなたはともかく、私と冬哉様は二人っきりの暑い夜を二回も過ごしてますから。あなたより、私の方が冬哉様に近いんですよ」


 やっぱり、楓はネジが一本抜けている。


 こんな時にわざと誤解を生むような言葉を選んでいる。


 絶対に楽しんでるだろうし、意図して無くても、その微笑でそんなこと言われたら煽られてるとしか捉えようがない。


 予想通り、紅葉は頬を膨らませて(にら)んでいる。


 どうしてか、睨まれているのは俺だが。


「どういうことですか!」


「私が苦しんでいた時に、新しい女と熱い夜を過ごしていたなんて、(うらや)ま、いえ最低です!」


 やっぱり楓が余計なことをするから、紅葉が勘違いしてしまった。


 暑い夜と熱い夜では、意味が全然違う。


「落ち着いて、紅葉。しっかり説明するから」


「嘘ついたら分かるんですからねっ!」


「この人は楓、エアルが進化して精霊になったんだよ。だから、新しい女というわけでは無いし、そもそも熱い夜なんて過ごしてないし」


 楓がこっくりと頷いた。


「まあ、そんな気はしてましたよ」


「じゃあ、帰ろうか」


 突然、紅葉が後ろから抱きついてきた。


「おんぶ」


「え?」


「私決めたんです。もう遠慮はしないって。だから、冬哉にはうんと甘えます」


 あれだけ戦闘したなら、歩くのも相当辛いだろう。


 そんな状態で歩かせたら、ガリウスさんに怒られかねない。


 それに、紅葉がオークの村に突っ込んでいったのだって、前兆は何となく察していたのに無視した俺の責任でもある。


「今回だけだぞ」


 少ししゃがんで、紅葉を持ち上げた。


「あ、あの......恥ずかしいんですけど」


「こうして欲しかったんじゃないのか?」


「お姫様抱っことまでは......」


 俺の腕の上で、赤く頬を染めてどぎまぎとしている。


 少し自分の鼓動も紅葉の鼓動も早くなっているのを気にしつつ、帰路へついた。




 家に無事に到着して、2時間。


 またもや、ピンチになってしまった。今度は俺だ。


 夕食の後は自由時間となった。俺はさっさと風呂に入り、布団の中で大の字になって寝ていた時に事件は発生した。


 音も無くドアが開いて、楓が入ってきたのである。


「魔力の補充をしましょうか」


「う、うん」


 と言われても、俺は精霊の魔力の補充の仕方なんて分からない。


 ダンジョンでは、魔物を倒したかったから、二つ返事で了承してしまっただけで、詳しく内容は聞いていなかった。


「では、ベッドの上で寝たままでいてください」


 約束をしてしまっているから、とりあえず言う事は聞いておこう。


「目を閉じてください」


 リラックスすれば良いのか。


「ちょっと失礼しますね」


 俺が寝ているベッドに何かが乗ってきた気がする。ベッドの一部が重みで凹んでいるのが分かる。


 鼻に良い匂いが漂ってきた。


 なんか、妙にドキドキする。


 ベッドの凹みが俺の真横まで来ると、何かが布団に入ってきた。まあ、俺の布団に入ってきたのは楓なのだろうが。


 そのまま、俺が伸ばしていた左腕を枕代わりにして、そこに落ち着いてしまった。


「ちょっと何してるんですか!」


「別に良いじゃない。私だって構って欲しいもん」


 恥じらいもせずに自分の望みを言う人女の子は一人しか知らない。


「椿か」


「あら、目をつぶったままなのに、よく分かったわね。赤い糸で結ばれているってことかしら」


 そりゃあ分かるだろう。俺の腕にしっかりと猫耳が当たっているのだから。


 目を開けると、ちょうど楓も俺の右腕を枕代わりにして、布団に入っていた。


「ねえ、どいてくれない?」


「イヤです!」


「イヤよ!」


 今ようやく分かった。この二人は混ぜるな危険ということだろう。


 俺の目が、ドアがすぅと開いていくのを捉えた。


 んー、不本意がけど、こんなところを見られる方が不本意だ。


 布団をバッと俺の顎のところまで上げて、二人を布団の中に隠した。


「ようやく私の魅力に気付きましたか」


「強引なのも嫌いじゃないわよ」


「二人とも静かに!」


 開いたドアから、中を覗き見るように顔を出したのは紅葉だった。


 男の部屋に入る時は普通こうだよな。


 紅葉の様子に少し安堵しつつも、この状況に不安しか抱けない冬哉であった。

まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。


もし面白いなと思っていただけたなら、ブックマーク登録、ポイント、リアクションもお願いします。


ぜひ他の作品も読んでみてください。

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