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13、獣人国の一騒動(5)

 俺の部屋に不法侵入した椿(つばき)と、俺の布団に不法侵入した紅葉(もみじ)に注意を払いつつ、窓辺に置いてあった椅子に座った。


「椿、今日は何しに来たの?」


「連れて行きたいところがあるの」


「どうする、紅葉?」


「私は疲れているから、お留守番してるよ。冬哉さんたちは行って来れば良いですよ」


 冬哉さん?


 あれ、俺の呼び方ってこれだったけ?


 まあ、触らぬ神に祟りなしだ。余計なことを聞いて怒らせても後々が面倒臭いことになるだけだ。


 それにしても、昨日あんなことがあった後だと、さすがの紅葉も外に行きたく無くなるよな。俺も鳩に糞を落とされた週は、ずっと学校を休むことにしていた。


 無理に連れ出すのは可哀想だから、不本意ながら椿と2人で行くことにした。もちろん、こんな姿を紅葉のお父さんのガリウスさんに見られたら、魂ごと焼かれてしまうだろう。


 一抹の不安を抱きつつ、森へと入っていった。




 その時点では何の問題も無かった。しばらくすると、ガリウスさんの家と同じくらいの広さの家に着いた。


 道中は安全だったが、気を抜いてはいけない。どこからか、ものすごい嫌な予感を感じる。


 恐る恐るドアを開けてみた。


「ただいま、父さん」


 俺の目の前に座っている人がこの集団の長で、椿のお父さんなのだろう。


 紅葉にしても、椿にしても、偉い人の娘だったのか。


 きっと運が良いのだろうが、2人の父親は癖が強そうだ。紅葉のお父さんはあの通りの親バカだったし、椿のお父さんも俺を睨みつけている。


 さっきまでは違ったと思うが、ピンと殺気が張り詰めている。


 この場の空気を吸ったら、その空気が体内を切り裂きそうな感じの空気が満ちている。


「お前は?」


 僕に聞かれても困る。ただ、椿に連れ込まれただけなのだから。


「私は、この方から椿という名前をいただきました」


 え?急に何を言い出すのだ。


 僕を含めて、その場のみんなが驚いている。


 あの椿が敬語を使えるなんて思っても見なかった。獣人も人間と同じように、性格に表裏があるらしい。


 ガリウスさんよりも、体格の良い巨体が椅子から立ち上がった。


「そうだったのか」


 静かに、だけど迫力のある声で言った。


 確かに、遠くから帰ってきた娘が敬語を使えるようになっていたら驚くはずだ。


 そして、こんな呑気なことを考えているのは俺だけだったということは、後になってから知った。


「お前の名前は?」


「冬哉です」


「私はこのブルーテス獣人国の武将、レンクスだ」


 やっぱり偉い人だったのか。紅葉のお父さんのガリウスさんは智将、椿のお父さんのレンクスさんは武将。


 そして、この国は先代国王が死んでから、智将と武将の2人体制で政治を行っていると聞いた。


 つまり、意図せず国王と知り合いになったわけだ。そう思うと、あまりふざけた事はできない。国王なのだから、俺くらい一言で死刑にできるだろう。


「では、今度会えた時には娘をやろう」


 いや、別に欲しいとは言っていないのだが。


 どうして、紅葉と椿のお父さんは俺に会ったとき、俺が自分の娘の婚約者だと認識してくるのだろうか?


 というか、フラグが立った気がする。


 今度会えた時、ってどういうことだよ。まるで、二度と会えないことを前提にしているような口ぶりだ。


 レンクスさんが腰に提げていた杖で、何かを呟きながら地面ををポンと叩いた。


 視界がピカッと光りに包まれた。




 目を開けると、どこか見知らぬ場所に1人きりで立っていた。


 本当に勘弁して欲しい。


 もちろん、別の世界に言ったわけでも無さそうだ。


 いつの間にか、右手が紙を握りしめていた。紙を広げてみると、少しばかり文字が書かれていた。




 満月の火炎へようこそ

 先に言っておこう。地獄へようこそ、自殺願望者または馬鹿な挑戦者よ。

 このダンジョンは月の満ち欠けによって、下から火炎が湧き上がってくる。まあ、灼熱と魔物と戦って見事死んでいただけたら幸いだ。私は一足先に地獄で待っているよ。10階層が君の人生のゴールだ。

    名の無き死人




 ここはダンジョンのようだ。そして、10階層まであるらしい。


 普通なら、1階層ずつ楽しみたかったのだが、どうやらそんなことをしていたら火炎に飲み込まれるらしい。火炎と言うと、マグマだろう。


 そう、大事なことを忘れていた。


 このダンジョンが死ぬ前提で建てられている。つまり、1つの可能性が浮かび上がってくるのだが、言霊というものがあるから、今は黙っておこう。


「魔物カード『エアル』」


 いつも通り、左手に埋め込まれたカタパルトを起動させて、カードを使うことにした。何もせずに、死を待つのはイヤだ。


 とりあえず、目の前に表示されている青い画面から、エアルを召喚して、それにスキルカード『嗅覚上昇』を付与した。


 これで、魔物に急襲されることは無くなるはずである。


「エアル、行くよ」


「人使いが荒いですね」


「え?」


 どこからか声が聞こえた気がした。だが、気のせいであろう。こんな謎の場所に人がいるはずが無い。


 今朝から歩き続けていたので、疲れていたのだろう。


 それよりも手紙に書いてあった、月の満ち欠けによって下から火炎が湧き上がってくる、という部分が気になる。だって、月と火炎に関係は無いはずだ。


 まずは、ゴールと書かれていた10階層を目指すことにしよう。魔物を倒してカードを手に入れられると思えば、少しは楽園にも思えてくる。


 右の壁に、赤い液体が付いていることを除けばだが。


 仕方ないから、あまり軽くない足を1歩前に踏み出した。

まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。


もし面白いなと思っていただけたなら、ブックマーク登録、ポイント、リアクションもお願いします。


ぜひ他の作品も読んでみてください。

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