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1、カードゲームの世界へ(1)

 ピピィーー、戦闘終了!


 俺の一世一代の戦いはこの笛の音で終わりを告げた。


 俺はこの音が好きだ。体の中で反響するようなこの音、試合が終わったことへの興奮、俺を包み込む拍手、それらが俺の気持ちを(たか)ぶらせる。


 俺はやっとここまで来れたんだ。長かったけど、その分楽しくもあった。


「『魔界の宴』の世界チャンピオンはWest(ウェスト) Forest(フォレスト)に決定!」


 『魔界の宴』とは、2年前から世界で流行しているカードゲームである。そして、俺の名前はウェストフォレスト、本名は西森(にしもり)冬哉(とうや)


 このカードゲームを始めた頃の名前はニッシーだった。勝率が上がり、その名前が呼ばれる頻度が増えてくると、だんだんと気恥ずかしくなってきた。だから、ちょっと洒落た名前に変えたのだ。ニッシーより、ウェストフォレストの方がカッコいいだろう。


 『魔界の宴』というカードゲームの世界チャンピオンは俺の裏の姿だ。




 裏と違って、表の姿はただの高校1年生である。裏返すとEからBランクに変わるSRカードと同じだ。裏がどれだけスゴくても、表は平均以下の一般人なのだ。


 俺の友達といえば、小学校時代からの腐れ縁がある羽田と成田だ。この2人は昔から妙に馬が合っていて、趣味から好きな女子まで、何から何まで同じである。俺とはカードゲーム好きなオタク同士だ。


 この2人でチーム競技をやらせると強そうなのだが、如何(いかん)せん、フィジカルの方はオタクだ。かく言う俺も同じようなものなのだが。


「母さん、起こしてって言ったよね!」


「2回も起こしたわよ」


「じゃあ、3回起こしてよ!」


「夜遅くまでカードゲームをし過ぎなのよ!」


 とか


「宿題見せてくれない?」


「また忘れたの、冬哉くん」


「頼むよ、美桜里(みおり)


「次は気を付けてね」


 とか


「なあニッシー、帰り寄って行かない?」


「良いものが手に入ったんですよ」


「当たり前だろ。俺がレア物を逃すわけ無いだろ」


「おお、さすが、ニッシー先生」


 などなど、俺の周りに当たり前のように広がっていた世界はさっき終わったのだ。母さんとの口喧嘩も、宿題を忘れて美桜里のノートを写すのも、羽田と成田とカードゲームを買い漁るのも。


 全てがたった1つの魔法陣で終わってしまった。そうたった1つの出来事で。




* * * * *




 ここが神の部屋というものだろうか。カードゲームに熱中していて、最近流行りの異世界モノのアニメはほとんど見なかったから、何だか新鮮な気分である。


 俺たちカードゲームオタクと対立していたアニメオタクどもは、ここぞとばかりに知識を披露して先生気取りである。


 そんなアニメオタクどもと違って、俺たちカードゲームオタクは最悪の気分だ。


 異世界?神の部屋?そんなの関係無い。俺たちのカードコレクションを返せ!


 バカ真面目なクラス委員どもは、この状況でよくそんなこと言えるな、と笑うかもしれない。でも、カードコレクションとは俺たちの生命線である。これが生き甲斐なのだ。


 無性に腹が立ったが、死んでしまったらカードコレクションとは一生おさらばである。仕方ないから、この自称神様の話は聞いてあげることにした。美桜里がまとめたところ、こうらしい。




 美桜里ver

 この世界は剣と魔法だけでなく、カードと呼ばれるある1つの(ことわり)を内包したものらしい。そして、その理を顕現するために、私たちにはすでにカタパルトが埋め込まれているらしい。そして、特典としてカードを自分で決める権利、アイテムボックスをくれるらしい。


 俺、つまり冬哉ver

 この世界ではカードゲームで戦闘ができる。すでに埋め込まれたカタパルトにカードを入れれば、魔物を召喚したり補助効果をつけたりできる。デッキ構成は自分で決めて良い。




 まあ、つまりカードゲームで無双しろ、ということらしい。カードゲームで実際の戦闘をできるなら、カードコレクションを失った価値はある。


 あとは、カードゲームオタクの名にかけて、デッキ構成を成功させれば下地は整う。


「次、西森冬哉」


 俺が自称神様に近付くと、パッと景色が変わった。目の前には無数のカードがイワシの群れみたいに回っている。まさか現実で、こんな光景が見られるとは。


 感動で涙が出そうになったが、それを堪えてカードを1枚1枚をなめるように見る。たった1文字でも見落とすわけには行かない。俺はカードゲームの世界チャンピオンだぞ。


 そういえば、この世界には魔物カードとスキルカードがあるらしい。魔物カードは魔物を召喚、スキルカードは補助効果を付与する。僕が見た限り、どこにもスキルカードが無い。


「なあ、自称神様。スキルカードはどこだ?」


「ほお、スキルカードとな。魔物カードはいらんのか?」


 人を勝手に異世界に転生させようとしているのに、落ち着いた声である。ちょっとムカついてきた。


「先にスキルカードを見たい」


「分かったぞ、ほれ」


 目の前にあった魔物カードの群れが遥か頭上まで飛んでいき、代わりに下からスキルカードの群れが上がってきた。夢でもこんな光景は見たことが無い。


 この自称神様のカードの出し方だと、普通のやつなら、真っ先に強そうなサソリもどき、イノシシ、ドラゴンあたりに食い付くだろう。しかし、こういう魔物カードとかは、その魔物の生息地さえ分かれば異世界でも普通に手に入る可能性が高い。逆に、スキルカードのような手に入る場所が決まっていないカードの類は珍しいことが多々ある。


 これは人生をかけた賭けだ。安全性に逃げるか、経験を信じるか。まあ、答えは決まっている。ここは異世界、絶対的な安全性が保証されてはいないだろう。


「この3枚にします」


「ほお、それで良いのか?他の子たちは7枚くらい持って行ったぞ」


「大丈夫です」


 与えられたポイントを使って、一番強くなる編成にしたはずだ。大量のポイントを使って強い魔物を数匹か、ポイントが少なく済む弱い魔物をたくさんか。これはカードゲームオタクの中でも意見が分かれるだろう。


 でも、俺は強い弱いで判断したわけでは無い。将来強くなれるかどうかで決めたのだ。世界チャンピオンの名に賭けて言える、俺が最強だ!

まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。


もし面白いなと思っていただけたなら、ブックマーク登録、ポイント、リアクションもお願いします。


ぜひ他の作品も読んでみてください。

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