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第三話 訪問者

 「起きてる!?」

 妻が慌ただしく寝室へ入ってきた。


 不慣れな起こされ方に違和感を感じ、寝ぼけ眼を擦る。


 「警察が……玄関の前まで来てるって……」

 マンションのオートロックを通り抜けて、玄関ドアの前まで来ているらしい。


 「はぁ!?また!?」

 僕は約半年前を思い出した。


 僕には前科も前歴も無い。

 しかし、半年前に警察にご厄介になった経験がある。






 半年前、警察が突然家に来て『捜索差押許可状』を目の前で広げた。

 俗に『ガサ状』と言われるものだ。

 

 心当たりがないことだったが、僕の部屋はひっくり返され、スマホやパソコンを押収された。


 僕は〝重要参考人〟として、警察署へと連れて行かれた。


 警察署で話を聞いたところ、数年前の知り合いが闇バイトの募集をし、僕の指示でやったと根も歯もない供述をしていたようだ。


 その為、朝から夕方までの取り調べで解放された。

 もっともスマホは三週間ほど返って来なかったが。


 警察は冤罪で人の生活をいきなり壊すもの——

 そんなイメージがついてしまった。


 実際、被疑者の供述は嘘だらけで、○日に闇バイトのミーティングをしたとかいう訳のわからない話も、僕のスマホを確認することでアリバイは証明された。


 そんな状態でも、半日身柄を拘束された挙句、スマホは返してもらえない。


 僕は自営業なのでスマホがないと仕事ができない。

 そんなことをいくら訴えても取り合ってもらえないのだ。


 「裁判所が許可を出してるから」

 そういって令状を出されたら、心当たりがなくても逆らう術はない。


 〝奴ら〟のやり方がわかっているだけに、今回もまた同じかと玄関のドアを開ける前に悟った。


 




 玄関のドアを開けると、パーカーを着た男女五人が立っていた。

 半年前と同じだ。


 私服のガサ入れにはパーカーを選択するのだろうか——。

 どうでもいい事を考えながら、用件を聞いた。


 先頭の男が警察手帳を開いて見せた。

 「○○の件だ」


 そして、半年前の警察と同じく『捜索差押許可状』を出す。

 僕は一瞬眉間に皺を寄せた。


 そこに見覚えのある名前があった。

 一時期ビジネスパートナーになったが、ロクな奴じゃなかった。

 

 だんだんと化けの皮が剥がれていったので、一年前には縁を切った男だ。


 正直言って思い出すのも嫌な名前だが、フラッシュバックのように蘇る。


 警察のいう「○○の件」にも心当たりがあった。

 その男に依頼され、行ったことである事は間違いなかった。


 ガサ状を持った刑事を止める手立てはない。

 五人のパーカー集団は、僕の部屋へ上がり込み、部屋を漁り始めた。






 今は使っていないスマートフォンやクレジットカード、名刺などを引っ張り出し、その中から押収するものを部屋の外へと出していく。


 もちろん、今使っているスマホも取り上げられる。

 「明日からの仕事どうしたらいいんだよ」

 僕はそう文句を言ったが、刑事達からすれば的外れな言葉だったかも知れない。


 半年前の経験が、逆に呑気な思考を作り出していた。

 前回と同じく、夕方頃には解放されるだろう。

 頭の片隅で、そんな風に考えていたのだ。

 

 リビングの方で妻と子の声がする。

 刑事の一人がリビングへ行って何やら話しているが、僕が話す事は許されない。


 僕の部屋を荒らしながら刑事達は「心当たりあるだろう」と言葉をかけてくる。


 なんのことか全くわからない。いきなり来て迷惑だと僕は答えた。


 「あー……そんな感じで来るんだ」

 刑事達は小馬鹿にするように笑みを浮かべている。


 明らかに何かを掴んでいる刑事達の態度を見て、とりあえず話は聞くが、知っていることしか話せないというと、いい感じになってきたなと更に笑う。


 刑事達の態度は不愉快な物だったが、そんな事に文句を言っても仕方ない。


 「次、車見に行くから外へ行く用意して」

 パジャマ姿の僕に刑事は言う。


 刑事の一人が、着替えている僕に「現金も少し持ってた方が……」と言葉をかけてきた。

 ここで違和感に気付くべきだったが、特に気にせず、財布だけをポケットに入れた。


 妻・子供と顔を合わせることも叶わないまま家の外へ出された。






 マンションの敷地内をパーカーの五人と歩く姿はどう映るのだろうか……。

 できるだけ早足で駐車場へと向かった。


 車の確認はすぐに終わり、残るは警察署での事情聴取と言われ、

 刑事の一人が回してきたミニバンに乗るよう促された。

 

 後部座席に刑事、僕、刑事の順番で乗り込んだ。

 そして、前の列に乗り込んだ刑事が一枚の紙を拡げた。


 「逮捕状が出ている」


 僕は、一瞬目の前が真っ白になった。

お読みいただきありがとうございます。


今回は、刑事がいきなり訪問してきた朝の事を書かせていただきました。


月曜日の朝という、セオリー通りのおはよう逮捕という物ですね。


逮捕経験も無い私は、まさか逮捕までいくとは思わず、なんの準備もできませんでした。


逃亡の恐れがあることから、ガサ入れの時は逮捕状を見せず、車に乗せて挟んで座り、逃げ場のないようにしてから逮捕状を見せるというのは汚いなと思う反面、確実で正しい方法だとも思います。

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