表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

100回目の告白

作者: なめこ

 僕が初めて告白したのは、彼女と出会ってから三ヶ月が経った頃だった。クラスメイトであり、自然と会話を交わすようになった彼女は特別な存在だった。明るくて、笑顔が優しくて――何気なく彼女と話している毎日が、僕にとって宝石みたいに輝いていた。


「好きです。付き合ってください!」


 その日、僕は放課後の校庭で彼女に思い切って告白した。心臓が破れそうなくらい緊張していたけれど、それでも言わなきゃいけないと思ったんだ。だけど、彼女は少し驚いた表情を見せたあと、申し訳なさそうに首を横に振った。


「ごめんなさい、そういう風には思えないの」


 その瞬間、視界がぼやけた。

 気がつけば僕は、またその三ヶ月前の教室に座っていた。机の上には見覚えのある教科書とノート。クラスメイトたちのざわめきと、窓から差し込む午後の柔らかな光。なんだこれ――デジャヴ? と思ったけれど、あれほどのリアルな感覚を持つデジャヴなんてあるだろうか?

 だが、それがただの偶然なんかじゃないことはすぐに分かった。何度告白しても、結果は同じだった。彼女は僕を断り、そのたびに時間が巻き戻る。そして僕は、また彼女と三ヶ月間の同じ日々を繰り返すことになる。

 ループが始まって、99回目の告白だった。

 その日の空は晴れていたけれど、僕の心はどん底だった。この繰り返しに何の意味があるんだろう。何をしても彼女の答えは変わらない。告白するたびに振られ、また最初から。僕は何かを間違えているのか? それともただ運命の悪戯に振り回されているだけなのか?

 彼女の前に立った僕は、もう諦め半分で言った。


「好きです。付き合ってください」


 その瞬間、彼女の目に涙が溢れた。僕は驚いて動けなかった。彼女は涙を拭おうともせず、ただ僕を見つめた。


「やっと気付いた?」


 その言葉が何を意味するのか分からなかった。けれど、彼女の表情はいつもとは違っていた。


「……君も?」


 ポツリと僕が言葉を漏らすと、彼女は静かに頷いた。

 そうだったんだ。僕だけじゃなかったんだ。彼女もまた、このループを繰り返している。けれど、彼女の涙の理由は僕にはまだ分からない。何を気付くべきだったのか――その答えを探すために、僕はもう一度彼女と向き合う決意をした。










「君も、このループを……?」


僕が恐る恐る問いかけると、彼女は少しだけ笑みを浮かべた。その笑顔には、どこか諦めにも似た悲しさが滲んでいた。


「そうだよ。私も同じ。告白されるたびに時間が戻る。でも……ずっと、君が気付いてくれるのを待ってた」


「待ってた?」


彼女の言葉が僕の頭の中でぐるぐると回る。どういうことだ? 彼女もループしているという事実だけでも信じがたいのに、まるで僕が何か重要なものを見落としているかのような口ぶりだ。


「でも、なんで君が……それに、なんで何も言ってくれなかったんだ?」


「言えなかったんだよ」と彼女は静かに答えた。「君が気付かなければ、意味がなかったから」

その言葉の裏には、僕の知らない深い理由が隠されている気がした。彼女の表情には、どこか覚悟のようなものが見える。僕が何も知らないうちに、彼女はずっとこの繰り返しの中で何かを抱え続けていたのだろう。


「じゃあ、どうして今日、話してくれたんだ? 99回目の告白で、突然……」


彼女は少し目を伏せ、言葉を選ぶようにしてから答えた。


「君が、諦めかけてるのが分かったから。これ以上繰り返しても、君が壊れちゃうんじゃないかって思った」


その言葉に胸が痛んだ。僕は彼女に何度も告白して、何度も断られて、ただそれだけに苦しんでいた。でも彼女は――そのたびに僕を見て、そのたびに自分の中で決断を繰り返していたということだろうか。


「それに……もうそろそろ、限界だった。私にも、ね」


彼女の声はかすかに震えていた。「限界」という言葉が胸に重く響く。一体、彼女はどれだけの重荷を背負ってきたのだろう。


「それで、僕が何に気付けばいいんだ? 君が涙を流して『やっと気付いた』って言ったけど、僕……全然分かってないんだ」


彼女は僕を見つめ、少しだけ困ったような笑顔を浮かべた。


「それは、君が自分で見つけなきゃいけないことだと思う。でも、ヒントはあげるよ」


「ヒント?」


彼女は一歩近づき、僕の手をそっと握った。その温もりが、いつもの彼女とのやり取りとは違う親密さを感じさせる。


「君はずっと自分のことばかりを見ていた。でも、私だってここにいる。君の気持ちだけじゃなくて、私の気持ちにも目を向けてみて」


その言葉に、僕は言葉を失った。自分の気持ちを伝えることに必死で、彼女が何を感じているのか、何を思っているのかを考えたことなんて一度もなかった気がする。

「分かった」と僕は小さく頷いた。「君の気持ちを知るために、もう一度……いや、何度でも繰り返すよ」

彼女は微笑んだ。その笑顔は本当に嬉しそうで、でもどこか儚い。


「でも、次が最後になるかもしれないよ」


「どういう意味だ?」


「もう少ししたら分かるよ」


彼女はそれ以上何も言わず、いつもの彼女のまま僕の前から立ち去った。その後ろ姿が、どうしてだろう、永遠のさよならのように見えた。

次のループで、僕は何を掴むべきなのか。そして彼女が言った「最後」とは、一体何を意味するのか――。混乱と焦燥感に駆られながら、僕は再び繰り返される時間の中で、彼女の気持ちを探す決意を固めた。












「次が最後になるかもしれないよ」


ループに入った瞬間、その彼女の言葉が頭の中を駆け巡った。最後――その一言は、僕に残された時間が限られていることを示していた。それがどういう意味なのか、彼女は教えてくれなかったけど、僕には分かる気がした。次のループで彼女の気持ちを知り、何かを変えなければ……この繰り返しが終わる。

教室に戻った瞬間、僕は周囲を見渡した。いつもと同じ風景、いつもと同じクラスメイトたち。まるで何事もなかったかのような日常。その中に彼女の姿を見つけ、僕は心を決めた。このループが始まってから、僕はただ彼女に告白し、振られることしか考えていなかった。でも、彼女の心を知るためには、それじゃ駄目だ。


「おはよう」


いつもと同じ挨拶をしたけど、彼女の目を見た瞬間、何かが違うのが分かった。彼女が僕に見せる笑顔には、微かなけれど緊張が混じっている。もしかしたら、彼女もこのループの中で何かを変えようとしているのかもしれない。


「おはよう、元気そうだね」


「君こそ、なんだか今日は少し……疲れてる?」


彼女は少し驚いた顔をしたけれど、「そうかもね」と軽く笑った。僕にはその笑顔がどうしても心に引っかかった。ループを繰り返すたびに、彼女はどんな思いを抱えてきたのだろうか。その悲しみや絶望に、僕は全く気付いていなかった。

その日、僕は彼女とできるだけ長く話すようにした。これまで気づけなかった彼女の小さな表情や仕草、言葉の裏にある感情に目を凝らした。彼女はいつも通りの明るい笑顔を浮かべていたけれど、ふとした瞬間に目を伏せたり、話題を変えたりするたびに心に何かが引っかかる。

放課後、僕は彼女を校庭に誘った。いつもの告白の場所だ――でも、今日は違う。


「ねえ、君に一つ聞いてもいい?」


「何?」


彼女は小首をかしげた。その仕草が愛おしくも、どこか切ない。


「君が……ループの中で、どんな気持ちだったのか知りたいんだ。僕はずっと、自分のことばかり考えてた。でも君は、何度も僕の告白を受けて、そのたびに断って……それって、どれだけ辛かった?」


彼女の表情が硬くなった。僕の問いかけに驚いたのか、それとも何かを思い出したのか。やがて、彼女は小さな声で話し始めた。


「辛かったよ。でも、それ以上に……君のことを思うと、どうしても断らなきゃいけないって思ったの」


「どうして?」


「だって……君にとって、私が本当に好きになれる相手かどうか、分からなかったから」


僕は彼女の言葉に一瞬言葉を失った。


「君は、ずっと自分の気持ちを信じて告白してくれた。でも、私は……君にとって本当に大事な存在じゃないんじゃないかって、何度も考えたんだ。だから、君にもっと気付いてほしかった。私の気持ちにも、そして君自身の気持ちにも」


彼女の声は震えていた。その姿に胸が締め付けられる。僕はずっと、彼女の答えが「好き」か「嫌い」か、それだけを気にしていた。でも、彼女の中ではずっと別の問題が渦巻いていた。


「ねえ、どうしてそこまでしてくれるんだ? 僕なんかのために」


「だって、君が好きだから」


その言葉は、まるで時間が止まったかのように僕の心に響いた。


「好きだから……君には、自分の本当の気持ちに気付いてほしかった。そうじゃないと、私たちはこのループを抜け出せない気がして」


彼女の言葉の意味が、少しだけ分かった気がした。このループは、僕と彼女の両方が同じ気持ちにならなければ終わらない。僕は、自分の気持ちを伝えるだけでなく、彼女の気持ちを理解しなければならなかった。

「ありがとう」と僕は言った。その言葉に、彼女は少し驚いた顔をした。


「今さらそんなこと言われても、遅いよ」


そう言って彼女は笑ったけれど、その目には涙が浮かんでいた。僕はその涙の意味を知るため、この最後になるかもしれないループで、全てを賭けることを決めた。


放課後、僕は彼女を再び校庭に誘った。時間は静かに流れ、夕焼けが空を赤く染めている。定番となったこの場所で、彼女の心に触れるための最後の一歩を踏み出そうとしていた。彼女の言葉に応えるため、そしてこのループを終わらせるために。

「今日、ちゃんと君の話を聞きたいんだ」と僕は切り出した。


「君が何を考えていたのか、ずっと知らずに告白して、断られてばかりだった。でも、もう分かってきた気がする。君がどうして僕を断り続けたのか。そうしないといけなかったのか」


彼女は僕の顔をじっと見つめ、微笑んだ。その微笑みはどこか寂しげで、それが逆に僕の胸を締め付けた。

「そんな顔しないでよ」と彼女が呟いた。


「君はいつも真っ直ぐだった。だから私はそのたびに振り返って、自分の気持ちを確かめることができた。でも、君には分からなかったよね。私がどんな風に君を見ていたのか」


彼女の声が少しだけ震えていた。


「君の気持ちは嬉しいよ。でも、ね……本当にそれが私だからなのかなって思ってた。君は繰り返し告白してくれるけど、私を見てるようで、どこか遠くを見てる気がしてたんだ」


彼女の言葉に、僕はその意味を噛み締める。そしてようやく理解し始めていた。僕は確かに彼女に惹かれていた。でも、それはどれだけ深いものだったのだろうか。好きという感情に囚われて、自分が何を目指しているのかが見えなくなっていたのかもしれない。


「君にとって、私はどんな存在?」


彼女の言葉に即答できなかった。沈黙が流れる。焦る必要はない、焦ってはいけない。そう思いながら、自分の心の中を探る。


「君は……僕にとって、特別な人だよ。一緒にいるだけで楽しいし、君がいると世界が少し明るくなる」


「それは嬉しいよ」と彼女は言った。「でも、それだけじゃループは終わらない」


「……何をしたら終わるんだろう?」


僕は問いかけるように彼女を見つめた。彼女は一瞬だけ目を伏せ、小さく息を吐いた。


「自分の本当の気持ちに向き合うこと。それができたとき、きっと終わる。私も君もね」


彼女の言葉が胸に深く突き刺さる。自分の本当の気持ち……僕の気持ちは、彼女に好きだと伝えることだけじゃなかったのか? 僕が彼女に抱いている感情の奥に、まだ何か隠れているのだろうか。

「君はどうなんだ?」と僕は思わず尋ねた。「君は、僕にどんな気持ちで向き合っているんだ?」

彼女は少し困ったような顔をして、でもすぐに口を開いた。


「私はね……君が大好きだよ。でも、それを言うのが怖かった。私が先に『好き』って言ってしまったら、君が気付くべきことに気付かないまま、このループが終わっちゃうかもしれないから」


「気付くべきこと……」


僕は彼女の言葉を反芻し、その意味を探った。何かが少しずつ繋がっていく感覚があった。彼女は僕にただ「好き」と言ってほしいわけじゃない。彼女自身を、本当の意味で見てほしかったんだ。

「分かったよ」と僕は静かに言った。「もう一度、ちゃんと君を見つめる。そして、自分の気持ちを見つける」

彼女はそれを聞いて微笑んだ。その笑顔は、いつもの明るいものとは違った。どこか安心したような、穏やかな微笑みだった。

その瞬間、風が吹き抜けて彼女の髪が揺れた。オレンジ色の夕焼けが、彼女を優しく照らしている。まるでこの瞬間が永遠になるかのような錯覚に陥った。

僕は彼女の手をそっと握った。その温かさが、僕の心に静かに染み渡る。

「次が最後のループになる気がする」と僕は言った。


「そのときに、僕の本当の気持ちを君に伝えるよ」


「うん、待ってる」


彼女の目には涙が浮かんでいたけれど、彼女は笑って頷いた。その笑顔に、僕は確信した。このループを終わらせるためには、僕が心の奥底に隠れている本当の答えを見つけるしかない。

次のループが始まれば、それが本当に最後になるだろう。僕は深く息を吸い、再び繰り返される時間に向き合う覚悟を決めた。











次のループが始まった瞬間、僕はこれまでとは違う感覚を覚えた。これが最後になるかもしれない――そんな確信とも言えない直感が、胸の中で大きく膨らんでいた。教室の中で彼女を見つけたとき、その思いはさらに強まった。彼女もまた、何かを感じているような目をして僕を見つめていた。

昼休み、僕は彼女を屋上に誘った。これまで話してきた校庭とは別の場所で、最初から彼女と向き合いたかった。心を整理し、言葉を選びながら、僕は話し始めた。


「君に伝えたいことがあるんだ」


彼女は静かに頷いた。その目は真っ直ぐで、僕のどんな言葉も受け止めようとしているようだった。


「僕は君が好きだ。何度も言ってきたけど、それだけじゃない。ただ好きだって気持ちじゃ、君を幸せにできないと思うんだ。本当に君を大切にするためには、君が何を感じて、何を思っているのかを知らなきゃいけない。それに気づけなかった僕は、ただ自分の気持ちを押し付けていただけなんだと思う」


彼女は少し驚いたような表情を見せたが、やがて優しく微笑んだ。


「それに気づけたなら、きっと大丈夫だよ」


彼女の言葉には、不思議な安心感があった。僕はこれからもっと彼女を知ろう、彼女の気持ちを理解しようと強く思った。それが、このループを終わらせる鍵になるはずだ。

その日から、僕は彼女と過ごす時間をこれまで以上に大切にした。彼女の好きなもの、苦手なもの、何に笑って何に悲しむのか――すべてを知りたかった。そして、彼女がどんな気持ちでこのループを繰り返してきたのかをもっと深く理解したかった。


「ねえ、なんで君は最初から僕に断り続けてきたんだ?」


ある日の放課後、僕は思い切って尋ねた。彼女は少し考え込んだ表情を浮かべた後、ゆっくりと口を開いた。


「君が私を好きだって言ってくれるのが、とても嬉しかった。でも、どこかで思ったんだ。君の気持ちは本物だけど、それが“私”だからじゃないんじゃないかって」


「どういうこと?」


「例えば、君がこのループの中で、私じゃない別の誰かに出会ってたら……君はその人を好きになったんじゃないかって。そう思うと、私を好きでいてくれる君に応えたいのに、自信が持てなかったんだ」


彼女の言葉に、僕は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。彼女はずっと自分自身に価値がないと思い込み、僕の気持ちを信じることができなかったのだ。それは僕が彼女を理解しようとしなかったせいでもあった。

「そんなことないよ」と僕は強く言った。


「僕は君だから好きなんだ。君がいるから、僕はこうして幸せな気持ちになれる。君以外の誰かじゃ、君と同じようには思えないんだ」


彼女はじっと僕の目を見つめていた。その瞳の奥に、わずかな光が宿っているように見えた。


それから数日間、僕は彼女と過ごす時間を惜しむように大切にした。どんな些細な瞬間も、これが最後かもしれないという思いが胸にあったからだ。そして僕は、彼女に告白するのではなく、ただ彼女のために何ができるのかを考えるようになった。

ある日の放課後、再び校庭で彼女と向き合った。夕陽が彼女の横顔を照らしている。その光景があまりにも美しくて、僕は一瞬、言葉を忘れてしまった。

「……どうしたの?」彼女が不思議そうに尋ねる。


「君と一緒にいるこの時間が、とても大切なんだって気づいたんだ。だから、ありがとう。君がこのループの中で僕を見守ってくれたこと、本当に感謝してる」


その言葉に、彼女は驚いた顔をした。そして、目元に浮かんだ涙を隠すようにそっと俯いた。


「君がそう言ってくれるなんて、思ってなかった……」


彼女の声は震えていた。僕はその言葉の意味を深く考えた。これまで彼女は、自分が僕にとってどう思われているのか、ずっと不安だったのかもしれない。僕が本当の意味で彼女を見つめるまで、彼女はずっと待ち続けていたのだ。


そして、その時が訪れた。

再び繰り返される日常の中で、僕は最後の告白をする決意をした。もう迷いはない。自分の気持ちも、彼女の気持ちもそのすべてを理解した上で、これが本当に最後の告白になる。

彼女を校庭に呼び出した。夕陽が沈む寸前の空は、燃えるように赤く染まっている。そして僕は、彼女の前に静かに立った。


「君と過ごすこの時間が、どれだけ幸せだったか言葉で言い表せない。でも、僕は分かったんだ。君を好きだって気持ちは、このループを通じてどんどん強くなった。そしてそれは、君が“君”だからなんだ。ただそこにいてくれるだけで、僕には十分すぎるくらいの理由になるんだ」


彼女は目を大きく見開き、涙をこぼした。彼女のその涙が、まるでこのループのすべての苦しみを解き放つように感じられた。


「ありがとう……やっと分かってくれたんだね」


彼女は涙を拭いながら微笑んだ。その瞬間、空が一瞬だけ眩しく輝いた。そして気づけば、僕たちは新しい時間の流れの中にいた。太陽が昇り、朝の光が校舎を照らしている。


「これが……新しい朝?」


彼女が僕に微笑みながら頷く。


「おかえり。これからは、二人で新しい時間を過ごそう」


僕はその言葉に全てを感じ、彼女の手を握り返した。


新しい朝が始まった。眩しい光が教室に差し込み、僕たちの未来を照らしている。いつもと同じように、教室にはクラスメイトたちの賑やかな声が響いていた。でも、今までとは何かが決定的に違っていることを、僕はすぐに感じ取った。


「おはよう」


彼女が微笑みながら僕に声をかけてくれる。その笑顔には、これまでのどのループでも見たことのない、軽やかで穏やかな気配が漂っていた。それは、彼女がもう何も背負っていない証拠だ。僕たちはようやく、この繰り返しから解放されたのだ。


「おはよう。なんだか眠そうだね」


「まあね、色々なことがあったからね」と彼女がクスッと笑う。


そうだ。長い時間を費やしたループの中で、僕たちはお互いの感情に向き合い、知り、理解し合った。その果てにようやく迎えたこの日常は、ただの「繰り返し」ではない。僕たちの「新しい世界」だ。

授業が始まり、いつもと同じような時間が流れる。けれど、僕の心はこれまで以上に穏やかで満たされていた。彼女が隣にいるだけで、それがどれだけ素晴らしいことなのかを痛感していた。

そして、放課後。

僕は彼女を校庭に誘った。もうこの場所で告白する必要はないけれど、この場所には僕たちの思い出が詰まっている。だから、今度はただ日常の一部として、彼女とここで過ごしたかった。

夕陽が校庭を包み込む中、僕たちは並んでベンチに座った。彼女が少しだけ目を眇めながら、夕陽をじっと見つめる。


「ねえ、このループのこと、覚えてる?」


彼女は突然そんなことを聞いてきた。その質問に、僕は少し考え込んだ。


「覚えてるよ。全部、忘れることなんてできない」


「そっか……」彼女は微笑みながら、そっと息を吐いた。「私も忘れない。何度も繰り返した日々も、君に告白されて断ったときの気持ちも、それから君が私の気持ちを知ろうとしてくれたことも……全部ね」

彼女の声には、どこか懐かしさと感謝の色が混ざっていた。僕も彼女の手を握りながら答えた。


「でも、もう振られる心配はないよね?」


彼女はその言葉に微笑んで、僕を軽く小突いた。


「そうだね。もう振らないから安心して。でも、振られる覚悟をしてまで何度も告白してくれた君には感謝してる。君が諦めなかったから、私は救われたんだよ」


その言葉に、胸がじんと熱くなった。これまでのループが無駄ではなく、僕たちの絆を作ってくれていたことを、改めて実感する。


「これからはさ、普通に恋人としての日常を楽しもう」


そう言った僕に、彼女は大きく頷いた。その頷きは、何よりも強い約束のように感じられた。


「そうだね。二人で新しい時間を作っていこう」


夕焼けの中で交わしたその言葉が、僕たちの新たなスタートを象徴していた。これから繰り返すのは、もう同じ時間ではない。僕たちだけの未来を紡いでいくための、かけがえのない日々だ。

彼女と手を繋ぎながら、この新しい世界で歩き出す。振り返ることはもうない。僕たちはようやく前に進むことができたのだから。

3〜4話の連載にしようかと迷ったのですが文字数が中途半端になりそうだったので一つにまとめました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ