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恋煩い 1

 朝。

 6時起床。

 寝室に設置されてあるバスルームで入浴。

 34階で朝食のクロワッサンとダッチコーヒーを食べながら、新聞を読んだ。


 新聞には奈々川首相が載っていた。昨日の可決されたスリー・C・バックアップの見出しだ。

 僕は溜息を吐いてテレビを点ける。

 キッチンの壁は大型のパノラマテレビだ。

 

「おはようございます。云話事町放送Bです」

 テレビには男性のアナウンサーが、マイク片手に云話事マンハッタンビルのガラス張りの正面玄関にいた。

 周囲には大勢のマスコミが集まっていた。

「昨日、奈々川首相によるスリー・C・バックアップの可決がされ……」

 アンジェが二杯目のコーヒーを淹れてくれた。

「C区は元はと言うとB区の一部だったのです。6年前から様々な高度な技術を、前奈々川首相(晴美の父親)の意向により開発をしておりましたが、それはもともとはアンドロイドのノウハウの大規模な労働への導入を考えてのことだったのです。例えば工事や倉庫内作業や医療などの作業は、ノウハウのもっとも得意とする分野だったのですね……。ですが、ハイブラウシティ・Bは人間性を欠いたものへと変貌したと現奈々川首相の発言と行動によって、方針が是正されていきました。今ではスリー・C・バックアップは必要不可欠な社会貢献のためにと……ノウハウをより人間に近づけるために……」

 僕はサンドイッチのお替りをマルカに頼んだ。

 マルカはキッチンへと行くと、高速な包丁さばきでサンドイッチを作った。

 僕はチャンネルを変えた。


「おはようッス! 云話事町TVッス!」

 美人のアナウンサーがマイク片手に、云話事マンハッタンビルの正面玄関で、藤元と一緒にカメラの前に立っていた。

 周囲には人だかりになっていて、皆笑っている。

「おはようございます。はい、信者~~信者~~。どなたでも~~。お気軽に~~。きっと~~、来世で~~未来で~~いいこと~あるよ~~! 熱烈大募集中の藤元 信二です!!」

 藤元は神社なんかでお祓いに使う棒を振る。

「はい!! 信者の勧誘!! そこまでっス!! ていうか信者入っただろ!!」

「だって、少ないんだもん!!」

「そんなことより、仕事ッス」

 美人のアナウンサーは真面目な顔付きになると、

「6年前からC区は技術開発を――つまり、簡単にいうとノウハウをより人間に近い存在にすることが出来る技術を、C区は開発をしていたのです――」

 美人のアナウンサーの言葉は云話事町放送Bの男性のアナウンサーとほぼ同じセリフだった。

「ふーむ……このままいくと巨大アンドロイドも夢じゃなさそうですね。そして、宇宙へ行くんですよきっと」

 藤元は険しい顔で遥か天空を見つめた。

 空は鉛色の雨雲が覆っていた。丁度、美人のアナウンサーの話も何やら暗い方向へと傾きつつあった。

「奈々川首相がスリー・C・バックアップを可決したということは―――」

 藤元は慎重に話している美人のアナウンサーの後ろで、神社なんかでお祓いに使う棒を握りながら、叫ぶ。

「そうです! ……これは宇宙でも信者を集められるということです! 素晴らしいことですねー」


 と、美人のアナウンサーがずっこけブチ切れた!!


「って、違うだろーーー!!」

 カメラに向かって話していた美人のアナウンサーは、瞬く間に藤元を追い掛け回す。

「すいませーん! ごめんなさーい!!」

 藤元がテレビを完全無視して逃げ回る。


 周囲の人たちはマスコミの人たちと一緒に大笑い。

 番組はそこで終わった……。

 

 テレビを消して、僕は会社へと出勤する。

 黄色のスポーツカーは、昨日の夜にこの寒さの中でマルカが洗車をしてくれていた。秋も深まるこの季節に、アンジェたちは眠らないし寒さを感じないから特注で揃えた甲斐があった。

 僕は駐車場でランボルギーニにイグニッションキーを差した。一段回すとメインスイッチが入り、カーナビなどの電子機器が目を覚ました。更に回すとスターターモーターが回転した。

 スポーツカーは回転数は早く落ちる。7000回転すると、その次はガクンと落ちる。

 僕はランボルギーニの短い咆哮を聞くと、雹と大雨の中を快適に走り出した。

 矢多辺コーポレーションまで、車で約25分だ。これまで遅刻したこともないし、欠勤した時もない。調子が悪い時もないし、病気もしない。

 人は僕のことを機械というけれど、違うんだ。僕は神なのだ。

 そう経済の神なのだ。

 車で走行中に携帯が鳴った。

 2040年からB区は、事故さえ起きなければ運転中の携帯電話の使用が許可されていた。けれども、現奈々川首相(晴美さん)が危ないからと禁止した。

 僕は軽く舌打ちをして、近くのコインパーキングに車を停車して携帯にでた。私用電話は緊急時しか鳴らないようにしていた。

 相手は原田だった。

「雷蔵さん。スリー・C・バックアップのデータを10億で買えと、坂本 洋子が言ってきました」

 坂本 洋子とは日本屈指のハッカーで、その道の人たちからは九尾の狐と言われている。

「10億なら安い。いいよ。買ってください」

 僕は二つ返事で答えて、携帯を切った。

 コインパーキングに大雨や雹の中、手を伸ばしてマイナンバーカードを差し込んで車を走らせた。

 今ではマイナンバーカードはB区には現金がないので必需品だった。銀行の機能が付いていた。利息もあって、融資や借金もできる。つまり、銀行や金融機関はカードの数字だけを管理する管理会社となったのだ。後、各店のポイントカードなどにも対応されていて、お得なデビットカードのようなところがある様々な面に有効な身分証明書であった。


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