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月は徐々に満ちていく

作者: マカロニ之助

あるところに一人の王子様がいました。

王子様のお父さんである王様は完璧主義で息子である王子様に完璧を求めました。

王子様は自分のやりたいこともやらさせてもらえませんでした。

王子様は王様に感情があるなら完璧とは言えないと言われ続けました。

あるとき、王子様は王様の怒りにふれ、山奥のお城へと追放されました。

完璧ではない王子様に怒りがこみ上げたのでしょう。

王子様は山奥のお城で、一人寂しく人生を終えました。


俺はいま、ある国に旅に来ている。

俺は旅人。

今回は自然が美しいと有名な国に来た。

ここは町中でも、どこに視線を向けたって緑があった。

とても自然豊かな国。

俺はこの国の山に登山をしに来た。

最近この国の山の奥に小さな流れ星が落ちたらしい。

それを見つけることができないかと、俺は心の隅に期待をしているのかもしれない。

そんな事を考えながら山を登っていく。

山を登るにつれて、だんだんと空気が薄くなっていくのを感じた。

三十分ほど山を登った頃。

運動不足だった俺は、貧血を起こしてしまったのか、意識を失った。

もともと貧血気味だったのもあるかもしれない。

途中体調が悪くなってきていたのに気づかずに、俺は登山を続けていた。

知らないうちに無理をしていたのだろう。

体に限界がきて、俺の意識は途絶えた。

目を覚ますと、俺は見知らぬ部屋に居た。

見たことのない場所。

俺はとても大きなベットに横たわっていた。

どのくらい寝ていたのだろうか。

そしてここはどこなのだろうか。

部屋の窓があいていて、涼しい風がはいってくる。

俺は自分でここに来た覚えはない。

誰かがここにつれてきてくれたのだろう。

それにしてもあんな山奥に人がいたことに驚きだった。

そんな事を考えていると部屋の扉がガチャッと音を立てる。

扉の先には一人の男性が立っていた。

男性は貴族のような格好をしていた。

俺が目を覚ましているのを見ても何も動じない。

この人が俺をここまで運んだのなら、何かしらの感情がわいてくるはずなのに。

違ったとしても目の前に知らない人が現れたら驚くと思う。

まあ、赤の他人がいたり、目を覚ましたところで驚く必要もないのかもしれない。

それにしてもだ。

表情が薄い気がする。

僕は男性のことをじっと見た。

「えと、あなたがここまで運んでくれたのですか?」

俺は男性に尋ねた。

もしそうならお礼が言いたかった。

「はい。」

男性はそう一言で返した。

「ありがとうございます。助かりました。」

俺は笑顔でお礼をした。

この人がいなかったら俺は今、どうなっていただろうか。

目を覚ましてもしばらくは体がだるくてあまり動けない。

そのまま餓死していたかもしれない。

餓死は言いすぎかもしれないが、本当に感謝しかなかった。

男性はすこし間をあけて

「いえ。」

と言った。

なんで間があいたのかはわからない。

なにか考え事でもしていたのだろうか。

俺は不思議に思ったが、特に気にすることはなかった。

俺が寝ている間に日は沈んでいたようで、窓の外には美しく輝く月が見えた。 

かすかだが虹が見える。

夜でも虹は見えるものなのだろうか。

俺は初めて見る夜の虹に少しだけ興奮していたのかもしれない。

夜空の流星群に気づくのには時間がかかった。

俺は流星群をぼーっと眺めた。

特に願い事をするわけでもなく。

願い事。

あまり考えたことがない。

ほんとうに男性は無表情。

流星群を見ても、何も動じない。

ピクリとも動かない。

なにも思うことがないのかもしれない。

俺は何を思ったのか、気づくと口が勝手に動いていた。

「夜風が涼しいですね。」

俺は男性に話しかけた。

何故こんな事を言ったのかはわからない。

今は風は吹いていない。

先程までの風はどこかへと姿を消していた。

無意識に口にしていた俺は、内容なんて考えるすべもなかった。

そのとき、男性の口元が少し緩んだきがした。

先程までとはあまり変化がなく、見間違いかもしれないが、俺にはそう見えた。

男性は夜空を見つめる。

俺も男性と一緒に夜空を見上げた。

夜空の暗闇の中で星がひときわ美しく輝いていた。

「星が綺麗だな。」

俺の耳にはかすかだがそう言う男性の声が聞こえた。

聞き間違いかもしれないとも考えたが、男性は一瞬だけこちらを見たあと、しばらくの間星を見つめていた。

でも、その目はどこか悲しそうだった。

まるで助けを求めているような、そんな瞳だった。

その人の瞳を見た時俺は何を思ったのか、またもや口が勝手に動き出していた。

体が言うことを聞かない。

自分の中では星を見ていただけだったのに、気づくと口が動き出していた。

「泣きたい時は泣いていいんだぜ?」

初対面の人が相手なのに思いっきり敬語が外れている。

それにいきなり泣いてもいいと今日会ったばかりの人に言われても困るだろう。

そもそも今、男性が描きたいという気持ちなのかもわからない。

「……すみませ」

謝ろうとした時、男性の目から雫がこぼれ落ちた。

その雫は止まることを知らないのか、永遠と出てくる。

まるで、長いあいだため込んでいたかのようだ。

俺は驚き、男性の側まで行くと、背中を優しく撫でた。

すると、男性は震えた声で俺に尋ねた。

「……泣いてもいいの?完璧じゃなくてもいいの?」

泣いていたからか声が震えている。

俺はいきなりの質問に戸惑ったが、自分の思ったことをそのまま口にした。

「泣いてもいいですよ。人はみんな完璧なんかじゃない。完璧な人なんて居ない。人はな、完璧でないからこそ、どんどん成長し、輝くんだ。その努力がその人を輝かせる。俺はそう思ってる。だからさ、完璧になんて縛られなくてもいいんだぜ?」

俺の言葉を聞き終えた男性の動きは、一瞬止まったように見えた。

だんだんと男性の体が透けてきている。

男性は涙を拭き取ると、俺にこう言った。

「……ありがと。」

その笑顔は今までに見たことがないほど美しいものだった。

すると俺のことをめまいが襲った。

意識が途絶え、気がつくとそこには俺がいたはずの建物も、男性の姿もなく、ミズヒキという名の花が美しく咲いていた。


あるひ突然現れた謎の旅人。

王子様は旅人の優しさに触れ、完璧ということに縛られず、自分らしく生きたいと思うようになりました。

いつも完璧を求められていた王子様は、本当の自分を、完璧ではない自分を誰かに認めてもらいたかったのかもしれません。













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