指輪に宿るもの
「今日も派手にやられたねぇ」
「うるせ、どうせ一日で治るんだからいいだろ」
患者服に身を包んだジーク。
それを脱ぎ、私服に着替えながら会話を続ける。
身体には、戦闘で受けた火傷や打撲、切り傷などの傷はなかった。
「でもカプセルキュアって高いんじゃないの?」
「…投資だよ、最強への」
ジークの手に持つ財布は酷く薄かった。
「それよりドレイクこそなんでこんなとこいるんだよ」
話を逸らすように、隣で話しかけてくる彼にそう声をかける。
「僕はインターンだよ、ここって技術力は国内でも最高峰なんだよ?」
彼の首元にはインターンであることを示す身分証が下げられていた。
「本当おっとりしてるくせにやることはしっかりやるんだよな…」
呆れるような尊敬のこもったような複雑な声を漏らす。
その時、部屋の外からドレイクを呼ぶ声がする。
「あ、僕そろそろ行かなきゃ」
「今回でジークのギアも壊れちゃったみたいだし、ほどほどにしなよ」
「はいはい」
そう言うと、ドレイクは駆け足で部屋の外へと出ていく。
着替えを終えたジークも荷物を持ち、扉へと向かう。
「…そうだった、ギア壊れたんだったな」
「金もないしどうすっか…」
部屋を出て、施設を出る。
しばらく歩いてふと思いついたように呟く。
「とりあえずギアショップ行くか、下見だ下見」
足先を目的の場所へと方向転換する。
先ほどまでの悩みを忘れたかのように、その足取りは軽かった。
しばらくして、ギアショップへと到着する。
自動ドアを通り、入り口すぐそばのものに目が入る。
「うわ、最新型のギアあるじゃん」
「…やっぱ高えなあ」
商品の説明にしばらく目を通し、ため息をついてから店の奥へと歩き出す。
「やっぱ買うとしたら中古になるかぁ」
中古、と大きく書かれたエリアに入っていく。
入り口近くの商品とは大きく違い、全体的に色褪せた商品が並ぶ。
腕部と書かれた仕切りを見つけ、そこへ向かう。
文字通り腕に装着する装備が一面に並ぶ。
ジークは端から物色していく。
「とりあえず腕のパーツだな、他の部位はまだギリギリ使えるはずかも…だしな」
「お、俺が使ってた4世代前のやつじゃん。さすがに厳しいか…」
「こっちは…宴会用?誰が使うんだこれ」
物色し始めた端から進んでいき、逆の端へ辿り着く。
「お、これ1世代前か。まだ使えそうだな」
そう言って手を伸ばした時、その隣においてあるものへ目をやる。
乱雑に置かれている指輪だった。
色褪せた商品ばかり並ぶ棚で、一つだけ一切汚れもなく光を反射させていた。
思わずジークは手に取った。
「指輪?なんでこんなところに…」
思わず眺め、角度を変えてしばらく調べるように触る。
異質さに違和感を感じたジーク。
しばらく手に取っていたが、なんとなく指にはめてみる。
しかし、何か起こるわけでもなく、外す。
元にあった場所に戻そうとする。
『お前なのか?』
一瞬、硬直する。
声が聞こえたような気がした。
気のせいと言われれば納得する希薄なものだ。
キョロキョロと周りを見渡す。
しかし、誰もいる気配がない。
声の主は見つからない。
そして再び指輪を見つめる。
「喋った?まさか、な」
指輪を置き、踵を返そうとする。
しばらく歩き、立ち止まる。
「ああもう気になる!買うこれ!」
置いた指輪を盗み取るように掴み、レジへと向かっていった。
会計を済ませ、店を出るジーク。
帰路へとつきながら呟く。
「700円だった…」
ジャンク品なのか、と疑問に思いながら購入した指輪を見つめる。
「店員もなんか困惑してたし、紛れ込んだのか」
「まあ小銭で足りてよかった…のか?」
そう言って、さらに軽くなった財布を仕舞う。
「くっっそ疲れたな…」
ソファに沈み込んで、疲労を吐露する。
仰向けで天井をなぞるように眺める
ふと、すぐ側のテーブルに置いた小袋を手に取る。
テープで乱雑に止められている。
内容するものを手で触れ、確かめる。
テープを剥がし、中身を取り出した。
仰向けのまま天井に翳す。
照明に照らされたそれは、満遍なく反射し煌びやかに輝いている。
「やっぱこれ、何かおかしいよな…」
「着けてみるか」
手に取った指輪を左手の中指にはめる。
「ま、何も起きるわけ…」
『おせーよマジで』
「なっ!?」
ジークの頭に声が流れた。
『警戒してんだか無謀なんだかワケわかんねーやつだなお前』
思わず嵌めたばかりの指輪を外し、放り投げた。
しばらく様子を見る。
しかし、声はもう聞こえない。
部屋の隅に転がった指輪を慎重に手を伸ばす。
そして、再び指にはめる。
『着けたり外したり女子の着替えかお前』
確かに、聞こえた。
間違いなくこの声は指輪をはめている間、聞こえている。
それ確認し、少し心を落ち着けたジークは今度は外さなかった。
「…お前は、指輪なのか?誰なんだ?いったいどうなってんだよ」
『質問が多いな』
声の主は少し呆れた声色で発した。
そして続けて話した。
『まあとりあえずオレはお前が指輪をはめている間だけ話せる』
『どうなってんだって言われても、今お前に言ったところでわからねーだろ』
『オレが誰かってだけ簡潔にいってやるよ』
ジークが息を呑む。
『オレは"魔術師"だ』