004:迫害の歴史
この世界には様々な種族が存在していて、自分達のいる大陸がルキリア族が統治するルキリア国であり、その他にザイナスとロガートという大国がある。ルキリア国の中にあるレーヌという独立国を含めると、三つの国と一つの小国から成り立っている。
その中で最も広くを支配し、最も力のある血族がルキリア族である。
イリアス族は、およそ百年前にルキリア族によって滅ぼされた種族だ。
赤茶色の瞳と陶器のような白い肌はイリアスの特長であり、その容姿と特殊な『力』を恐れ妬んだ当時の権力者であったルキリアが、イリアスの根も葉も無い悪評を流していった。そうして民衆の疑心と恐怖を煽り、やがて徐々に悪意を増大させていったのだ。
イリアスは元々争い事を好まず、理知的で温和な性格であったが、自らと仲間達を守る為に立ち上がった。
そしてイリアス対、他種族という圧倒的に不利な図式、ルキリアが画策した通りの形で戦争が始まり、イリアスは滅ぼされた。その後ルキリアが世界を統治し、現在も国王とその皇族、貴族として輝かしい地位と権力を欲しいままにしている。
一方生き残ったごく僅かなイリアスは、つい十八年前まで奴隷としての暮らしを強いられていた。ルキリアが開発した、イリアスの『力』を無効化させる特殊な鉱物で作った首輪を嵌められ、一カ所に集められ強制労働させられていたのだ。
その暗黒の時代に終止符を打ったのが、リィンの父と母を中心とした若きイリアスの青年達であった。
強く優しく明るかった母。リィンにとって一番の尊敬する人であり愛すべき人。それはまた他のイリアス族にとっても同じ事である。今なお解放の女神として語り継がれている。
そして父のティルガも偉大な人物であったと、ゼストが眩しそうに語っていたのを思い出す。二人は皆の憧れであったと。
そのゼストも、リィンの目の前で弱々しい呼吸をしながら眠っている。父のティルガはその命をもって自由への扉を開き、母シルヴィが人々をその扉の先へ導いた。しかし母はその後に帝国政府から罪人の汚名を着せられ、あの襲撃の日以来どうなったのかさえ分かっていない。
そしてこの現在でも、奴隷であった過去にこだわり、人々は心優しきイリアス族を拒絶し続けているのだ。
許せない。
レーヌ族もアルム族も、この国にいて、イリアス族の迫害に加担している者達。見て見ぬふりをする者達。
何よりも憎いのは帝国政府であり、ルキリア皇族だ。
ゼストや他のイリアス族は決して復讐は望んでいなかった。そこからは何も生まれず、更なる深い悲しみが待つだけだから、と。しかしリィンは心の奥底で、黒い憎しみの炎を燃やし続けていたのだ。
何故、種族の違いだけで、こうも迫害されなければならないのか。一体何をしたというのか。何もしなくても罪人扱いされるイリアス族。これを許して良いはずがないのだ。
全ては帝国政府の出した警戒令が元凶である。
奴隷解放後に人権を得たはずのイリアス族であったが、帝国政府がイリアス族は凶暴で危険な種族であるという警戒令を発布し、事あるごとに人々を煽動してきたのだ。その帝国政府の管轄下で帝国軍が我がもの顔で横行している。そしてその全ての権力を握るのがルキリア国王と、その皇族達である。百年たった今でも図式は少しも変っていないではないか。
許さない。僕の愛する人達を死に追いやったルキリアを。
絶対に許さない。