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紅い月 青の太陽  作者: 茂治
第三章
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027:風のように去る

診察室の奥にある研究室で、レンズの付いた器具を覗き、記録をつけては後ろの棚から様々な薬品を選び取る。数滴加え、またレンズを覗き込む。ダイヤルを回し、拡大してピントを合わせ、それから数秒微動だにしない。器具の台座にセットされた小さくて薄いガラスの板を外し、記録をつける。難関な計算式をその脇に書き込んでゆく。

その手順を繰り返し、幅広の作業机には数十枚ものガラスの板が並んでいた。

椅子に深く沈み込むと、ぎしりと音を立てる。目を閉じて眉間を押えた。

窓の外で早起きの黒鳥が、鳴き声を上げ始めた。仲間に呼びかけている。まだ外は暗いが、既に今日という日が始まったようだ。また徹夜をしてしまった。


「もうそんなに若くねえんだから、身体を気遣ったらどうだ」


「…お前に言われたくはないな」


ミッドラウが靴音を立ててこちらへやってくる。どうやら異国風の格好が、今の彼のお気に入りらしい。


「そうずかずかと入り込むなよ。雑菌が舞って実験ができん」


ラディスの言葉を聞いていない風で、ミッドラウは両手を机について身を乗り出す。


「また会いに来るまで死ぬんじゃねえぞ」


「お互いにな」


何度となく交わした会話である。彼はもうここを発つようだ。何だかんだと言っても、依頼主の依頼には誠実である。それが運び屋のプロとしての彼だ。

束ねられた黒髪は生き生きとして、精悍な顔立ちはいつも自信満々。褐色の肌に鍛え上げられた太い両腕。ラディスは内心感心する。


こいつは年をとらないのか。


「リィンを護衛に使ってやれ。いいな」


「随分気に入ったようだな」


「あいつは良い女だ。あれ程真っ直ぐにお前を必要としてる奴が他にいるか?それを無視できるような冷たい人間だったか、お前は」


どうやら彼はリィンが女性であるという事実を知っているようだ。


「だから困っている」


「これも運命だ。逆らったってどうにもなるまい。あいつを護衛にしないんじゃ、俺との契約も解消だな」


ラディスは眉間にしわを寄せて運び屋を睨みつけた。


「何を企んでる」


「おいおい、俺はお前みてえな策略家じゃねえよ。ただ、見ものだな」


心底楽しそうに、ミッドラウはにやりと笑う。


「お前の理性がいつまで持つか」


「…言ってろ」


何とも馬鹿らしい奴だ。本能のみで生きているような男だとつくづく思う。楽しいか、つまらないか。好きか嫌いか。簡潔で分かりやすい。だからこそ、憎めないのも確かだか。


「じゃあな、ラディス。シャウナの伝言は伝えたからな!」


「それよりブレグロの原石を忘れるんじゃないぞ」


「俺様はプロだ!仕事は完璧にこなす!」


勢いよく扉が閉まった。

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