81・旦那さまとお揃いなので嬉しいです
近ごろ、精霊は林に棲む巨大なリクガメと仲良くなり、今はその甲羅の上がお気に入りの場所らしい。
精霊は空中歩行で窓へ寄ると、その隙間へ器用に体を滑り込ませて外へ出た。
「セルディさま。私、うすうす気づいていたのです。精霊さんのためとはいえ、私だけではとても食べきれません」
透明なゼリーを、エレファナはお気に入りのスプーンですくった。
その柄尻にはセルディの髪の色を思わせる、黒い宝玉がはめられている。
(なにより……。おいしいものがたくさんあるのに、ひとりで食べるのは物足りない気がするのです)
「私だけで食べるのは難しいので、セルディさまにも手伝って欲しいです!」
「ああ、もちろん。でも量が量だから……。俺たちだけでも、食べきれないだろうな」
エレファナはそばに置いていたカトラリーケースを覗いた。
そこには自分のものとお揃いの、セルディ用のスプーンが収められている。
柄尻が互いの髪色の石で飾られた対のスプーンは、服飾屋のカミラが贈ってくれたものだった。
(嬉しいです。カミラさんは私がセルディさまを大好きなこと、覚えていてくださいました。……そうです!)
「セルディさま、いいことを思いつきました! カミラさんは甘いものも好きですから、きっとこのゼリーも気に入ってくれると思います。それに食堂に持って行けば、他の方たちも喜んでくださるのではないでしょうか。みなさんに協力してもらって、どうにか木箱十数個分もあるゼリーの山を食べ尽くしたいです!」
エレファナは先日、城に勤める者たちと初めて対面して、セルディの妻だと挨拶をしている。
会ってみると、ふかふかの白パンを擬人化したような料理長や、明るい使用人たち、それに砦を警護してくれている気のいい騎士たち、誰もが笑顔で迎えてくれた。
(私の魔力のことは秘密にしています。でも精霊さんのお世話をする、不届き者ではない魔女だと国が認めてくださいましたから。もう隠れなくてもいいのです!)
「とてもおいしかったです!」
ゼリーを食べ終えたエレファナは、さっと立ち上がって振り返る。
「ポリー、さっそく木箱を持って食堂へ行きたいのですが」
いつもは侍女のポリーがいるその場所で、家令のバートが微笑んでいた。
「母は今、これからカミラの使う部屋を掃除していますよ」
「そうでした」
先日この国の王が、『ドルフ領は精霊の加護を得た』と宣言をしている。
そのため現在のドルフ領は、忌み地指定を解除されていた。
そしてカミラをこれからドルフ領主専属の仕立て屋として、この城の一室に迎え入れることになっていた。
(他にも通っていた使用人の方や騎士の方に、定住する案が出ています。ドルフ領は次第に町ができて……ますます賑やかになっていきます!)
「「兄貴ぃ!!」」
扉の奥から大きな男たちの声と、通路をバタバタと走る音が近づいてきた。
(あっ、そろそろですね!)
豪快なノックの音が鳴り、セルディが許可を出すと派手に扉が開く。
現れたのは、エレファナが以前ブルーベリーの実の摘み方を教えて喜んでいた、あの二人の従者だった。
「セルディさま! 突然無職になった俺たちを拾ってくれてありがとうございますです! そして失礼するぜです!」
「お嬢……いや奥さまだったなます! 兄貴に用事があって来たんだます!」
近ごろドルフ領は、積み荷の出入りが増えてきている。
そのため人手を増やし、フロリアンの元従者である二人もバートの下で手伝っていた。
彼らの他にも、フロリアンの一家が没落してから職を失ったものたちのほとんどは、ドルフ領に雇い入れられている。
待遇が素晴らしいと、評判はとても良かった。




