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71・出会ったばかりのころを、覚えていますか?

 エレファナが気づいたのと同時に、セルディはずるすると床に崩れ落ちた。


「セルディさま!」


 エレファナは慌てて手を伸ばしてしゃがみこむと、床に膝を付いたセルディの身体をしっかりと支える。


 セルディの顔色はさきほどから優れなかったが、みるみるうちに血の気が引き蒼白になった。


「具合が悪いのですね。いつからなのですか?」


「エレファナ、行ってはいけない。俺が確認してくるから……っ」


 セルディは胸を抑えて、浅い呼吸をくり返している。


「セルディさま……どうしたのですか?」


 不安に胸をわしづかみにされているエレファナに気づいて、セルディはなんでもないと伝えるかのように、彼女の細い手をしっかりと握った。


「すまない。こんな姿を見せれば、君が嫌な思いをするな」


(? セルディさまはなぜ、そんな風に思うのでしょう。誰だって風邪を引いたり、怪我をして調子を崩すことはあるはずです。それを人に見られて、嫌がられたことでもあるのでしょうか)


「セルディさまは出会ったばかりのころを、覚えていますか? あなたは動けなかった私を見て心配そうに、やさしく介抱してくださって……私は本当に本当に嬉しかったのです。選べるのなら、私もセルディさまのようになりたいです」


 そのときの気持ちを伝えるように、エレファナがしっかり抱きしめると、セルディから珍しく力が抜けた。


「そうだったな。君はいつだって、思いもしないような言葉をくれるんだ。それに俺が、どれほど救われたか……」


 すでに自分で身体を支えきれないのか、セルディから体の重みが伝わってくる。


「! セルディさま!」


 セルディはエレファナを安心させようとするかのように、細い手をしっかりと包み込む。


 そして自分の苦しさは極力見せず、やさしい響きで言い聞かせた。


「いいかい。エレファナは帰って、ポリーと待っていてくれ……なに、俺は大したこともない。確認が終われば戻るから。だから俺を追って来てはいけないよ」


「セルディさま……!」


 エレファナははっとして、重ねられたセルディの左手に視線を落とした。


 礼拝堂でエレファナがセルディの薬指に着けた、あの銀の指輪の下から、かすかに歪められた魔導の気配を感じる。


(あっ。きっと婚約の……いえ、服従の枷がセルディさまの身体を蝕んでいるのです。そういえば以前、枷を結んで私を服従させていた皇太子さまも、ドルフ皇帝の命令に忠実ではないとき、今のセルディさまのように苦しんでいました)


 ドルフ皇帝はエレファナの魔導の力を極度に恐れていたため、支配返しを避けてエレファナと枷を直接結ぶことはしなかった。


 そのため息子である皇太子を間に挟んでエレファナに服従の枷を結ばせ、自分の命令を皇太子からエレファナに伝えることもあった。


(もしかすると皇太子さまの代わりに枷を持っているセルディさまは今、ドルフ皇帝からなにかを命じられているのかもしれません。でも一体、なにを……。わかりませんが、私はこれ以上、セルディさまの苦しむ姿を見ていられません!)


 エレファナの動く気配を感じ取り、セルディは彼女を繋ぎとめようと手をしっかり握った。


「行くな、エレファナ」


 その切実な響きから、エレファナはセルディが苦しみながらも頑なに拒否している、強い想いの理由に気づく。







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