70・旦那さまも気づいていたのですね
「ありがとう、エレファナ。あとは俺が遺物の場所を確認すれば済むだろう。だから君は……」
「そうでした。お話しようと思っていましたが、きっとそこにドルフ皇帝がいらっしゃいます。私を呼んでいるようです」
セルディは青い顔で眉根を寄せると、恐ろしいことから目を逸らせないかのように、エレファナの瞳をまじまじと覗き込んだ。
「わかるのか?」
「私はドルフ皇帝直属の魔女でした。皇帝陛下に呼ばれればいつでも行けるように、色々なことを研究所でしましたので、この時代に突然現れたらしいドルフ皇帝の存在も感じとれました。でも彼の気配はどうやら、人というより魔獣のようで、思考が錯乱しているように思えます。私はそのようになる理由を知っています」
エレファナが生まれ育った研究所では、様々なものが生み出されていた。
「セルディさまたちが話されていた『ドルフ帝国時代の遺物』とは、おそらくドルフ皇帝が命じて、研究所で作らせた試作品だと思います」
ドルフ皇帝は、自分という存在に固執していた。
そのため誰よりも優れている肉体と魔力、なにより不滅の魂への執念から魔導研究所を作り、自分のための実験を繰り返した。
その副産物として魔女や精霊たちが人工的に生み出されたことを、エレファナは皇帝に仕えながら感じ取った。
(それだけではありません)
「彼は永遠の命に憧れるあまり不完全な実験道具を使い続けたため、当時からすでに魂が傷だらけでした。彼の望み通り、時代を越えて蘇ることは出来たようですが、傷ついた魂は変質したまま、まともな肉体を維持できていないのだと思います。だから自分の力と得ようと、城内にいる他者をとり込もうと出現しているのではないでしょうか」
「やはり……神出鬼没の未知の影は、この時代に蘇ったドルフ皇帝なのか?」
(セルディさまも気づいていたのですね!)
「でもご安心ください。私の聖域結界が機能しているのなら、大量発生した魔獣たちは浄化されているはずです。おそらく魔獣化しつつあるドルフ皇帝の影も同じでしょう。あとは遺物の回収だけですし、私が確認のため転移魔導でそこへ……」
セルディはエレファナの思いに気づき、しかしそれを言わせる前に両腕を伸ばすと、大切な人を包み込んだ。
「エレファナ、もう君は十分に助けてくれた。ドルフ皇帝が呼んでいようと、今の君は彼に従う魔女ではないのだし、遺物の処理までしなくてもいいだろう。さぁ、念のためバートに先ほどのことを伝えて、増援の連絡をしてくれれば後は俺にもできるはずだ。君はゆっくり休んでくれ。もう当たり前のように、無理をする必要はないのだから」
抱きしめてくるセルディの腕の中で、エレファナはふと気づいた。
(あら、セルディさま……?)