7・妻に対する家令の反応が予想外すぎて意味がわからない
「……ポリー、どうした。なにがおかしい?」
「っ、ふふ。い、いえ。幼い頃から女性に関心を持たなかった坊ちゃんが、まさか奥さまには……ふふっ」
「? 男にも関心を持たなかったが。それとうっかり坊ちゃんと言うのは、そろそろやめないか」
「はい、そうでしたね。ともかく奥さまのことは私にお任せください」
ポリーの笑顔に見送られて、セルディはそのままもう一人の住み込みの使用人、家令のバートを呼び寄せる。
(さて、どうなるか)
眠ったままのエレファナを前に、セルディはバートに経緯を簡潔に説明したあと、二人で話すため執務室に移動した。
(大人しく眠っているとはいえ、俺が連れてきた相手はあの『傾国の魔女』だ。精霊の力を取り戻すことができれば、加護を受けられる希望はある。しかしバートがこの地にとって、俺にとって……彼女の扱いをどのように捉えるのか)
セルディは愛情深く世話好きなポリーより、温厚な振る舞いながらも意外と抜け目のないバートが、エレファナのことをどう考えるか気にかかった。
(必要であれば、この男は厳しい判断も辞さない)
セルディは懸念を抱いたまま、先ほどから静かに熟考する優男風の青年を見つめる。
自分より五歳年上の、ポリーの息子でもあるバートは淡々とした調子で「おおよその状況は把握しました」と前置きした。
「今までの話を総括すると。つまり、のろけですか?」
「の……」
「のろけですよね」
セルディは深刻な顔を崩さず、一瞬、言葉に詰まる。
「違う」
「違う? しかし先ほどの話ですと、セルディさまは傾国の魔女……いえ、奥さまと出会ったばかりですが、もうずいぶんと親しくなられたのでしょう。僕の仕事を中断してまでその話を聞いて欲しがるなんて、セルディさまってそういう方でしたか?」
「だから違う」
「まぁ。面白いので、僕はいいですけど」
「違うと言っているだろう! 大体今の話を聞いて、どうしてそうなるんだ」
「なりますよ」
大真面目に否定するセルディに対し、バートはこらえきれないと言った様子で口元を抑えてにやついた。
「見ましたし、聞きました。すでに仲睦まじいのでしょう?」
わかりきっているとでも言いたげなバートの口調に、セルディは眉を寄せた。
「……多分、違う」
「おや。急に声が小さくなりましたね」
「噂の真偽はともかく、彼女はドルフ帝国を滅ぼすほどの魔力を持つと伝えられる魔女だ」
「確かに、手ごわそうな相手ではあります」
「あの弱り果てた姿を見てもわかるのか?」
「はい。どんな命令も表情一つ変えずに承る『無機質の騎士』の異名で呼ばれるお方が、彼女を気にかけるあまり、あたふたされていましたので。かなりの手練れだと」
先ほどから侍女や家令の反応が予想外過ぎて、セルディは意味がわからなくなってくる。
「俺が言っているのは、そういうことではないのだが」
「では一体どんな風に口説いたのですか?」
「だからなぜそうなる」
「非常に重要なことです。仕える者として確認しておくべきかと」
「そういうものなのか?」
「はい」
「……いや、面白がっているよな?」
「素敵な奥さまができると、男性はこうも変わるのかと感銘を受けています。しかし家令の立場ですから、もちろん主の最善を考えての確認です」
(ますますわからないのだが……理解できない俺がおかしいのか?)
エレファナと出会ってから困惑続きのセルディに、バートは笑顔で説明する。