51・すでに準備万端でした!
(王太子さまは親友の妻が悪者ではないかと、セルディさまのことを案じてくださっているようです! きっと互いにとって、かけがえのない友なのです。謎の妻が現れることによって、友情に波風を立てるわけにはいきません!)
「私がご挨拶に伺って、不届き者ではないと納得いただけたら、王太子さまもセルディさまも安心してハイタッチできると思います!」
「ハイタッチ……? しかし君はずっと、誰かの命令をこなすために生きてきただろう。俺の元にいるのも、はじめは監視されるためだった。だが今の俺としては、もうそういうことは気にせずに暮らすのが、君にとって一番だと思っている。そのためなら、例え国を敵に回すことになったとしても、」
セルディはエレファナが目を輝かせて見上げてくることに気づき、言葉を切った。
「どうした、エレファナ。俺の予想とは全く違う表情をしているのだが……その。まさかとは思うが、王城へ……夜会へ行きたいのか?」
「行きたいです!」
セルディはしばらく考え込んでいたが、やがて小さく息をつく。
「エレファナが衰弱している間は安静にしてもらっていたが……。本来の力を取り戻しつつある今の君にとっては、人前に出ず静かに暮らした方がいいのか、それとも王城へ行き危険性がないことを示した方がいいのか……。どちらが正解なのか自信が持てずにいたのだが……。君が幸せでいてくれるのなら、どちらを選んでもいい気がしてきた」
「では、一緒に行けますか?」
「もちろん、エレファナが望むのなら行こう。でもその前に、準備が必要だな」
「準備ですか。私はなにをすればいいですか?」
セルディはエレファナから一歩下がって跪くと、自然な所作で片手を差し出した。
「エレファナ、手を貸して」
「はい!」
セルディは差し出された左手を受け取ると、エレファナの薬指に銀の指輪をするりとはめた。
それは目を引かれる美しい曲線を描くように、エレファナの細い指によく合う。
「セルディさま、これは……!」
「夜会に行くとき着けてくれると、妙な令息の視線を受けにくくなることを期待しているのだが」
「もちろん着けます! それに驚くほどぴったりです!!」
「ああ。カミラに頼んでおいたんだ」
(あ。そういえばカミラさんにあれこれサイズを測られたのは、このこともあったのですね!)
「服飾品も十分にありますし、すでに準備万端でした!」
エレファナは自分の薬指にすでに馴染んだ、無駄な装飾のない、しかし一目で技巧と質を兼ね備えたものだとわかる滑らかな銀の筋に頬を赤くした。
(このシンプルなデザインは、私がなにかに指輪を引っ掛けないように配慮しつつも、不思議な曲線のつくりが絶妙な美しさを表現していると思います。なにより銀色がセルディさまの瞳のようで、本当に綺麗です)
「セルディさまの指輪も見たいです」
「すまない。俺のは後回しなんだ」
「後回しですか?」
「実はこんなことになるとは思ってもいなかったからな。それはただ俺が君に贈りたくて用意した物であって、夜会のためではなかったから。だから俺のものはこれから用意する」
「それでしたら、私からはこちらを」
エレファナは指輪をしたてのひらを握りしめたまま差し出すと、そっと開く。




