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5・旦那さまの腕の中は安心してしまいます

「向かったドルフ帝国の研究施設で、私は生まれ育ちました」


 そこは暗く深い山奥にたたずむ、巨大監獄のような建物だった。


 世界から隔絶されているその場所で、エレファナは周りの研究者たちから大切にされ、穏やかに過ごした記憶がある。


 近くの部屋には、実験を繰り返して作られた精霊たちもいた。


 動物や鉱物、それに気体のようなものまで生きている多様さは見ているだけで面白く、幼いエレファナは彼らをどれだけ観察しても飽きることがなかった。


「皇太子殿下からの婚約破棄で、やはり落ち込んでいたのだと思います。最近はそこでの暮らしをすっかり忘れていたというのに、私は自分と同じように生まれた精霊たちがどうしているのか、無性に知りたくなったんです」


 帝国の管理から外れて行動したのは、それが初めてだった。


「私は無事、生まれ育った研究施設に着くことができました。でも以前と様子が違いました。私や精霊たちが使っていた部屋は、魔石の置き場所に変わっていました」


 そして増設されていた通路の先で、エレファナは精霊たちとの再会を果たす。


「見つけた精霊たちは魔石を作り出すエネルギーとして魔力を吸いつくされて、廃棄所に打ち捨てられていました。どの精霊もミイラのような乾いた形だけを残した姿です。触れれば砂のように崩れて……でも、触れて消えた精霊の下で庇われるように、この子がうずくまっていました」


 偶然なのか、守られていたのかはわからなかったが、この精霊だけはわずかに力が残っていた。


「なんとかしたいと思って、自分と精霊の魂を繋げて魔力を渡してみると、一命を取り留めることができたんです。しかしなかなか精霊の魂に魔力が定着しなくて、今も繋がったままにしているのですが」


「つまり、君が精霊を帝国から不法に持ち出した理由は……」


「はい。この精霊は弱り切っていましたが、これ以上魔力を搾取されなければ助かるかもしれないと思ったからです!」


 見つかれば帝国への反逆とされる可能性もよぎったが、連れ出さずにはいられなかった。


「しばらくすると帝国の追手が来て、一方的に攻撃されてしまいました」


「しかし君には『婚約の枷』……つまり服従の枷がつけられているはずだ。皇太子に逆らえば枷に絡められた自分の魂が傷つき、ひどく苦しむことは知っていたのだろう」


「でも精霊を引き渡せば、どうなるのかは想像できたので……。私はこの塔に立てこもって魔導結界を張りましたが、幸いなことに苦しむこともありませんでした。塔の外では『皇太子殿下はいらっしゃることができない』と揉めていたので、殿下がいないことで枷の拘束力が機能しなかったのだと思います。先ほどセルディさまから聞いて思い当たりましたが、殿下は真実の愛に目覚めた令嬢から刺されて、来れる状態ではなかったのかもしれません」


「君はさらっと言うな……いや、そのおかげで君は枷に逆らう苦しみもなく、塔への避難が成功したのかもしれないが」


「そうだと思います。そのため私は精霊の生命力を高めるために、魔力を揺らしながら浸透させるゆりかごを作って、先ほどまで一緒に寝ていたんです。こうやって」


 エレファナが身体を動かすと、ゆりかごはゆらゆら揺れた。


「うまくいくのかは、わかりませんでしたが……まだこの子は温かいんです」


 エレファナは持っていた淡い光を抱きしめる。


「だから嬉しいです。私に責任感のある素敵な旦那さまができて、この精霊の回復に協力してくださるなんて! さっそくこの子の様子を見てくださいますか?」


 エレファナは宙に浮いたゆりかごからひょいと飛び降りる。


「っ、とと、あらっ?」


 しかし着地しても全く力が入らず、あっけなく体勢が崩れた。


「──っ、おい!」


 セルディは慌てて駆け寄ると、エレファナを支える。


 その動きは素早かったが、思いのほか丁重に受け止められ、エレファナは驚いた。


(こんな風に誰かが体を支えてくれるなんて……不思議です。先ほどのゆりかごで揺られていたとき以上に、自分が大切な存在になった気がします)


「急にふらついて、どうした。まさか立ち上がることすらできないのか?」


「あ。心配してくださるのですね。今までで一番、やさしい声です」


「なにを言って」


「セルディさま、あなたはゆりかご以上のお方ですね」


「……ゆりかご?」


 意味がわからないといったセルディの腕の中で、エレファナの視界がふわふわと揺らぎを増した。


 意識も感覚も遠くなっていく。


(私、もしかすると……ゆりかごの中で休んでいる間もずっと、この精霊のことが心配で緊張していたのかもしれません。だからセルディさまが助けてくださると聞いてつい、気が緩んでしまったようです)


「しっかりしろ、エレファナ」


「もう、名前も覚えてくださったのですね」


(やっぱり、いい所しか見当たりません……)


 エレファナは安らかな笑みを浮かべたまま、彼の腕の中で目を閉じた。






 ***





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