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4・お話をしているうちに、色々と思い出してきました

 エレファナの言葉に、黒銀の騎士ははっとしたように言葉を詰まらせると、顔を背けた。


「……ところで魔女」


「はい、私はエレファナです。あの、その。旦那さまは、」


「セルディだ。君はドルフ帝国で管理されていた精霊を許可なく奪い、この塔で監禁していたとも聞いた。それは事実か?」


「……は、はい! 思い出しました! 精霊はずっと、魔導で編んだこの掛け布の下で大切に大切に抱いて……んん?」


 エレファナはどうにか助けようと、腕の中でしっかりと抱きしめていた精霊の感触を確かめて首を傾げる。


「あら。こんな形だったでしょうか?」


 エレファナはベッドより少し高い程度の高さに浮く、魔導で生成されたゆりかご風の寝床から身体を起こすと、掛け布の中から両腕を出した。


 光の粒子がわっと舞い上がり、セルディは反射的に身構える。


「っ!」


 エレファナの掲げた両手の中には、赤子ほどの大きさをした、真綿のようにふんわり丸い楕円の球体があった。


 それは幻想的に透けているが、柔らかな表面がわずかな光を放っているため形を確認できる。


「よかった。無事なようです」


「無事? その透明に光る物体はなんだ」


「精霊ですよ」


「……その丸いものが?」


「確かにここで眠る前は、もっと獣な感じでした……どうしてしまったのでしょうか」


 心細そうに呟くエレファナの両手の中で、儚げな光が脈動と共に明暗する。


 その弱々しく不思議なものの正体を探るように、セルディは目を凝らした。


「もしそれが精霊なら、この地の希望だ。君が身勝手な理由で抵抗すれば、俺は剣を向けることもためらわない。例え命を使うことになるとしても、渡してもらう」


「するとセルディさまは、この精霊を助けてくださるつもりなのですか?」


「最善を尽くして、その精霊の回復に努める」


「あ、ありがとうございます!」


「なに?」


「私も精霊を助けたいんです!!」


 エレファナの明るい声に、セルディが困惑した様子で眉を寄せる。


「なにが目的だ」


「目的、ですか?」


 エレファナは首を傾げつつも、自分の手の中でわずかに光る命を見つめた。


「婚約破棄を受けたあと、私はドルフ帝国の管理する研究施設に行きました」


 見るとセルディは口を挟む様子もなく、熱心に耳を傾けている。


「実は私、これからセルディさまを爽快に笑わせることができるのか、あまり自信が無いんです」


「……なにか勘違いをしているようだが。俺が真剣に聞いているのは、君の話に面白さを求めているためではない」


「しかし感動系は、もっと自信がありません」


「その心配もしなくていい。だいたい魔女の話術に笑いや感動を求めるやつがいるのか?」


「……! 確かにいないと思います! でもせっかくセルディさまに聞いていただけるのですから。退屈することがないように、少しでも楽しんでいただきたくて!! そうです、この快適なゆりかごでくつろぎながらお聞きになりませんか? 私はよけますので!」


「心遣いはありがたいが、このままで構わない。俺はただ、君が自由に話してくれればそれでいい」


「は、はい」


「それに君はひたむきすぎるところがあるようだ。話したくないことがあるのなら、特に無理をする必要もない」


 さりげなく付け加えられる気づかいに、エレファナは胸の奥がくすぐられているような心地になった。


「私はセルディさまのおかげで、誰かと話をすることが楽しいと知ることができました。本当ならセルディさまに面白く感動して欲しかったのですが、お言葉に甘えてさせていただきます!」


 そしてエレファナは、今まで眠り続けていた顛末について話し始めた。






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