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31・でもどうしても、旦那さまとお話したかったのです

 エレファナの後ろ姿は、魔女そのものだった。


 魔導について学んだことがある者なら感じ取れる独特な場の空気感が、彼女を中心に渦巻いている。


(信じられない……今までに見たことのないような、濃密な魔力で練り上げられた魔導だ)


 その力に浮かされて、辺りにはカミラの用意した品々が、まるで弄ばれるように空中に漂っていた。


(まさか詠唱なしで、これほどの荷の量を浮かせているのか? いや、移動させている!)


 整然と並んだそれらは、滑るようなそつのないなめらかさで動き始めた。


 そして開け放たれた大窓の外へ順々に飛ぶと、積み荷を出し入れしやすいように横付けしていた馬車の荷台へ、整然と積まれていく。


 正確さとしなやかさを備えた見事な魔導術を目撃して、バートは驚きに体中の熱が引いていくようだったが、その意味に気づくと慌てて声を上げる。


「っ、ダメです奥さま! こんな膨大な魔力を急激に利用しては、せっかく快方に向かっているあなたのお身体に負担が……!」


「──えっ?」


 慌てたバートの声に、エレファナは振り返る。


 その顔には疲れどころか、むしろ軽い散歩でもしたような快活なものだった。


「あ、バート! ちょうど良いところに来てくれて、ありがとうございます! これを私がやったと言えば、きっとカミラさんは恐縮してしまいます。力持ちのバートがせっせと運んだということでお願いしたかったのです」


「そんなのんきなことを言っている場合では」


 バートはすっかり空になりつつある部屋を速足で進み、エレファナの様子をまじまじと確認する。


「……あの、奥さま。驚くほど顔色が良いようですが……お身体は大丈夫ですか?」


「? 大丈夫です」


「いや、その……今の移動魔導、奥さまですよね? あんな膨大な魔力を使って卒倒されたら、またお身体が弱ることに……」


「? この程度なら一日中使っていても倒れません。精霊も元気です」


「い、一日中……?」


「はい。一日では足りませんか? 一年の方がいいですか?」


「あの……いえ。……なんでもありません。その……今だけで十分です」


「十分でしたか。良かったです」


 エレファナの言葉の通り、見た目には全く問題も無さそうだった。


 バートは今見た信じられない光景に呆然としつつも、彼女があの傾国の魔女だったことをひしひしと感じる。


(セルディさまが彼女の存在を隠しているのは、間違いなく正解だ……)


 バートがあっけに取られていると、衣装部屋でなにかが起こっていることに気づいたのか、ポリーたちの駆けつける足音が近づいてきた。







 ***


「エレファナ、どうした」


 その夜、エレファナは砦から帰ってきたセルディに名を呼ばれてようやく、自分が城を出た入り口のところでしゃがみこんでいることを思い出した。


「あ、セルディさ、」


 返事より早く、セルディは向き合うように抱き上げてくれる。


「こんな遅い時間に外でうずくまって、一体なにがあったんだ。苦しいのか? それともやはり眠れないのか?」


 心から案じている様子のセルディに、エレファナは今にも閉じてしまいそうな、とろんとした眼差しで訴えた。


「眠いです、すごく」


 セルディは真剣な表情のまま、しかし不思議そうに問う。


「……なぜ寝ない?」


「すみません。でもどうしても、今日はセルディさまとお話したかったのです」


 そう告げると、エレファナはセルディの肩に額をのせて、まぶたをこすっている。


 セルディはエレファナが自分の肩にもたれかかりやすいように抱きなおすと、その背を愛おしげに撫でた。


「一体どんな話だろうな」





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