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結界を張り直そう2

「じゃあ昼食にしようか」


 一箇所目の結界を強化し、二箇所目へ移動の途中、お昼どきになったのでアレクが言った。


 ルーカス様は馬車で移動し、その周りを近衛隊が固めていた。私はアレクの馬に乗せてもらっていた。


 小麦畑が広がる景色を横目に、広い広場になっている所へ馬車や馬を停めた。


 私はお弁当を配るお手伝いをした。


 騎士たちは思い思いに緑が広がる地面に腰を下ろし、嬉しそうに食事を始めた。


 ルーカス様は、木陰にひかれたシートの上に案内され、仏頂面で座っていた。


 ご一緒するのは近衛隊長のアレクと、もちろん私……。


 うう、さっきので気まずい。


「リリア、おいで」


 アレクが笑顔でそんな私を手招きするので、私はおずおずと二人の側へ行った。


「リリアも食べよう」


 アレクがそう言って広げられたお弁当を指差した。シェフが作ったサンドイッチ。私はこのサンドイッチが大好きなのだ!


 ルーカス様のことはさておき、私はアレクの隣にちょこんと座ると、サンドイッチを頬張った。


「しかし、さっきの結界は何ともなくて良かったね」


 サンドイッチを頬張る私の横で、アレクがルーカス様に話しかけた。


 一箇所目の結界は揺らいでいるものの、欠損も無く、強化を施すだけで済んだ。だから『リリア』の小さな身体でも対応出来た。


 修復と強化を同時に行う力はあるけど、この身体が耐えられない。そんな心配は、トロワが払拭してくれていた。


「俺の力を分け与えるから大丈夫だ」


 前回、私を倒れさせてしまったのをトロワは気にしているようだった。


 でも精霊の手助けがあれば大丈夫そう!


 そう思って、今回の無茶なお達しにも楽観的になれたのだ。


「マフィン食わせろー」


 ニャーン、とトロワが鳴くので、私はサンドイッチの手を止めて、自分のバスケットに手を伸ばした。すると、アレクと話していたルーカス様が突然こちらを睨んで来た。


「任務に猫を連れて来ているのか?」


 あ、これはヤバイやつだ。


 そう思った私は、包み隠さず話すことにした。


「えっと、この子は光の精霊です。私と従属の契約をしています」

「えっ……!!」


 私の言葉に驚いたのは、アレク。


 そりゃそうよね。飼っていた猫が精霊だったなんて。


 ルーカス様がじっとトロワを見つめていると、アレクがポロリと言った。


「リリアが可愛がっていたトロワが精霊だったなんて……いやビックリした。リリアの聖女の力が目覚めたからなのかな?」


 瞬間、ルーカス様の表情が変わった。


「おい! お前の精霊はトロワというのか?」


 ……しまった。ルーカス様は『リヴィア』の精霊の名前を知っていた。


「いや、しかしリヴィアの精霊はライオンだった……」


 私の肩を掴み、ブツブツと言うルーカス様。


「トロワは私が名付けましたが、何か?」


 こうなったら、「偶然です!」感を出すしかないわ。


 私はルーカス様の透き通った青い瞳をじいっと見て、平静を装った。


 あんなに好きだった優しい瞳が、今は冷たい。


「偶然か……」

「おい、ルーカス、どうした?」


 私の思惑通りに、ポツリと呟いたルーカス様にアレクが間に入って、ルーカス様の手を私の肩からどけてくれた。


「何でもない!」


 ルーカス様は不機嫌そうに、また元の場所に座り直して言った。


「精霊と従属の契約をしているなら、一人目の聖女より力が強いのは納得だ」


 ルーカス様の、『一人目の聖女』という言葉にドキリとする。きっとルーカス様のご婚約者。


「ソフィー様には精霊すら付いていないからな」

「まあ、アイツには期待していない。好きにすれば良いさ」


 アレクとルーカス様の会話に、もう一人の聖女様の名前が、ソフィー様だと知る。


 それにしても、何だかルーカス様、投げやり…?


「もう一人の聖女様はどんな方なんですか?」


 私の何気ない質問に、アレクは困った顔で笑って、「うーん……」と黙ってしまった。


「聖女の仕事もしないで遊んでいるやつだ」

「ルーカス……!」


 代わりにルーカス様が教えてくれたが、その言葉にびっくりする。


 え?ルーカス様が、ご婚約者様は遊ばせている?


 昔のような厳しさを持ち、十歳の私にも厳しく任務を果たせと言うルーカス様が?


「婚約者様を愛していらっしゃるんですね」

「は?」


 気付けば私はそんな言葉を発していた。


「だって、ソフィー様には危険な任務に出さず、穏やかに暮らしていて欲しいってことでしょ?」

「まてまて、何を言っている?」


 私の言葉に、ルーカス様が珍しく焦っていた。


「厳しいルーカス様がソフィー様だけに甘いのは、婚約者であるソフィー様を愛していらっしゃるからだと」


 私の言葉にルーカス様がブルブルと震えていた。


 あ、これ、私、またやっちゃった?


「ははは!! そうなるか。そうだよな。リリアは物知りだなあ!」


 何故かまたアレクが吹き出している。


「婚約者じゃない!!」

「え?」


 震えていたルーカス様は、眉間にシワを寄せて私に言った。あ、何か昔に戻ったみたい。


「ソフィー様は、ジェイル様の婚約者だよ」


 お腹を抱えながら、まだ笑っているアレクが教えてくれた。


「え」


 とんだ勘違いをしていた私は、ルーカス様をじっと見つめた。


「あんな女を婚約者と間違えられるなんて不愉快だ!」


 と言ってプイ、とそっぽを向いてしまった。


 何だかそれが可愛くて。私も思わず笑ってしまった。


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