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フォークス領

「行ってきまーす!」


 次の日、私はジャンお兄様とマリーを連れてピクニックに出かけた。


 ちなみに少し離れて護衛も一人付いている。


 もうすぐ王都に行くので、このフォークス領でピクニックをしたい、という私の希望を叶えてくれたのだ。


「ジャンがいるから大丈夫だと思うけど、気を付けてね」


 伯母様に送り出され、私たちは歩いて小高い丘を目指した。


 フォークス領はこのクローダー王国と隣国との国境地帯にある。隣国とは同盟を結んでいて、戦争をしたことは無いが、聖女の力で魔物を防いでいる我が国に何かあれば、隣国だってタダでは済まない。だからいつだって切り捨てられる可能性はあるのだ。


 フォークス辺境伯家は周辺の魔物討伐と隣国の動きを常に見張る役割を担っている。跡継ぎであるジャンお兄様は、この領の騎士隊たちをまとめる存在で、剣の腕も確かだ。


「ジャンお兄様、今日はありがとうございます!」

「俺もリリアと思い出を作りたいからね。もうすぐリリアがいなくなってしまうなんて寂しいな」


 金髪の少し長い髪をリボンで後ろにまとめているジャンお兄様は、お父様と同じ綺麗なグリーンの目を細めて言った。


 妹のように可愛がってくれているお兄様は私も大好きだ。


 『リヴィア』の時、このフォークス領で結界を張った時にはお世話になったものだ。


 今、十歳の私はジャンお兄様と手を繋いで歩いている。


 ふふ、不思議だなあ


「楽しそうだな、リリア」


 私の肩に乗って着いてきたトロワが話しかける。


 ちなみに、私以外にトロワの声は「ニャー」と聞こえるらしい。


「リヴィアの時に関わっていた人たちと、こうしてまたリリアとして一緒にいるなんて素敵ね」


 トロワにこっそり言うと、彼も嬉しそうに笑った。


「まさに女神様が『リヴィア』にあげたかった暮らしだ」


 改めて考えると、リリアは本当に恵まれている。


「リリアは本当にトロワと仲良しだね」


 トロワとボソボソ話していた私に、ジャンお兄様が笑って話しかけてきた。


 うーん、猫と話す変な子と思われたかしら?


 私はお兄様に、はは、と誤魔化すように笑った。


 そうこうするうちに、私たちは丘の上に到着した。


「うわあ……!」


 思わず感動して声が出る。


 眼下に広がる一面の小麦畑。

 

 フォークス領に暮らす人々の多くは小麦の栽培をしている。クローダー王国のほとんどの小麦はこのフォークス領産の物だ。


 キラキラと太陽の光を浴びて風にたなびく一面緑の穂。私はこの光景が大好きだ。


 夏になるとだんだん金色に変化して、一面黄金色になる風景も圧巻だ。


「今年は見られないのかあ」

「夏休みになったら遊びにおいで」


 ポツリと呟いた私の頭をポン、と撫でてお兄様も私の隣で小麦畑を眺めていた。


 私はもうすぐ王都の王立学院(アカデミー)に入学する。フォークス家はみんな火魔法の属性を持っていて、もちろん私も火魔法が使える。


 王立学院(アカデミー)は、魔法の能力を持った貴族の子女子息が通い、魔法について学ぶのだ。


 『リヴィア』の時は、十歳で聖女に選ばれ、ルーカス様の婚約者になり、王城で学びながら、すでに聖女として仕事をしていた。


「今世は青春出来るのねえ」

「年寄りみてーだな」


 小麦畑を眺めながらしみじみしていると、肩のトロワがすかさず突っ込んできた。


「お茶にしますよー」


 マリーが大きな木の下に敷物を敷き、ティータイムの準備をしてくれていた。


 私はいつの間にかそこに座っていたジャンお兄様と、マリーの元へと向かった。


「美味しそう!!」


 ピクニックということで、料理長が張り切って作ってくれたらしい色とりどりのサンドイッチやスイーツがそこには並んでいた。


「どうぞ」


 淹れたての紅茶をマリーが目の前に置いてくれて、良い香りがする。


「こんな所で淹れたての紅茶が飲めるなんて贅沢ね!」

「ジャン様の魔法のおかげですわ」


 ニコニコしながら香りの良い紅茶をすすると、マリーも笑顔で答えた。


 お兄様の魔法であっという間にお湯を作り出したのだ。流石。


 私もお湯くらいは作れるけど、お兄様のように大きな火を操るのは難しい。


 今世はのんびり暮らして欲しい、と言われたけど、自分で魔物くらい倒せるようになりたいわね。


 『リヴィア』の時は聖魔法を使いこなしていたけど、火魔法は初めてで。


 ちょっとワクワクしながら、私はサンドイッチをパクパクと食べた。


 料理長が用意してくれたサンドイッチもスコーンもケーキも、全てフォークス領の小麦粉で出来ている。


「うーん、美味しい!」

「リリアは美味しそうに食べるね」


 口いっぱいに頬張る私を見てお兄様が笑う。


 食い意地はっているのはリヴィアと変わらないわね。


 美味しい食事を取りながら、ふと、リヴィアは作るのも好きだったことを思い出す。


 リヴィアは特に甘い物が大好きで、マフィンが得意だった。


 今でも作れるかしら?


 そう思って新しいサンドイッチに手を伸ばそうとした時、離れた場所から緊迫した護衛さんの声が響いた。


「ジャン様! 魔物です!」


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