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【完結】生まれ変わりの聖女は子供でも最強です!〜死にたがりの元婚約者を立ち直らせたらまた恋が始まりました〜  作者: 海空里和
終章 二人の恋と救国編

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魔王襲来

 王城の外に出ると、辺りは騒然としていた。


「城を避難場所として解放している。多くの人がここに押しよせるだろうから、馬で行こう」


 ルーカスはそう言うと、手配された馬に私を乗せて走り出した。ユーグとイスランも守るようにして並走した。


 結界までの道の途中、多くの人が城に向かっていく姿が見えた。騎士たちが誘導をしていたため、酷い混乱にはならず、私たちも結界まで真っ直ぐに馬を走らせることが出来た。


「結界の揺らぎがあれば、私が感じ取れるはずなのに……」


 馬上でそう呟いた私に、トロワが難しい顔で言った。


「あの聖女がリヴィアの結界の上に重ねがけしたことで、邪魔をされていた可能性があるな」

「そんな……!」


 あんなに強固だった結界が急に綻ぶなんて、信じられなかった。だからこそ、明日視察に行こうと余裕に構えていたのだから。


「嫌な予感がする……」

「あいつか……?」


 身震いをした私に、トロワは私の肩の上でそっと手を頬に置いた。


 そのモフモフの手を握りしめて、心を落ち着かせる。


 十年前に対峙した魔王。


「あのときは、『魔の国』に押し戻すだけが精一杯だったけど…」


 思わずトロワの手を握りしめる手に力が入る。


「今度は俺もルーカスもいるから大丈夫だ」


 もう片方の手も私の頬に置き、挟み込んだトロワは、私に言い聞かせるように言った。


 うん。そうだよ、私は一人じゃないんだから!


「ありがとう、トロワ」


 まだ震える身体を落ち着かせるように、息を吐いた私は、トロワに微笑んでみせた。


 後ろのルーカスは、私たちの会話なんてわからない。でも、手綱を持っていた片方の手を私に回し、ぎゅっと抱きしめてくれた。


 彼は何も言わないけど、ルーカスの温もりに、私の身体の震えも治まっていく。


 回された腕を抱き締め、私はしばらく後ろのルーカスに体重を預けて目を閉じた。


「何だ、あれは?!」


 結界のある広場近くまで来ると、それ(・・)はすぐに目に入った。


「魔王!!」


 そのおぞましい黒い手に、十年ぶりの邂逅に、私は思わず叫んだ。


「魔王……? あれが?」


 その姿を初めて見たルーカスたちは息を飲む。


 と言っても、全貌が見える訳ではない。十年前と同じ、どす黒い手で結界をこじ開けようとし、赤い目を覗かせていた。

 

 肩の上にいたトロワは、光を放ち、ライオンの姿に戻った。戦闘態勢だ。


 トロワの変化にユーグは驚き、イスランは納得した顔をしていたが、今はそれどころじゃない。


 結界を破壊しようとするその手のわずかな綻びからは、魔物が少しずつ湧いていた。


 まだ小さい魔物で済んでいるが、この穴が大きくなれば、比例して大きな魔物もやってくる。そして、結界が壊れれば魔王そのものがこちらにやって来る。


「リリア、魔王を倒そう!」

「でも、あの隙間からだと難しいわ!」


 トロワの呼びかけに、私は難色を示した。


 十年前も、こじ開けようとする隙間から何とか押し込めて、瞬時に結界を張った。


「結界越しに魔王に攻撃は出来ない……結界を壊すことも出来ない……」


 どうしよう、と思っていると、ルーカスが間に入った。


「リリア、私はトロワの案に賛成だ」

「えっ」


 ちょっと待って、今何て言った?


「ルーカス、トロワの言葉がわかるの……?」


 それどころではないのに、私は驚いてルーカスに尋ねた。


「ライオン姿になった途端、急に言葉を理解出来るようになった」

「前はわからなかったのに、何で突然……?」


 私とルーカスが首を傾けていると、トロワが間に入ってきた。


「俺が元に戻った条件を考えると、二人の絆が深まったことに関係すると思うぞ」

「そうなの……」


 トロワの説明に驚いていたのに、正面のルーカスはニコニコとしていた。


「ルーカス、トロワの言葉がわかってそんなに嬉しいの?」

「そこじゃない。君との絆が形で示されたのが嬉しいんだ」


 ふわりと微笑んだルーカスは、私の手を握りしめた。


「二人とも!! キリが無いですよー! どうするんですか?!」


 前に出てイスランとユーグが隙間から出てくる魔物を倒している。


 こんな甘い雰囲気作っている場合じゃなかった!


「リリア、大丈夫だ」


 私が慌てていると、ルーカスは自信たっぷりに言った。


「ドラゴンを一緒に倒した時のことを覚えているか?」

「あのときはルーカス、死にたがってたよね」

「……私のカッコ悪い所は忘れてくれ」


 フォークス領で再会した時、ルーカスは変わり果てていた。


 悲しいと思ったのと同時に、ルーカスを立ち直らせてやる、って思ったっけ。


「私は、ルーカスが幸せなら隣にいられなくても良いって思ってたよ」

「……そんなことを思っていたのか」


 私の言葉にルーカスは切ない表情を見せた。そして、私の手を握りしめた。


 私たちは手を繋ぎ、魔王を見据えた。


「もう離れることは許さない」

「うん」

「ずっと隣にいてくれ、リリア」

「うん!」


 お互い、前を向いたまま、私はルーカスの言葉に強く、強く、返した。


最終話まであと三話です。最後までよろしくお願いいたしますm(_ _)m

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