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ルーカスの気持ち

「お帰りなさい、お父様!」


 その日の夜遅く。私はアレクが帰ってくるなり、玄関まで走って出迎えた。


「リリア…! まだ起きていたのかい? 身体は? 大丈夫なのか?」

「はい。あれから少し眠りましたから」


 アレクは驚いたものの、すぐに私の身体を心配して、ヒョイ、と身体を抱きかかえてくれた。


 身体は少しまだ重いけど、それよりも気になって眠れない。アレクはそんな私の気持ちに気付いたようだった。


「……ルーカスとユーグのことだね?」

「はい」

「お茶でも飲みながら話そうか」


 アレクは諭すように笑うと、私を抱えたまま食堂へと向かった。


「ユーグにはきつく説教しておいたから」


 メイドに用意してもらったお茶を飲み、一息つくと、アレクが口を開いた。


「ルーカス様は……」

「ルーカスのやつ、話にならなかった。今はリリアに変な噂が立つと困るのに、どうせ自由にしてやるんだ、の一点張りで……」


 アレクは少し怒りながら、あの後のことを話してくれた。


 ルーカス様は元々、私との婚約は形だけだと言った。だから、私が誰と仲良くしていても構わないのだろう。でも、ルーカス様に誤解されるのは嫌だ。


「とりあえず、ユーグには釘を刺しておいたから。もうリリアに変なことはさせないよ」

「そうですか」


 アレクの言葉にホッとすると、父親の顔をした彼は、真剣な表情で私に言った。


「リリアの気持ちはどうなんだい?」

「私?」

「ユーグとは歳も近いし、その……本当に二人が思い合っているなら……」

「ええっ?! ない! ないです!!」


 アレクったら突然何を言い出すの?!


「何だ、ユーグが真剣だったから、てっきり…そうか、完全にユーグの片思いで、暴走しただけか……」

「お父様?」


 ブツブツ言うアレクに、私は怪訝な顔を向けると、フワッと抱きかかえられ、彼の膝に乗せられた。


「大人びたとは言え、リリアはまだ十歳だもんな。恋はまだ早い」


 頬を寄せ、微笑むアレクに、私は頷くことしか出来なかった。


 まさかルーカス様を好きになってしまったなんて、とてもじゃないけど言えない。


◇◇◇


 次の日、私はトロワと一緒にリヴィアの治療院へと向かった。


 ユーグはしばらく私の専属護衛を外されることになり、他の近衛隊員が代わる代わる来ることになった。


「俺が寝ている間に何か変なことになってるな」


 トロワは面白がって言ったけど、笑い事じゃないと思う。


「こんにちは」

「リリア様!」


 ひょこっと治療院の入口から顔を覗かせると、医師が笑顔で迎えてくれた。


「リリア様のポーションのおかげで、安心して治療が出来るようになりましたよ」

「それは良かったです!」


 応接室までの短い廊下を歩きながら、笑顔で教えてくれた医師に、私も嬉しくて笑顔になる。


「丁度、ルーカス様にも報告していた所なんだよ」

「え!」

 

 ガチャリ。


 回れ右をしようとしたけど、時遅し。


「殿下、リリア様もいらっしゃいましたよ」

 

 医師はルーカス様に声をかけると、笑顔で私を応接室に通してくれた。


「こんにちは……」


 目を丸くして驚いていたルーカス様に挨拶をすると、「ああ」とだけ言って、彼は目線を外してしまった。


 ?何か、怒ってる?とても気まずい。


「いやー、リリア様は流石、ルーカス様のご婚約者ですな!」


 私たちの気まずい空気とは逆に、医師は笑いながら私を褒め称えてくれる。


「そうだな、流石だな」


 フ、と口の端だけ上げたルーカス様は、こちらを見ようともしない。


 その後、医師に連れられて、私たちはポーションの備蓄や、患者の様子を見て回った。


 その間、ルーカス様は私と会話どころか、目さえ合わせなかった。


 一通り確認や打ち合わせが終わった後、医師と別れ、私たちは治療院の庭にいた。 


 誰もいなくて二人だけ。護衛も声が聞こえないほど離れた所にいる。


 事情を知らない人しかいないここでは、婚約者として気を利かされたんだと思う。


 ルーカス様は目を合わせようともしないし、沈黙が苦しい。


「アレクから聞いたと思うが、元々、お前は自由にさせる予定なんだから、他の男を想おうが何しようが、勝手にすると良い」


 ルーカス様は、口を開いたかと思うと、突然そんなことを言った。言葉ではそう言いつつも、何だか怒っている。


「ルーカス様、あれは誤解です!」


 慌てて弁明しようと、声を上げれば、ルーカス様に遮られてしまった。


「誤解だろうと何だろうと私には関係ない!」

「関係ないって、そんな言い方……じゃあ、何でそんなに怒っているんですか?」

「怒ってなどいない!」


 ルーカス様に対抗するように、私の口調もどんどんヒートアップしていく。


 ルーカス様は未だに目を合わせようとしない。


「じゃあ、こっち見てくださいよ!!」


 私はそう言いながら、ルーカス様の腕を掴んだ。


 バシッ。


 すぐさま払われる、私の手。瞬間、ルーカス様の顔が、やっとこちらを見た。


「あ……」


 ルーカス様の綺麗な青い瞳が、微かに揺れた。


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