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任務完了

 あれから、解毒した騎士たちにもポーションを配り、みんな動けるくらいに回復した。


 解毒が遅れたイスランが一番の重症者だった。


 ポーションで解毒は済んだものの、少しふらつく彼を無理やり馬車に乗せ、ユーグと私、それからイスラン。三人馬車に乗って、治療院まで向かった。


 治療院までの途中、私はここぞとばかりにイスランにお説教をした。


 イスランも大人しく私のお説教を聞き入れていた。ユーグはそれを笑いを堪えながら見ていた。


「部下を第一に助けるのは褒めたことだけど、自分の命を蔑ろにするのはどうかと思うわ!」

「ああ」


 私の弾丸のようなお説教を、イスランはただ黙って受け入れた。その姿が、何だか可愛く思えてきた。


「自分の命を粗末にするなんて、ルーカス様と同じだわ!!」

「なっ……殿下と同じ…」


 私の言葉にイスランはショックを受けて、俯いてしまった。


 あらら、ルーカス様と同じなんて、よっぽど嫌だったみたい。最初に会った時も、ルーカス様には期待していないって言ってたっけ。


「リリア様、治療院に着きましたよ。もう勘弁してあげてください」


 さっきまで笑いを堪えていたユーグが、もう我慢出来ないとばかりに、言った。


 てか、もう笑ってるし。


「そうね。皆、念の為見てもらわないと」


 やっと私に開放されたイスランは、フラフラと無言で馬車を降りて行った。


「あんな副隊長、初めて見た」


 ユーグはまだ笑っていた。


「ちょっと言い過ぎたかしら」

「いやいや、あれくらい言ってやらないと」

「イスランはあなたの上司よね?」


 心配する私に、ユーグが面白がって言うので、私は彼をジト目で見た。


 そうして、日がすっかり暮れると、全員何ともな無いことがわかり、私は治療院の先生にポーションを絶賛された。


 そして宿に戻って、任務完了のお祝いと言う名のどんちゃん騒ぎになった。


「リリア様! ありがとうございました!」

「リリア様がいてくれて良かった!」


 私は騎士たちに囲まれて、沢山の感謝を受けた。


 皆はビール、私は果実水で乾杯すると、沢山の笑顔で溢れた。


 その笑顔を見ながら、私はそっと輪を離れた。


 皆無事で本当に良かった。トロワも今は、部屋でぐっすり眠っている。


「リリア様」


 騒がしい部屋の中、開け放たれた窓際で風に吹かれていると、イスランがやって来た。


「イスラン、あれから何ともない?」

「はい、お陰様で」

「そう良かった」


 私はイスランに微笑むと、窓の外に目を向けた。


「あのとき、リリア様に気付いてもらえなかったら、私は死んでいたでしょう」

「ほんとにね」

「ありがとうございました……」

「えっ!」


 私は思わず顔をぐりん、とイスランの方に向けた。


 彼を見ると、相変わらずの仏頂面だけど、耳を赤くさせていた。


「な、何だ」

「ううん、イスランに認められたなら嬉しいなあ、って!」


 目を合わせようとしないイスランに、私はとびっきりの笑顔で言った。すると。


「これまで失礼なことを言い、申し訳ございませんでした。この救ってもらった命、俺は今後、リリア様のために仕えます」


 イスランが突然頭を下げるので、私は驚いて、すぐに頭を上げさせる。


「命を大切にしてくれる?」

「リリア様の命とあれば」


 すっかり従順なイスランに違和感を感じてしまう。


「あなたの憎まれ口が無いと変な感じ」

「何だそれは」

「それそれ、変わらないでいてくれると嬉しいな?」


 いつもの口調でムッとするイスランに私は言った。すると彼はフッと笑って言った。


「何だ、それは」


 イスランが笑った!!!!


 そういう所、やっぱりルーカス様にも似ている。言ったら、また怒るかしら?


 そうしてどんちゃん騒ぎの夜は更けていった。


 イスランとの距離が縮まって嬉しいな。これからは結界の修復ももっと上手くいくだろう。


 私は色んな事が良い方向に進んで、浮かれていた。


 そして次の日、王都へと私たちは戻った。


 長距離の移動と、大きな魔力を使った私は疲れてしまって、馬車の中ですっかり眠ってしまったようだった。


 ガタン、と馬車が止まり、私の身体がフワリと浮く。ユーグが抱きかかえて馬車を降りてくれているようだった。


 起きなくちゃ、と思うのに、身体が重い。


「ユーグ……ごめんね」

「リリア様、目が覚めましたか? お疲れのようでしたので、このまま僕が家までお送りしますよ」

「ありがとう……」


 馬車は近衛隊の隊舎に到着しているようだった。皆、荷解きでガヤガヤとしている。


「リリア様」

「なあに?」


 身体が動かないので、ユーグの呼びかけに声だけで返事をする。すると、チュ、と額に柔らかい物が触れた。


「なっ………」


 すぐにユーグの口付けだと理解すると、私の顔は赤くなる。


 抗議しようにも、身体は動かない。


 顔だけユーグの方に向けて、睨みつけると、ユーグは真剣な瞳で私を見つめていた。


「動けないリリア様に卑怯だってわかってます。でも、どうしても愛おしくなってーー」


 ユーグの真剣な言葉に視線が絡んだまま、外せない。


「リリア?」


 見つめ合う形になってしまった私たちは、アレクの声にハッとした。


 そこには、アレクと一緒にルーカス様が立っていた。


 嘘……今の、見られてた?


「お前たち、何をしている」


 アレクの厳しい声に、先程の行為を見られたと悟る。


「この婚約は、破棄されるのが前提ですよね? なら、僕がリリア様を口説いても問題ありませんよね?」


 ユーグ、何を言っているの……。


 ユーグのルーカス様への突然の宣言に、私は彼に抱えられたまま、何も出来ずにいた。


「ユーグ、お前何を言っているのかわかっているのか?」


 アレクは怒っていた。ルーカス様の表情は、見えない。今、どんな顔をしているの?


「好きにしろ」

「ルーカス!!」


 ルーカス様は口を開いたかと思うと、それだけ言って、その場を去ってしまった。


「ユーグ、リリアを送ったら後で隊長室に来い」


 アレクもそう言い残すと、ルーカス様を追いかけて行った。


「殿下はやっぱりリリア様のことなんて考えていないんだ」


 ユーグはわざとルーカス様を挑発したようだった。


「リリア様、それでもまだ殿下を想うんですか?」


 私は泣きたい気持ちを我慢するので精一杯で、ユーグの問いに答えられなかった。

ちょっと切ない展開ですが、まもなくですので……!ご安心ください!応援よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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