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フォークス家

 アレク・フォークス、騎士団近衛隊隊長。


 これが私の父の肩書き。十年前は近衛隊の一員で、ルーカス様の従者だった。


 私の専属メイドだったロザリーと恋仲で、二人は結婚をした。小さい頃から私とルーカス様を見守ってくれていた二人の結婚には喜んだっけ。


 私が死んだ年、確かロザリーは身籠っていた。あれから十年、私、十歳。


 ……まさか、二人の子供に生まれ変わるなんて。女神様も粋なことをしてくれるのね。大好きな二人の子供に生まれて、不自由無い暮らしまで約束されて……。


 女神様からの至れり尽くせりなギフトに改めて感謝していると、私の髪を結終わったマリーが声をかけた。


「さ、今日も可愛いですよ、お嬢様」


 じいっと鏡を見つめる。


 茶色だった『リヴィア』の髪とは違い、金色の髪は二人譲りだけど、この金色の目だけは、二人のものではない。むしろ、『リヴィア』と一緒でーー。


『あなたはリヴィア様の生まれ変わりだわ!』


 不意に、お母様が私の瞳を覗き込んでよく言っていたことが思い出される。


 『リリア』と似た名前を付けたのもお母様で。


 今となっては聞けないけど、ロザリーは本当にそうだと信じていたのかしら?


 ふふ、と懐かしい思い出に浸っていると、


「お嬢様? 朝食に遅れますよ?」


 マリーが部屋の扉を開けて待っていたので、私は慌ててドレッサーの椅子から飛び降りて返事をした。


「はーい! すぐ行きます!」


◇◇◇


「おはようございます、伯父様、伯母様」

「おはよう、リリア」


 ダイニングに着いた私が挨拶をすると、二人とも、にこやかに返してくれた。


「今日はジャンお兄様はいないんですね?」

「ジャンは朝早くに鍛錬に出たよ」


 ジャンはお二人の一人息子で、このフォークス辺境伯領の跡継ぎ。私の従兄弟だ。


 お父様はフォークス家の次男で、長男である伯父様が家を継がれた。なので、私は両親と王都で暮らしていたが、お母様が亡くなってからは二人の元に預けられた。お父様は近衛隊長の仕事があるので、小さな私を泣く泣く預けたのだ。


 母を亡くした私にお二人は良くしてくれて、第二の両親だと思っている。


「リリア、今日は話し方まで、何だか急に大人びたようね?」


 伯母様が頬に手を当てて、私をじっと見て来たので、私はヤバイ!と思う。


「えへへ、私ももう十歳ですから〜」


 子供らしく笑って見せれば、叔父様もにこやかに言った。


「女の子の成長は早いというからねえ」

「そうねえ」


 叔父様の言葉に伯母様もにこやかに返し、ほのぼのする。


 危ない……!


 つい先程、十六歳の記憶を取り戻した私は、まだ自分が混濁している。状況がわかるまでは、このことは誰にも言わない方が良い気がする。


 それに、可愛がってくれていたリリアが、実は『リヴィア』だなんて、関係が壊れそうで怖い。私は私なんだけど。周りが同じように割り切れるとは限らない。


 そして穏やかな空気の中、私は二人と朝食を取った。


「そうだ、リリアに王立学院(アカデミー)の入学案内が来ていたよ」  


 朝食後、サロンに移動した私たちは、紅茶をいただきながら会話をしていた。


 伯父様が執事に目配せすると、一礼した後にすぐに彼は書類を持って来てくれた。


「ついに王都に戻ってしまうのね、寂しいわ」


 伯母様が私の顔を見て残念そうに言った。


「まあ、これでアレクもやっとリリアと暮らせるんだ。良かったじゃないか」

「そうですけど……。長期休暇の時は、必ず遊びに来てね!」

「はい。ありがとうございます」


 私の手をガシッと握って、寂しそうにしてくださる伯母様に、私は笑顔で答えた。


「この三年間、よくしてくださり本当にありがとうございました」


 立ち上がり、二人に礼をすると、伯父様は目を細め、伯母様は涙を滲ませていた。


「本当に急に大人になったようね」


 ハンカチで涙を拭いながら、伯母様は言った。


 母を亡くしたリリアを預かり、実の息子のジャンと変わらない愛情を注いでくれた二人には本当に感謝しかない。


「私は娘が欲しかっから、楽しかったわ」


 私を抱きしめて伯母様は再び涙を滲ませていた。


 そんな私たちを伯父様も優しく見て、うんうん頷いていた。そして。


「王都には再び聖女様が輩出されたと聞いた。近衛隊長のアレクも肩の荷が少し下りただろう」

「まあ、先代の聖女様のお陰で平和ではあるけどねえ。増々安心よね」


 え、ちょっと待って……


 二人の言葉に一瞬固まる。


「聖女様はいつから…?」


 気が付いたら、そんな質問をしていた。


「ちょうど一年前からかな? 王都に戻ったら、アレクとの時間も増えるだろう。良かったな」


 子供の何気ない質問に伯父様は笑顔で答えた。


 聖女様がいれば平和は守られる。近衛隊長のお父様の負担も減るわけで。それは喜ばしいことだ。でもーー


 聖女様はこの国の王位継承者と婚約をする習わしでーー


「聖女様は王子様と結婚されたの?」

「ん? よく知ってるなあ。確か、すぐにご婚約されたよ」


 伯父様の言葉に、閉じていた気持ちがザワザワとするのを感じた。


 そっか、ルーカス様はご婚約されたのか


 十年前のリヴィアの気持ちと、十年過ごしたリリアの気持ち。グチャグチャに混ざり合って、私は訳がわからなくなった。


 置き去りにされたような、よくわからない気持ち。私はどうしたいんだろう。

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