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近衛隊へ2

「リリア、ついたぞ」


 馬車の中で眠ってしまった私は、アレクの呼びかけで目を覚ました。


 近衛隊の隊舎は、王宮の敷地内にあり、見上げれば、そびえ立つ立派な建物が見える。


 近衛隊は騎士団の中でも少数精鋭だけど、隊舎はお屋敷かってくらい大きく、奥には広い訓練場もあるようだった。


 アレクはこの中で隊長をやっているんだ……。


 改めて凄いなあ、と思う『リヴィア』と『リリア』がいた。


 馬で馬車を護衛するように付いてきてくれたユーグ様は、扉を開けると、手を差し出してくれていた。


「あ、ありがとうございます」

「リリア様、自分に敬語は必要ないですからね?」

「ええと、そういうわけには……」

「護衛しにくいですからおねがいします」

「わかった……」


 話し方に護衛なんて関係あるかな?と思ったけど、ユーグ様が強く言うので、私は従うことにした。


「ずるい……。私もリリアの護衛したいっ!」

「もうっ、お父様が決めた護衛でしょ?」


 後ろでヤキモチを焼き、拗ねるアレクに、私はやれやれ、と宥める。


「相変わらずの親バカだな」


 私の肩の上にいたトロワがニャーンと鳴く。


「ううっ、トロワにまで呆れられている気がする」

「まあまあ、隊長。僕がしっかりリリア様を守りますから」

「頼んだぞ、ユーグ!」


 隊長と部下の会話にしては、何とも気さく。フォークス領に来ていた近衛隊の人たちを見て思ったけど、皆仲良しだ。


 アレクの人柄がそうさせているのだろうけど。


「あ、そういえばルーカス様は?」


 アレクの執務室まで来た私たちは、空っぽの部屋を見て、ふと疑問を口にした。


 『リヴィア』の時、魔物討伐といえば、ルーカス様も一緒だった。


「ああ、ルーカスは王都を離れていたせいで公務が溜まっているから、しばらくは顔を見せないよ」


 アレクの説明に、そういえばベッドの上でも常に書類に目を通していたな、と思い出す。


「結界修復くらいなら大丈夫だろうと私たちに一任されているよ」


 そっか、ルーカス様は来ないのか。


 ルーカス様に会えなくてがっかりしている自分に気付いたけど、その気持ちは奥に押しやる。


「あれえ? リリア様、もしかして殿下が来なくて寂しいんですか?」


 私の気持ちを察してなのか、ユーグ様が顔を覗いて来たので、びっくりする。


「ち、違います!」


 突然言い当てられたから、顔が赤いに違いない。


「ふーん。偽の婚約って聞いていたのに、随分仲がよろしいんですね」

「ユーグ!」


 ユーグ様の言葉に、さっきまで和やかだった空気が一瞬でピリッとする。


 何でユーグ様が知っているの?


「……誰に聞かれるかわからないんだぞ」

「申し訳ございません。でも、ここなら安全じゃないですか?」


 ユーグ様の言葉に、アレクはふう、と息を吐いて私を見た。


「リリア、驚いただろう。ごめんな?」


 執務室のソファーにアレクと並んで座った私は、彼の大きな手で頭を撫でられた。


「今回の婚約の事実を知っているのは、当人たちと、私、護衛のユーグ、副隊長の五人だ」

「リリア様をきちんと守るためですので。申し訳ございませんでした」


 二人の説明に驚いたけど、確かに全員を騙せるわけもなく。協力者は必要だ。


「いずれ婚約破棄するなら、僕にもチャンスはあるかなって思っていたので、つい意地悪を言っちゃいました」


 ペロっと舌を出してユーグ様が冗談を言うので、場の空気が和む。


「リリアはまだ誰にもやらん!」


 アレクもすっかりいつもの親バカに戻っていて。私はホッとして二人を見ていた。


 そんな和やかな空気の中、執務室のドアがノックされた。


「入れ」


 アレクは誰が来るかわかっていたような口ぶりで。


「失礼いたします」


 アレクの言葉にドアを開けて入って来たのは、隊服を来た近衛隊員のようだった。


 黒い髪に黒い瞳。


 どこか懐かしい顔。そう思っていると、アレクが声をかけた。


「来たか、イスラン」


 イスラン……?『リヴィア』の記憶が胸を打つ。


「リリア、私の腹心、副隊長のイスラン・ラヴェルだよ」


 アレクの紹介に、記憶が鮮明に蘇る。


「イスラン・ラヴェルです。初めましてリリア様」

「リリア・フォークスです。初めまして……ラヴェル副隊長」


 イスランの挨拶に何とか『リリア』として返事を返した。


「リリアが赤ちゃんの時に会っているから、正確には初めてじゃないよな」


 アレクが呑気な顔で、イスランの肩に手を置いた。


 十年前、王子二人の仲は良かった。だから気にすることは無かった。でも、今はーー?


 私はごくりと喉を鳴らしてイスランを見る。


 だって、イスランはジェイル様の従者だった。近衛隊の隊長になってもルーカス様に付くアレクのように、イスランもそうである可能性は高い。


 そうしたら、イスランは第二王子派ということになる。


 そしてイスランは、私を値踏みするような目付きで私を見下ろしていた。

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