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相棒は見守る

「トロワ? トロワなのね?!」

「おう! まさかリヴィアにまた会えるなんて……」


 トロワはリヴィアの従属精霊だった。聖女に仕える光の精霊だ。口は悪いけど、優しくて大好きな友達だった。


 あれ?でもーー


 私は疑問を口に出した。


「トロワ、あなたライオンだったわよね? 何で猫の姿なの?」


 そう。トロワは大きなライオンだった。今、目の前にいるのは黄金がかった茶色の毛並みは一緒だけど、どこをどう見ても可愛らしい猫ちゃんだ。


「リヴィアが死んだ時に、俺は主を失ったから、精霊界に一度帰ったんだ。でも、世界を救ったリヴィアに女神様が生まれ変わりのギフトを送ったから、俺はこの姿で側にいることを望んで、許された」

「トロワ……!」


 一気に色んな情報が流れ込んで来たが、それはさておき、トロワが生まれ変わっても私の側にいてくれたことに感動して、彼を抱きしめた。


「最初は見守っているだけだった。でもお前が三歳の時に、怪我をした俺を見つけて保護してくれたんだよな」

「そういえば、そうだったね」


 トロワが庭で倒れていた時のことを思い出して、懐かしい気持ちになる。


「それから、『絶対に飼うんだ!』って両親に言ってさあ……」

「はは……」


 あの時は泣いて両親を困らせた。恥ずかしい。


「『トロワ』って名前を付けてくれた時は驚いたなあ。やっぱりお前は『リヴィア』なんだって」


 トロワは私を見上げて、嬉しそうに話してくれた。


 そういえば、『トロワ』と名付けたのは私だ。記憶が無くても魂が覚えていたのだろうか。


「それより、女神様が私を生まれ変わらせたって……?」


 私は一旦置いておいた疑問をトロワに投げかける。


「女神様ってのは、俺たちの上司、この世界を見守る存在。その女神様がリヴィアに感謝して、平和になった世界でもう一度生きて貰おうって、さ」


 どうやら、命をかけて自分が救ったのは国に留まらず、この世界そのものらしい。


 まあ、魔王なんかが境界を越えてやって来たら、近隣諸国も被害にあうのは明確だ。


 『平和な世界で』と女神様が配慮してくださったのなら、今は平和なのだろう。


 改めて自分がちゃんと国を守れたことに安堵した。


 これからは平和になったこの国を自分の目で、リリアとして、見ていけるんだ。


 その時、心の奥で、最も気になる人がいたが、私は見て見ぬ振りをした。


「でも何で突然、『リヴィア』を思い出したのかしら?」


 ふとトロワに疑問を投げかけると、彼もうーん、という顔をして首を捻った。


「本来、記憶を取り戻さず、平和に暮らしてもらうはずだったんだけど……。俺も、女神様には『リヴィアとしての記憶は無いし、話せないけどそれでも良いの?』って言われたし……」

「そうなんだ……」


 私が『リヴィア』の記憶を取り戻したことにより、トロワと話せるようになったらしい。


 本来、私はリリアとして生きていくはずだったんだ。でも。


「私はトロワのことを思い出せて嬉しい!」

「俺もだ!」


 こうしてまたトロワと言葉を交わせて嬉しい!トロワを孤独のままにしなくて本当に良かった…!


 私は心の底から喜んだ。今はリヴィアとリリアの記憶で混乱しているけども。


 猫姿のトロワは私の頬にスリスリと顔を寄せてくれた。おヒゲが少しくすぐったい。


「お嬢様ー? 起きていらっしゃるんですか?」


 トロワとスリスリしていると、コンコン、とドアをノックするメイドの声が聞こえた。


「起きてるわー!」


 慌てて返事をすると、トロワは床にトッと華麗に降り立ち、私に言った。


「とりあえず、俺は一旦、女神様に報告がてら、リヴィアのことも聞いてくるわ」

「そっか、わかった」


 私もトロワに返事をすると、トロワは光と共に消えた。


 本当にトロワなんだ……


 精霊の力を目の当たりにし、感慨深く浸っていると、メイドのマリーがドアを開けて入って来た。


「さ、お嬢様、早く支度して朝食に向かいますよ」

「はーい」


 私はマリーに用意されたワンピースに袖を通す。十歳のご令嬢とはいえ、自分のことは大抵何でも出来る。髪も自分でやろうとしたら、マリーに止められてしまったので、彼女に任せることにした。


「お父様、また新しい服を買ったのね……」


 袖を通した自分のワンピースを見ながら、私はため息をついた。


「アレク様はお嬢様が可愛くて仕方ないんですよ」


 私の髪をハーフアップにしながら、マリーはクスクスと笑った。


 それにしてもよ。子供のうちはサイズもすぐ変わるのに……


 お父様は元々私を可愛がってくれていたけど、お母様が亡くなってからは、溺愛ぶりに拍車がかかった。


 お父様は王都で騎士団の近衛隊長として働いている。私はフォークス領の伯父の元で暮らしていて、父は月に二度程会いに来てくれるが、贈り物は毎週のように届く。


「あのアレクがねえ…」

「お嬢様? 何か言いました?」

「いえ、何でもないわ」


 思わず溢した言葉に、マリーが反応したので、慌てて取り繕った。


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