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王都

「うわあーー、賑やか!」


 馬車の窓から見る景色に、私は目を輝かせて言った。


「リリアは王都、久しぶりだもんな」


 アレクが私の頭を撫でながらニコニコしている。何故こんなに機嫌が良いかと言うと、結局、私たちは一緒に暮らせることになったからだ。


 ルーカス様とはまだ婚約なので、お城に住む必要も無いし、聖女の任務の時だけ通えば良いと。


 まあ、やることは多いので、ほぼ毎日通うことになるのだけど。


「聖女の仕事が忙しいから王妃教育は後回しにするというのが、表向きの理由だ。まあ、聖女の任務が終わればそれもする必要はないけどな」


 ルーカス様からは、聖女の仕事に専念出来るよう、手を回してもらっていた。


 『リヴィア』の時は、同時進行だったので、助かる。


 そんなことを考えていると、正面にいるルーカス様の視線に気付いた。


 私をじっと見ていたルーカス様に不思議に思い、声をかけると、彼は口の端を上げて笑った。


「これから陛下にお会いするのに余裕だな?」

「!」


 意地悪なルーカス様の言葉にハッとなり、一気に緊張が私の身体を走る。


 そんな私を見て、ルーカス様は笑っていた。


 いつもの意地悪なルーカス様だ。様子が違ったように見えたのは気のせいかな……?


 ルーカス様を見ながらそう思っていると、アレクが頭に手を置いて優しく言ってくれた。


「大丈夫だよ、リリア。陛下はお優しい方だ。それに、今はご病気だから長居は出来ないしね」


 そう。国王陛下は今、ご病気で床に伏せっていることが多いそうだ。王妃様はすでに亡くなられている。だからルーカス様も公務でお忙しい。フォークス領に来たのは仕事の一貫だった。


 国王陛下、皇后陛下、お二人には『リヴィア』の時にもお会いしたけど、優しくて国民想いの方だった。そんな志はルーカス様にも受け継がれていて。


 一つだけ違ったのは、ルーカス様は『リヴィア』に、「側妃は設けない」と言ったことだ。


 ジェイル様との軋轢はなかったものの、ルーカス様は一人の女性だけを愛することにこだわり、そして『リヴィア』に誓ってくれていた。


 最初は信念だけの物だったけど、次第に心を通わせ、「リヴィアだけだ」と言ってくれた時は嬉しかった。


「着いたぞ」


 私が昔の回想をしていると、馬車が王宮についたことを知らされる。


 そびえ立つ、クローダー王国の宮殿。


 王都に住んでいたリリアとしても、見るのは久しぶりで。その大きさに圧倒される。


 アレクが先に降り、ドアを開けると、続いてルーカス様が降り立った。そして私に手を差し出してくれる。


 ルーカス様の手を取り、馬車から降りると、王宮に続く道に沿うように、びっしり王宮に仕える人たちが礼をして埋め尽くしていた。


「行くぞ」


 ルーカス様に導かれ、その道を隣に並び、歩く。


 皆の視線が痛い。何だかヒソヒソ話も聞こえる。


「あんな子供が」とか、「殿下は正気か?」


 と言った内容の物で。近衛隊の皆からは好意的な反応だったので忘れていたけど、この反応が当たり前なのだと実感する。


 いくら聖女とはいえ、まだ十歳だもの。懐疑的になって当たり前だ。ここは、聖女として頑張って、認めてもらうしかない。……いや、別に婚約者として認めてもらわなくても良いんだけど。ルーカス様の評判がね!


 そんなヒソヒソ話はルーカス様にも聞こえているはずだけど、何だか笑っている。怖い。


 私たちは一度応接間に通された。


「お前、あんな戯言気にするなよ?」


 ふかふかのソファーに座るなり、ルーカス様が開口一番私に言った。


 私が気にしてると思ったのかな?優しいなあ。


「私みたいな子供が来たらそりゃ驚きますよ。私は気にしてません。それよりルーカス様笑ってました?」


 ルーカス様の気遣いに感動しつつも、私はさっきの怖い笑みについて尋ねた。


「お前の聖女の力を知ったら、あいつらは手の平を返したように祝福しだすさ。結局は聖女に依存した国だからな」


 ルーカス様は悪い顔をして笑った。


 怖い。まだ『リヴィア』がこの国のために死んだことに少しの恨みを持っていることは、言葉の端々で感じる。


 でももう荒むことは無いとルーカス様を信じている。ルーカス様はようやく自分の時間を歩き出したのだから。


「十歳でも立派な聖女だからな」


 ふいに、私に向けてふわりと微笑んだルーカス様に、心臓が音を立てて跳ねた。


 さっきまで悪い顔で笑っていたのに、ずるい!


 聖女としても、リリアとしても一人の人間として認めてくれたルーカス様は、こうして優しい笑顔を向けてくれるようになって、本当に困る。


「二人で雰囲気作るなよ……」


 側に控えていたアレクが割って入ったので、私は赤いだろう顔を見られないように背けた。


 幸いにも二人は私を見ていなかった。


「誰が子供なんかと!」

「うちのリリアは子供だけど、可愛い!!」


 いつものじゃれ合いが始まっていて、ホッと胸を撫で下ろす。


 そうこうするうちに、陛下への謁見が整えられ、私たちは広間へと向かった。 

第二章スタートです。リリアとルーカスを温かく見守っていただけると嬉しいです。

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