表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/52

生まれ変わりの聖女様

「ルーカス、結界を張るから、ここを持ちこたえて!」

「わかった! リヴィア、君も国も守ってみせる!」


 私の婚約者であり、この国、クローダー王国の第一王子であるルーカス・クローダー様は私にそう言うと、近衛隊を連れて魔物を制圧に向かいました。


 この国は瘴気に侵され、常に魔物に悩まされていました。


 しかし、魔物を討伐する優秀な騎士団によって国は守られています。そして、私、リヴィア・ジーンは十歳で、数年に一度輩出される聖女に選ばれました。


 聖女は魔物を滅し、国を守る結界を張る聖魔法を使えます。そして、聖女は王位継承者と結婚をする習わしであり、私はルーカス様の婚約者になりました。


 国の取り決めた婚約でしたが、ルーカス様は国のことを考え、民を想い、努力なさる素敵な方でした。


 私たちは次第に想いを通じ合わせ、この国を共に守っていこう、と誓いました。


 そして結婚を控えた十六歳の年、瘴気が色濃くなり、『魔の国』との境を超えて、魔物が急増しました。


 私たちは結婚を延期し、騎士団を引き連れ、国中に結界を張りながら魔物討伐に出ました。


 二年続いたこの戦いは、今日で終わり。そう思っていました。


 最後の結界を張る所で、多くの魔物が王都に雪崩込もうとしていたのです。


 ルーカス様たちが魔物を防いでいるうちに、私は結界を張るために聖魔法を使います。


「結界よ、巡れ」


 キイインーー、という音と共に結界が広がります。しかし、張り巡らせる結界をどす黒い大きな手が阻みました。


「何……?」


 その奇妙な手を見上げると、赤い目がこちらを覗いていました。


「魔、王……?」


 百年前に現れて、聖女が撃退したと、歴史書で読んだことはありますが、この目で見るのはもちろん初めてでした。


 魔王は私の結界を捻じ曲げ、この国に侵入しようとしていました。


 私も負けじと力を使いますが、冷や汗と震えが止まりません。


 早くしないと、王都に雪崩れ込む魔物を抑えているルーカス様たちにも限界が来ます。


『僕たちで、ずっとこの国を守っていこう』


 ふと、ルーカス様の言葉が思い出されました。


(そうだね、ルーカス。この国をずっと守らないと!)


 私は意を決して、自分に頷きました。


「私の聖魔法全てを注ぎ込みます!」


 私は両手を魔王に向かって差し出し、聖魔法で攻撃魔法と結界を同時に発動させました。


 こんな無茶、命を削るけど、魔王の侵入を許したら、どのみち皆死んでしまうわ……! 


 魔王の力に抗うように、私は力の全てを注ぎ込みます。


「うああああーーー、いっけーーーー!」


 力を押し込むように、魔王を境界の向こう側へ押し込みます。境目まで光で押し込むと、私はすかさず結界で割れ目を閉じます。


 ずううううん、という大きな音と共に、境目は沈黙しました。


「やっぱりやってみないとわかんないわね」


 私は自分の座右の銘を呟くと、その場に倒れてしまいました。


 聖魔法を全て使い切りました。それは聖女にとって死を意味することでした。


「リヴィア!!」


 魔物を制圧したルーカス様が泣きそうな顔で私に走り寄ってくるのが見えました。


 ごめんなさい……


 もう、声が出せません。私は最後の力を振り絞ってルーカス様に微笑みました。


「国、守って…、ずっと、やくそ、く」

「リヴィア!!」


 ルーカス様に差出した私の手が、地面に落ちそうになる前に彼が受け止めてくれました。


 隣に私はいないけど。ごめんなさい。


 そうして、聖女・リヴィア・ジーンの生涯は十八歳で幕を閉じました。



「え……?」


 リリア・フォークス、十歳。


 昨日までは(・・・・・)普通の子供でした。


 昇り始めた太陽の陽射しがカーテンの隙間から漏れ溢れている部屋の中。


 私は急いでベッドから飛び起き、姿見の前まで走った。


「私だ……」


 鏡をじっと覗き込むと、金色のストレートロングに、金色の瞳。身長百四十ニセンチの十歳。昨日までの私と変わりない。なのに。


「私、生まれ変わったんだわ……」


 そう思えたのは、リリアとして物心がついた頃からの記憶もちゃんとあり、そして、リヴィア(・・・・)だという、記憶もあったからだ。


 急に『リヴィア』としての記憶を思い出し、頭が混乱する。すると、ニャーと私の友人である飼い猫のトロワが足元にすり寄ってきた。


「トロワ」


 名前を呼び、トロワを抱きかかえる。


「魂が呼び起こされたのか、リヴィア」


 抱きかかえたトロワが言葉を発した。


 トロワが喋った? えーと、トロワは猫で…


「俺のこと忘れたのか? リヴィア!」

「えっ……あーーー? トロワ?!」


 混乱する私に、懐かしい口調で呼びかけたトロワ。私は彼が、リヴィアの相棒だったことを思い出したのだった。

新連載始めました(^^)

続きが気になると思っていただけたら、ブックマークしていただけると励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ