ペットは逃がさないでください
よう。
私の名前は田畑レン。長篠風香といつもセットのパーフェクト美少女だ。
突然だが私達は今日大切な家族とお別れする羽目になった。
今日は元生徒会のメンバーと一緒にお出かけだったんだがよ、そこにサツが雪崩こんできて私らの家族、ぽよぽよを連れて行っちまった。
「あのポリ公顔覚えたぞ……100万回殺す……」
「レン……落ち着きなよ」
というわけで警察署襲撃計画を練りながらルームシェアをしてる風香と帰路に着く。
私達は市内のマンションのワンフロアを借りて共同生活を送ってる。
どうしてかって?私達は一心同体、生まれた瞬間から運命から何までリンクした固い絆で結ばれているからさっ!!私は風香と半径300メートル以上離れたら内蔵が捻くれて死ぬし風香も私と半径300メートル以上離れたら首が360°回転して死ぬ。
すっかり日も落ちて真っ暗くらすけな空に雲がかかり始めた頃根城に帰宅したらなんかマンションの周りが騒がしいぞ?
まぁいっか。多分誰かがコンタクトでも落としたんだろ?
気にせず帰宅。超絶リッチ高校生の私らはこのマンションの15階フロアを独占している。羨ましいよな?まぁ君ら庶民には何を言ってるのか分からないと思うが、これが人生最上層の暮らしよ。
なぜこんなに沢山の生活空間を確保する必要があったかと言うと、私達は大家族だから。
「「ただいまー」」
「ウキッ!!ウキキッ!!」「キシャーッ!!」「ウホッホッホッホッ!!」「パオーンッ」「パラカルギャーーースッ!!」「コーコココッ」「クォォォォォォォォォォォッ!!」
私と風香の帰宅を部屋いっぱいの猛獣、珍獣、奇虫、絶滅動物、キメラ達が出迎えてくれる。
あぁ…愛しのマイファミリー。
「おぉよしよしよしっ!!お前達いい子にしてたかー?ご飯あげるからねー♡」
「レンー、先に風呂にお湯張ってよ。バッファロービルの皮むいてあげて」
おおそうだった。
コモドオオトカゲのバッファロービルが脱皮不全なのだ。早く古い皮を剥いてあげないといけない。
ソファで鶏を丸呑みにしてるバッファロービルを引っ張ってお風呂場へ連れて行く。ミッション、バッファロービルの皮を剥く。
流石は世界最大のトカゲ……重い、あと、めっちゃ尻尾叩きつけてくる……
あ、ちなみに世界最大のオオトカゲはコモドオオトカゲってよく言われるけど、体長だけで言えば世界最長はハナブトオオトカゲだからね?テスト出るよ?
奥でギャーギャー騒がしい愛しの家族達の声を聴きながら風呂桶にぬるま湯を張ってたら、玄関のチャイムが鳴った。
誰だってんだいこの忙しい時に……
「風香、客」「レン」
もうっ!!
来客はマジきんちょーすんのよ。だってこのマンションペット禁止だもん……
管理人に気づかれないようにこっそり部屋の壁や扉を防音仕様に改造してあるし…窓も外から万が一室内が見えないようにと特殊加工してあるし……
さて来客がマンションの人間だと不味い!!
緊急外面システム発動!!リモコンひとつで玄関からリビングへ続く廊下にシャッターが降りて奥の家族たちを隠してくれるのだっ!!
ちなみにシャッターにはトリックアートの巨匠、ダン・耕作に依頼した室内の絵が超リアルに描かれてるから玄関からシャッターを見ても普通にリビングが覗いてるように見えるんです。
「はははっはい。どちらサマンサ?」
「あ、管理人の者です」
危ねー。やっぱりマンションの管理人だ。しかし防音仕様のシャッターのおかげで静かな室内が演出されているはず!
ダン・耕作ありがとう……
「何用か?」
「……えっと、ついさっきこのマンションの敷地内で毒蛇が発見されまして…まだ捕獲に至っていませんのでご注意下さい」
---っ!?
「それではよく戸締りをして…もし見かけたらご連絡ください。失礼します」
「……あ、はーーーい」
バタン……
「……うわぁぁぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」
「こら!アイリッシュうるさいよっ!!静かに!!」
「いや違う今の私!誰がマントホエザルだっ!!風香やばぁぁぁいっ!!」
「何が?まさかヨロイモグラゴキブリがとうとう1000匹超えた?」
「ちがァァァうっ!!!?☆とっくに超えてる!!まマママママンションで毒蛇が見つかったってぇぇぇっ!!まだ捕まってないっててててぇぇぇぇっ!?」
「……っ!?」
*******************
「……」「……」
フロアの全室を確認して回った私と風香は小型~中型爬虫類、猛禽類の飼育部屋で硬直することになる。
扉にでっけー穴が空いてた。
しかも、インドコブラの飼育ゲージにもでっけー穴が空いてた。
当然住人はお留守。
「「お前かァァっ!?」」
「ケーーーッ!!」
この部屋で飼育していたヒクイドリのジョボウィッヂちゃん。世界最強の鳥類かつ世界で2番目に重たい鳥。
人をも蹴り殺せる脚力と強力な爪を持つこのジョボウィッヂちゃんの仕業に違いないっ!!
この部屋に他にケージや扉を破れる生き物は居ないから…
「ぬぅわぁぁぁっ!!まさかジョボウィッヂちゃんのキック力がこの扉を蹴り敗れるレベルにまで成長してたとはぁっ!!風香どーしよっ!!」
「もうっ!レンがキックボクシングなんて教えるからよっ!!なにかに興奮して暴れちゃったんだ……」
ジョボウィッヂちゃんの折檻は後にして……
問題なのは……
「逃げたのはインドコブラのきらりーちゃんで間違いないね」
風香がすごーーーーく深刻そうにそう結論付ける。
--インドコブラ。
全長約1~1.5メートル。コブラ特有のフードに眼鏡模様が入るのが特徴。
強力な神経毒を持っていて、インドでは毎年1万人程の人がこの蛇の被害にあっている四大毒蛇の筆頭だ。当然のように特定動物。
うちで飼育していたきらりーちゃんは全長約1.2メートル。雌。
……ヤバい。
バレたら洒落にならないし、万が一誰かが噛まれても洒落にならない。血清がある現在ではインドコブラによる死亡事故こそ少ないけど当然それはインド周辺の話。そもそも日本でこの蛇に噛まれたなんて話は聞いたことないし……
噛まれて処置を誤れば普通にあの世に送ってくれる蛇だし……
とにかく…つまり、ヤバい……
「レン…一刻も早くきらりーちゃんを捕まえるよ」
「いやしかし……まだマンションの敷地内にいるとも限らないし…見つけるったって…」
「お馬鹿!!誰かが噛まれたらどうすんの!?急ぐよっ!!」
とにかくぼさっとはしてられないんですわ。
風香がどこかに電話をかけてる間に私は懐中電灯を片手に部屋を飛び出した。
さっき15階フロアは全て回ったけどきらりーちゃんは居なかった。下の階に降りた可能性が高い。
蛇はそれほど活発に動き回る生き物でもないから近くに居るかも…いつ逃げ出したかが分からないからなんとも言えないが……
「きらりーちゃんっ!?きらりーちゃんっ!!きらりーちゅぅわぁぁぁぁんっ!!」
虱潰しに階を降りてきらりーちゃんを探す。何事かと住人が出てくるけど、気にしてる場合じゃねーぜっ!!
ちなみに蛇には耳がないので叫んでも無駄である。
「きらりーちゃんっ!!どこでちゅかーー!?」
「なぁに?」
誰かの部屋の室外機の下を覗いてたら後ろから返事がっ!!
まさか……きらりーちゃんついにうちの英才教育のおかげで日本語を…っ!?
幼稚園児くらいの女の子でした。
「……」
「…あたち、きらり」
「…………」
「きらりちゃん」
……あぁ、この子は竹中さんのところの…
固まって見つめ合ってたらきらりちゃんのお母さんが出てきた。
「あらあらレンちゃん、こんな時間にどうしたの?」
「いや…ちょっと探し物を……」
「なにか落としたの?」
「まぁ……大したものではないんですが…」
「ならいいじゃない。それより美味しい肉まんがあるんだけど、食べてく?」
「いただきます」
*******************
暗い空から空気を切り裂くプロペラの回転音と共に影が降りてくる。
マンション屋上ヘリポートに着陸したヘリコプターの巻き起こす旋風が私の金色のツインテールを揺らす。
ヘリコプターから颯爽と降りてきた黒人男性に私は急な呼び出しを詫びた。
「ミスターオポッサム、急にごめんなさい」
「久しぶりだな長篠、2年前お前の依頼でブッシュマスターを捕りに行った時以来か…今回はどうしたんだ?」
「すみません、うちの飼い蛇が逃げまして…」
凄腕スネークハンター、ミスターオポッサムは私に真っ白な歯を見せて笑ってくれた。
「お易い御用だぜ。で?ターゲットは?」
--ピリリリリッ
「ふぁい?もひもひ?」
『レン?……何か食べてる?てか今どこ?』
「あんひゃほそどこよ?あはひひほりにまかふぇっひりで……」
『なんて?』
「ごくっ…私ばっかりに探させてーっ!」
『ごめんて、オポッサムさん呼んできたから…こっちに戻って来て?』
「ミスターオポッサムっ!?世界中の蛇を捕らえたというあの伝説のスネークハンター!?彼が来たのか……」
『そう、で?今どこ?』
「竹中さん家で豚まん食べてる」
『は?』
--こうしちゃいられねーぜっ!!
豚まんを平らげた私はガゼルのようなダッシュで風香の元へ!
そこには確かに爽やかハンサムな黒人が立っていたっ!!
「レン!!あんたなに呑気に他人の家で肉まん食ってんの!?」
「ミスターオポッサムっ!!パフアダー捕まえて来て!!」
「こら」
まぁ落ち着けと大人な対応を見せるミスターオポッサム。もうこの人が来たら安心でしょ?この男に捕まえられない蛇はいないんだって。
もう帰って寝てていい?
「パフアダーより先にきらりーちゃんだ。逃げたのはインドコブラで間違いないな?」
捕獲用のスネークフックと麻袋を手にミスターオポッサムは迷わず階段へ向かい下へ降りていく。
「インドコブラは昼行性だが夜間に行動することもある…俺の読みが正しければ入口近くの植え込みに潜んでいる可能性が高い」
「早く捕まえて下さい!誰か噛まれる前に……」
風香、落ち着け。この男が来たからにはもう安心だ。もう寝たい。
落ち着いた足取りでマンションの玄関から外に出るミスターオポッサム。彼が目をつけていたのは玄関横に広がる植え込み。
植物が植えられたここはインドコブラにとって人口の森林だ。ミスターオポッサム曰くここで落ち着いている可能性が高いとか……
毒蛇の捕獲には常に危険が伴うのだ。毒蛇の攻撃はスーパーカー並の加速力で飛んでくる。奴らは全身筋肉だから。私もヒガシダイヤガラガラヘビに噛まれて死にかけたことがある。
そしてミスターオポッサムは全ての蛇の攻撃パターンを知る…
彼を前に噛み付くなど、練習生がリカルド・マルチスにジャブを当てるような難易度なのだっ!!
「……いたぞ」
しばらく観葉植物を掻き分けていたミスターオポッサムが緊張感のある声を出した。
私と風香が彼の肩越しから茂みを覗くと、そこで私達にガンを飛ばすきらりーちゃんがっ!!
「きらりーちゃんっ!!☆♡」
「ちょっとレンっ!?」
「迂闊に手を出すなっ!!」
ようやくの再会に感極まった私をミスターオポッサムが鋭い警告で静止する。怖っ。
ミスターオポッサムは分厚い手袋をした手でスネークフックを操り、噴気音をあげるきらりーちゃんに慎重に寄せていく。
真剣な眼差し、緊張感のある空気。しとしとと雨が降ってきた。髪の毛が湿気でボリュームを失う…
「……今だぜっ!!」
ミスターオポッサムの手さばきがまるで自分の手足みてーにスネークフックを操るっ!神がかり的早業がきらりーちゃんの細い体にフックをかけてそのまま引きずり出したァっ!
ミッション、コンプリート。
「うぉぉぉぉぉぉっ!!ポケモンゲットだぜっ!!」「流石ですミスターオポッサムっ!!」
「……ふっ、チョロかったな」
フックで引きずり出されたきらりーちゃんがシューシュー言って怒ってる。手袋をした手で首元をしっかり掴むミスターオポッサムが袋の口を開けた。
良かったよぉ。今日はぽよぽよともお別れする羽目になったんだから…きらりーちゃんまで見つからなかったら私、頭おかしくなって暴力団事務所にヒアリの群れ放り込むところだった!!
ありがとうミスターオポッサム、あなたがメシアですか?
「いやーん♡今なら抱かれてもいー♡」
「レンっ!?」
しなだれかかる私にミスターオポッサムは大人だった。テングザルみたいなカッケー顔で紳士的に私に返す。
「申し訳ないが俺には心に決めた女性が--」
「はっくしょんっ!!」
とここで!紳士的にキメるミスターオポッサムの顔面に向かって私の雨天限定スキル、『鼻むずむず』発動!!
--説明しよう!
私は雨の日は鼻がむずむずするのだっ!!
美少女田畑レンのくしゃみによる飛沫という人によっては金払うご褒美がミスターオポッサムの顔面を直撃っ!!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ミスターオポッサムに目潰し攻撃!!……いや、そんなに悲鳴あげなくても……
ミスターオポッサムが不意打ちに怯むその瞬間、しっかりきらりーちゃんを掴んでた手が緩んでしまった!!
さっきからフード広げてブチ切れのきらりーちゃん、緩んだ手から器用にするりと逃れてそのままミスターオポッサムの露出した腕に……
カプリッ
「--っ!?」「……っ!!」
衝撃、伝説のスネークハンター、噛まれる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「うわぁっ!?」「わひっ!?」
きらりーちゃんをその場に放り出して噛まれた場所を抑えて地面に転がるミスターオポッサム。その顔はニュウドウカジカみたいにブサイクに歪んで涙と鼻水じょんじょろりんだった。
「噛まれちゃったよぉぉぉぉぉっ!?助けてぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「きゃーーーーーーっ!!風香ぁぁぁっ!!」「レン!!レーーーーンっ!!うわぁぁぁぁっ!?あんた何してくれてんの!?」
「助けてぇぇぇっ!!」
「レンーーーーっ!!救急車ぁぁっ!!」「私今携帯バッテリーないよぉぉぉっ!?風香ぁぁ!!」「じゃあ私がするぅぅぅぅぅぅうわぁぁぁぁっ!!」
「死にたくないよーーーーーっ!!」
「わーーーーーーーーっ!!」「きゃーーーーーーーーぅっ!!」
現場は大パニック!!私も風香もどうしたらいいのか分からなくてずっと叫んでます。誰か助けて!!
風香がきゃーーーーって119番しながら叫んでる時、私ときらりーちゃんの目が合った!!
きらりーちゃんっ!!
「……え、どうしよ……き、きらりーちゃん?大人しく……しててね?」
「シャーーーッ!!」
「シャーじゃない。いい子だから…ね?」
きらりーちゃんを捕獲しなければ…
恐る恐るきらりーちゃんとの距離を殺していく私にきらりーちゃんは育ての親に向ける目とは思えない敵対的な視線を向けて鎌首を揺らしている。
噛まれたら死ぬ…噛まれたら死ぬ……
「……よーし、動くなぁ……」
「シャーッ」
「動くなよぉ…?」
警戒しているきらりーちゃんにあと少しのところまで近づいた。
よしっ!捕らえたっ!!
スネークハンター、田畑レン!!今--
「へぶしょいっ!!」
あ、やべ。
私のくしゃみにびっくり仰天、ニトログリセリン状態のきらりーちゃん大噴火。
お互い数センチの距離まで詰めたところできらりーちゃん親である私に牙を剥いたっ!!
消える頭、唸る体…
あ、噛まれる……死んだ……
「ケーーーッ!!」
0コンマ数秒後私の突き出した手に毒牙がかかると覚悟したその時、私の目の前を疾風がけたたましい鳴き声とともに通過していく。
何事かと唖然とする私!そして目の前から忽然と姿を消したきらりーちゃんっ!!
……こ、これが七不思議……?
「……レン」
「え?」
奇声を上げながら救急車を呼んでいた風香が私を呼んでいた。風香の指差す先私の視線が誘導される。
その先で起きていた惨劇に向かってっ!!
「ケーーーッケーーーッ」
その先ではっ!
なんかハヤブサがケーケー鳴きながら足で押さえつけたきらりーちゃんの腹を食い破って貪って………………
貪って………………
「ケーーーーーーーーッ!!」
むさ……………………………………
……なんでここにハヤブサが……?
?????????
あれ?
きらりーちゃん?
きらりーちゃん……食われて…………
……????????????
「……レン?」
「……」
「レン?」
「あべーーーーーーーっ!?!!!???!?!!!?!」
「ちょっとひまちゃん!?急に飛んでかな…えぇっ!?ひまちゃんそれ、何食べてんの!?」
「レンっ!!しっかりしてっ!レンっ!!」
「べーーーーーっ!?」
「ケーーーーーーーーッ!!」
「こけーーーーーーーーーーーーっ!!」
「ケーーーーーーーーーッ!!」
「ぴえーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「レーーンっ!!」




