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ラブコメのヒロインかっ!!

「みんな聞いてくれ」


 現代カルチャー研究同好会、教室。

 今宵集まった我が同士、空閑一等兵と香曽我部二等兵を前に吾輩、橋本軍曹は居住まいを正して向かい合う。

 実に1ヶ月ぶりとなる同好会活動…もはや機能していないと言っても過言ではないこの同好会の未来を憂いて、今僕が舵を握る。


「んだよ橋本……急に呼び出して…俺はこれから卵の醤油漬けを作らなきゃなれないんだ。お前のくだらん面を拝んでる暇はないの」

「アタシ、帰って自分の部屋無菌室に改造しなきゃだから、忙しーんだけど?」

「ところでお前、空気清浄機手に入ったのにまだ同好会に居るのか…?」

「あの空気清浄機2日で壊れた」


 よかった……香曽我部さんは折角来てくれた会員…しかも女子。女の子が後輩なんて最高じゃないか。簡単には手放せない。


「見てんじゃねーよ、バイ菌移んだろーが」

「あっ…はい、すみません……」


 ちょっと怖いけど……


「あんたも見てんじゃねーよ」

「俺はお前から目を離さない」

「橋本パイセン、この変態からストーカーされてる」

「そんなことはどうでもいいんだっ!!2人とも!!」


 僕はたるみきった2人に喝を入れるべくテーブルをバンッと力強く叩いた。ジーンと痺れる手のひらまでセットだ。


「君達!!僕らが学校でなんて言われてるか分かってるのかい!?」

「…学校一のイケメン?」「褐色女王」

「違う!!君ら個人ではなくこの同好会だっ!!『メイド喫茶同好会』だぞっ!!」


 --宇佐川さんから本気でアイドルを目指せと喝を入れられたのもまだ記憶に新しい話…

 僕も宇佐川さんの応援してくれる気持ちにしっかり応えないといけない。そこで原点に立ち返ることにした。

 この同好会は何のための同好会だ?

 アイドルになる為の同好会だろ?


「活動報告書はメイド喫茶、同好会のポスターはメイド喫茶、活動費どこ行ってんのかと思ったらメイド喫茶!!終いにはこの同好会はメイドのパンツを研究してる同好会だなんて影で言われてるんだよ!?」

「影じゃねーし、ウケる。アタシこの前「同好会の活動費でメイド喫茶で遊んで恥ずかしくねーのかよ」って面と向かって言われたし」

「余計ダメだろ!!いいのか?こんなので!!」

「いいも何も…事実だろ?」「ね?ウケる」


 ウケてる場合か!!


「今日から現代カルチャー研究同好会は真面目にまともな活動を取り戻していくことにします!!2人もこれからは毎日顔を出して!!いいね?」

「は?なに仕切ってんだコノヤロー」「忙しいから無理っス」


 グダグダ言う2人を引っ張って僕は教室を飛び出す。早速活動だ。

 宇佐川さんの想い…そして小倉先輩から受け継いだ同好会をこのまま腐らせる訳にはいかないんだ……


「今日から本来の活動に戻るからね!空閑君!」

「おいおい勘弁してくれよ…本来の活動って何?」


 決まってるじゃないか。


「アイドルレッスンだよ」


 *******************


 2人のメンバーを引き連れて僕らはグラウンドにやって来た。


「…なにも学校でやることないだろ?」

「分かってないな空閑君。みんなにちゃんと活動してることを見せないと意味ないだろ?このままだとこの同好会、前身のアイドル研究同好会みたいに消されるかもしれないんだよ?」


 僕らがちゃんと活動してるということを見てもらわないと……

 それに少しは人の目があった方がレッスンにも緊張感が出るってものだ。


 野球部が練習してるグラウンドの一角に陣取って僕らのレッスンが始まる。


「…え?アタシが入る時言ってたアイドル目指してるってまじなん?」

「まじだぞ香曽我部…これから茶番が始まる…付き合ってやってくれ」

「グラウンドって砂埃あるからまじむり」

「何してるんだい香曽我部さん!ダンスが始まるよ!!」


 全く…全くやる気の見えない2人には辟易するよ。なにをしに来たんだい。


「は?アタシも?」

「無論」

「いや無理、空閑先輩やれば?」

「俺はプロデューサーだからな…さぁ踊れ」


 香曽我部さん凄く嫌そうな顔してる…そんなに嫌なのかい?

 なるほど…まだアイドルという輝かしい夢を理解出来てないんだね……我が同好会メンバーでありながら情けない。


「香曽我部さん、まずは僕が踊って見せるからよく見てるんだ。いいかい?次は君も踊るんだよ?」

「全く訳分かんねーんだけどなんでアタシ巻き込まれてるん?」

「空気清浄機欲しいんだろ?なんでも楽して手に入れられるものでは無いぞ。むしろ、楽して手に入れた物に価値はない」


 流石プロデューサー。いいことを言うじゃないか。


 スピーカーに繋いだスマホから音楽を再生。

 聴き慣れたリズムが鼓膜を叩き、それに体が勝手に反応するようにリズムを刻み出す。無意識レベルで反応するのは日々のレッスンの賜物だ。

 香曽我部さんも僕のこのダンスを見たらアイドルを目指すことの素晴らしさを実感するはず--


「…………」「…………」


 大音量で流れだす音楽に乗って、僕の体が流れるように踊る。軽快なステップと流麗かつスタイリッシュなリズム……

 僕のダンスに見惚れた2人は言葉を失ってただ魅入っていた。空閑プロデューサーもこの成長ぶりには脱帽だろう。


(…どうだ香曽我部。感想は…)(…毒飲んで苦しみ悶えてる死にかけの人のもがき?)(ふむ…まさにそんな感じだな)(アレで上手いと思ってんの?)(奴の顔を見てみろ…あの自信満々の面を…出会った時から全く進歩がない)(うわぁ…アタシもう見てらんないよ)(耐えろ…これも空気清浄機の為だ)


 毎日少しずつ練習を重ねてきたんだ…僕のこのダンス……観る者の心に訴えかけるダンスだ。

 どうだい2人とも!!今の僕、輝いて--


 --ゴンッ!!


 突然頭に降ってきたなにかがノリにノッていた僕のダンスのリズムを断ち切った。


「痛っ!?」

「ダイジョーブッスか?」

「野球部のボールだ」


 空閑君がその投擲物を拾い上げた時、ゾロゾロと何人かの坊主頭が僕らににじり寄ってきた。

 そう--野球部の皆さんだ。


「あんたらここで何してんだ?」

「俺らは現代カルチャー研究同好会だ」


 野球部の1人の問いかけに堂々と返した空閑君に、返ってきたのは「げっ!?」ってカンジの反応…

 ほら見ろ。メイド喫茶ばっかり行ってるからこうなるんだ……


「君らのボールがウチのトンチンカンの頭にぶつかったぞ?どう落とし前つけるんだ?」


 空閑君が何やら物騒な事言い出して、香曽我部さんも調子に乗って「オラオラ」と凄んでみせる。けどあんまり怖くない……

 しかし、そこで引き下がる野球部ではなかった。


「何言ってんだ!放課後グラウンドは俺らが練習で使うことになってんだよ!!アンタらこそ勝手に入ってきて何してんだ!!」「出ていけよ!」「大体なんの活動だよ!!」

「ダンスレッスン中だ!」


 よく言った空閑君!!


 冷たい沈黙が場を流れていく。「何言ってんだこいつ?」みたいな空気感が凄く痛い。

 …もしかして僕らは何かを間違えたのだろうか?


「グラウンドはみんなのものだろ?俺らが使えねーってのは納得いかねーな…てか、文句言う前にウチのトンチンカンに謝れや。ボール当たってんだろ?」

「んだとコラ?」「チョーシ乗ってんじゃねーぞ?」

「--おやめなさい」

「うるせーすっこんで……ろ……」


 突然割って入った声に勢いで返した野球部員達が直後青ざめる。

 恐る恐る……ゼンマイ仕掛けの人形みたいにカクカク首を捻って振り返る彼らの先には穏やかな笑みと静かな威圧感を放つ部員が黒光りしながら立っていた。


 彼は…野球部の剛田剛。

 野球部の剛腕ピッチャーにして、皆から恐れられるオカマ……


 お、恐ろしい奴が出てきたぞ……


「あたし達のボールが当たっちゃったんですって?ごめんなさいね?」

「ひぁぁぁぁっ!!」「ぐげげ……」


 笑顔で部員を締め上げる剛腕を見せつけながら剛田君はねっとりした笑顔で僕らに謝罪した。目の前の光景に僕らにはそれを大人しく受け入れるしか道はない…


 しかし、事はそう簡単には収まらなかった。


「でも、この子らの言う通り、放課後はアタシら野球部がグラウンドを使うことになってるの……そこは守ってもらわないと困るし…そっちにも非があるってこと」

「そんなん初耳だし、知らん」


 空閑君すごいな……このオカマ相手に食ってかかるなんて。僕は怖くて無理。


「あらぁ…困ったわね…どうしてもここを使いたいならこっちの条件を呑んでもらわないと」

「あ、いいや別に……橋本、香曽我部帰ろう」

「あなたがアタシと付き合ってくれるなら、あなた達にグラウンドを貸してあげてもいいわ」


 黒光りオカマがとんでもないことを提案してくるが、空閑君は「いやいいから、さよなら」と逃げようとする。さっさと退散しようとする空閑君の襟首が極太の腕に捕まった。


「アタシと恋人になってよ♡」

「いや大丈夫、俺らが退くから。さよなら」

「いいのよ照れなくて」

「おいやめろ。離せ」

「空閑先輩……アタシ達の為に自分を犠牲に……カッケーっス先輩、まじリスペクトっス」「ありがとう空閑君、僕必ずアイドルになるよ」

「黙れ!!」

「あなたのお母さんには挨拶を済ませてるのよ♡」

「は?は??なんで俺のお袋と……てかなんの話だよ!!おいやめろ!!ベルトを緩めるな!!」


 ここから先は見てはいけない!!

 僕と香曽我部さんは連動するようにくるっと後ろを向く。背中に空閑君の悲鳴じみた声が聞こえてくる…

 すまない空閑君……


 さぁレッスンの続きを--


「……え?何しとんのアンタら……」


 この世の地獄のような光景に乱入者。グラウンドにひょっこり現れたその人が空閑君を組み伏せようとする郷田君をドン引きで見つめている。


 あの子は…楠畑さんじゃないか。


「何こんなとこで盛っとんねん……」

「おい脱糞女!!助けて!!変態が俺を掘ろうとしてる!!」

「あらぁ?今からお楽しみなのよ。少し待ってくれる?」

「……いや、そこのホモ野郎に用があったんやけど…」


 っ!!これは……修羅場!?

 関わってはいけない気がする。


 屈強なオカマに怯むことなく退かない楠畑さん、退かないオカマ、挿入3秒前のプロデューサー……

 この世の地獄だ。


 *******************


 なんかとんでもない場面に出くわしてしもうた……

 けど、何とかウ〇コタレをオカマから奪取。奴を連れて人気のない校舎裏までやって来た。


 ……別にこんな奴に用なんてないんやけど、昨日の日比谷とのやり取りがどーしても頭から離れへん。

 ここは白黒つけなアカン。そう思った。好き勝手言って帰ったアイツらのせいで溜まったモヤモヤを解消せなアカンのよウチは…


「助かったよ脱糞女……危うくケツが使い物にならなくなるところだった」


 ほら、面と向かって『脱糞女』呼ばわりやぞ?これが気になる女に対する接し方か?


「いや、軽くトラウマやねん……おどれにそっちの気があったとはな…」

「違う、あれは強姦未遂だ……で?なんの用だよ」


 睦月が早くしろと先を促す。改めて考えたらウチは何をしとるんや……なんか恥ずかしくなってきた。

 しかしはっきりさせとかんとこれからこいつが店に来る度に変な意識をしてしまう……


「なぁ…ウ〇コタレ」

「お前だろそれは」

「アンタさ、好きな人とか居るん?」


 うわぁぁ死にたいっ!!なんなんこれ!?何しとるんウチは!!


 恐る恐る振り返る先には「は?」みたいな顔したウ〇コタレがじっとウチを見つめて固まっとった。

 そりゃそうやな……ウチとこいつはそんな会話をする間柄でもないわ。


「何突然」

「いや?別に…深い意味はない」


 いやどう考えてもあるやろ。わざわざ呼び出してこの話はあるシチュエーションやんけ。恋愛漫画で見たことあるもんこれ。


「居るよ」

「へー、そうなんや以外……えっ!?」


 後頭部フルスイングでぶん殴られた気分やわ!

 こ…こいつ。人並みに恋愛するような人間性があったんか……?


 …まさか?

 いやいやあらへん!日比谷やろ?な?そうやろ?そうやと言え!!


「へー……誰なん?教えてや。あ、あれか?日比谷?日比谷か?そうやろ?そうなんやな?ウチのバイト先にしょっちゅう来るんはウチのこと馬鹿にしよるだけやろ?日比谷もアンタのこと好き言うとったしそうやろ?あ?こら」


 やばーーーいっ!!自分で言うといてやばい!!なんなんこれ、なんでウチがこないなやつに振り回されなアカンの!?てかキモ!!なんか自意識過剰な奴みたいやんけ今の台詞!!キモっ!!


 あーもうやめて、こっち見んといて。その顔でウチを見んといて?頼むから。な?


 ……さっきからなんで黙っとるん?は?え?なに?何この間…怖い怖い。いつもの憎たらしい口の利き方どうした?は?


 …………なんか喋れやっ!!


「…………なんで日比谷さんが出てくるんだ…?あー……なんかそんな噂たまに聞くよな。何お前?あれか?俺をからかう為にわざわざ呼びつけたのか?暇なやつ」


 黙れっ!!おどれに暇とか言われたくないわっ!!


「え?ちゃうん?そう……そうか……」


 じゃあ誰や?

 ますますウチの中で昨日の日比谷とのやり取りが鮮明かつ濃厚に広がっていく。やめろや。

 くっ……さてはウチで遊んどるな?分かっとんのやで?ホンマに性格悪い奴やな!!死ね!!


「突然変なこと訊いてきたと思ったら……ん?さてはお前……」

「やめろーーーーっ!!そんな目で見るなっ!!違う!!今おどれの考えとることは全て的外れやっ!!勘違いも大概にしろこの馬糞野郎!!」

「…………」

「なんやねんその「え?何言ってんのこの自意識過剰女」みたいな目はっ!!見るな…っ!ウチを見るなっ!!」

「…………」

「うわぁぁぁぁっ!!なにしてんのウチ!!あああ死にたい!!そうだ死のう!!もう死ぬ!ここで死ぬ!!止めんどって!!やめて!!もうやめて!!」


 もうヤダなにこれ。なんなんこれ!!え?死ぬんこれ?死ぬのウチ?

 もう自分で何言うても「アンタウチのこと好きなんやろ?」的なニュアンスになってる気がする!!なんでこうなった!?何を間違えた!?

 馬鹿やん!!ウチただの馬鹿やんっ!!

 くそったれぇぇぇっ!!これも全部日比谷のせいやっ!!あの女許さへん!!今度あったらケツに腕突っ込んで奥歯引っこ抜いてやるくそがっ!!

 てかなんやねん「さてはお前」って。なんか言えや!!


 その時!

 後ろからウチの肩に手が触れてきた。

 ガッと掴まれた肩が過剰に反応してビクンって震える。どんくらい震えたかと言うと肩の関節外れるくらい震えた。

 後ろからウチを覗き込むようにじっと見つめてくるウ〇コタレ馬糞野郎。

 もうやめてっ!!これ以上関わらないでっ!!


「いやーーーーーー!!」

「脱糞女お前……」


 やめろーーーーっ!!言うなーーーーっ!!それ以上踏み込んでくるなーーーーっ!!


 聞きたくないのに自然と耳が奴の次の言葉を待っている。このいやらしい間といやらしい視線がウチをお馬鹿にする。もうやめてっ!!


 聞いたらアカン聞いたらアカン聞いたらアカン聞いたらアカンっ!!


 --空閑君は楠畑さんのこと--


 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


「……恋バナしたいけどする友達居ないんだな?可哀想に…お前友達居なそうだもんな…でもそれって日頃の行いのせいだと思うぞ?」


 ………………………………


「大丈夫か?学校楽しいか?俺で良かったら相談に乗ろう…さぁ、なんでも話せ…どうした?」

「………………お前もう二度とウチの店来んな」


 --ドゴッ!!


「痛っ!?なぜ殴る!?待て!!やめ……ぐはぁっ!?」

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