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激突!!日比谷真紀奈と脱糞女

 --私は可愛い。

 この星の全生命体にとって最も幸運だったことは、ただこの地球に生きているだけでこの日比谷真紀奈と同じ空気を吸って生きていけるということだと思う。

 思うでは無く、そうなのだ。だって私は日比谷真紀奈だもの……


「バイト疲れたねー、帰りなにか食べて帰ろうか?日比谷さん」

「却下、今日から節制するの。お金が必要なんです私は」

「……本気で大学進学の費用自分で稼ぐの?親とかに相談したら?」

「私の吐いた二酸化炭素ネットで売ったら1億くらいで売れるかな…売れるな……」

「1億は無理だろうけど顔写真月なら五千円くらいにはなるかもね。なんか食べて帰ろ?奢るから」

「良かったね。この日比谷真紀奈と放課後デートする権利を手に入れられて。奢られてあげるわたしに感謝して?ほら、早く。さぁ!」

「ごめん用事思い出した、さよなら」


 薄情者にすがりついてなんとか引き止め、駅前をぶらぶらブラフマする。

 駅の周りはいっぱいお店とかある。ちょっと晩御飯食べていくのにはもってこいだね。

 この日比谷真紀奈が入るからにはそれなりにオシャレなお店がいい…甘いものの気分だな…


「たこ焼きたべようか?日比谷さん」

「笑止、この日比谷真紀奈がたこ焼きなんか外で食べるか……それは家で食べる」

「なら自分で買ってね。もう…日比谷さんに付き合うのも楽じゃないよねほんとに…」

「何を!?どっか寄ってこって言ったの凪--」


「きゃっと♡らぶ港中央店、よろしかったら遊んでいってくださいにゃー♡」


 帰るぞコノヤロウって思ってた私の目の前に強引にチラシが割り込んでくる。改札機のバーみたいに私達の進路を遮ったのはメイド服を着た女性…

 頭のカチューシャから猫耳が生えてて語尾が「にゃん」とっても馬鹿っぽい。


 この近くにメイド喫茶なんてあったんだ。


 反射的にチラシを受け取った私にメイドさんが愛くるしく笑い


「ありがとうございますにゃ♡世界一の可愛いメイドさん揃いですにゃ♡是非遊びに来てにゃん♡」


 なんてほざきやがった。この日比谷真紀奈を前に。


「……世界一可愛い?」

「にゃ?」

「日比谷さん…世界一可愛い『メイドさん』だから。ね?」

「それは私がメイドさんになっても奴らには及ばないということ?」


 凪が凄く面倒くさそうにしてるけど、凄く関わりたくなさそうにしてるけど、そうはいかない。

 だって世界一可愛いのは私、日比谷真紀奈だから……

 だから踵を返してチラシを配ってたメイドさんに詰め寄る。


「ほんとに世界一可愛いメイドさんに会えるんでしょうね?」

「にゃ!?……あ、会えるにゃ……」

「この日比谷真紀奈より可愛いんでしょうね?」

「…………は?」

「日比谷さん、やめよ?私行かないよ?」

「会わせてもらおうじゃないっ!!」


 *******************


 --きゃっと♡らぶ港中央区店。

 なんでも世界一可愛いメイドさんに会えるのが売りのメイド喫茶らしい。


「お帰りなさいませだにゃん♡お嬢様♡」

「世界一可愛いお嬢様のご帰宅よっ!!」


 ……60点!58店!!


 早速出迎えてくれたメイドさんを採点。美の概念そのものである私の採点は何より正確かつ絶対なのだ。


「おぉ…」「可愛い……」「こんな可愛い子がメイド喫茶に……」


 ほら、店内が早速ざわめきだす。なんせ本物の世界一可愛いがやって来たんだから。

 嫌がる凪を引き連れて席に着く。視線がこの、この!!日比谷真紀奈に集まっているのが分かる…メイドさんにではなく、この!!日比谷真紀奈に!!


「お嬢様、当店は初めてでございますにゃ?当店はにゃんにゃんメイドの魔法の力でお嬢様に癒しを与える喫茶店ですにゃ♡このお店はにゃんにゃんの為の空間なので、お嬢様方もにゃんにゃんになって欲しいにゃ♡」


 メイドさんが猫耳を私達の頭に装着。


「語尾は『にゃん♡』だにゃん♡」

「望むところだにゃん♡!!」

「……日比谷さん…にゃん♡」

「お嬢様、可愛いーっ!!とってもお似合いだにゃん♡」

「当たり前だにゃん♡!!この日比谷真紀奈!猫耳だろうがメイド服だろうが着こなしてみせる!!だにゃん♡」

「すごーい♡だにゃん♡ご注文お決まりかにゃん♡」

「にゃんにゃんオムライス。それと、このお店で1番可愛いメイドさんを連れて来て欲しいにゃ♡!!」


 さっきから凪が凄く悲しそうな目で私を見てるにゃん♡きっと日比谷真紀奈猫耳バージョンに感動してるんだにゃん♡今日だけだにゃん♡しっかり目に焼きつけるにゃん♡


「そちらのお嬢様はお決まりにゃん♡?」

「……じゃあ…萌え萌えにゃんにゃんグラタンでお願いします…」

「こら、語尾は『にゃん♡』だにゃん♡」

「そうだよ凪にゃん♡」

「……にゃん♡」


 *******************


 ……なんでや?

 なんでいっつも、この店には、ウチのシフトの時には変なやつしか来んのや?

 しかも今日のやつは随分変化球や。


 ……6番テーブル、日比谷真紀奈、阿部凪。

 ウチの同級生…接点は皆無と言っていい…学園一の美少女とその友人がなんでこないな所に…


 それだけならまぁ…たまたま学校の人間が来ただけやから、見つからんように気をつけとけばええんやけど…



 --なんか店で1番可愛い子連れて来いってさ。楠畑よろしくー



 先輩公認(?)最かわメイド楠畑香菜--同級生しかも女子、しかも学校一の美少女の前に猫耳メイドで登場というもはや拷問を受ける羽目に……


「おまたせしましたにゃ……」

「来たか!!世界一可愛いと言う触れ込みのメイドさ--……」


 仕事やから嫌々注文をテーブルに持っていったら日比谷が過剰に反応。直後にフリーズ。

 ウチらの間に地獄のような空気が流れる。2人のお嬢様が石像のように固まってウチを見つめとる。

 あのバカが同好会のポスターにウチを使ったせいで学校の奴らはウチがメイドさんやっとるのは知っとるはずやけど……


 ……もう、どうにでもなれや。


「……おまたせだにゃん♡にゃんにゃんオムライスと萌え萌えにゃんにゃんグラタンだにゃん♡」




 ……なんてことなの。

 この日比谷真紀奈の前に現れたのは見覚えしかない女。

 この女は確か…楠畑。

 先月の事件の時脱糞がどうのこうのってみんなの前で涙ながらに訴えてたあの…


 店で1番可愛いメイドさんでなんでこいつが…?いや、まぁ確かに可愛いけど……

 ……贔屓目に見て、89点ってとこだけど、派手なピアス、ツートンカラーの髪の毛は好みが分かれるところ。加えて脱糞イメージが大きなマイナスとして総合点はまぁ…70点としておこう。


「……あなたが世界一可愛いメイドさんだにゃ?」

「そんな…恥ずかしいにゃん♡お嬢様には敵わないにゃん♡おふたりともとっても可愛いにゃ♡」

「……あの、知らない間柄でもないし、むず痒いからやめて欲しいです…にゃん」


 凪、なにを縮こまってるの?容姿を褒められた時は胸を張りなさい!!ここで謙遜するなんて嫌味な奴かそれこそ芋臭い女だけよ!!


「まぁ……私には敵わないかな?確かに…可愛いけど?」


 ありのままの事実をそのまま告げてあげる。容姿に関しては譲れないものがあるから。それと警告も忘れない。


「お店の宣伝で世界一可愛いメイドさんに会えるって聞いたけど…今後そういう大言壮語は控えた方がいいよ?まぁ…あなたのルックスなら日本一くらいなら謳ってもいいかもしれないけど……いや、日本にこの日比谷真紀奈が居る以上それも無理だね…」

「……わ、わー…もしかして褒められてるにゃ?嬉しいにゃ。独創的な褒め方にゃ♡」


 素直に褒めてますけど?

 この日比谷真紀奈に容姿を評価されてるんだから、その胸部の贅肉を張ればいいものを…


 でも…なに?この胸に引っかかる感覚。

 私の世界一は変わらず証明された…私は可愛い。こんな地方都市の訳分かんねーメイド喫茶になんて負けはしない…

 なのに何故か、この女に対して凄い敗北感というか……


「それじゃあ、お嬢様ご一緒に♡美味しくなーれ♡にゃんにゃんにゃん♡」

「にゃん♡」「……にゃん…帰りたい……」


 お約束のおまじないで店内が色めき立つ。それも無理もない。この私が「にゃん♡」なんて言ってるんだから。しかも私ほどでないにしろこのテーブルにはかなりレベルの高い美少女がさらに2人。


 男達よ、刮目して見よ。ここが現世の楽園ぞ……


 オムライスは大変美味しゅうございますにゃ。でも素直に味を楽しめないモヤモヤがずっと頭の中に……

 これは一体……


「……楠畑さんここでバイトしてたんだね。びっくりしたよ。なんかメイド喫茶でバイトしてるとは噂にはなってたけど…」

「……ああ、そうかにゃん…噂に…ね…」


 凪と楠畑がなんか喋ってる。あの2人、なにか接点があったっけ?


「そうそう、チェキ?が学校に張り出されてたんだよね」

「えっと阿部さんだっけ?その話はもうええやんけ……」

「同好会のポスターだよね。そうそう空閑君と--」


 --ガタンッ!!


「……っと、日比谷さん?急に立ち上がってどうしたの?お水が倒れるとこだったよ。てか、早く食べて帰ろう……」


 おっ……思い出したァァァッ!!!!


 この女……楠畑香菜!!

 そう!歓迎遠足のお化け屋敷でむっちゃんから浣腸されてた女じゃないかっ!!

 この日比谷真紀奈でもお尻ペンペンまでしかされてないって言うのに!!

 そう!それとポスター!!むっちゃんとこの女のチェキが張り出されていると噂になっていたぞ!!


 この敗北感の正体はこれかっ!!


 遠足の時むっちゃん、この女とやけに親しげだった…ああああっ!思い出したらなんかムカついてきた!!

 こ…このまま帰れない…こいつ、むっちゃんとどういう関係なの!?


「……楠畑さん?」

「なんだにゃ?」


 なにが「なんだにゃ?」だ!ムカつく!!ぶりっ子ぶってんじゃないよ!!


「楠畑さんはむっちゃ……っ、空閑君とは仲がいいのかな?」




 --なんやねん唐突に。

 阿部が野郎の名前出したと思ったらこの日比谷まで乗っかって来よった。

 正直もうさっさと帰ってほしいんやけど……


 …………ああ、そうか。

 こいつ、あのウ○コ野郎が好きなんやったっけ?

 全く趣味が悪い…あんな冴えへんしかも最低な人間性の男のなにが……



 --女置いて逃げない。



 ……まぁ、そこまで言わんでもいいか。


 せやけどどう返そ。

 波風立てんように、穏便にお帰り願わなあかん。いや、考える必要もないやろ?アレとはなんもあらへんのやし。ありのまま言えばええんや。


「まぁ、この店の常連よ。そんだけ…仲良い言うほどやないよ?」


 ほら、完璧やん。事実やし?


「……でも浣腸する間柄なんでしょ?」


 とんでもない爆弾発言と共に日比谷の視線が氷塊のように冷たくなった。

 阿部が「え?」とまた要らん誤解をしそうな反応…なんてことや。この前もうそういうキャラは勘弁したってやって勇気出したのに結局また野郎のせいで…


「ちゃう……あんた、いつのこと言うとるんか知らんけど……」

「え?…そんなにたくさん心当たりが…?」


 黙れ、阿部。浣腸に関しては心当たりないわ。ただウチの場合あることないこと噂されとる可能性もある……


「そうや……遠足やろ?あれはあいつがいきなり襲ってきたんやて…」

「いきなり襲ってきた!?」


 阿部!!


「……なるほど、メイド喫茶の常連で、いきなり襲ってこられるような間柄だと……」

「ああああ!ちゃうて!日比谷、落ち着け。ウチとアレとはなんもない!!ホンマに…勘弁してや!!」

「……でも文化祭の時とか空閑君誘ってどっか行ってたよね?」


 阿部ぇぇぇぇぇっ!!!!


「つまり空閑君との関係は端的に表すとメイド喫茶の常連で浣腸をしてきて文化祭で2人でデートする一方的に襲ってくる間柄?」

「なんやその間柄!ちゃうわ!!メイド喫茶の常連でお化け屋敷でいきなり浣腸してきて文化祭でたこ焼き奢ったっただけの間柄や!!」

「……」「……」


 ……くそぅっ!!なんでや?なんでウチとアイツとの間にはこんな噂ばっかり立つんや?なにが原因や?


「……楠畑さんから見たらそれだけの間柄かもしれないけど、彼はどうかな……」


 おい日比谷、そのナイフでも持ち出しそうな顔やめろ。


「メイド喫茶の常連なんでしょ?楠畑さんに会いに来てるのかな?」

「な訳--」



 --事情は知らんけど、お前が怪我して店休んだら、暇つぶしが減るからね。



 ……あれ?

 そう…なん?いや落ち着け楠畑香菜!!あの男の戯言を真に受けるな!!奴は…奴は……

 ……ホンマに何しに来とるんアイツこの店に。メイド喫茶で遊ぶとか結構金かかんのに…


「まっ…まさかぁぁぁっ!?」

「うわぁ!」「急になに楠畑さん…」


 馬鹿なっ!!そんなことが…っ!ない!!常識で考えて目の前でクソ漏らした女に惚れる男はおらん!!おらんのやっ!!


「……あのさ、これ知り合いが言ってたんだけど…あくまで噂ね?」「なに?凪」

「空閑君は楠畑さんのこと--」

「おいっ!」


 ウチが突き立てたフォークが阿部のグラタンに突き刺さる。「ひっ!?」と阿部の表情が青ざめて言葉が止まる。

 が、日比谷の顔がどんどん冷たくなっていく……


「凪、なぜ今頃そんな話を?」

「いや!噂だし!?噂だから!!」

「頼むお前ら…少し黙ってくれ!!頼む!!」


 目の前でウ〇コ漏らした!!タバスコ飲ませた!!いくらメイドさんとはいえ、それだけはありえへんのや!!


「……もう分かった。よく分かった」

「ひ、日比谷さん……」

「楠畑さん、まどろっこしい事は抜きにしよう。単刀直入に訊くね?空閑君のこと、どう思ってる?」

「殺したいと思てる」

「いや予想の斜め上でびっくりしたわ…そう、好意的には捉えてないんだね」


 それにしても分かりやすこの女…体育祭でなんか噂に立っとったし、もうみんな知っとんのやろな…

 そうや……アイツだって学校一の美少女の方がええに決まっとるやろ……


 いつの間にかお互い「にゃん♡」を忘れてたウチと日比谷は向かい合い、日比谷が猫耳をバンッとテーブルに叩きつけた。


「……空閑君は、いや、この世界の全人類はこの美の女神、日比谷真紀奈の恋人よ。私の許しなく横取りは許さない」

「いやせんえ言うとるんやんけ。てかその理屈やとウチもアンタの恋人やん」

「……私の美貌は老若男女問わず魅力する。私にはそれに応える義務があるの。あなたが望むならチェキの一枚でも撮ってあげるけど?」

「それはそっちが頼むんやんけ」


 とにかく!!と声を荒らげて日比谷はウチにビシッと指を突きつけて宣言する。


「いくら彼があなたと浣腸し合う仲だからと言って!勝手に横入りは許さないからね!彼が欲しくなったならこの日比谷真紀奈に一言言いなさい!!受けて立つ!!」


 あ、邪魔すんなとは言わんのやな……一報入れれば恋敵になれるらしい、お優しいこって……


 ズンズンと荒々しく店を後にする日比谷と阿部を見送りながら、やっと帰ったとほっとする。

 ……ほっとしながら思う。

 日比谷程の美少女が一体あの男のどこに惹かれたんか……

 美玲の奴もそうやし…日比谷はあれか?球技大会?


 ……あんな奴でもなんだかんだ人に好かれる要素は持っとんのやろか……

 なんでウチにだけあんなんなんやろか…


「行ってらっしゃいませだにゃん♡お嬢様♡」

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