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お前の為に…闘う

 --全国高等学校総合体育大会剣道競技大会。通称インターハイ。高校剣道大会四大大会のうちのひとつにして、その中でも最も知名度が高いのではないだろうか……

 明日、その高校剣道の晴れ舞台に上がるための予選--地区大会が開かれる。


「--ぐはっ!?」


 体育館の床を俺が転がる。血反吐を吐き、竹刀を叩き折られ、何をしているんだと笑われ、呆れられ--

 しかし俺は強くなった……と思う。

 師匠の強さにはまだ遠く及ばないけれど……


「……やるようになったじゃん」


 俺の師匠--宇佐川先輩からの賛辞を受けながら、俺は全身にできた痣を見て自嘲気味に笑う。

 俺は弱かった。

 しかし……確実に強くなったのだ。


「……今年の地区大会……インターハイ出場資格を得るための予選は各都道府県によって数もレベルも異なるけど……ここの大会は全国でも有数の難易度なんだって?」

「……団体戦、個人戦優勝候補は、決まってますから…」

「……例の」

「例の…やつです。恐ろしく強いらしい…少なくとも団体戦でインターハイに進むのは、福岡からは奴の学校だと……」


 --彼岸三途……

 その実力は風の噂で、そして千夜から聞いている。情けないことに「大丈夫?」と心配までされてしまった。

 本当に情けない…千夜は敵側だと言うのに……

 そう……今年千夜の応援はない。

 しかしこの佐伯達也、負ける訳にはいかないのだ!!


「……勝てますか、俺は……明日……」

「いや知らん」


 師匠にはあの日、本物の強さを見せつけられた。自分がいかにちっぽけな存在なのかを見せつけられた。

 あの時までの俺ならば……あるいは奴には勝てなかったかもしれない。いや、今だって勝てるのかは分からない……

 だが、今の俺はあの時の俺より確実に強くなったっ!!


「……まぁ、行ってきな。頑張って」

「--ありがとうございましたっ!!」


 師匠--あなたからは多くを教わりました。

 あなたは口ではなく、その技で、この身に教えを叩き込んでくれた。語らった言葉は多くはなく、共に鍛錬した時間はあまりに短く--されど、その教えは確かに実になりましたっ!


 体育館を後にする時、師匠は背中を向けた俺にぽつりと言った。


「……私、なにしてんだ?」


 *******************


 --会場が湧いている。


 地区大会、当日。


 大いに盛り上がりを見せる大会会場、試合はそれほどに白熱していた。この北桜路市をはじめとしたいくつかのエリアから集まった高校が、白熱した試合を繰り広げていた。


 試合は団体戦、個人戦。

 団体戦では上位1校が、個人戦では上位1名が次の試合に進み最終的に団体戦1校、個人戦2名が県からインターハイに出場できる。


 最初は団体戦だった。


 俺達の試合は、順調に勝ち進む。俺は1年だったが団体戦、個人戦共に出場選手に選ばれた。先輩方の足は引っ張れないというプレッシャーがのしかかる。

 地区大会とはいえ、流石に歯ごたえがある。今年屈指の難関と言われるだけはある。


 --順調に勝ち進む。とりあえず県大会までは出場可能な順位をキープした。


 --が。



「--一本っ!」


 主審が相手に一本を宣言。試合場は大盛り上がりを見せる。

 その歓声の中で、俺は面の奥で汗と荒い息を漏らしていた。


 団体戦決勝--相手は屈指の強豪、その中でも四天王と謳われる猛者だった。

 死ノ森蒼紫--全国最強の呼び声も高い男…このレベルで先鋒…信じられない。


「……ふん、いくら先鋒とは言え、一年坊とは舐められたものだ」


 あっさり先取点を決めた死ノ森は余裕そうに吐き捨てた。


 ……つ、強い。やはり伊達ではない、この強さ……

 小手の中で汗ばむ手で竹刀をしっかり握る。視線の先、奴の二刀流がゆらゆら俺を幻惑するように揺れている。


 ……高校で二刀流ってありだっけ?


 なんて言ってる場合ではないっ!次一本取られたら終わるっ!!


 勢いよく迫る死ノ森。滑るように踏み込んでくる巨体から繰り出された二刀流が回りながら複雑な軌道を描く。面を付けることで狭まった視界の死角を突く剣術だっ!


「喰らえっ!回天剣舞六連!!」

「くっ!?」


 見えないっ!!ほぼ勘で面への攻撃を止める。

 そのまま弾き流れる動作で攻めに転じる。奴の胴目掛け竹刀を薙ぐが、あっさりと止められた。二刀流相手だと手数が違う。


 容赦なく降り注ぐ攻めに防戦一方だ、何とかしなければ……っ!


「ふははっ!どうした!歯ごたえがないぞっ!」


 まるで竹刀がいくつにも増えたようだ。視覚的にも体感的にも……攻めの手が止まらないっ!


「……っ!」


 俺は賭けに出る。


 頭を低く突っ込むように奴の間合いに飛び込んだ。この時点で被弾すれば勝負が終わる可能性すらある。

 しかし、やつは独特な太刀筋で竹刀を振る。前に出れば無類の強さだが、相手から突っ込まれ懐に入られると懐が甘くなる。


 ……はずっ!


 一気に飛び込んだ俺の頭上を竹刀が通過していく。頭を低くしたことにより被弾を免れた…


「胴っ!」


 俺の竹刀が奴の胴を叩く。痺れるような感触が手首まで伝わった。


「胴打ち!一本!!」


 会場が湧く。反撃を許した死ノ森は苦々しい表情だ。


 ふと相手側の陣営を見る。部員や顧問に混じり、よく見知った姿の少女が居た。


 ……千夜……


 祈るように手を顔の前で合わせている。その祈りが誰に向けられているのか……

 いや……誰に向けられていようとっ!


「このガキっ!!」

「はぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!」


 *******************


「……そう落ち込むな。あの死ノ森相手に食い下がったんだ、立派なもんだ」「よくやったな、佐伯」


 先輩達の激励を受けながら俺は会場から離れていた。

 団体戦の結果としては惨敗だった。

 俺は先鋒死ノ森に二対一で負け、中堅の副部長も相手の部長に負けた。

 しかし俺の肩が落ちているのは…大将戦。


「……あれが、彼岸三途……」


 俺は全中であいつを下している…はずだ。そのはずなのだ。正直、覚えていない。その程度の相手だった。


 --あの時は。


 竹刀で叩かれた人間が、あんなに吹き飛ぶとは初めて知った。振る者が振れば竹刀とは人を殺傷しうるのだ。

 大将戦、うちの部長は試合後そのまま救急車で運ばれた…危険な状態らしい。


 ……化け物だ。

 俺は……勝てるのか?


 --チリンッ


 鼓膜をノックする軽やかな鈴の音--この音はっ!聞き間違えようもない!いつもの俺の心に爽やかな風を運んでくれる--


「……達也?」

「千夜…っ」


 廊下に座り込む俺を千夜が見下ろしていた。

 あぁ…千夜の制服姿…これがヴィーナスか。初めて見た。

 見蕩れる俺の隣にタオルを抱えた千夜が座り込む。近い。最近お互い部活で中々会えなかったからこの距離感は刺激が強い!!


「なにしてんのこんなとこで…もうすぐ個人戦だよ?あ!もしかして団体戦で負けたの引きづってる!?」


 ……っ!痛いところを容赦なく…っ!

 そうさ…俺はカッコ悪いところを見せちまった!


「……達也?震えてるよ?」

「……え?」


 千夜の手が膝に置かれた手と重なる。触れられて気づく。俺の手は無意識のうちに小刻みに震えていた。

 指先が痺れるみたいに寒い…こんな感覚は初めてだ…

 まさか……ビビってんのか?俺が!?


「ばっ…震えてねーよ……」


 咄嗟に誤魔化すように千夜の手を振り払った。手を払われた千夜は「あっ」と寂しそうな声を漏らす。

 俺は……情けねぇっ!みっともないところをまだ見せるのか……


「……達也、怖いの?」

「……なに、言ってんだ…」

「正直に言いなよ」

「怖くねーよ。今更剣道の試合でビビるわけ--」

「彼岸君?」

「……っ!」


 どうしたんだ今日の千夜は…こんなにも俺の心を揺さぶって……

 くそっ!奴の眼光がチラつく!!このままじゃ--


 その時、千夜の手がまた俺の手に触れた。今度は重ねるようにではなく、逃がさないように包み込む。

 じんじんと冷えた指先に千夜の体温が染み込んでいく……


「……達也。怖くたっていい。私が応援するから……私がついてる」

「……千夜」

「たまには弱音、吐きなよ。達也。私にはさ、弱いとこ見せてもいいじゃん。私達、ずっと昔からの仲なんだから……」


 千夜……


「頑張って。どんな結果になったって、達也はかっこいいから…私にかっこいいとこ見せてよ」

「……っ!」


 え……それって……千夜……まさか…

 まさかっ!

 千夜の顔が赤く……これは…そういう流れだよな?な!?

 何をしている佐伯達也!女に恥をかかせるな!!


「千夜っ!!」

「っ!?」

「必ず勝つ!!この勝利を君に--だから--」

「佐伯クーン」


 最高の空気に、ヒートアップした空間に南極の突風のような冷気が流れ込む。その空気は容易く場に亀裂を入れ粉砕した。

 俺達の視線の先で、こちらに手を振ってパタパタと駆け寄ってくる世にも美しい美少女が一人--


 突然現れたノアが俺の前にしゃがんで笑う。可愛い。


「試合応援ニ来タヨ。団体戦カッコヨカッタヨ、次モ頑張ッテネ!応援シテルカラ!」


 ……っ。

 握られてた体温がすっと離れた。途端に氷に包まれたような寒気が襲う。

 見ると千夜がくるっとこちらに背を向けていた。


「そっか……まぁ…達也も高校生だもんねー……」

「いやっ!待ってくれっ!!違うんだっ!!おいっ!!」


 俺の弁明など聞こえてない様子で、千夜は会場の方へ逃げるように走っていってしまった。


「……?アレ?ナンカオ邪魔シチャッタ?」


 *******************


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」

「……っ!なんだこいつっ!さっきまでとまるで別人っ!!」


 四天王?だからなんだっ!!消えろ雑魚がっ!!


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「一本っ!!それまでっ!!」


 団体戦で俺を下した死ノ森を初め、各校の猛者達を次々倒していく。

 しかし疲れは感じない。さっきまでの恐怖も……

 人は何かを捨てることで、信じられない程の力を手にすることができる。それが大きなものであればあるほど--


「スゴイッ!佐伯クーンッ!!」


 応援席から黄色い声援、相手陣営から冷たい視線。

 満たされない--俺の心は、勝利の余韻も女子からの声援も……全て零れていく。


「うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「おおっ!勝利の雄叫びか!?」「今年の1年は気合いが入っとるなっ!」


 --足りないのだっ!

 雑魚では足りない--俺を……俺を満たしてくれるのは最早--

 失われた愛すべき女の心か、真の強者の血肉のみっ!!



「個人試合決勝っ!!佐伯達也、彼岸三途っ!!」


 *******************


 こんにちは、橋本圭介です。

 今日は休日なんだけど、高校剣道の試合を見に来ています。

 何故かって?宇佐川さんから呼び出されたから。


 体育館の上の席で僕らは試合を見届ける。たった今来たばかりだけど、もう決勝を残すのみだ。


「間に合った…お前が支度遅いから…」

「ごめん…でも宇佐川さん、どうして剣道の応援なんて……」

「弟子の試合だから」

「で、弟子?」


 宇佐川さん、剣道もやってるのか…知らなかった。


 決勝はうちの高校の1年と宇佐川さんの高校の1年の試合だ。1年なのにすごいな…


 審判の声に応じて両者前に出て蹲踞。

 ……なんか2人から赤黒い蒸気のようなものが……


「…宇佐川さん、なんか出てない?2人の輪郭が歪んで見えるよ」

「抑えきれない闘気がオーラとなって溢れ出てる。これはどちらも無事では済まなさそうだね」

「何を言ってるんだい?」


「--はじめっ!!」


 開始の合図、両者竹刀を構えその場に静止する。場内に異様な緊張感を纏った静寂が充満していく。

 体育館の窓が揺れてカタカタ言ってる。いや、窓だけじゃなくて、体育館全体が小刻みに振動してる。あと、場内が暑い。


「なんか揺れてない?地震?」

「2人の闘気がぶつかって大気が震えてる…」

「ごめん全然分からないよ」

「……達也のやつ、覚醒している。何があった?」

「そうなんだ、覚醒してるんだ」

「思ったより静かな立ち上がりだけど…目を離すな、一瞬だよ」

「あ、はい……」


 闘気で大気が震えてるらしいです。僕の異様な鳥肌もきっと闘気のせいです。ありがとうございます。


 宇佐川の言った通り、両者は静かに互いを睨んだままピクリとも動かなかった。けど、その時は一瞬だった。


 どちらから、どう動いたのか。僕の目には分からなかった。


 --ドンッ!!!!!!


「うわぁぁっ!?」「きゃあっ!!」「ひっ!」「わああああああっ!!」


 ものすごい爆発音と悲鳴が重なり場内を包む。飛んできた衝撃波に打たれた僕の体が後ろに転がった。

 試合場では謎の粉塵が舞い上がり何も見えない。爆弾でも爆発した?


「一本!彼岸!!」


 なんにも見えない中で主審が彼岸少年の先制点を宣言。場内、事態に着いていけず困惑。僕も困惑。


「なんだ、見えなかった?」

「え?宇佐川さんには見えたの?」

「すれ違いざまの攻防…しかしあの彼岸という男。噂通り…いやそれ以上。達也の打ち込みを鍔で弾きつつ、正確な突きを喉に打ち込んでみせた……」

「うん…すごいね宇佐川さん」


 ちょっとよく分からない解説を聞いてたらまたしても鼓膜を破裂させるような爆音とソニックブーム!!油断してた。

 再び目を回してぶっ倒れた先で見るのは、煌めく竹刀の太刀筋。

 数十、数百の竹刀の軌道が爆音と共に打ち合い、その都度場内に衝撃波を飛ばす。最早目で追えない…


 とにかくすごい試合だ。


 審判席とか、写真撮ってる人とかが吹っ飛んでいく。気合いでその場に留まる主審と、宇佐川さんのみがまともにこの戦いを見届けていた。

 体育館がミシミシいいだした。天井の照明がガタガタ震え一つ下に落ちてきた。それくらい激しいです。ちょっと何言ってるのか分からないけどとにかく体育館がぶっ壊れそうな程の試合です。


「一本!佐伯!!」


 一際激しい音共に2人が止まり、主審が旗をあげる。どうやら今度は佐伯という子が一本取ったらしい。もう分からん。


「はじめっ!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 *******************


 --つ、強いっ!!

 今のはまぐれだ!たまたま竹刀が当たっただけ…しかし審判は気合いの乗った一太刀と判定した。ともかくこれで一対一…


 気合いの声とともに彼岸が突っ込んでくる。迷いない一撃を躱し打ち込むが、見事なスウェーバックで躱される。

 体の戻りと同時に不安定な体勢から放たれる強烈な打ち込み。なんとか竹刀で受け止めるが体が吹っ飛ばされた。


 容赦なく続く攻め……防戦一方。気を抜けばその隙は確実に俺の首を断つだろう…


 猫のような身軽さと反射神経…手数の多さに加え一撃の重さ……

 全てが俺の上を行っている……


「おぉぉぉぉっ!!」「うらぁぁぁっ!!」


 俺達の竹刀がぶつかり空気の壁が弾ける。衝撃で俺らの面が弾け飛び、主審や周りの者や人もまとめて吹き飛んだ。その衝撃波は場内全体に及び、全ての窓ガラスが一斉に割れ光の雨が降り注ぐ。


 面の外れた向こうの彼岸の顔は、敵意と闘気を剥き出しに、爛々と瞳を輝かせていた。獣の目だ。赤い目から闘気が溢れている。


 至近距離での鍔迫り合いが続く。手に伝わってくる力強さに、「負けてたまるか」という気合いが乗っている。


「……お前とはもっと大きな舞台で戦いたかった」

「……」


 心からの賛辞だった。


 静かだ……さっきまで聞こえていた声援も、感じていた千夜の視線も感じない。みんな、逃げたのだろうか……?


 いや--違う。

 俺自身が断ち切っている。こいつ以外の全てを……

 俺は一つ千夜に偽りを口にした。千夜に勝利を捧げると言ったが、それは誤りだ。

 これ程の男はそう居ない…いや、恐らくこいつ以外には出会えない。

 この勝負は誰の為でもない……俺の為!!


 突き放す鍔がぶつかり合い火花が散った。彼岸が目を見開き俺を見る。

 そうだ!俺を見ろ!!視界の端に千夜が見えたが、見ない。見えない。

 この時--この瞬間、この宇宙には俺達2人……


 彼岸が笑った。

 おいおい……なんて面だい。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 渾身の力を込めた--

 俺は今限界を超えたと確信していた。今なら勝てると……

 正直に言おう……俺は奴に負けていた。今は様々な要因が重なったことと運が良かったことが俺をここまで互角に闘わせていた。

 しかしそういう要素が重なったことで、俺は今奴に勝ちうる条件を揃えていた。


 精神力が起爆剤となりブーストがかかる。体が限界を超え全身が炎を纏った。今ならば体格で勝る俺にパワーで分がある!!

 燃える竹刀を全力で振り下ろす。文句なしのスピード、タイミング、角度--


 受けて立つ彼岸の体が超低空を滑る!!空気と体の摩擦で青い炎が発火し、幽鬼と化した彼岸もまた、人を超える--


「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」


 上と下、同時に放たれた刃が交差したその時、閃光と共に世界が爆ぜた。


 --音が消える。全て……


 --ドォォォォォォォォォンッ!!


 ……

 …………

 ……………………



「……っ一本!彼岸!!それまでっ!!」


 *******************


 半壊した体育館で閉会式が執り行われた。

 結果団体戦、個人戦共に2位--俺のインターハイは終わった。


 救急車や消防のサイレンを聞きながら闘いの余韻に浸る。視界に映る試合会場の惨状は、俺が本気でぶつかった証拠だ。


 ……全力で挑み、そして勝てなかった。


「……負けたのか、俺は……」

「ガールフレンドの前でカッコ悪いね」


 後ろから俺を嘲笑する声に俺は思わず振り向いていた。そこには、なんだか複雑な笑みを浮かべた千夜が居た。


「……千夜」

「あの子は?もう帰っちゃったのかな?」

「……」


 馬鹿にしに来たのだろうか……

 いや、甘んじて受け入れるべきだろうな。勝負は結果が全て--


 頭を下げる俺に抱え込むように腕を回した千夜が俺を抱きしめたまま耳元で囁いた。


「よく頑張った」

「……っ」

「カッコよかったぞ」


 冗談めかした口調で、しかし熱を帯びた声音で俺にとって最大の賛辞を送る千夜は、その顔を決して見られないようにか俺の頭をしっかり抱いたまま、最高にカッコ悪い俺に最高の励ましをくれた。


 …………俺は。

 俺は……自分の為に闘った。声援も後押しもかなぐり捨てて……自分だけの力でここまで来たような気になって……

 負けて……当然だ。

 俺は、何のために闘うのかを、見失っていたんだから--


「……来年はっ…必ず…勝つ!!」

「……え?達也、泣いてるの?」

「だから--」


 見ててくれ……俺の隣でっ!!


「佐伯クーーーン!!」


 そう伝えようとした俺の震える声はまたしても風鈴のような涼やかな声に遮断された。


「試合スゴカッタ!負ケチャッタケドカッコヨカッタヨ!!」


 --場の空気が再び凍りついたのは、言うまでもない。

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