フリガナふってもらっていい?
--4月、新学期……そして、出会いの季節。
春の日差しを浴びる桜の木が枝いっぱいに花弁を咲かせて、暖かな春の風が花の香りを届ける。どこまでも続いていくような桜並木を俺は行く……
しかし、その隣に千夜は居ない……
袖を通すはずだった白いブレザー…しかし、俺の身を包むのは黒の学ラン……
新高校1年生、佐伯達也……
愛する幼馴染、本田千夜と別の高校に入学……
……まぁいいさ。
別に学校が違うからって会えなくなる訳じゃないし?そもそも!学校は勉強するための所だろ?そんな…恋愛を主軸に捉えた学校生活なんて邪道だ!
いいんだ……そう、これで……
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「なんだアイツ…」「突然泣き出したぞ?キモ……」「見ちゃダメだよー」
--絶対一緒に受かろうね?達也……
「すまない…っ!すまない千夜!!俺が不甲斐ないせいで……っ!千夜!!愛してるぞぉぉぉぉぉっ!!」
「……アイツやべぇ」「同じクラスじゃねーだろうな…」
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「新1年生の皆さん、入学おめでとう。このクラスの担任の血法翔だ」
黒の学ランに花のコサージュが映えている。新しいクラス……新しい仲間達……
早く3年経たねーかな……卒業式まだ?
どれだけ素敵な仲間達に、恩師に囲まれたって、隣に千夜が居ないクラス……学校……そんな場所での青春など……
千夜の居ない空間の空気を吸うのか俺は?3年も?
……今からでも編入試験を受けられるだろうか?
「じゃあ、とりあえず自己紹介からしとくかー。席順に前に来て名前と趣味とか高校生活の抱負とか……よろしく」
……しかしこの若い眼鏡をかけた男性教師、なんだか気の抜けて頼りない感じだ。まぁそんなことも全てどうでもいい……だってここには千夜は居ないんだから……
「……松田十和子。趣味はホエールウォッチング……よろしく」
「……ハジメマシテ…フランス、カラ来マシタ……ノア・アヴリーヌ、デス。趣味ハ八極拳デス……日本語トカイッパイ覚エタイデス。ヨロシクオネガイシマス」
「おっす!オラ沢庵米之助!オラわくわくすっぞ!!」
……なんか、変なやつばっかりだぞ?
前の生徒が自己紹介を終えてとうとう俺の番だ……
いくら自己紹介したってここには千夜は居ないんだ……どうでもいい、全て……
こいつらに俺の何を知ってもらうって言うんだ?愛する人との約束を果たせなかった情けない男ですと?
はは、そりゃいいや……あだ名は…そうだな。甲斐性なし之助だ。お前にぴったりじゃないか。このクソ野郎……
「じゃ、どうぞ」
どうぞじゃない。ああ、なぜあんたのクラスなんかに……泣くな。これ以上恥を晒すな……
「……佐伯達也です。趣味は剣道です。よろしく--」
「アイツ…朝通学路で泣いてた奴?」「うわぁ…変な奴と同じクラスになっちまった……」「オラわくわくすっぞ!!」
………………
「……質問、いいですか?」
こいつは……なんだっけ?ホエールウォッチングの人……質問?なんだ、俺にいくら興味を持ったって俺はお前らのことなんてどうでもいいんだ……やめてくれ。
「朝叫んでた千夜って恋人ですか?」
「……おぉ」「聞くかね普通……」「なかなか度胸あるよあの地味子……」「気があるんじゃね?」「おいおい!!まさか早くもカップル誕生かよ!?」
……やめろ。黙れ。その高校生特有の弄りをやめろ。叩き殺すぞ?
「………………違います」
はぁ〜〜〜〜帰りたい。千夜……
「好きなんですか?」
「愛しています」
「おいおい……」「なんだこいつ……てか誰だよ千夜って……」「なんか顔死んでね?」
「おっす!千夜って子はどのクラスなんだい?ほほーいっ!!」
…………千夜は……千夜は……
「……居ないんだ……もう」
震える声と握る拳……その瞬間クラス内の茶化したざわめきが突如静寂に溶けた。
みな一様に口を閉ざし、重たい沈黙と視線が教壇の上の俺に集まる。
「あいつはもう……俺の隣には……」
「…………」「おいおいマジかよ…」「弄っちゃダメなやつやん…これ……」
「……お悔やみ申し上げます」
ホエールウォッチングの人の一言に「ありがとう」と返すのが精一杯だった。担任もどうしていいか分からないような微妙な表情だ。
湿っぽく重苦しい空気と共に、俺のファーストインプレッションは皆に刻まれたのだった。
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こんにちは!!本田千夜です!!
今日から高校生、お陰様で無事第1志望に合格した、新1年生です!
一緒に受験した達也は別の高校になってしまったけど…アイツ1人で大丈夫かな……?
空が見えないくらいの満開の桜の下を歩くと、まるで桜のトンネルをくぐってるみたいな気持ち。桜が有名なこの街は、春にはどこでもこんな光景が見られるらしくて凄い。
……ただ。
いつも隣に居る達也が居ないのは少し寂しい…かもしれません。
ううん、いつまでも子供みたいなこと言ってられない。アイツに笑われるから……
頭で鳴る鈴の音を聞きながら1人学校への桜並木を走る…これからどんな学校生活が待ってるのか--
--ドンッ!!
突然目の前に壁が……と思ったら人の背中か。前方不注意でぶつかりました……
「あらヤダ大丈夫?ごめんね?」
「いえこちらこそ……すみま--」
……?
手を差し伸べてくれるその人のご好意に甘えて起こしてもらう。その先に居たのは日焼けした肌の大きな男子生徒。
「入学おめでとう♡うふっ、嬉しいわぁ可愛い子が来てくれて……アタシ、野球部の剛田よ。よろしくね?」
「…………」
「野球部マネージャー募集してるから、良かったら考えてみて?さ、コサージュよ。そこの掲示板で自分のクラス探してね?入学式までにおトイレ済ませておくのよ?」
「………………」
「うふ♡」
えっと……今のはなんですか?
--入試の時から思ってたけど、この学校なんか変です。
優しいオカマさんの案内で掲示板から所属クラスを探して教室へ……
私は普通科1年1組です。
目的のクラスを見つけて教室に入ると既に新入生が入学式に備えて座ってました。みな初めて見る顔ばかりで緊張します。
黒板に描かれた自分の席に腰を降ろすと途端に教室が狭く見えます。同時にここでこれから3年間過ごすって思ったらなんだか不思議な……
チリンッ
なんて興奮と期待に胸を膨らませてたら足下に何か落ちてきた。
視線を落とした先に銀色に光る小さな物が……よく見たら自転車の鍵。
私の席のすぐ横を通った女の子が落としました。その人、私の真後ろの席に座っ--
鍵を拾って振り返ったらその人、机と椅子を一心不乱に拭いてます。もう全力で。ついでに椅子の下の床まで徹底的に除菌タオルで……
というかこの人……入試の時に隣だった金髪ギャルです。
私の拾った消しゴムぶん投げた人……
手の中の鍵とギャルを交互に見つめます。しかし、拾ったからには返さないと……
「あの……」
「……」
アイシャドウバッチリの目元はこちらを見つめただけで睨んでるみたいに見えて怖いです。
「自転車の鍵落としましたよ?」
「……」
「……ここ、置いときます--」
「やめて」
「えっ?」
「今綺麗にしたんだから、やめて」
「…………ごめんなさい。えっとじゃあ手に……」
「やめて。汚い」
……汚いって床に落ちたからだよね?私が触ったからじゃないよね?私の触れたものに触るのは手袋越しでも嫌とかじゃないよね?
どうしたらいいか分からなくて困ってたらギャルが机にタッパーを置いた。『汚物入れ』って書いてある。
「……」
「ん」
あぁ……入れろってこと?
なんだか悲しい気分になりながらタッパーに鍵を入れ……
--シュシュシュシュッ!!
すごい勢いで消毒用アルコールを吹きかけてる!!びしょびしょになるレベルで吹きかけてる!!
……多分、潔癖症なんでしょう。私、汚くないもん……
「………………やっぱ触りたくないわ」
「えぇぇ!?」
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『--在校生挨拶、普通科3年、潮田紬』
……なんか変な学校だなって印象でしたけど、入学式自体は厳格とした雰囲気の中進行していきます。
校長先生に呼ばれてステージ上に女生徒が上がります。眼鏡をかけた理知的な雰囲気の女生徒です。
『…冬の寒さも過ぎ去り桜の色づく季節になりました。新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。在校生を代表して、心よりお祝い申し上げます。
皆さんにはこれから3年間、勉学、部活動に……?』
……?
どうしたんでしょうか?急に言葉に詰まりました。
壇上で固まっている代表生徒にステージ袖から男子生徒がしゃがんで近寄ります。
何やら耳打ちしてからまたそそくさと退散しました。なんですか?今の。
『……勉学、部活動に“励んで”下さい。初めのうちは、慣れないこと、初めてのことばかりで不安もあるかもしれませんが、まず、何より何事も楽しんでくれればいいと思います。勉学も……?…ぎょう……こと……?』
……?
またさっきの男子がやって来ました。
『……あぁ、なるほど…………勉学も“行事”も部活動も楽しんで…………?こう…かい…………?』
また男子生徒が来ました。
『……“校則”を守りつつ…………?これは?なんて読むの?』
コソコソと隣の男子生徒に尋ねてますがマイクがバッチリ拾ってます。
「学校!これは読めるでしょ紬さん!なんで段々知能低下してきてんの!?」
『……“学校”……?』
「生活!」
『……“生活”を…………?』
「実りある!」
『“実り”ある…校長先生の禿げに関しては絶対に話題に--』
「違う、行間違えてるから!てかそこはスラスラ読めるんかい!!」
………………やっぱり変です!!この学校!!絶っっ対おかしいです!!




