恐怖の心霊特番!!〜あなたの恐怖体験、聞かせて下さい〜
今日な?病院行ってきてん。ペットのゴキブリの……
そしたらな?「普通のゴキブリは冬は休眠期間に入るけどこの子らは元気だね」って言われてん。せやな思て…そもそもなんで12月にゴキブリが出てきたんやろかって考えたんやけどウチの家があったかいからなんやろか思て……
気づいたんよ……
ウチの生活が厳しいんは光熱費のせいやなって……無意識に床暖房とかエアコンとかガンガン使っとったねん。
ウチ寒がりやったんよ……
家賃は親持ちやけど、いい家っちゅうんは住んどるだけで金かかるなぁ……
ちゅうわけで今日から節約することにした。
最近飼い始めたクロゴキブリ2匹が凍えんようにリビングだけ暖房つけて、他は全部ストップや。おかげで冬休み初日から寝室で凍え死ぬところやった……
すっかり懐も気温も寒くなってしもて、どないしよかなんて考えながら何となくテレビをつける。なんか面白い番組やってへんやろか…?
「てかテレビつけたん久しぶりやな…スマホ通信制限で死んだし……うちにもWi-Fi欲しいわぁ……あ?」
『--恐怖の心霊特番!!〜あなたの恐怖体験、聞かせて下さい〜』
ジャジャーンッてBGMと一緒にそんな古臭いタイトルコールが躍り出た。
「は?12月に?夏やれや、こっちは寒いっちゅうとんねん……クリスマスやぞ今日」
なんかムカつくからチャンネル変えよ思ったけど、好きなタレントが出とったけんそのまま観ることにした。
どーやら視聴者から募った心霊体験をVTRで再現しながら紹介する言う、よーある心霊番組みたいや。
どーせやることないし思てぼーっとテレビ画面を眺めとった……
出演者達のリアクションを交えつつ、CMも交えつつ、次々に心霊体験が紹介されていく。なんかどれも似たような内容でかつホンマかいな?って思うもんばっかやったけど……
まぁウチは幽霊信じとるけど…てか幽霊が友達やけど、肛門に取り憑いたことあるけど、あの花子を知ってるだけにVTRでおどろおどろしく体験者に迫るいかにもな幽霊はどーもピンと来ん。
尻かきながらせんべいかじってつまらなぁとか思いながら観とったら……
『--続いての恐怖体験は、九州地方在住の『アイドルプロデューサーくーちゃん(16)』さんからの投稿です』
「アイドルプロデューサーやて、枕営業させた担当アイドルが化けて出たんかな?」
ナレーションの声に合わせて再現VTRが始まった。まず映し出されたのは病院の廊下やった。
また病院かい、なんて思っとったウチにナレーションが語りかけたのは……
『ことの始まりは数日前、私は知り合いの女性に頼まれて彼女の友人に付きまとうタロヒコなるストーカーを追い払うことになりました……』
………………ん?
知り合いに頼まれて友達のストーカーを追い払う?
『紆余曲折を経て引き受けた私はそのストーカーを逆にストーカーし、付きまといを辞めさせることに成功したのですが……』
ストーカーをストーカーした?
『そのストーカーのストーカーをしてる最中、私はストーカーをストーカーするのに夢中でトラックにはねられてしまったんです』
………………………………
低い声で淡々とギャグとしか思えん滅茶苦茶な経緯を話すナレーション。しかし、そんなツッコミどころしかない経緯を作り話だろと笑い飛ばすには、ウチには心当たりがあり過ぎた……
--学校にも来とらんかった……
「……このストーカーのストーカーって……」
九州地方在住のくーちゃん……
くーちゃん=空閑……?
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--幸い一命は取り留めた私はそのまま病院に運ばれて入院することになったんですよ。
「……全治3ヶ月だね」
「3ヶ月……」
「骨、バッキバキにイッちゃったねぇ」
ヘラヘラ笑いながら説明するじじいの医者に、なんかイラッとしたのを、今でもよく記憶しています。
「あの…ドライバー側から慰謝料貰えますよね?あと治療費も……」
「いや私に訊かれてもねぇ…?そもそも君が飛び出したんだろ?」
医者はそんなことを言って笑ってました。ムカつきました。でも彼の言うことも一理あります。
私はこの件は水に流す旨を、見舞いにやって来たドライバーと彼の働く会社の係の人間に伝えたら逆に損害賠償を請求されました。
どゆこと?ってなりましたねぇ……
事故は飛び出した私のせいで、トラック弁償しろってことでした。この場をお借りして皆さんにお尋ねしたいんですが、これって裁判して勝てますかね?
……思えば、この頃から、徐々に不吉なものが私に忍び寄って来てたんでしょうか。私はその予兆に気づくことが出来ませんでした……
あれは入院から2日くらい経った頃でしょうか?
その日も私の病室にいつもの様に看護婦さんが昼食を運んできたんですよね……入院してから結構看護婦さんと喋ったりするんですけど、仲良くなった看護婦さんからこんな話を聞いたんです。
「この病院……出るんですって」
「なにが?ウ〇コ?」
「ウ〇コはどこでも出るでしょ…?じゃなくて、幽霊。患者さんもナースも見たことある人いっぱい居るんですよ?」
なんでそんな怖くなることを入院中の患者に言うんだろって思いましたね。自分の勤め先の悪評広めるなんてどうかしてます。
「どんな奴が出るんです?」
「色々なラインナップを取り揃えてますよー。子供だったり、おじいちゃんだったり……でも1番多いのは女性の霊ですね」
「ほぅ」
「ちょうどこの入院棟のこの階なんですけどね?夜中にナースコールがすごい患者さんが居たんですよ。毎晩毎晩……で、呼びつけたナースに言うんですよね。「ここに立ってる女を何とかしてくれ」って……」
「へぇ……」
「おじいちゃんの患者さんでー、ボケてんのかなーって思ってたんですけど…その人1週間後に突然……」
「うわぁ」
「死ぬまで毎晩言ってたんですよ?女が女がって……」
「怖いですねぇ」
「噂じゃここの看護婦長で、医局長の不倫相手だったんだけど、不倫がバレて捨てられて、しかも慰謝料請求されて自殺しちゃったんですって。それで毎晩この病院に化けて出るようになったって……」
「死後も職場に留まるなんて仕事熱心ですね」
「婦長ですから」
その人の仕事人魂を見習いたいと思いました。それにしても私の入院した病院の医局長はとんでもないクソ野郎のようです。名前は伏せますが、○○町にある大きい病院です。その町の唯一の病院です。
さてそんなことはどうでもいいとして……嫌な話を聞いてしまったなって思った私はその日の晩も消灯時間に眠りに着こうと暗い病室で目を閉じたんですね。
私の病室は個室で部屋には私1人しか居なかったんですけど、その日の晩はなんだか人の気配を感じるような気がして、妙に気持ち悪かったのを覚えてます。
あれは…消灯時間を過ぎて1時間くらい経った頃でしょうか。
その日は謎の気配のせいもあってなかなか寝付けなくて……ずっっと天井を見つめてたのを覚えてます。
ずっと一点を見つめて眠くなるのを待ってたんですけど、ふとした時に気づいたんですよ。
あ、体が動かないって。
大事なとこが痒くなったんでね、かこうと思ったんです。でもね、動かないんですよ、全身。まるで石にでもなったみたいにカチカチでした。
でも息苦しいとかはなかったですね。あと、声も出せました。
まぁあとは謎の不安感というか、胸騒ぎというか……なんかこう…胸の内をかきむしられるような……落ち着かない感じで……
あれが怖いってことなんでしょうね。
リアルな恐怖感を味わって、怖くなったんでアルプスの少女ハイジの「教えて」歌ってたんですよ。
「くちぶえはなぜ〜とおくまできこえるの〜あのくもはなぜ〜わ〜た〜しをまってるの♪」
その時ですよ。
忘れもしない。あの時の衝撃は……
私が天井を見上げて歌ってた時、私の視界に割り込んできたんですよ。
上から私を見下ろす顔が。
よく覚えてます。
暗闇にぼんやりと白い顔が浮かんでました。歳は…20代後半くらいに見えました。黒目のない死んだ魚みたいな目をした女性でした。髪の長い……
「おしえて〜おじい〜さん」
出たっ!って思いました。
あれが看護婦の言ってた婦長の幽霊に違いないって……
彼女を見た患者さんは1週間で亡くなって、そんな話聞いたあとなもんですから、もうビビりまくりでしたね。アソコも小さくなっちゃって……
でも歌ってたんですよ。怖いから。
そしたらですよ。
しばらくじっとこちらを覗き込んでた幽霊の顔が動いたんですよね。
多分ベッドの横に立って身を乗り出して上から覗き込んでたんだと思うんですけど、なんとその婦長さん、ベッドの上に乗ってきたんですよ。
今までは顔しか見えなかったんですよ。金縛りで動けなかったから。
でも婦長さんは私の枕元に立ったんですよね。
「ゆきのやまなぜ〜ばらいろにそまるの」
それまでは見えなかった全身を私は下から見上げることになったんです。
あれはね、幽霊を初めて見た時以上の衝撃でした。
想像してください。
若い看護婦がナース服姿で、自分の枕元に立ってるシチュエーションを……
膨らんだおっぱいから太もも、パンツまで丸見えですよ。
やっぱりあれですね……女性は下から見るか?横から見るか?私は下からですね。
全部見えますからね?
もうガッチガチです。
入院生活っていうのは禁欲生活みたいなものですから、ええ。
金縛りで全身ガチガチでしたけど、アソコは比較にならないくらいガチガチでしたね。お恥ずかしい。
「……………………」
もう歌うの止めましたもん。歌ってる場合じゃないですから。
幽霊はじっとこっちを見てましたね。何をするでもなく。ただじっと。私も見てましたね。絶景でした。パンツは結構派手なの履いてましたね。医局長はスケスケおパンツが好きみたいです。すんごい破壊力でした。
どれくらいそうしてたでしょうか……
幽霊さんはずっと私を見てるんですよ。瞬きすらせず。熱い視線を向けてきてるんです。
なんで思いましたもん。「あ、これイけるな」って。
「……お名前、訊いてもいいですか?」
訊きました。
『………………マリコ』
答えました。
「あー、マリコさん……いいお名前……あの、いい太ももしてますね」
いやちょっと空気重かったんで、場を和ませようかなって…だってパンツ見せて来てるんですよね?多少下ネタかましてもOKでしょ?
『……………………………………』
「胸も……デカいですね」
『……………………………………』
「立ったままで疲れません?座ってもらって大丈夫ですよ?あ、顔の上で大丈夫です」
『………………………………………』
その時ですよ。
私の右手がピクリと動いた気がしたんですよね。気の所為じゃなくて、動いんです。体の強ばりがスっと解けた気がしました。
私はその人のスカートの中ガン見でしたよ。多分顔も動かせましたけど、ねぇ?
目の前に生パンがあるのに、覗かないのは無礼ですから。
『……あの』
「はい?」
『パンツ見るのやめてもらっていいですか?』
「いや動けないから」
『いや動けるはずですよ。ていうか初対面で太ももがどうとか失礼じゃないですか?こんな非常識な人初めてです』
驚きましたよ。幽霊に説教されたんですから。
流石に傷つきましたよ。でもね?相手は幽霊ですよ。こう言っちゃなんですが、何したってノープロブレムです。
だって幽霊だもの。
つまりこれは私を襲いに来た幽霊から身を守る為の抵抗なんですね…はい。
ゴミを見るような目で私を見下ろしてくる幽霊さんに何となく手を伸ばしたんです。
彼女の反応に身の危険を感じたからか、幽霊って触れるのかなっていう無邪気な好奇心……色々な考えがありました。
でもね、目の前に太ももがあるのに触らないのは無礼ですから。結局それに尽きます。
太もも、触れました。柔らかかったですね。20代のハリでした。
その上は流石にまだかな〜って感じだったんで遠慮しました。そこはもっと仲良くなってからだなって。
『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?』
その時ですよ、彼女が悲鳴をあげたのは。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
私も叫びましたよ。幽霊が突然悲鳴をあげたんですから、そりゃ悲鳴のひとつも出ますよ。
『何するんですか変態!!サイテーっ!!』
何されたか分かんなかったですもん。頬が……バチーンって……
叩かれました。今も残ってますよ紅葉マークが。あれが霊障って言うんですかね……
『ふざけないでください!!許しませんから!!ケーサツ行きます!!覚悟してください!!』
「……??????????」
その後直ぐに廊下から慌ただしい足音が聞こえてきて、部屋の扉が開いたんですよ。
そしたら看護婦さん達が慌てて入ってきて尋ねるんですね。「さっきの悲鳴何?」って。
でも、もうあの幽霊は居なくなってたんですよ……
それから何日か経ってます。けどあれから一度も彼女は現れません。
でも今思ったらいくら幽霊相手でも流石にやりすぎって……後悔ですね。もっと慎重にことを運んでたら、もしかしたら…ねぇ?
パンツ見せてくれたんだから、脈はあったと思います。ええ。
今は彼女が今日にでも警察連れて来ないだろうかって、毎日震える夜を過ごしてますよ--




