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やらなければ、夢は夢のまま…

 --もうすぐ二学期も終わり。体育祭も文化祭も終わって後に残ったのは期末考査に生徒総会……つまらないイベントばかりだ。

 3年生にとってはまさに受験真っ只中というこの時期……


 俺は東京に居た。

 そう、約束を果たす為……一人の男の散りざまを見る為……


「……東京か、始めてきた」


 場所は東京駅……これ駅かという広さで迷子になり早速東京1日目を遭難で潰し、2日目。

 俺、空閑睦月と小倉先輩を出迎えたのは1日ぶりの、そして日本の中心の太陽。


「ふぅ……カロリーが足りんでござるよ……なにか食べねば……」

「あ?これからオーディションだってのにこれ以上体脂肪増やしてどーすんの?」

「このままじゃまともなパフォーマンスできんでござる」


 俺達は東京に居る。

 小倉先輩が今日、アイドルオーディションを受ける。


 *******************


 --小倉先輩とは。

 身長161センチ、体重388キロ。体脂肪率90.0%。

 薄い頭髪にベタベタした肌はニキビで赤く、冴えない眼鏡はなぜか常に湿気てる。

 このリアルぬっぺふほふみたいな奴は俺の所属する旧アイドル研究同好会--現、現代カルチャー研究同好会の3年生。


 身の程知らずにも女子にチヤホヤされたいという理由だけでアイドルを目指す大馬鹿野郎なのだが、そんな奴が最近一世一代の決断を下した。

 それは卒業間近というこの大事な時期にアイドルオーディションを受けるという、親を泣かせまくって体内の水分を出し尽くさせるレベルの奔放かつ無謀な挑戦だった。


 彼は横綱への夢を捨てたのだ。


 それをなぜか俺に相談してきくさりやがったので、俺はある条件と引き換えにその決断を認めることになる。


 それは先の文化祭での軽音部のライブで客を満足させること。

 豚を筆頭にダンス部+学校一の美少女のバックダンサーユニットを編成。いざやらせてみたらライブは大盛況だった……

 そう、大盛況だったのだ……


 正直客は軽音部の演奏や日比谷を見に来たんだと思うが……小倉先輩がそこで見せたダンスが想像以上だったことは認めざるを得ない。

 奴なりにこの3年間、アイドル見習いとして濃密かつ充実した時間を過ごしたということだろうか……全く成果の見られない橋本も見習ってほしい。

 てか俺はこいつらをあなどってた。

 最初はモテない男子達が傷の舐め合いをしてるだけの同好会だと思ってたが……


 ついにここまで来てしまった……


 約束通り、俺は小倉先輩のアイドルオーディションへの挑戦を認めた。


 加工しまくった写真と経歴詐称もいいとこの書類で無理矢理通した書類審査。

 そして今日、いよいよ実際に事務所でダンスやら歌やらを披露する2次試験……


 ……まぁ結果は分かっているが、それでも約束は約束だ。

 別に見届ける約束などしてはいないが、どうせ暇だし……


 この大事な時期に俺達は学校をサボって東京の地に立つ!


「はぁ…はぁ……ところで空閑氏、東京って広いな……歩いても歩いても目的地に着かぬ……」

「ああ…まだ10歩も歩いてないからな」

「……空閑プロデューサー」


 駅にライフポイントを搾り取られ精魂果てた俺達の足取りは重い。リアルに重たい足音と共に口から垂れ流される重たい小倉先輩の鳴き声に俺は視線を向ける。


「拙者……やれるだろうか……」


 それは抑えきれぬ不安。ここまで押し殺してきたものがいざ現地に着いて噴き出した。


 うん、無理。


 危うく口をついて出かける言葉を慌てて呑み込む。

 正直送ったプロフィールと違いすぎて実物見た瞬間叩き出される可能性すらあるが……


「……ここまで来たら信じろ」


 多くを語る必要はあるまい。自分が1番分かっているはずだ。

 後は自分との戦いなんだから……


 俺は奴の背中に激励と入魂の張り手を……


「うわっ!?なんでこんなに汗かいてんだよ気持ち悪り!?12月だぞ今!」


 *******************


 --ヤッテ・ランネー・プロダクション


 今回色んな芸能事務所のアイドルオーディションに書類を送りまくって唯一書類審査が通った事務所だ。そしてその事務所のあるビルで今日、小倉先輩は激しく散る。


 立派にそびえるビルに早くもたじたじな豚野郎を押し込めて1階の受付へ…


「……あの、オーディションの2次試験に…はぁ…はぁ…」

「……どちらの方が?」


 受付のお姉さんが小倉先輩に困惑しながら俺の方を見た。そうだよな?俺の方がアイドル向きの顔だよな?分かってるねベイビー。


「俺は付き添いです」

「はぁ…はぁ…ふぅ…ぶふぅ……」

「…………」


 気持ちは分かるがその間はいくらなんでも失礼過ぎる。


 受付で案内され俺達はオーディション会場のある3階へ…どうでもいいが東京ともなると3階からの景色ですらもう地元と違う。ビルばっか。


 3階で待機してる案内係に連れられて俺達は廊下の椅子に腰掛ける。そこには他のオーディション参加者達の姿もあった訳だが……


 茶髪でパーマのかかった20代くらいの青年。チャラチャラした見た目がいかにもって感じだが、イケメンだ。

 金髪の巻き毛の優男。通った鼻筋は高くてどうやら外国人の血が入ってる。イケメンだ。

 短く髪を切りそろえた爽やかな印象の青年。ガッチリした体格でスポーツしてそう。イケメンだ。

 etc……


 その中に一人混じる豚……さながらセレブのホームパーティーに放り込まれた海パン刑事、いやそれ以下……


 どすんと椅子をぶっ壊しかねない勢いで腰掛ける小倉先輩を皆が怪訝そうな顔…ていうか不快そうな顔で見つめてた。

 おいおいやめてやれ。可哀想だろ?


 対する小倉先輩は緊張から汗がダラダラだ。まだ始まってもないってのになんてザマ…


「大丈夫かい?暑いのかい?」


 ここで隣に座った金髪巻き毛が声をかけてくる。心配してる様子だがその距離は不自然なほど離れてる。近寄りたくないオーラ全開。


「え?あ…ふぅ……ここ暑いよね?」

「いいや?暑いかい?」


 小倉先輩の返答に対し馬鹿にするように周りに意見を求める金髪巻き毛。周りの参加者達もへらへら笑いながら否定する。

 まぁ確かに暑くはないが……


「肉がつきすぎなんじゃね?」「いいな、雪山で遭難しても安心だ」「ダイエットならここじゃできないぞ?間違えてないか?」


 ………………

 まぁこの反応は予想出来た。場違いにもこんなとこに飛び込んだ彼が誰からも歓迎されないというのは予想通り。

 嘲りと侮蔑の視線と笑い声が小倉先輩を容赦なく襲う。小倉先輩は何も言えずに視線を下げてしまった。


 醜いアヒルの子……問題は本当にただ醜いだけということか。


「いやー、暑いな!」


 嘲笑の波をかき分けて割り込んだ声はその場の全員の視線を集めた。突然楽しい空気に水を差され他の応募者達の不愉快そうな顔がその人物に向かった。

 周りから空気を読めと無言の非難を浴びる中、意にも介さず一人ジャケットをその場で脱ぎ捨てるイケメン……


 身長180はありそうだ……

 くしゃっとセットされた黒髪に彫りの深い顔立ち。立ち姿はスラリと伸びた長い手足が高身長と見事に調和し、細マッチョ的な体格なのが服の上からでも分かる。


 イケメンだ……絵に描いたような……


「暑いよここ、暖房効きすぎだな」


 よく通るハキハキした声が場を支配する。周りの視線に一切怯まずその場でジャケットをかっこよく脱ぎ捨てる彼の姿に他の面々も何も言えずに黙りこくった。


「緊張するよな?汗拭いて」


 ぽかんとする小倉先輩にハンカチを差し出す高身長イケメン。人面豚に笑いかける口から真っ白な歯が覗く。もうこの光景だけでドラマのワンシーンだ。


 イ、イケメンだ……

 こんなイケメンがこの世に存在しようとは……惜しむべくは相手側がただの豚であること。ハンカチを受け取るのが日比谷だったらラブロマンスが始まる絵面だった。


「君、名前は?」

「…お、小倉……」

「俺、早川はやかわ、お互い頑張ろうな?」

「うん……」

「2人とも受かったら一緒にユニット組んだりしてな?」


 いや、それは残酷すぎる。


「その時はセンターは譲らねぇよ?」


 すっかり縮こまる小倉先輩を前にあくまで友好的に爽やかな笑顔を向けてくるイケメン野郎……

 良い奴だ。良い奴すぎてムカついてきた、ぶっ殺していいかな?顔か筋肉か性格どれかにしとけ。なんで1人に集中するんだ。


 緊張からガチガチになりまくりな小倉先輩の横でずっとフレンドリーに接し緊張をほぐそうとする…

 ライバルを前にこの余裕は小倉先輩は敵ではないと認識しているからか?いや敵じゃないだろうけどさ……

 いやそんな感じでもない。こいつ本当に良い奴だ。


 俺が一人悶々としてる間に、突き当たりの部屋の扉が開いて事務所の人間が廊下に顔を出した。


「おまたせしました。オーディションを始めます。順番にどうぞ」


 *******************


 廊下でひたすら待つ……

 オーディションが開始して、緊張しだす者、余裕のまま入室していく者。様々な候補者を見送っていよいよ小倉先輩の番。


「行ってこい」

「しっかり、君の魅力を見せつけてやれ!」


 俺の隣にしれっと並んで激励を飛ばす高身長イケメン。なんだお前。


「…ありがとう早川、俺…行ってくる!!」


 おい、俺は?こいつあっさり鞍替えしやがった。俺が内心応援してないの気づいてやがるのか?


 ドスンドスンとビルを揺らしながら気合いの入った背中を見せ、入室。


「…ところで君は?」


 と、隣の高身長イケメンが問いかけてくる。正直口もききたくないんだが…てかなんでこんなに毛嫌いしてんだ俺は。落ち着け。俺はそんな人間では無いだろ?


「小倉の付き添い。プロデューサーなの」

「プ、プロデューサー…?」

「うん」


 相撲のな?


「はははっ!デビュー前からプロデューサーがついてるのか!それは心強いな!!」


 嫌味のこもってない笑いと共に俺の肩をバシバシ叩いてくる。こいつのパーソナルスペースは随分狭いようだ。


 --ズンッ!!


「!?」「なんだ!?地震!?」「結構揺れたぞ!?」


 --ズンッ!!ズンッ!!ズンッ!!


 ビル全体が揺れだした。地面が割れていくような腹の底に響く音と凄まじい振動。


「…なんだ!?これ地震か!?」

「いや……小倉がダンスでも披露してんだろ」

「え?……いやいや、流石にそこまで……」


 甘いな高身長イケメン。奴はこんなものでは無い。本気で走れば地割れが起こる男だぞ?


 しかし地震はそう長くは続かなかった。振動音で全く聞こえなかったが地鳴りの終了と共に部屋の中から聞こえてきたミュージックも止まった。


 すぐに退室してきた小倉先輩。その時間わずか1分半。今までで最速だ。

 もはや結果を聞かずともこのオーディションの短さが予想させる……

 小倉先輩も察しているのか部屋に入っていく時の腹を決めた覇気はない。できればここに来る前に結果を察してほしかったものだが……


「…どうだった?」


 おいそれを訊くのは俺の役目だイケメン野郎。


「…全部は、出し切れなかったよ」


 お前が全部を出したらビルが倒壊する。


「でも……一生懸命やってきた」


 落ち込んで見えたが、顔をあげた小倉先輩の表情に曇りはなかった。そこにあったのは団子っ鼻と汗だけだ。

 空元気かもしれないが……とりあえず悔いは残さなかったようだな……


「…そうか」

「ありがとう、早川」


 高身長イケメンが小倉先輩の肩を力強く叩く。

 ……てかこれなに?俺要る?


 *******************


 全員のオーディションが終わるのに約2時間を要した。その中でも高身長イケメンのみ、他に比べ試験の時間が長かった。


 全員のオーディションが終了してしばらくしてから係の者が結果を後日連絡する旨を告げて解散となった。


 俺達は廊下を歩く。地面が揺れているのはきっと隣のトドのせい。


「…空閑一等兵」

「なんだよ。あ、てかここアイドル事務所だよな?ウロウロしてたらアイドル会えるかな?」

「俺は精一杯やった…でも、ダメだった」

「何言ってんだまだ結果は出てないだろ?サインもらお」

「いや、分かるんだ……審査員達の俺を見る目で……君の言う通りだった」

「てかなんか飲まね?」

「滑稽だろ?俺みたいなのが……アイドルなんて……何が今までの成果を、だよ。俺、3年間何してたんだろうな……」


 口調もキャラもブレブレだしなに今更正気に戻ってんの?お前。人をここまで付き合わせてうじうじ言うのは勘弁してほしい。


「……滑稽なのは目指すものがあってもなにもしないやつだ」

「空閑一等兵……」

「結果はどうあれお前は夢に挑んだんだ…それだけで3年間無駄ではなかったし、挑んだってことが成果だし財産になる」


 ここで躓いておけば二度と間違いは犯すまい?


「……空閑君。君の口からそんな熱い言葉が出てくるなんて……」

「初めて会った時から俺は熱い男だ。なんか奢れよ」

「熱すぎて汗をかいちゃうよ」

「もうかいてるだろ?奢れって」


 地響きと共に俺達はビルから外に出た。暖房の効いた室内から外気への落差は激しい。温まった体が急速に冷えていく。雪もちらほら降りだした。


「ふぅ…涼しくなってきた」

「お前の体どうなってんの!?」

「ん?空閑一等兵あれ……」


 汗をハンカチで拭きながら指さす小倉先輩の視線の先で、数人の男達が駐車場に入っていくのが見える。

 その面子は間違いなくさっきのオーディションのメンバーだった。そして彼らに囲まれて引っ張られるのはあの高身長イケメンではないか……


 不穏な雰囲気を感じ俺達は駆け足で後を追う。

 遅れて人気のない駐車場に立ち入った俺達の目に衝撃的な光景が映った。


 亀をいじめる浜辺の少年達のように、蹲る高身長イケメンを取り囲んだオーディション参加者達が彼を袋叩きにしていた。


「このペテン野郎!」「死ね!!」「てめぇは最初から胡散臭かったんだよ!!」


 肉を打つ鈍い音が響く。体格のいい高身長イケメンも流石に6人がかりでは分が悪いらしく丸くなって身を守るので必死だ。

 流石に看過できない--そう思った俺より先に飛び出したのは、小倉先輩だった。


「やめろぉぉぉぉっ!!」


 --ベチィンッ!!


「ぐへっ!?」

「あ?」「お前は…っ!」


 小倉先輩の凄まじい張り手が一人の顔面に炸裂。顔を弾かれたチャラ男の体が数メートル吹っ飛んでいく。過剰防衛。

 突然の乱入者に彼らのターゲットが変わる。全員が小倉先輩を取り囲んで威嚇するように拳を握る。

 そのうちの1人が小倉先輩の胸ぐらを掴んだ。


「何すんだてめぇ……殺すぞ?」

「お前らこそ…何してんだよぉ!!」


 --バチィンッ!!


「ぐべっ!?」


 また飛んだ。人が飛ぶ。


「てめぇこらぁっ!!」「ぶっ殺せっ!!」「許さねぇぞこら!!」


 小倉先輩の反撃に連中は顔色を変え、あろうことかポケットからナイフやらメリケンサックやらを取り出して攻撃の構えに移った。

 街のチンピラVS相撲取りにしか見えない構図。チンピラに勝ち目はないが、凶器を持ち出した相手に小倉先輩が怪我でもさせられたら面倒臭い。


 ……面倒臭いので加勢しとくか。

 地上最強の格闘技とはカポエイラだということを見せてやろう。




「……ば、化け物かよ……」


 蜂に刺されたんですかレベルで顔を腫らしたボケを掴みあげる俺。小倉先輩の足元には2人のあほんだらが紙切れのように力尽きてる。


「おい、とりあえず金出せや?アイドルどころか就活できねー体にされたくねーよな?あと、なんでこんなことした?ついでに話せ」


 1人呆然とする高身長イケメンの前で問い詰める。こいつはボロボロなのにイケメンなので助けに入るのもう少し遅くても良かった気がする。


「こ…こいつはこのアイドル事務所の社長の息子なんだよ!」

「へー、で?」

「分かんだろ!?こいつは合格が約束されてんだ!!俺らはどうだ!?こんな茶番あるかよ!!あっ、ごめんなさいお金出すんで殴らないでください……」

「財布とパンツ置いて消えろ。お前らはノーパンで帰れ」

「はい分かりましたすみませんでした!!」


 ボケ共を追い払った頃、小倉先輩が片手で高身長イケメンを立たせて支える。片手て…


「……助かった。ありがとう…小倉、怪我は?」

「何言ってるんだ…君の方が大変じゃないか」

「……俺は平気だ」


 そうは見えんが……


「なぁあんた、今の話、本当か?」


 俺は何となく連中の言い分の真偽を確かめようと思った。奴らの行動の正当性などどうでも良かったが、もしほんとにそういう背景があるなら確かに茶番だと思ったから。


「……俺が社長の息子ってのは本当だ」


 なぜか彼はバツが悪そうに視線を逸らした。


「ただ、俺の合格が約束されているってのはあいつらの言いがかりだ!俺は他のみんなと同じ条件でオーディションを受けている…親父はそんなに甘くねぇよ。この業界もな……」


 そう言って苦々しい顔をした高身長イケメン。自虐的に笑っている。


「むしろ逆だ……親父は俺を落とすだろう……まだまだだってな……他の奴らより審査が厳しくなってるはずだ。全く…やってらんねーよな」


 そう言う彼の言葉は、自分はダメだったと告げている。それでも彼は一瞬見せた自虐的な笑みをすぐに隠し、爽やかに笑って見せた。


「厳しい世界だよ。小倉も……頑張れよ?」

「……っ」


 何故だろう助けたはずなのになんか違う。こいつはきっと死ぬまでイケメンなんだろうなって思った。


 高身長イケメンをタクシーで最寄りの病院まで連れていく。俺達の付き添いを拒否した彼は「巻き込みたくないからね」と言っていた。イケメンだ。


「……いつかステージで会おうぜ」


 別れ際、彼は小倉先輩の手を強く握っていた。頑張れの言葉とこの約束は小倉先輩の腐っていた何かを変えたんだと思う。


 帰り道小倉先輩の顔は違っていたから……


「……空閑プロデューサー」

「ん?」

「……ほんとに強い人っていうのは折れてから何度でも立ち上がるんだね」

「そうだぞ」

「俺も……まだ……」


 ……何も言うまい。


「……また、指導してくれるかい?プロデューサー」

「1人でやってろ」

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