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3年間を振り返ろう①

……2月も下旬。早いもので来月には我が校から新しい可能性が巣立っていく。

 毎年、この体育館に集まる3年生達をこうして眺めているとなんとも言えない気分になる。寂しいような…誇らしいような……


 私は養護教諭…彼ら全員と普段からそれほど深く絡むわけではないけれど、私は彼ら1人ひとりの顔と名前をしっかり記憶している。たったの1度も保健室を訪れたことがない子でも……


『ただ今より、予餞会を始めます--』


 久しぶりに元気な顔を見せてくれた3年生達。次に会うのは卒業式か……


 葛城莉子、彼らの健康を預かるものとして3年間、彼らと過ごしてきた……

 今日はそんな3年間の思い出を振り返ってみようか……


 *******************


 --思えば今の3年生達は奇人変人ばかりの我が校の中でも特に印象深い子達だった。

 彼らが入学してきた時のことを私はよく覚えている……



 --2年前の入学式。

 あの日も私はここに座っていた。

 新しく入ってくる生徒達に好奇心踊らせながら……拍手とともに入場してくる生徒達を出迎えた。


「……良き」


 私の中で最初に、いや全教職員の中で最初に目に付いたのが胡座のまま滑るように入場してきた男--


「あの子か……今回の『武』は」「間違いないです。家族も『武』化しましたから、確認済みです」「今回の『武』は大人しそうだな……」


 我が校には『武』という存在が居る。それが何者なのかはまた機会があれば……


「……風香ここが高校らしいぞ」「レン……恥ずかしいから降りよ?」

「ヒヒーーンッ!!」


 あと馬に乗って入場してきた不届き者も居た。田畑レンと長篠風香……彼女らが生徒会に入るとは夢にも思わなかったな。


 そして野球部に入る剛田剛……入学前から期待のエースとして早くも注目の的だった。


「--遅い」

「うわっ!?」「きゃっ!?」「なんだっ!?後ろから……っ!!」


 それに入場の列をぶっちぎってダッシュで入ってきた速水莉央……彼女も後に我が校で陸上の天才としてその名を残すことになる。

 そんな彼女との初対面は前の列の生徒達をぶっちぎっていくという彼女らしいものだった。


「あら西野先生……あの子……」「へぇ、今どきの子は可愛いですねぇ!!」


 --そして今や我が校一の有名人、日比谷真紀奈。 彼女の登場に在校生はおろか、教員や来賓まで色めきだったものだ。

 そんな彼女は「私を見ろ」と言わんばかりに髪をなびかせ、まるでファッションショーのモデルみたいなウォーキングで入ってくる。


「あでっ!?」

「遅いっ!!誰かをぶっちぎるこの快感……これが私の最高潮!!」


 が、そのウォーキングも速水君にぶっちぎられついでに肩が当たって弾け飛んでいたが…


 このメンバーを見た時私は確信した。

 ああ、腹の底から笑わせてくれそうって……



『それでは、3年生の皆さんの思い出を振り返るスライドショーを皆さんで見ていきましょう。このスライドショーは写真部の皆さんが制作してくれました』

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」

「滾るぜっ!!」「早く見せろ……俺の勇姿をッ!!」「懐かしきあの日々が……ここにっ!!」


 予餞会の方は固い挨拶が済んで定番のスライドショーに移行するようだ。スライドショーでここまで湧く子達はおそらく我が校の生徒達くらいだろう。


『--こちらは、1年時歓迎遠足の写真ですね』

「「「「「「おおぉぉっ!!」」」」」」



 --歓迎遠足。


 毎年恒例の遊園地に行ったね…全校生徒が参加する最初の学校行事。よく覚えてる。

 あの歓迎遠足は特に記憶に残っているからね……なんせ……


「莉子せんせーーっ!!1年の子がウ○コ漏らしたぁぁっ!!」


 --私の長い養護教諭生活の中でも歓迎遠足で糞を漏らした子は彼女だけだったろうから……


「うぅ……っぐすっ……くっ……ちくしょう……」

「落ち着きたまえ、誰だって排泄はするんだよ?お尻は洗ったかい?」

「ウチの高校デビューが……」


 楠畑香菜。またの名を脱糞女。

 この不名誉な2つ名を不動のものにしたのがこの歓迎遠足だった。

 まさか私も高校生のお漏らしの処理をさせられるとは家を出る時には思ってもなかったよ。


「替えのパンツとズボンを買ってくるから、君はお尻を綺麗にしておくんだよ」

「……のれ、許さへん……1度ならず2度までも……このウチにこんな屈辱……あの男……許さへんっ!!」


 一体なにがあったのかは知らないが彼女はこの時、空閑睦月という少年への怨嗟を吐き続けていた。高校デビューが台無しになる程の鬼の形相で。


「あの男には絶対報いを受けさせたるっ!!」


 その後2人は恋人になるらしい。


 ……あとはまぁ、速水君がジェットコースターと競争したり、当時の3年生、河原崎君がお化け屋敷に放火したり、田畑、長篠コンビが持ち込んだカンガルーが暴走したり……

 脱糞事件以外は特筆すべき事件はなくこの年の歓迎遠足は終わり、こうして彼らは我が校の一員となったのだった……



 スライドショーは行事から日常風景までを捉え流していく。新しい写真が出てくる度に体育館はライブハウスのような盛り上がりを見せた……


 歓迎遠足が終わり新1年生を迎えた騒がしい日々が幕を開け、順調に一学期が流れて最終日。


 毎年恒例、学期末の球技大会。

 各クラス熾烈な戦いを繰り広げ、負傷者38名、内重傷者6名を出したこの年の球技大会…


 中でも全校の注目を集めたのはこの2人だった。


「愛する女の顔面が弾けるのをその目に焼き付けるがいい!!」

「……じいちゃん」


 剛田剛。そして空閑睦月。

 この2人の戦いは特に壮絶だった。最後2組、空閑君…今は小比類巻君か。彼と日比谷君が残り剛田君と空閑君の死闘が繰り広げられた。

 野球部エースの彼と渡り合う彼の存在は完全に伏兵で…そして彼を倒した。


 あの時は教師陣も湧いたものだ。そしてこの戦いが男としての剛田君の最後の勇姿でもあったな。残念でならない。


 後あの時空閑君の後ろに半透明のおじいちゃんが見えた気がしたが気のせいだ。


 一学期が終わりさらに私の思い出がページをめくる。

 学期末から新学期にかけての『こっくりさん』事件。

 原因は田畑、長篠コンビの呼び出したこっくりさんだった。

 …人生初の未知との遭遇……思えばあの頃から段々とこの学校には常識で測れない事態が起こるようになってきた。

 我が校最大の災厄とされる田畑、長篠コンビもまだこの頃は辛うじて会話の通じる人物だったはず。特に田畑君の変人具合は今となっては目も当てられない。



 スライドショーの熱気は盛り上がりを加速させその熱気は体育館をサウナ状態にする。

 熱中症で倒れる1年生の介護に追われながら流れる体育祭、文化祭の一幕に思いを馳せる…

 あとこの1年生はこの程度で倒れるあたりまだまだこの学校の過酷さには着いていけていないようだ。


 体育祭といえば世界最速の高校生、速水君が尽くリレーで敗れた姿にはみな驚きを隠せなかったものだ。楠畑君に日比谷君…彼女を脅かす健脚の存在に陸上部が震えた。


 そして文化祭。

 彼ら3年生の当時の舞台で野球部の三越君がステージ上で脱糞した。正直、あのインパクトに他の全てが塗りつぶされている…


「うぅ…ぐすっ…俺は…日比谷さんの脚を舐めたかった…それだけなのに……」


 本来の配役からいつの間にかすり変わっていた三越君が糞まみれのケツを丸出しにし涙を流す姿は今でも忘れない。



 --その他にもエロ本を持ってきた日比谷君とエロ本所持を擦り付けられた阿部君の保健室でのやり取りや、生徒会の解体……

 彼らが入学してきた1年はとても濃密で忘れられない1年になった。


 私はスライドショーを眺め熱狂し暴れ回る3年生達の横顔を見つめる…


 大きくなったものだ…

 うん……

 …………きっと一回り大人になったと思う……いや、そんなことないのか?むしろ狂人具合が増加してる……?


 *******************


『ここからは、偉大なる先輩方の2年生時の思い出を振り返っていきましょう』

「「「「おぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」


 盛り上がる体育館の温度が30度を超えた。1年生が次々に倒れていく。そろそろ勘弁して欲しい…


 この年は大事件が起こった。笑い事ではないけれど、しかし今となってはいい思い出…か?いやあれは洒落にならなかった。


 現3年生が入学してきたあの年--我が校にもたらされた最も大きな変化……

 それは生徒会の解体ではないだろうか。


 そしてその原因でもあり、我が校に最も波乱を巻き起こした姉妹--浅野詩音と美夜。


 そんな彼女らが巻き起こした事件--それがあの『せいし會』事件だ。


『我が校の歴史に永劫刻まれるであろう大事件、『せいし會』校内占拠事件の写真です!!』

「「「「「おぉぉぉぉっ!!!!」」」」」

「盛り上がってきやがったぜっ!!」「ひゃっはぁぁつ!!」「ノッのてるかぁ!?お前らぁぁっ!!」


 なぜスライドショーにあの事件の記録があるのか……あの極限状態で写真部は写真を撮っていたのか…彼らのジャーナリズム精神には脱帽である。


 プロジェクターに映し出される体育祭の壇上に拘束された元生徒会メンバー。そしてその傍に立つ彼女こそが、『せいし會』を率いた事件の首謀者…そして今は可愛い我が校の一員、浅野美夜だ。


「おいやめろ!!なんでそんな写真を流すんだよ!!お前ら私らの卒業祝いに来たんじゃねーのか!?」

「美夜!?落ち着いて!!」



 --『生徒会に虐げられた會』、略して『せいし會』


 我が校の日常の平穏を突如として切り裂き到来した彼らは学校教育に改革を起こす為に決起した学生革命家達…

 その主導者が浅野美夜だった。


「私達は!生徒会に虐げられた會!!略して『せいし會』!!」


 --そう名乗った彼らは学校教育の腐敗の象徴だと言う生徒会役員を処刑することで革命を起こそうとしたのだ。


 あの時の事はよく覚えている……


 元生徒会メンバーの潮田紬と広瀬虎太郎、そして浅野美夜の姉詩音、そして当時新1年生だった彼岸三途の活躍によって次元は収束した。

 特に『せいし會』を殲滅した彼岸三途君の圧倒的戦闘力に全校が戦慄したものだ。


 あの時も私はこの体育館に居た……

 あの事件のことは昨日のように思い出せるのだ--


「トイレ行きたいんやけど!!」


 --痛めつけられる生徒達……そして活路を見出す為(?)に声を上げた楠畑もとい脱糞女君。


「……楠畑。お前…」「こんな時にもウ○コかよ……」「あんた空気読みなさいよ…筋金入りの脱糞女ね…」「ちょっと!言い過ぎよ!生理現象なんだから!仕方ないじゃない!!」


「お前らだってトイレくらい行くだろっ!!これが私達を虐げた腐った学校教育なんだっ!!」


 あの時の脱糞女君の勇姿は今でも私の目に焼き付いている。


 そして何故か校内で糞を垂れ流しながら力尽きていた『せいし會』のメンバー達……


「くぅ…我ら金剛兄弟が……」「よもや糞を漏らして負けるとは……」


 あの事件の後、糞まみれになった校内の掃除を何故か私ひとりでさせられた事を決して忘れない。



『ご覧下さい!これが『せいし會』首領、浅野美夜先輩ですっ!!』

「だからやめろっつてんだろーがっ!!」

「美夜ぉぉぉっ!!」


 ……そんな浅野美夜も卒業を控えた我が校の生徒。

 彼女ら姉妹の巻き起こした事件……そしてその後の校内保守警備同好会の活躍……

 全く人生とは何が起こるか分からないものだ。


『皆さん!思い出の旅はまだまだ続きますよっ!!』

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