肛門に霊が挟まっとんのやけど
--土曜日。
一足先にやって来たせっかちな冬の寒さの染みる乾いた青空の下、文化祭開始の合図と共に全校生徒が体育館から飛び出した。
体育祭が終わってひと月、続けざまにやって来たイベントに生徒達は全力で楽しむ姿勢や。
各々友達と連れ立って校内の散策に向かったり、自分の仕事の準備を始めたり--
外からのお客さんも入り始めた雑踏入り交じる校舎をウチは1人歩く。
目的地はただひとつ……
「なんだ?香菜。あんたよくトイレ行くねー」
やかましいとクラスの女子に中指立ててウチは自分らのクラスのある階のトイレに滑り込んだ。
目的地はその最奥--呪われし個室。
また開かんくなったらたまらんから扉を半開きにしたまま便座の蓋を開けた。
『文化祭だぁー!!』
「うわっ!なんか汁飛んだやんけ汚っ!!」
そこから飛び出した憎き友人--トイレの花子に悪態を吐きながらウチは嘆息……
いや我慢や……
「元気やなぁ…そないテンション上がるか?」
『だって!文化祭だよ!!今までトイレから出られなかったんだもん!!あぁ!20年ぶりの外!!』
おどれ幾つやねん。好きでトイレに居ったんやろーが。
『さぁ香菜!!私を外に連れて行って!!』
「その前に…ウチに協力する約束忘れとらんやろな?」
『もち』
「しゃーない約束や……で、どないしたらいいん?」
『便座に座って』
「ん」
『お尻出してよ』
「ちっ、ウチのケツはそんな安ないで…?」
スカートとパンツ(卸したて)を脱いで便座に座る。冷たい。これ何とかならへんのやろか。暖かくなるやつにして欲しいわ。あと今自分の肛門が人前にさらけ出されとるという事実がなんとも……
『じゃあ取り憑くよ?』
「大丈夫やろな?霊障とかあらへん?後で痔になったりせーへん?」
『えい!!』
ちょい待ち!まだ覚悟が--
--ズブッ!!
「あふんっ!?」
肛門に突き刺さる容赦のない謎の挿入感にウチの口から情けない嬌声が漏れた。
*******************
肛門に幽霊挟んでいざ文化祭へ…
10時までは自分のクラスの出店を手伝わんといかん。クラスのテントに向かう。
『はぁ……文化祭…陽キャの祭典…』
ケツがうるさい……
『うわぁぁ…香菜のクラスは何作るの?』
「プーティン」
『え?なにそれ?』
「カナダの料理やねん、フライドポテトに色々ぶっかけるだけや」
『あれ?作らないの?』
「ウチは会計係」
「楠畑、何ひとりで喋ってんの?」「あんたら男子がウ〇コウ〇コいじるからよ…可哀想に心を病んだのね。私らは味方よ……」
慰めてるようで喧嘩しか売ってない失礼極まりない女子の戯言を無視して仕事に専念。
ファストフード感覚で食べ歩けるウチらの商品は周りに好評らしく忙しなく客がやって来た。ちなみに一個500円という強気の価格設定。
「ひとつくださーい」
「はいよ」
「ふたつ頂戴」
「はいよ。」
「466個」
「まいど」
これならすぐ売り切れそーやな。店が暇になったら遊び歩ける。
「すごいね、大盛況じゃん!」「目標売上まですぐ行くよ!」
はしゃぐクラスの女子達。こーいうのは女子ばっかが盛り上がるのが相場で男連中は早々にテントを離れてしもた。
「あ、ちーちゃん、ウチのも一個残しとって」
「香菜も食べる?お金出してね?」
「なんやケチやな……」
さて、10時を回って交代。ウチは解放されてようやく文化祭の散策に出赴ける。
こっからが文化祭本番やな。
「どや?楽しいやろ?」
『……思ったより』
「なんやそれ、肛門1日貸しとんのやぞ?もっと盛り上がってくれな張りがないわ」
『だってずっと会計してばっかだし…』
「こーいう仕事に参加してこそ、この後の遊びが楽しめるっちゅー話や。なんでも楽しいことばっかしとったらアカン。あ、ポテト食う?」
やっぱ文化祭の醍醐味っちゅーたら食べ歩きやろ。
せやけどこいつどないして食うんや…?
『あ、お尻に刺してくれたらオッケーよ』
「…………」
『早く頂戴』
--校舎一階、トイレ。
便器の前でケツ穴拡げてポテトを穴に突っ込むと、吸い込まれるように消えていく。明日の自分のケツ穴が心配や。
何が悲しくて文化祭で便所飯せなあかんのやろか……涙ちょちょぎれさせながらポテトを食らう。
「……なぁ、あんた成仏せぇへんの?ずっとトイレに篭っとるの嫌やろ?」
『全然』
せやったこいつ趣味で便器に入って死んだんやった……
『未練があると成仏出来ないから…』
「なんやねん未練て」
『もっとたくさんの肛門を見たい』
「ぎょーさん見とるやろ」
『…ねぇ香菜、私生きてる頃は学校も私生活もなんにも楽しい事出来なかった。友達なんて居なかった……』
居らんやろなぁこんな変態に…居ったらびっくりや。
『だから今日はすごく楽しい!』
「………………」
……まぁ、変なやつやけど、こいつも色々あったんやろ。人に迷惑かけんのはどうかと思うけど、趣味はそれぞれやし…
こんなこと言われたらウチも付き合ってやろう気持ちに……
『あとあなたの肛門すごく居心地いいわ!!今まででピカイチね!永住していい!?』
………………こいつはよ昇天せんやろか。
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屋外ステージでダンス部がパントマイムやっとる。なんで?ダンスせぇや。
しかも無駄にレベルが高い。ありもせん壁やら鞄やらがほんとにそこにあるみたいや。
『あれなに?あれなに?』
「何ってラーメン屋やろ」
『食べたい!』
「それだけはアカン!ウチに熱々のラーメンケツに突っ込め言うんか!?」
『食べたいもん……ぐす』
かわい子ぶってもアカンで。おどれいくつやねん。そういうんが許されるんは20歳までや。
『やだ、食べる。私ラーメン食べたことないもん。お願い。食べさせてくれなきゃ腸から大きいの引きづり出すよ?』
こいつえげつない脅し方してきおる……
--しゃーないけ入ったラーメン屋は生徒会の出店やったんやけど……
--映画とクワガタとモザイクアートとネイルアートができる唐揚げが食べられるラーメン屋
なんやこれ。欲張りすぎやろ。映画かクワガタかモザイクアートかネイルアートか唐揚げかラーメンどれかにせえや。
他の出店と違って1階の教室を丸々占有したその店は、外から覗ける店内にでかでかと東京タワーのモザイクアートとモニター、そして何故か土の敷き詰められたケージが並んどる。
「へいらっしゃい!!」
へいらっしゃいって台詞が似合わなすぎる女子に出迎えられて入店。並んだ机は2列で黒板側は明らかにラーメン食う席ちゃう。
「ラーメンですか?唐揚げですか?ネイルですか?」
……こいつは同じクラスの長篠。こいつ生徒会やったんか。そういやこの前ヘンテコな夢でこいつが出てきたような……
てかなんやねんラーメンか唐揚げかネイルって。ラーメンか唐揚げかは分かるけどネイルって……
「ここなんの店なん?」
「え?表書いてるでしょ?映画観れてクワガタ見れてモザイクアート見れてネイルアートできる唐揚げが食べれるラーメン屋」
奥からまた1人出てきた。長篠の相方の田畑…こいつも生徒会?こいつらそんなイメージ全然あらへん。教室の隅っこで仲良ーしとるスクールカースト圏外組って感じなんやけど……
てか説明されてもなんも分からん……
『私ネイルやってみたい!!』
「出来るわけないやろ。ラーメン食いに来たんとちゃうんか?」
「?なに?」
「いや、独り言や……」
「ラーメン?ネイルは?」
なんか長篠グイグイ来るやん。物理的に……手に持っとるそれなんや?プラモ作る時接着剤塗るあれか?
「……要らん。てかクワガタはどこにおんねん」
「クワガタあれ」
2人が指さしたのは窓際に置かれた土しか入っとらんケージ。デカい。でも土だけや。
「土やん」
「中に居るの」
「今冬眠中でさー」
「なんやそれ何がしたいん?土見てもなんもおもろないし。せめて冬眠中のクワガタ見れるように展示せぇや」
「掘り起こせって言うの?あんた自分が寝てて布団剥ぎ取られたら怒るでしょ?」
「寝とる間に見せもんにされても怒るで?」
「で?ネイルは?ネイル!!」
長篠うっさいねん。
喫食スペースに腰をかける。興味本位なのかそこそこ客が入っとる。ちなみに値段設定はラーメン1杯500円、唐揚げ3個で300円。高っ!
いやウチらのクラスも大概やな…文化祭思て軽い財布で来たら往生するでこれ。むしる気満々や。
さてラーメンと唐揚げを注文したらソッコーで出てきた。このスピード、麺、匂い…
「インスタントやんけ……」
同じやつコンビニで200円くらいで買えるんやけど?どー見ても世界で最もメジャーなカップ麺やんけ。
唐揚げはコンビニのホットスナックや。ぼったくりやない?
『美味しそう!早く食べたい!!』
……まぁ祭りの屋台なんてみんなぼったくりや。野暮なこと言ったらアカン……
『早く早く!!』
どれ……うん、あれや、あの味や……
まぁ下手に不味いの出てきても困るし…安心の味やな。良しとしよか。店の面白さっちゅう点で目を瞑ったる。
『早く!』
ところで映画はいつ始まるん?映画観たい。
「らっしゃいませー」
おーおー、また客が入ったで。こりゃ大盛況やんけ。ふざけた店やけどなんか中で食うっていうのも雰囲気あるし…
『ねぇっ!!』
……どないしろ言うん?
肛門がうるさい。せやけどこれ、ここでパンツ脱いでケツにラーメンぶち込め言うん?有り得へんやろ。ただでさえウ○コキャラ定着しとるっちゅうのに……しかも隣に客が座ったで?
『意地悪しないで!!』
「やかましいねん。食わせられる訳ないやろ?こんなとこでパンツ下ろせるか!!大体こんな熱いもんぶち込んだら爆発するわ!!」
『大丈夫よ。ポテトは大丈夫だったじゃん』
「より熱いやろが、明日になったら消化されて出てくるけ待っとけ」
『やだやだやだ!』
「殺すぞ?」
『もう死んでる!!やだやだやだやだやだやだ!!』
……いや、ホンマにどないしろ言うねん。
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--今回のミスについては水に流そう。しかし、我々に失敗という言葉はない。トラブルが起きれば他の者が対処する。そしてミスを犯した者に明日はない……0077、これはお前の今までの働きに対する慈悲だ。次はないぞ。
--ボスの言葉が頭から離れない。
この世界に本来次なんてない。このチャンスは死を覚悟した俺にとって、まさに細い蜘蛛の糸なのだ。
……楠畑香菜。
この俺--エージェント0077から日本の公安機密文書を奪い返し、逃げおおせた悪魔のような女。
組織の調べた情報によると表の顔はこの高校に通う高校一年生。そして恐らくその裏の顔は日本政府の超一流エージェント……
あの日、相撲取りに扮したエージェントをけしかけられ、ボコボコにされ、銃刀法違反で逮捕された……
しかし俺は帰ってきた!!
機密文書は仲間が回収するだろう……俺は上からの命令を果たす為--そして何より俺の雪辱を晴らす為再びこの地を踏んだ。
今日は文化祭……普段学校に篭っているターゲットも学校が開放される今日なら接近も容易だ。
復讐の舞台は謎のラーメン屋台…既に得体がしれないが…大丈夫、ここはただの学校のはず……
数分後、この部屋の床は真っ赤なカーペットに染まることだろう……
完全に気配を消してやつの隣を確保する。やつは俺に気づいて無い様子だ。
隙だらけ……に見えるが、実際どうなんだ?油断はできない、失敗はもうできないのだ。もう少し様子を見るか……
ただ、奴が少しでも妙な挙動をしたなら--
「やかましいねん!」
!?なんだ!?
突然顔を顰めたターゲットの口からイライラした声音が飛んできた。しかし奴は1人……
……まさか、まさか。
まさか既に俺の動きを察し、無線か何かで応援を……?仲間と交信しているのか?
確かめねば…やつの耳にインカムかなにかが……
「食わせられる訳ないやろ?こんなとこでパンツ下ろせるか!!大体こんな熱いもんぶち込んだら爆発するわ!!」
------っ!
氷の塊を飲み込んだような冷たさが喉から下がってくる。得体のしれない予感が体温を奪った。
……爆発?
奴は爆発物を所持しているというのか…!?しかも……恐らくパンツの中?
熱いものをぶち込んだら爆発する……加熱すると危険な爆発物……爆薬か?
「より熱いやろが、明日になったら消化されて出てくるけ待っとけ」
……間違いない。
奴は誰かと会話している。信じられないが俺は既に奴にマークされていた…っ!!
いつバレたんだ!?いつ!!
……より熱い?明日になったら消化されて出てくる…?
落ち着けパニックになるな……まだ結論づけるには早い。現に奴は俺の方に意識すら向けないだろう?
気持ちで負けているぞ、0077。
やつの会話の内容が負のベクトルに向きかけた俺の思考をなんとか持ち直させた。
応援を呼ぶという感じの会話ではない。
やつはパンツの中に危険物を忍ばせている……食わせるうんぬとも言っていたな……そして明日になったら消化されて出てくるとも……
なんだ?わからん?さっぱり分からん。分からんがこいつのパンツの中に爆発物が入っているのは間違いない。
まずいぞ迂闊に手を出せない……加熱すると爆発する代物のようだが、ここで俺がやつを撃ってもし抵抗されケツに弾が当たるようなことがあれば……
ブツが爆発物で詳細が不明なのでは手が出せない。
「--殺すぞ?」
その瞬間、俺の全身の毛が逆立った。汗が逆流し肌を水が這ったようにゾゾゾっと寒気が登っていく。
今の一言……凄まじい圧を感じた。やはりただものでは無い……
やつの放つ尋常でない殺気が俺の気持ちを急かす。周囲に視線はない。慎重になってた俺の思考が逸る。
気づかれる前に頭を撃ち抜けば終わる。多少の衝撃で爆発するような爆発物をパンツに忍ばせるものか。大丈夫だ…
--殺らねば……気づかれたら俺が殺られる!!
半ばパニック状態の中反射的に懐に入れた手が直後硬直することになるとは……
「あーもう!!分かったって!!」
投げやりな声と共にターゲットが勢いよく立ち上がったかと思ったその時、やつの手がスカートの中に突っ込まれたのだ!
まさかっ!?
馬鹿な!!学校だぞここ!!ここで起爆すると言うのか!?馬鹿な!!
俺の零した殺気に気づいたのか!?だとしてもこんなところで--
「今からぶち込んだるけん、食らいや」
いやこいつは本気だ!食らわせる気だ!!
おもむろに手を伸ばしたのはラーメン…白い湯気を立ち上がらせるそれを、周囲を伺いながらケツに--
馬鹿な!!ラーメンだと!?ラーメンの熱で起爆するというのか!?
そんなことが……と思いつつ俺は懐から得物を抜いていた。
とにかく阻止しようと--やつのラーメンを持った右手を……
『きゃーーーーっ!!』
!?なんだ!?
極限の集中状態に割り込んだのは絹を裂くような女性の悲鳴。しかしどこかわざとらしい。
何事かと俺の視線は強制的にひきつけられてしまう。
『あれが奴らの秘密裏に開発していた殺戮兵器…っ!!』
『昆虫界最強のオオクワガタをあんなバケモノに……!!』
『きゃーーーーっ!!!!』
……な、なんだこれは?
唐突にモニターから流れ出したのは棒読み大根役者達といかにも作り物なビル群の合間から顔を覗かせるクワガタ……
溢れ出る駄作臭……いきなり何が始まった……?
その時だ、完全に意識を画面に持っていかれた俺の右手が死角から掴まれたのは。
ターゲット!?
しまった…一瞬目を離した隙に……っ!
自らのミスを呪いながら来る死の予感に固く目を瞑る。ここまでか…っ!!
「先生!この人です!!間違いないです!!」
しかし覚悟した俺に浴びせられたのは銃弾でもナイフでもまして爆発でもなく、若い女の声……
恐る恐る目を開けた先には俺の手を捕まえた制服姿の女子数人と屈強な体格の大男……
こいつらは一体…?
目を白黒させる俺の前で男がおもむろにポケットから何かを取り出した。
--それは硬貨だった。
「あなた、500円の商品を500ウォンで買いましたよね?」
……は?
「プーティン買ったでしょ!?よく見たら円じゃ無いじゃないですか!!特徴的なグラサンだったからこの人で間違いないです!!」
は?は?
「ちょっと来てください」
は?は?
………………………………は?




