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決戦前夜!!

 --私は可愛い。

 どれくらい可愛いかと言うとそれはもう可愛い。今朝なんて鏡に映る自分の美しさに卒倒したもの。

 私は今まで自分の美貌に対して微塵の疑いも抱いたことはなかった。周りの誰1人として私の美しさを否定しなかったから……


 ある者は言葉を尽くして讃え--

 ある者は想いを募らせ--

 ある者は妬みすらして--


 そんな私ではあるけれど、ただ容姿が美しく可愛いと言うだけでは思い通りにならないことが過去にあった。


 --ひとつはジュニアアイドルになれなかった事。

 もうひとつは……むっちゃん。


 むっちゃんはこの日比谷真紀奈の好意を知っていて私より可愛くない人を選んだ。

 でも……私は手に入れてみせる。


 今回の日比谷真紀奈は一味違うから。

 なんせ……今回は…………



「そう、今回はこの恋のキューピットがついてるからね」

「ということなんだ凪。明日2月14日、決戦です」

「ちょっと待って?その人は誰?」


 凪の家の狭い凪の部屋で出涸らしを飲みながら作戦会議だっ!!

 小比類巻陥落作戦っ!!


 露骨に面倒くさそうな顔で巻き込むなよと苦言を呈するのは4月から警察官になるらしい我が親友、阿部凪。ベストオブ日比谷ライトアームである。

 そしてもう1人、今回の作戦のキーとなる存在……


「初めまして、天界からやって来ました。天界人口管理局日本支部少子化対策特別室室長、ミートソース・ブルーマウンテン・チーズカマボコ、略してミブチです」

「あ、どうも……」

「ミブチさん、このトンチンカンに私とむっちゃんの運命を説明してあげて?」

「よかろう……天界人口管理局では昨今の少子化による日本の将来を危惧し少子化対策特別室を設立しました」

「あ、はい……」

「少子化対策特別室では天界で運命的に繋がっている2人をカップルとして成立させ日本人の繁殖を補助するというプロジェクトを行ってます」

「繁殖……」

「この日比谷真紀奈さんと小比類巻睦月さんの運命の糸は海水浴で絡みついたデンキクラゲの刺胞の如く絡みついて結ばれています。ですが現状小比類巻さんは別の女性とカップルになってますので、より相応しいカップルの成立の為この度ご協力させて頂く運びとなりました」

「大きなお世話だ……」

「凪、これはとても大切な事なの…日本が滅んでもいいの?」

「……でも小比類巻君は楠畑さんとカップルなんだよ?いいんじゃない?それで……」

「いいわけあるか。むっちゃんが脱糞女と繁殖していいの?」

「いいんじゃないの?」


 このあんぽんたん!ベストオブ日比谷ライトアーム解任だ!!


「えっとミブチさん?あなたどこから湧いたのか知りませんけどその……小比類巻君にとって日比谷さんの方が相応しいって言うその根拠は……?」

「こちらをご覧下さい」


 1台のタブレットを取り出したミブチさん。そこには私の名前とむっちゃんの名前が横並びに表示されていた。

 そしてその下には脅威の87%の数字が……


「小比類巻睦月君と日比谷真紀奈さんの相性は87%です」

「それよくある名前の相性診断ですよね?」

「凪、こうして数字上のデータが出てるんだよ?まだ何か?」

「日比谷さん……この数字になんの根拠が?」

「なに?凪は私の恋を応援してくれないの?」

「いやそうじゃないけど……ただどっから湧いたのか分からないこの怪しい人の口車に乗せられてその気になってるなら一旦冷静になった方がいいよって……」

「阿部凪さん、あなたの運命の人はバラク・オ○マ氏でした。ですので、諦めてください」

「やかましい」

「このように……運命が結ばれている同士でも確実に成就するとは限らないんだ……でも私は過去にカップル成立させた実績あるから」

「というわけで今回は天界からのアドバイザーを交えて本格的にむっちゃんを私のモノにしようと思ってるんだ」

「……それはいいけど私の家でやらないで?」


 凪……私達ズッ友だよね?どうしてそんな酷いことばかり言うの?富士山で交わしたあの友情は嘘なの?まだ20時半だって言うのに……


「はぁ……あの、それで具体的にどうするの?明日はバレンタインだけど……」

「むっちゃんとデートして陥落させようと思ってるんだ」

「完璧なプランを用意してある」

「すごい自信だけど……むっちゃんカノジョ居るのに日比谷さんとデートなんてするかな?」

「心配要らない、その為の阿部凪さん、あなただから」

「私……?」


 ミブチさんの完璧なプランとはこうだ!


「2人きりで出かけるからデートっぽい…しかしあなたを交えた3人なら友達とのお出かけっぽい」

「明日日比谷さんに付き合えって言ってる?」

「で、適当なとこで消えてもらったら大丈夫だから」


 凪の顔が険しくなってきた。凪…日比谷心配だよ。そんなに眉間に皺を寄せて……老けるよ?


「……てか、もう一度言うけど小比類巻君にはカノジョ居るんだよ?」

「知ってる」

「いきなり日比谷さんになびくかなぁ?その……今までの積み重ねがあれば話は違うだろうけど……」

「ちょっと凪、私とむっちゃんとの間に今まで何も無かったみたいに言わないで」

「その尽くが撃沈してるじゃん」


 茶碗で頭割るぞ?

 どうしても可能性を見いだせないらしい凪に「チッチッチッ」と人差し指をメトロノームのように振るミブチさんがまたしても現実的データを引き合いに出してきた。


 また登場するタブレットには某質問掲示板が開かれている。「コッチヲ見ロッ!!」と凪に言う。


「確かに小比類巻君にはカノジョが居る……でもね?人間の縁なんて切れたりくっついたり。1度結びついたからと言ってそれは確実な絆にはなり得ない。これを読め」

「読めって……なんか上からだなぁこの人……」


 質問掲示板には悩める人達の質問、あるいは行き場の分からない苦悩が吐き出されて並んでいる。その見出しを見るだけでも……


 旦那が浮気をしてます。離婚しようと思ってるんですが--

 最近カノジョの様子がおかしいです。デート中ずっとスマホ--

 恋人との関係に悩んでいます--

 カレシと別れたいです。他に好きな人が出来ました--


「例えばこの山梨県Aさんの場合……」

「いや読み上げなくてもいいです」

「凪ちゃんよ。人の心なんて危ういものさ。昨日まで燃えるような恋をしてても、ほんの些細なキッカケひとつで鎮火するもの」

「恋のキューピットがそんなこと言っていいの?」

「つまり人のカレシを寝とるなど容易い……」

「ねぇ、恋のキューピットなんだよねこの人!」


 ……まぁ恋のキューピットがこう言ってるわけだし。私がむっちゃんを陥落させて繁殖するのは現実的かつ倫理的にも何も問題ないというわけだ。


 --高一の球技大会。あの日私はむっちゃんを好きになり、その想いを着実に大きくしていった…

 その想いがようやく成就する--


「……はぁ、まぁ…私はもうどうでもいいけど。でも日比谷さん、具体的にどうやって小比類巻君を陥落するのさ。小比類巻君はかなり手強いと思うよ?なんせ、こう言うのはムカつくけどこれだけの可愛さの日比谷さんになびかず自分の気持ちを優先した小比類巻君だから…」

「事実を言ってムカつく必要ある?私は可愛い」

「あームカつくなぁ。そもそも夜8時に押しかけてくるとこでムカつくわ」

「大丈夫だよ凪……そこはこの天使様だから。私には恋のキューピットがついてるからね」

「結局人頼みなんだね……」


 恐らくこれ以上の適任は居ないだろう恋愛アドバイザー、ミブチさんに期待が集中する。

 皆(日比谷)の期待を受けたミブチさんはゴホンッと大きく咳払いしつつ頷いた。


「……まぁ、私にできるのはあくまでお手伝い。2人が最高のカップルになる為にできる限りのお手伝いをさせてもらう…つもりだけど、結局運命を繋げるのは本人達次第だからね……」

「日比谷さん、なんか不安になるような事言ってるよ?」

「あなたが私とむっちゃんをくっつけてくれるんですよね?」

「それは君次第さ……私はむっちゃんを射止める為のお手伝い--」

「日比谷さんこの人ペテン師だよ。最終的な責任から逃れようとしてるよ?先を見越してるよ。日比谷さんこの人にお金でも払ったん?」

「あのさ凪。そもそも今回は100%成功するんだけど?そんな責任がどうとか……関係ないじゃん。どうせ成功するんだから、むっちゃんは私のモノなんだから。責任ってなんの責任?」

「ダメだ……カルト宗教にハマった信者の如き信仰……」


「君次第さ」と何度も何度も告げるミブチさんが問いかけてくる。その問いかけに私だって薄々「ああこの人考えがあるようでないんだな…」って勘づきましたよ?ええ。


「日比谷真紀奈さん。恋する乙女は美しい……そしてそんな乙女が楽しそうに笑いかけてくれればどんな男だって堕ちるもの」

「私は可愛い」

「あなたがむっちゃんと本当に行きたい所ってどこ?そここそがむっちゃんをオトすに相応しい場所……」

「相応しい場所……」

「むっちゃんのハートを射止める……そう、最も大切なのはあなた自身の魅力を最大限に引き出すこと!あなたが楽しむこと!!隣で美少女が楽しそうに「むっちゃーーん♡」してたら「あ、可愛い♡」ってなるっしょ?」

「ちょっと待って?まだデートプランも未定なの?どこ行くのかも決まってないのに明日私に付き合えとか言ってたのさっき!」


 …………私がむっちゃんと行きたい所…

 …………私の可愛いさが天元突破する所…


「……最近仕事ばっかりで忙しくて遊べてないから、思いっきり遊べるところがいいな……」

「……例えば?」

「…………遊園地?USO的な?」

「え?USO!?大阪まで行く気!?明日!?」

「お黙りなさい阿部凪。そここそが日比谷真紀奈決戦の地……」


 --日比谷、USO行きたいっ!!


 決戦の地が決まった……大阪だ…

 決意を新たにする私の肩をミブチさんがグッと掴む。その手には私のスマホが握られていた……


「……そうと決まれば明日、あなたの思いの丈全てをむっちゃんにぶつけるのよ…」

「……はい」

「いや待った、明日大阪とか無理だからね私!?ねぇ!」


 私は電話帳の中からその人の名前を探し出し……


「おい!こら!!」


 いざ…………コール……

 時刻は20時48分!!



 --プルルルルルルルルル、プルルルルルルルルル……


 ………………

 あぁ……

 そういえばこうしてむっちゃんに電話するのなんて…私の人生の中で何回目……?そもそもあった?

 ううん。

 これからは当たり前になるのよ……真紀奈…


 そう……

 だってむっちゃんは明日から私のつがいなんだからっ!!!!


『はい?小比類巻様ですが?』

「あっ!……むっ、むっちゃん、遅くにごめんなさい!日比谷だけど?」

『……ほぅ、日比谷真紀奈か……許そう……して、何用か?』

「あのさ!あのさっ!!明日……私…私と凪とさ!USO行かない!?」

『行かない』

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