新!現代カルチャー研究同好会
ご機嫌麗しゅう、妻百合花蓮と申します。
3年生の先輩方がまもなく卒業という事で不詳この妻百合、小比類巻代表、橋本先輩から現代カルチャー研究同好会を引き継ぎまして、香曽我部先輩と共に代表として精進して参ります所存でございます。
早速スタートを切りました現代カルチャー研究同好会ではございますが、ここで大きな問題が発生して参りました。
それは部活動、同好会会議の後--
「…こ、これだけでございますか?」
私は渡された2月の活動費を前に呆然と立ち尽くしております。その理由は手のひらの上で燦然と輝く500円玉にありました。
「あの先生…これでは流石に活動が出来ません」
「活動って…メイド喫茶行くだけだろ?」
「ですので…500円ではメイド喫茶に参れません…」
「学校の金でメイド喫茶行くんじゃねー」
………………え?
「妻百合、お前先月いくら活動費出したか知ってるか?」
「…ご、580,000円…」
「台湾行ったの?」
「………………」
「妻百合、お前の同好会2人しか居ないだろ?人数が少なくなったから会費も減らしていくからな?」
「…………………………っ!!」
「あと、ちゃんとした活動しないなら解体するからな?」
「………………………………っ!!」
「分かったか?」
「……………………………………がーん」
*******************
--現代カルチャー研究同好会、ピンチでございます。
小比類巻先輩は日々こんな戦いをしながら私達の活動を支えてくださっていたなんて…あの人は代表の鏡のようなお方でございます。
しかしどういたしましょう……
未熟者の私ではこの窮地を脱するアイディアは浮かびませんでした。このままでは活動ができないでございます。
偉大なる先輩にアドバイスを頂きましょう。
……というわけで。
「というわけでございます」
「は!?それで500円!?まぢ!?500円て…なんもできないじゃん!」
恥を忍んで香曽我部先輩、またの名を福神漬け様にどうしたらいいかを相談致します。
福神漬け先輩は「まぢかよぉ……500円てパンプキン・パンプキンも買えねぇよぉ……」などと仰って嘆いておりました。
パンプキン・パンプキンとは地元のソールフードだそうです。もこもこしていてねちゃぁぁっとしておられます。味は酸っぱいです。
「このままじゃ同好会の存続にもかかわるぜ、つーちん」
「私もそう思います」
現在我が校には校内保守警備同好会を初め実に111もの同好会があります。生徒の自主性を重んじる我が校ののびのびされた校風を表しておりますが、これだけの同好会活動の費用を捻出するのは相当な負担であるはずでございます。
既に「すね毛脱毛同好会」「糸モップ愛好同好会」「早弁協会」「乙姫撤廃同好会」など、数々の同好会が解体されております。
このままでは現代カルチャー研究同好会も…
「……会員が少ないから会費出さないって先生言ったんだよな?」
「そうも言っておられましたでございます」
「なら、あたしらのやる事ひとつっしょ」
どうやら福神漬け先輩には妙案があるようでございます。
「--新入会員をゲットする」
「なんと……っ!」
現代カルチャー研究同好会、ついに勢力拡大でございますか……
「ということは……4月の新入生入学のタイミングで大々的に新規会員を募集するということでございま--」
「スカポンタンっ!」
--ビターーーンッ!!
「ぶっ!?」
「つーちんそんな呑気なこと言ってたらこの同好会は解体されちまうんだよっ!!」
「……っ!!」
「新メンバー、いつ獲得すんの?」
「…………っ!!」
「明日でしょ?」
「………………い、今ではなく?」
「今日はもう遅いから帰るでしょ?」
--と、言うわけでございまして、私達は放課後パンケーキ100,000円で食べ放題(数量限定10枚まで。無くなり次第終了)を頂きにケーキ屋さんへやって参りましてそのついでに作戦会議と相成りましたでございます。
パンケーキは無くなっておりましたのでいちごのショートケーキに致しました。
「……しかし香曽我部先輩、ずっと学校に通っていらっしゃる在校生様達は今まで我が現代カルチャー研究同好会に興味を示して来なかったのでございますのに、どうやって今更新メンバー様を獲得するのでございますか?」
「……ふん、つーちんよ。それは決めつけよ。今まで興味がなかったからと言って、今から募集したら誰もなびかない……そんなことは無い」
「ですがこの1年、見学にすら誰もお越しになられませんでしたよ?」
「……つーちんよ。現代カルチャー研究同好会なんて名前堅苦しい上に何してんのか分かんない同好会、純粋に入りたいなんて奴は居ない」
……そんな、そんなこと仰らなくても。私達にまでこの同好会を繋いで下さった2人の先輩に対してあんまりでございます。
でも……私もそう思います。
ですが、福神漬け先輩には確かな自信があるようにお見受け致します。「でも!」と力強く付け加えられたのです。
「現在のうちの高校の同好会活動……危機に晒されてるのはうちの同好会だけではないはず。つーちん、今日までにたくさんの同好会が解体されたね」
「……はい、でございます」
「そしてうちの高校の同好会なんてどいつもこいつもなにやってんのか分からないような同好会ばっかりじゃない?」
「それは失礼でございます……」
「じゃあ「カンボジア親睦同好会」って何してる同好会?」
「……………………」
「つーちん……学校から認められず、会費も出ず……解体の危機に瀕してる同好会はごまんとある。そんな奴らに手を差し伸べてやれば……」
「て、手を……?」
「そう……」
宇宙服並の防護力を有した防護服の奥で福神漬け先輩はもはや勝ちを確信したかのように目の奥を輝かせておられます。
そう……福神漬け先輩の策とは……
「同好会の!吸収合併だっ!!」
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--未だかつてどなたかが考えついたでございましょうか……
我が校の同好会の吸収合併……つまり、解体の危機に瀕した崖っぷち同好会の皆様を引き抜いて我が現代カルチャー研究同好会の一員にし、メンバーを補強しようと仰るのが福神漬け先輩の作戦であったのでございます。
何やってらっしゃるのかよく分からない同好会が、何やってらっしゃるのかよく分からない同好会を吸収する……
そうして完成された同好会は闇鍋のように中身の分からないカオスなものになるのだと、福神漬け先輩は仰られました。
……その同好会に未来があるのかはさておきまして、メンバー補充の為の作戦としてはこの妻百合、中々いい案だと思います。
ので、実行致します。
私達が目をつけた同好会は……
「--これだぁ」
「ワン・ツー・スリーッ」
『みなさんっ!!このままでいいのですか!?我が校の秩序は今、乱れに乱れまくっていますっ!!このままでいいのですか!?』
校内で堂々とマイクパフォーマンスを行われておられる、選挙前の政治家様のようなこのお方。
熱気漂う素敵なこの方こそ、『校内改革同好会』代表にして唯一の会員、巣子苦正義様。2年生。
以前同好会活動として我が現代カルチャー研究同好会に現れた、学校革命の第一人者にございます。
「どうやって今日まで同好会を存続させてきたのかは知らないけど、アイツの同好会もそろそろヤバいらしい。なんせ、アイツ1人だし」
「なるほどでございます」
廊下に設置された演台の上でひたすらにこの学校はおかしいと連呼されてらっしゃいます。これが校内改革同好会の活動なのだそうです。
正直、今日初めてその活動内容を認知致しました。
それを裏付けるように、道行く生徒様の誰もが彼に目も向けられません。
……こうして絶望された革命家の方が過激派に傾倒するのでございましょうか?
「校内改革同好会を吸収して巣子苦を現代カルチャー研究同好会のメンバーにする」
「了解であります」
「だがあの男も頭が固い…奴の思想に共感したフリして近寄るんだ!」
「それは…なんだか騙しているようで気が引けるのでございます」
「奴だって同好会が潰されるより存続した方がいいに決まってるだろ?救済だよ、これは」
耳障りのよいお言葉と痛々しいまでの改革精神…このおふたりに社会というものの一端を見たような気が致しました。
突撃っ!!
「……くそっ!!どうして誰も分かってくれないんだっ!!」
マイクを投げ捨てられて無力感に打ちひしがれておられる巣子苦先輩。
そんな彼を偽りの拍手が讃えます。
パチパチパチパチ…
「……むっ?」
「いやー感動したぜ!巣子苦!!お前が正しい!!」
「胸を打たれたでございます」
「お前達は……」
すかさず名刺を差し出して参ります。
「私、現代カルチャー研究同好会の代表、妻百合花蓮と申します…」
「げ、現代カルチャー研究同好会っ!?」
おや?どうされました?なにか思い出されましたか?
「な、何しに来たお前達……っ!!忘れたとは言わせないぞ!!お前達あの時…校内の改革に邁進していた私に何をしたっ!!」
そんな…そこまで怒られる程の事を致しましたでしょうか……?
「わ、私を嘲笑いに来たのか…っ!!」
「滅相もございません」
「あたし達、アンタの思想に感銘を受けてんのよ」
「…なに?校内の風紀を乱しまくりのその格好で何を言ってる香曽我部妙子。制服はどうした?」
鋭いツッコミでございます。
「このイカれた学校を改革しようって言う固い決意にあたし、感動した。是非手伝いたい。まぢで。ね?つーちん」
見事なスルースキルでございます。そして世界一軽い「まぢで」でございました。
「はいでございます」
「……本当か?」
今まで誰からも見向きもされなかった革命家の疑心暗鬼は深いのでございます。そんな彼の心にかかった暗雲を切り払いますのは福神漬け先輩の「うん。まぢまぢ」でございます。
「…じゃあ現代カルチャー研究同好会は今すぐ解散しろ」
「え?」
「なぜでございますか…」
「以前説明した。この学校をおかしくしているのはお前らのような同好会--」
「「あなたの同好会もおかしいです」」
少しお考えになられたらすぐにでもお気づきになるだろう事実を突きつけますと巣子苦先輩は「ぐっ…」となんとも言われません反応をなされました。
ですがすぐにそのようなお顔を引っ込められます。
「……考えてみろ。私のような活動がなぜ起きるのか……その根本的な原因はなんだ?お前達だ。学校の同好会活動として私のやってる事がおかしいのは承知だ。しかしこうでもして働きかけなければこの学校はおかしいままだぞ?お前達今私の活動に感銘を受けたと言っ--」
「「何も変わってないけど?」」
今度は目を背けられておられた事実を叩きつけられまして、乾燥チーズが頭に炸裂なされたかのようなものすごいお顔を晒されます。
今度は反論はなさらないようで巣子苦先輩の足は膝から崩れ落ちられました。
……落ちます。
「……巣子苦よ。ここはひとつ相談だぜ。お前の同好会、ヤバいんじゃないの?メンバー1人だし……そろそろ、解体されそうなんじゃないの?」
「な、何故それを……っ!!」
「そこでよ巣子苦。あんたがこれからも革命戦士として戦えるようにあたしらが活躍の場を作ったげるよ。そもそも、誰も入らない同好会で改革なんてやってたって、いつまで経っても誰も見向きもしねーよ?」
「だがお前達はしてくれた」
「もっと有名なとこで、名前借りて、人の目につくようにやってこそ、革命にも意味があるってもんよ」
「……ど、どういうことだ?」
「あたしらの同好会で校内改革しろよって事さ……あたしらの同好会で、あたしらと校内改革しなよ。同好会名は『現代カルチャー研究同好会』。悪い話じゃないっしょ?」
「こっ……断るっ!!」
案の定我が同好会のネームバリューにはそれほどの魅力はないようでございます。
まぁ……我が同好会と致しましてもこんな事をされておられるのは人が来てくれないからでございますから……
「……アンタさ、選べる立場に居ると思ってんの?」
「ぐっ……」
ですが福神漬け先輩、ここで詰めて参ります。どれほど詰められても分厚い防護服分の距離はしっかりカバーしておりますが……
「戦う場所を失ったら本末転倒よ?ぶっちゃけ、もう幾許の猶予もないっしょ?」
「…………」
「あたしらの同好会に入ったらさ、ちゃんと校内改革の活動もするからさ」
「………………」
「………………巣子苦……」
「…………………………わ、私は--」
「--ここで終わりたいん?あ?」
……結論から言いますと革命戦士の熱意は本物のようでございました。ご自身のプライドや信念を折ってでも本懐を遂げる--その為の行動がお出来になられる事こそ、本物の証ではございませんか。
「………………約束は違えるなよ?」
校内改革同好会は現代カルチャー研究同好会に吸収合併されましたでございます。




