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保健室の秘事

「……お腹痛い……」

 こんにちは、空閑睦月です。唐突ですがお腹が痛いです。

 どれくらい痛いかと言うと腹の中身が捻れて引っ張られて焼け爛れてぐちゃぐちゃにすり潰されてる感じです。死にます。


「……ぁ、ぅぅ…う、莉子…せんせい……」


 というわけで一大事なので保健室へ……

 午後の授業が始まったばかりの保健室は僅かに開けられた窓の隙間からそよそよと冷たい風が流れ込み真っ白なカーテンの端をゆらゆら揺らしてた。そこに踏み入るだけで穏やかな気持ちになってくるような……

 ……寒いから窓閉めて?


「うう……先生助けて」

「どうしたのかね?」


 保健室にはみんな大好き莉子先生。美人で優しくてカマキリの治療にすら尽力してくれる養護教諭の鏡のような人だ。


「お腹痛い……寝かせて……」

「またかね?最近腹痛が多いな。この前もいなり寿司40万個食べた女子がお腹を壊してきたぞ?なにか変なものでも食べた?」

「昼休みに……アッチャムポチャを…少し……」

「あーなるほどねそれだ。そのアッチャムポチャがあたったね」

「いや……ちゃんと茹でたから……」

「よく火が通ってなかったんだろう全く……少し横になってなさい。酷い汗だね。アッチャムポチャにあたると酷いからな…」

「先生……死ぬ……」

「問題ない、アッチャムポチャの食あたりで死亡例はないよ。一時的な腹痛だ。トイレは?」

「出ない……うぅ……莉子先生…病院連れてって……」

「大丈夫大丈夫」


 莉子先生が優しくベッドに寝かせてくれた。横になったら少しだけ気分が良くなった…気がする。


「腹痛だけかね?吐き気は?」

「吐き気はないです……死ぬ……」

「三途の川が見えてきたら言いなさい。あんまり酷いなら病院に連れていこう」

「……胃薬」

「薬の処方は出来ないんだよ」


 ベッドのカーテンが閉められて天井を仰ぐ俺の視界の両端が白いカーテンに遮られた。


 カーテンから微かに覗く窓からは澄み渡った空が見える。保健室で寝ているとなんだか無性に眠たくなってくるのは何故だろう。

 グラウンドから聞こえてくる声や遠くの音楽室から漏れ出す楽器の音色が眠気を誘う。ここにいると凄く時間の流れが穏やかになっていくのを感じる。


 保健室って安心出来るな……


 授業中にベッドで横になる特別感と、保健室の先生が居てくれる安心感かもしれない…


 重たい瞼に抗えず痛みも忘れてウトウトし始めた。このまま寝てしまおう……


 --ガララッ!!


「失礼します」


 おっと誰か来たようだ…

 落ち着いた声音と礼儀正しい口調。上履きが静かに床を踏み鳴らし入室してくる。誰だ俺の安眠を妨げるのは。


「どうしたのかね?」

「……」


 ……?

 返答なし。照明に照らされて僅かに透けるカーテンの向こうでは椅子に座った莉子先生が目の前の人影と向かい合っている。

 莉子先生の目の前で立ち尽くした男子と思われる人影はなにを躊躇っているのかなにも切り出さずに黙ったままだ。


「どこか悪いのかい?言ってごらん」

「……」

「ん?」

「先生……」

「うん」

「……大きくなってしまいました」


 お、大きくなってしまった?

 何が?


「またかね」

「すみません、お願いします」


 カーテンの向こうで莉子先生が立ち上がった。男子の前に屈むようにしてふたつの影が重なる。


「脱ぎなさい」

「はい…」


 脱ぐ!?一体どこが大きくなったと言うんだ!!

 カチャカチャと静かに金属音が鳴り響き衣擦れの音と共に床に布が落ちる音がした。


 今のは…下か?下を脱いだのか!?


 場所が保健室なだけに妙な想像が膨らんでしまう。俺まで膨らんでしまう。

 いや落ち着け。そんなことがあるものか。てか、え?なに?


「せ……先生」

「ふむ…確かに大きくなってるね」


 影が重なってて何をしてるのかよく分からない。しかしこれはそういうことなんじゃないのか?他になにが!?


 てかちょっと待て。俺がここにいるのに始めるのか?おっぱじめるのか!?馬鹿な。莉子先生知ってるよね!?ここに俺が寝てるの知ってるよね!?そういうプレイか!?


 どうしようこれカーテン開けていいかな?ちょこっと開けて覗いてもいいかな?バレないかな?


「あっ!先生……」

「あんまり声を出すな」


 あっ!ってなんだ!!気持ち悪い声出すな!!なんだ!!何をしてるんだそこで!!


「先生……」

「ただの治療だ…ただのね……」

「はい……」


 熱くねっとりした気色悪い男子の声と冷水のように冷めた莉子先生の声が対称的。


 --ヌチャッ


 なんだかこっちまでドキドキしてきた刹那に鼓動の高鳴りに滑り込むような微かな水音が……


「あっ!」

「どんな様子だい?」

「い……あ、はい……」

「はいじゃ分からんな」

「はぁ…はぁ…」

「余裕がなさそうだね」


 おいふざけんなてめーそこ代われ!!誰だてめぇは!!大体急患人が寝てるのにその隣でなんたる狼藉!!

 いいかな?これいいかな?出てってもいいかな?

 なんで俺がこんなにモヤモヤしなきゃならんのだ!?え?なんでだ言ってみろ!!


 --ヌチャッヌチャッヌチャッ


「はぁ…ふぅ……」


 聞きたくもない野郎の熱い吐息を聞きながら食い入るようにカーテンの向こうを伺う。


「あぅ……先生……」

「ふむ……いい具合だ」


 あああああああああああああうるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!寝れねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!


「あぁ……っ!!」

「またさらに大きくなったね。手に収まらないぞ」


 手に収まらないくらいでかいのかよ!!なんてこったい!!


「うぅぅぅぅ!!」

「頃合だね……」


 フニィッシュか?フィニッシュなのか!?


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 --ブチッ!!ビチビチッ!!ベキベキメキメキッ!!ドドドドドドドドドドドドッ!!!!


 男子の嬌声と共に保健室を揺るがすほどの轟音と振動、ベッドがガタガタと激しく揺れて窓ガラスが悲鳴をあげる。

 カーテンの向こうで炸裂する謎の奔流--土砂のような謎の大質量が室内に溢れ出すのと共に硬い何かが大量に床を叩きつける音がする。


 --ダンッ!!ガタガタッ!!ドゴンドゴンッ!!ゴトゴトゴトゴトッ!!!!バリンッ!!


 ?????????

 は?は!?え?

 どんだけ出したん!?てか何出した!?明らかに液状では無い何かが飛び出してきたぞ!?


 振動と音が収まった頃、荒い男子の息遣いが溶けるように室内ににじみ出る。達成感にも似た呼吸の音……


 ………………?


「……どうかね?収まったかね?」

「あ…はい……」

「君のぼったらぽんちゃいにも困ったものだね。今月何回目だい」

「すみません……」

「まぁ君のせいじゃないからね…」


 ぼったらぽんちゃいってなんだ!?


「すみません…またお願いします」

「大きくなったらまたおいで」


 小学生からの告白をあしらうみたいな文句と共に莉子先生が男子を送り出した。

 扉の閉まる音を確認してからゆっくりと、恐る恐るカーテンをめくる。


 カーテンから覗く白い床には下痢みたいな黒っぽい謎の液体が…

 泥のように室内を満たすなにかには小石大の固形物も混じってて要するになにか分からん。独特の臭いを放っていた。


「……ん?もういいのかい?」


 汚らしい汚物にまみれた床の上でいつも通りの莉子先生が佇んでいた。なぜそんなに涼しそうな顔を……


「……いや、寝てられんでしょ。なにこれ……」

「騒がしかったかい?すまない。気にしなくていいよ。あ、触らない方がいい。触ったら溶けるよ」

「溶けるの!?気にするなって方が無理だろなにこれ!?」

「これはあれだよ…ぼったらぽんちゃいだよ」

「質問の答えになってないからね!?ぼったらぽんちゃいで誰にでも通じると思わないでね!?ぼったらぽんちゃいってなに!?」


 至極真っ当な疑問をぶつけたら莉子先生は「え…?」みたいな顔をした。え?俺がおかしいの?みんな知ってるの?


「……ぼったらぽんちゃいだよ」

「だからぼったらぽんちゃいってなに!?」

「知らないのか?本当に……?下半身から出てくる…アレだよ」

「こんな大量の汚物しかも溶けるような危険物が下半身から出るか!!」

「……まぁ、縁のない人には分からないかもしれないけど…大変なんだよ」

「そりゃ大変だろ!!こんなの出てきたら!!なにこれ!!解決しないまま帰ったら俺今日寝れないよ!?」


 莉子先生に詰め寄ったその時ちょうどチャイムが鳴った。四限終了の合図に廊下から駆け足のような生徒達の足音が聞こえだす。


「……もう大丈夫そうだね。君も戻りなさい」

「戻れるかっ!!」

「私はこれの片付けで忙しい。健常者の相手はできないよ」


「ほら出た出た」と莉子先生に背中を押され保健室から追い出された。どうしよう俺今日寝れない……


「ああ、空閑君」


 もやもやを抱えて教室に戻ろうとすると、後ろの扉の隙間から顔を出した莉子先生に呼び止められた。


「…………世の中には知らない方が幸せなこともあるよ」


 意味深にそれだけ告げて莉子先生はぴしゃりと扉を閉めてしまった……


 ……………………………………………


 世の中には知らない方がいいこともあるだろう。

 でもぼったらぽんちゃいに関しては知らないとダメだと思った。


 だって俺の下半身からあんなの出てきたら困るもん。

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