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新生!校内保守警備同好会

 --新生、校内保守警備同好会、始動!!


 私、彼岸神楽は今日から本格的に活動再開した校内保守警備同好会の代表に指名された。

 偉大なる前代表の残した同好会の代表に恥じぬよう、今日から一層気合いを入れて校内の安全を守る為に戦う……


 今日はそんな私達の一日…お見せしよう。


 *******************


「--明日から本格的に活動を再開します!」


 時は遡り昨日。解禁される同好会活動に向けての同好会会議。居並ぶ校内の守護者達を前に私と側近に名乗りを上げてくれた鱈羽君が立つ。


 野球部盗撮動画流出事件からのドタバタに加え浅野代表に続いて同好会から3年生が脱退し現在我が同好会はかなりの規模が縮小した。

 最盛期130人を超えた同好会メンバーも今や50人を切っている。しかし、得川、豊富を初めとした不穏分子が排除され組織としてはより強くなったと私は確信している。


「これからは新生、校内保守警備同好会としてより一層励んでいきましょう」

「そこで皆さん、1度地に落ちた信用を完全に回復させ、より生徒から信頼される同好会に生まれ変わらせる為に、僕らは大きく方針転換をします」


 トップに立つ私も鱈羽君も1年生……代表とその補佐という立場は忘れ、諸先輩方と同級生達の前で語る。


 鱈羽君が我が同好会の今までの活動内容、その傾向をホワイトボードにまとめてくれた。私はそれを指しながら今後の舵取りに関して説明する。


「我が同好会は浅野代表時代、主に校内の治安を乱す生徒をブラックリストとしてリストアップし、それを武力をもって制圧することをメイン業務としていましたね」

「うむ」「その中心戦力が彼岸代表、あなただった」「あなたがトップに立てば、ブラックリスト者は震える夜を過ごすだろうな……」

「しかし、行き過ぎた武力行使と独断と偏見とも捉えられかねない取り締まり基準のせいで一部生徒から反感を買っていたのも、事実だと思うんです」


 各々思い当たる節があるのか、シンとする同好会室。


「「とりあえず力でねじ伏せる」というスタンスはこの先通用しないのではないかと私は考えます。野球部盗撮動画流出事件で我が同好会の信用が失墜した原因も、内部抗争による策略があったとはいえ、暴力です」

「うむ」「ではどうする?」「剛田、田畑長篠は卒業するけど、『無音の西園寺』『鎖鎌の穂崎』『ハートブレイクの南田』『殺人鬼大園』…野球部の面々や現代カルチャー研究同好会、世界縄跳び連合…武力で抑えるしか手段のないような油断ならない面々がまだまだ居る。武力行使は必須だ」

「なので…マニュアルを作成します」


 マニュアル?と皆が首を傾げる。

 鱈羽君が仮となるマニュアルをみんなに配って、それぞれが目を通す。


「これまで浅野代表の判断を基準としていた武力行使、取り締まり基準を見直し、マニュアルにより厳格化。これにより取り締まり基準とその対応手段を明確化することで適切な対処を行います」

「かつ、このマニュアルを全校生徒に向けて公開し、校内保守警備同好会の取り締まり基準を明確化することで全校生徒からの理解を得ると共に、より生徒一人ひとりの学校生活に沿った同好会活動を可能にしていきたいと、代表と僕は考えてます」


 具体的なマニュアル内容としては、取り締まり基準にランクを設定し、最低ランクなら注意のみなど。最高ランク及び「めんどくせぇ奴リスト」上位層の暴走時のみ武力行使を許可…といった具合。


「……マニュアルの作成と明確な基準に則った取り締まりは賛成だが…」「これでは緩すぎる。我が校の規律を守るにはこの程度では足りない」「武力をチラつかせなくなればどんどん増長する生徒達が増えてくるだろう…」


 暴力に依存した危険因子が排除された同好会内では頭から私達の意見に反対を見せるメンバーはいなかった。

 でも全体としての総評は「取り締まり基準が緩すぎて不安」というものだった。


 私は続ける。


「我が校内保守警備同好会の活動は事件発生時の対処のみにあらず……前代表が度々行ったように事件の未然防止もメイン活動として取り入れます」

「校内の巡回、持ち回りでの登下校時の付近のパトロールなど……前代表が行っていた治安維持活動をより積極的に……むしろこちらをメインとして行って行こうと僕らは考えてます」


 唸る同好会室。


「……危険な生徒への対処ではなく、トラブルを防ぐのをメイン活動としてやっていくか…」「いまいちイメージが湧かないなぁ」「予測不可能なうちの生徒達を事前に取り締まるのは、かなり難しいだろう」


 私と鱈羽君はみんなの前で頭を下げる。今や一流派のトップにも立つ私ではあるが、校内保守警備同好会を生まれ変わらせるには、彼らの協力が不可欠。

 私はこれから、私だけで新しく校内保守警備同好会を作るんじゃない--ここに居るみんなで新しい校内保守警備同好会を作るんだ。


「ご協力をお願いします。浅野代表の残してくれたこの同好会を……守ってきたこの学校の為に--」

「僕達に力を貸してください」


 頭を下げる私達に「やめてくれよ」と優しい声が降った。

 頭をあげるとそこには信頼と期待を込めた微笑みを湛えた頼もしい仲間達が私達を見ていた。


「代表はお前だ、彼岸」「俺達は着いていく。浅野代表が決めたリーダーだしな」「よろしく頼む」「やってみよう」


 …………みんな。


「--ありがとうっ」


 --ブッ!!


 あっ、屁が出ちゃった。


 *******************


 --そして本日。校内保守警備同好会、正式に活動再開。


 校内で発生するトラブルを未然に防ぐことにメイン業務をシフト。その一環としてまず私達は朝の校門前でのボディチェックから始めた。


「今回はアドバイザーとして葛城先生に来てもらってます」

「よろしくお願いします」「よろしく」「おはようございます」

「……私は校内保守警備同好会の顧問ではないよ?」


 運動部などは朝練で登校時間が早い。加えてやはり武闘派も多い。ので、私達の全校生徒登校前ボディチェックは早朝から行われる。今朝の5時である。


 霞かがった空の向こうから早速続々と生徒がやってくる。


「では皆さん、今日の活動を始めます。違法持ち込みを見つけた際にはマニュアル通りに」

「「「「「「はいっ!!」」」」」」


 校門前に設置された金属探知ゲートと金属探知機と消火器を手にした同好会メンバーの姿に登校第一陣を切った野球部達はギョッとする。


「おはようございます、ボディチェックにご協力ください」

「ぼ、ボディチェック…?」


 ボディチェックで何故か黒い顔を赤らめて服を脱ぎ出す野球部。ゴリゴリの筋肉を露出させる彼らはとりあえずマニュアルにある『校則違反、露出過多』なのでもはやボディチェックの必要もなく確保。


「露出過多なので取り締まり対処です。野球部員はレベル3の対処が適用されます。全員手を頭の後ろに回して膝を着いてください」

「え?」「え?」「え?」「え?」「え?」


 一体何が…?という顔をしてる野球部員達を手早く手錠で拘束して確保。そのまま別室行き…


「なんだよ…脱いだだけじゃないかっ!!」「やめてくれよ…っ!!」「何が起きてるんだよっ!!」

「厳重注意の後解放してください。朝練があるので手早くお願いします。あと、取り締まり基準の説明も…」

「了解でありますっ!!」


 --野球部は部員の8割が後天的トランスジェンダーである。かつ、性に奔放でたまに無差別に男子生徒に襲いかかる傾向あり。故に『要注意部活動』に指定。

 剛田剛先輩の引退から徐々に落ち着きを取り戻しつつあるけど…まだまだ予断は許さない。


 さて、初っ端から実力行使してしまったけれど…



 ピピーーッ!!


「金属探知機に反応あり、調べさせていただきます」

「何も持ってねぇよ!!」

「…これは……対人地雷か……?」

「ちっ…違ぇよ筆箱だよ!!」

「…取り締まり基準『危険物持ち込み』に該当します。これは没収です」

「なんでだよ!!」


「鞄の中をチェックしまーす」

「え…?なんで?」

「校内治安維持強化月間でーす。よろしくお願いしまーす」

「なんにもやましいもの持ってきてないわよ」

「こちらはなんですかー?」

「……純金」

「1000グラム以上の金の持ち込みは事前の申請が必要です。取り締まり基準『不要物持ち込み』でーす。税金払ってくださーい」

「なんでよ!?」


「失礼しまーす、校内保守警備同好会です……おや?それは……?」

「見りゃ分かるだろ……コルト シングルアクションアーミーだよ」

「『危険物持ち込み』は取り締まり対処でーす」

「やっ!!やめろ……っ!!世界一のガンマンは2人要らねぇんだっ!!くそっ!!撃つぞっ!!」

「Cランク危険物行使を確認!レベル4の対処!!総員取り抑えろぉぉ!!」

「コラァァっ!!」「校内保守警備同好会舐めんなっ!!」「叩き潰せっ!!」

「くそうっ……!!俺は世界一のガンマンになるんだァっ!!」


「……校内に生徒の自動車の乗り入れは禁止です。ところでその荷台に積んである機械は?」

「……原子炉」

「没収です」


 *******************


「--登校時の危険物持ち込みを規制、校内巡回強化の結果この1週間のトラブル発生件数は前週から40%も減少してるよ。彼岸さん、これは成功かもしれない」


 鱈羽君の調査レポートは校内保守警備同好会の新体制がこの一週間であげた成果を数字として表してくれていた。

 校内の治安は少しだけ良くなった。屋上で鱈羽君の報告を聞く私の中に僅かな自信と確かな確信が芽生える。


 野球部によるわいせつ事件も減少、凶器等によるトラブルはほぼ無くなったし、生徒間での喧嘩などのトラブルは最も減少率が低いものの巡回強化のおかげで減少傾向にはある。


「校内でのここ一週間の満足度アンケートも「前より治安がよくなった」「安心して登校できる」など…満足度が全体の77%だよ」

「……確実にいい方向に向かってる…」


 取り締まり基準を明確にし公表することで少なくとも「同好会の独断と偏見で生徒を取り締まっている」という不信感は払拭できている。


 伏見先輩事件の時に鱈羽君が語った生徒に寄り添った同好会活動--


 …これが、そういうことなのかな。



「--きゃあああああああっ!!」


 そんな満足感を一気に消し飛ばすのは絹を裂くような女性徒の悲鳴…

 私と鱈羽君が屋上から身を乗り出して悲鳴の出処を探す。するとグラウンドで暴れている怪物が…


「うわぁぁっ!!まただっ!!」「無限監獄からタイタンの怪物が出てきたぞぉぉっ!!」「助けてくれぇぇっ!!」

『--…*『┨□◇』@┨!…&:&#ッ!!』


 山のように巨大な巨人が生徒達に襲いかかっている…その岩のような皮膚は先生達の刺股の攻撃を弾き、駆けつける我が同好会メンバー達の消火器の打撃も全く意に介さず、口から地獄の業火を吐き散らし、蹂躙の限りを尽くす…


 --どれだけ警備を徹底して、ちゃんとしたルールを作っても…私達は必要。

 ルールで取り締まるだけなら私達ではなくても出来る…でも……


「彼岸さん…」

「大丈夫。行ってくる」


 --やっぱりこの学校を守れるのは私達だけだから。


 私は屋上から飛び降りた。手にした大太刀を抜き放ち--


「てぇやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

『┨$&*⇐◇:…×□‰↑׉⇐☆*ッ!!』



 --私は校内保守警備同好会代表、彼岸神楽。

 今日もこの学校を守る為に……剣を振るいます。

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