こけこっこー?
--いよいよ私達の卒業までのカウントダウンが始まったようです。
どうも、昨日お手伝いのバイトをクビになった浅野詩音です。
私達も早いものでもう三学期…始業式も終わり登校日数はあと数える程となった。
この時期になると自由登校になるんだけど私と妹、美夜にはやるべき事が残ってる…
--そう、校内保守警備同好会の復活だ。
私達の率いる校内保守警備同好会はとある事件のせいで無期限活動停止となってしまった。
きっかけとなった事件を解決した私達ではあるけれど校内保守警備同好会はまだ活動再開できてない状況……
この学校には校内保守警備同好会が必要だ。
なぜならこの学校はおかしいから。
この学校を守れるのは私達しか居ない…後輩達にそのバトンを繋ぐためにも私達は最後の大仕事を完遂しなきゃいけない。
--ということで、図書室。
私と美夜、両代表が顔を付き合わせて困ってた。
「……事件解決したのに全然活動許可出ねぇじゃん……」
「事件解決したとしても、うちの同好会の人間が他校の生徒を傷つけたのは事実だからね……こうなったら、私達がひと肌脱ぐしかないよ」
「あ?ストリップでも始める気?」
違う。
「この学校には校内保守警備同好会が必要だって学校側に認識させなきゃ……私達が何か事件を起こして--」
「ちょっと待てよ」
私の案にキツい口調を挟んで、ついでにコッペパンに焼きそばを挟む美夜が反対する。
「そんな茶番みたいなことして、学校の治安を乱して……今まで私らのやって来たことはなんだったんだってなるじゃんか…」
「……」
「それに、私らがなにかして校内保守警備同好会の人間が解決したんじゃどう見ても示し合わせた策略に映るだろーが」
「じゃあ……どうしたらいいの?」
いつになく真剣な表情……美夜もちゃんと考えてくれてるんだね…お姉ちゃん嬉しい。
この子がこんなになにかひとつの事に熱中したことがあるだろうか?
この子の頑張った証としても、校内保守警備同好会は残していかなきゃ……
「…………やべぇ。塩焼きそばだった…」
「………………」
*******************
「--現状、うちの同好会は他校の生徒をいじめたせいで信用が地に落ちてる。それを回復させることが出来れば、学校側も活動再開を認めるかもしれない」
「うん」
「逆に言えば、例え活動再開しても生徒達の信頼が今のままじゃなんの意味もない…そうだろ?姉さん」
「そうだね!!」
「……君達、保健室で相談はやめてくれ」
流石私の妹…的確かつ明確な目標が出来た。私よりしっかり者さんの美夜の掲げる方針に則り私も行動を決める。
「みんなの信用回復……つまりみんなの役に立って同好会は変わってないってところを見せればいいんだね?」
「そーだね」
「頑張りたまえ、そして出ていきたまえ」
「でも美夜…そんな都合よくみんなの前で活躍できるタイミングがあるかな?」
「ただ活動するだけじゃダメだ……私らは今暴力を振りかざす乱暴者…そうではなく、力に頼らず学校の安全を守っていける……そんな組織だってことを見せつける。武力は必要だ……だけどそれはもうみんな痛いほど知ってるはずだからな……」
「そうだね。君らにやられたと今まで何人この保健室に運び込まれたか……」
「私らは武力を制御し、正しく使えるってとこを見せるんだ……」
「……とってもむずかしい事を言うね、美夜。私達なんて今まで「悪即斬」だったからあんまり頭使ってこなかったんだけど……」
「……君達ちょっといいかな?」
その時莉子せんせーが突然作戦会議に割り込んできた。何事?
顔を見合わせる私達の前で莉子せんせーはなにか妙案があるかのような顔をしていた。
「校内保守警備同好会の信用回復ならばひとつ心当たりがある」
「なんですか?」
「実は最近よく保健室に相談に来る生徒が居るんだが……悩みを抱えてるようでね。今の君達の求めている問題かもしれない」
それは……喜んでいいのか分からないけど渡りに船!その子を助けてあげて信用回復よっ!!
「私達に任せてくださいっ!!どうせ卒業まで暇なのでっ!!ね!美夜!!」
「……」
「……期待してるよ、2人とも(よかったやっと帰ってくれる)」
*******************
さぁ仕事だっ!!
勇んで莉子せんせーが渡りをつけてくれた女子生徒の元へ美夜と向かう。ようやく復活の目処が立って私の足取りはかつてない程力強い。
「……ちょっと」
が、そんな足を止めるのは美夜が引っ張った手錠だった。
「?」
「考えたんだけどさ…」
最近よく頭を使う妹がなにやら熟考した末に決断したようだ。私は耳を傾ける。すると美夜は突然「やめよう」と口にした。
「え?やめる?」
「私らもう、卒業じゃん」
何を言ってるの?
「困ってる生徒を放っておけないよ?それに折角校内保守警備同好会の復活のチャンスなのに--」
「だから、私達はもうその校内保守警備同好会の代表の座を空けるんだぜ?」
美夜の言葉で私は彼女の考えを察した。
「同好会の信用を回復するのなら、これからを担う奴が適任だ」
「……神楽さん?」
「うん…アイツにはこの同好会を背負って立ってもらうんだ。神楽の活躍で華々しく復活した方が、同好会のみんなも神楽について行く気にもなるはずだし……」
「……」
「アイツに任せてみないか?」
「……でも、でもよ?美夜…それじゃ美夜や3年生のみんなの名誉が回復できないよ…問題を起こした時点での代表は私達だったんだし……」
「--姉さん」
私は美夜の眠たそうな目を見た。かつてない程眠そうだった…そういえば、誕生日プレゼントのサメのヒレをずっと夜中でも眺めてる……
美夜、そんなに早くフカヒレにはならないよ……
「私らの事はもういいんだよ」
「……美夜はそれでいいの?今まで折角頑張ってきたのに……」
「見返りが欲しくてやってきたの?姉さん」
「……っ」
「思い出せよ。私らの目的を……」
--沢山迷惑をかけた学校のみんなへの贖罪、そしてみんなに許される為、認められる為…
「もう充分だと思う。それに……この学校のみんなの事を思うなら私達が身を退くのがきっと1番だよ」
「……」
「新しい校内保守警備同好会を…神楽に任せよう。新しい力で、同好会を盛り立てて、この学校を守るんだ……」
「……分かった」
「よしっ!!(帰れる、眠い)」
美夜……あなたの心にお姉ちゃん感動しました!!
寂しいけど…同好会は私達の手を離れる日が来たんだね……
--みんなに最後のバトンを託す決意をして私は神楽さんの教室に向かった。
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--浅野代表から特別な任務を拝命した私彼岸神楽は同僚の鱈羽君を連れて写真部の部室へ足を向かわせていた。
「これは校内保守警備同好会の存続に関わる重要な任務だね……僕頑張るよ」
「……ありがとうございます、鱈羽君」
「これからは君がボスだから…」
日本人形みたいな顔をした心優しい彼のかけてくれる期待に対して私は返事を濁しつつ部室の扉へ手をかける。
……私が校内保守警備同好会の代表。
私はまだ浅野代表にその答えを正式に返してない。おふたりは私に期待してくれてる。しかし、私は先輩から渡されたバトンを受け取れる器なのか……
大きな責任に重圧を感じ--怖気付いていた。
「失礼します--」
「くるっぽーーっ!!」「むはははははっ!!」「あはははっ!!」「あと三往復で鼻のニキビ……」
--写真部は校内保守警備同好会も要注意リストとして監視している。活動自体は全うだけれど、問題は部員の質。
部屋の中に響く奇声や絶叫は集団でパニック発作でも起こしたのかという有様である。
なにも知らない人がこれを見たら即救急車という有様であるが、彼らが今まで校内保守警備同好会の取り締まり対象にならなかったのは部長の尽力があってこそだ。
そんな部長こそが今回私が救わなければならない人--
「伏見先輩はいらっしゃいますか?」
「あぱぱぱぱぱっ!!」
「……」「……」
「ぴげーーーーっ!!」
「……彼岸さん、あの人だよ……」
先程の私の説明を全てに無にする事実は目の前で他の部員と共に奇声をあげる丸メガネの少女が問題の伏見珠代先輩であるという現実が突きつける。
ヤバい……
間違いなく保健室登校行きの彼女こそ、3年間この写真部を牽引してきた功労者だというのか……
「……伏見先輩、1年の彼岸と鱈羽です」
「こけ?」
「今日は先輩とお話に……いえ、先輩のお話を聞きに来ました」
「くるっぽー?」
「とりあえず座ってください」
--私達は動物園のような有様の部室の中で通称たまちゃんこと伏見先輩と向かい合う。
ニワトリが憑依したらしい彼女は首を小刻みに左右に振っていて明らかに正気では無い。
「伏見先輩…あなたが最近大きな悩みを抱えてると聞きまして…私達校内保守警備同好会がお力になれればと伺いました」
「僕ら今は活動禁止されてますけど…生徒の安全を守るのが僕らの仕事ですから…」
「こけ?」
「なんでも話してください」
「こるる?」
「伏見先輩は写真部を3年間支えてきた功労者です。たくさんの賞を受け、この写真部を導いてきたあなたは我が校の誇りなんです。こんな形で終わらせる訳にはいかないのです」
「くっくどぅるどぅるるー?」
……か、会話が通じない。
今までこの手合いは剣で黙らせてきただけだったけど……こんな狂人と時には真っ向から言葉を交わさなければいけないなんて…
浅野代表は今までこんな大変な仕事を……
当然のことだけど、力でねじ伏せるだけでは校内の治安を守ることはできない。
今まで一戦闘員に過ぎなかった私はその難易度の高さに目眩がした。
これが浅野代表が見てきた景色……
「……彼岸さん、こういう時は相手の心に寄り添うことが大切なんだと思うよ」
途方に暮れる私へ鱈羽君が耳打ちする。
しかし、こんなニワトリレベルの知能指数しかない人の心に寄り添うとは……?
「先輩、トウモコロシ食べます?」
なぜかトウモロコシの粒を持っていた彼が手のひらに乗せて差し出したら伏見先輩、頭から手に突っ込んでむしゃむしゃ食らいつく。
「…………ふぅ」
あれ?正気に戻った?
……鱈羽君、凄い……
「…………?あなた達は?」
「校内保守警備同好会です。伏見先輩、あなたがおかしくなってしまった原因を突き止め、先輩をお助けしに来ました」
「帰って……」
ようやく会話が成立するようになったのに、彼女の虚ろな目は私達に拒絶を持って対する。
「……伏見先輩、伏見先輩ほどしっかり者で写真部をまとめてきた人がおかしくなるなんて、僕ら見過ごせません。先輩には人間のまま卒業して欲しいんです」
「失礼な……今だって人間やらせてもらってるつもりですけど?」
そういう彼女は鳥のような挙動で頭を振っていた……
「お聞かせください……何があったんですか?」
「僕達力になります」
「……君達にはどうしようもないよ」
目を伏せた伏見先輩の顔は深い闇に沈んでいる。明日を見失ってしまった人の目…私はこの目を知ってる。
自分の歩むべき道を見失ってしまった人の目だ。本来の自分を見失い、今までの自分を忘れてしまった--
「--伏見先輩」
「もうほっといてよ……私、あとは卒業するだけなんだから…私……」
「そう……あなたにはまだ卒業という最後の大仕事が残ってます。私達が、お手伝いします」
「……」
「私達の事を写真という形で見守ってくれたあなたのような尊敬できる先輩を、ニワトリ小屋に就職させるわけにはいかないんです。大切なお友達と、笑顔で巣立っていけるお手伝いをさせてください」
「……大切な友達?」
瞬間、伏見先輩の目がギョロリとこちらに向かった。丸く剥かれた目はそう……ニワトリのようだ。
「……その友達に私は……いいえ、友達だと思ってた。でもそれは私の単なる思い上がりで……」
「……先輩?」
「話してください。僕達が全て受け止めますから……」
鱈羽君のおでこにニワトリが嘴で突っつくような挙動で襲いかかる伏見先輩はその勢いのまま激昂した。
「あなたに分かる!?初めて出来た友達だと思ってた人に裏切られて、好きな人を取られた気持ちがっ!!」
「……」「……」
「もうその人への想いは実らないっ!!私は一生惨めな人生を送るんだ!!この残酷な失恋を引きずってっ!!私はあのふたりのそう!養分にされたのよっ!!こけーーーっ!!」
いけないっ!!またニワトリに……
「……そのお友達のお話、聞かせてくれませんか?」
諦めずトウモロコシ片手に食い下がる鱈羽君に対して「こけーーっ!!こっこっ!!けーーっ!!」と両腕を激しく羽ばたかせ威嚇する伏見先輩はそのまま椅子から飛び降りて走り回る。
……事情は何となく分かった。
けれど……
「こけーーっ!!こっこっ!!こけーーーっ!!くっくどぅるどぅるるーっ!!」
……校内保守警備同好会はこんな失恋者のカウンセリングまでしなきゃならないの…?
私はそんな気持ちを羽毛を飛び散らかせながら走り回る先輩を見つめながらぐっと呑み込んだ…




