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プルルルル

 正月は早馬のように過ぎていく…

 あっという間に終わってしまった冬休み。愛染高校にも新学期がやって来た。

 とはいえ私達3年生はあとは卒業を待つのみ…登校する日はあと何日もない。始業式が終われば私はまた東京へ戻る。


 そんな宇佐川結愛の新学期に早々に事件が降りかかる。


『もしもし?私メリーさん、今あなたの家の前に居るの…』


 始業式の最中空気を読まずに鳴り響く着信音…耳元に届くのはそんな訳の分からない報告だった。

 ちなみに始業式にスマホが鳴っても誰も注意しない。私という最強の存在に苦言を呈する猛者は誰も居ないのだ。


『……もしもし?私メリーさん、今あなたの家の前に居るの…』

「……」

『…………もしも--』

「聞こえてるよ。なに?どちら様?」

『私メリーさん』

「要件は?」

『今あなたの家の前に居るの…』

「今家誰も居ないよ?」

『え?……そうなの?』

「私学校だし、じいちゃん町内会の集会だから…」

『……そっか。えっと、今どこに居るの?』

「だから学校だつってんだろ?」

『…………今からそっちに行くね?』

「あっそ」


 ……誰だ?メリーさんて…外人の知り合いなんてノア・アヴリーヌくらいしか居ないけど…

 ……なんか分からんけど番号登録しとこ。



 --メリーさん。


 それは内閣総理大臣の顔より有名な都市伝説…捨てたはずの人形が電話をかけながら徐々に自分の元に近づいてくる。そして最後に『今あなたの後ろに居るの…』とかかってきてしまったなら最後--


「……どうなるんだ?」


 そんな疑問を呟くが始業式が終わった後渡り廊下を歩き教室に戻る列の中でその疑問に答える奴はいない。なんか有吉は行方不明だ。


 ……もしかしてあれって都市伝説のメリーさん?


 私人形なんて捨てたかな……?って思い返してみるが記憶にない。そんな可愛らしいものを手元に置いていた記憶もない。

 全く身に覚えがないにも関わらず絡んできたメリーの野郎に段々苛立ちが込み上げてきたその時。


 プルルルルルルルルッ


 きた……メリーだ。


「もしもし?」

『もしもし?私メリーさん、今学校前のコンビニに居るの…』

「ちょうど良かった。『フレッシュビンターDX』3本買ってきてくれない?」

『え?…ふれ……?』

「食器用洗剤だよバカヤロウ。ビンタするぞ?」

『……』

「頼んだからな?」



 --かったるい始業式が終わったら帰るだけ。担任からあーでもねーこーでもねーという話があったけど右から左に聞き流して消化していく。


 すると……


 プルルルルルルルル


 ホームルーム中にけたたましく鳴る呼び出し音。スマホを開いたらメリーだった。


「もしもし?」

『もしもし?私メリーさん、『フレッシュビンターDX』売ってないって言われたの…だから今正門の前--』

「国道沿いのホームセンターならあんだろ。頼むわ」

『……』

「切らしてんだよ仕方ないだろ?あ、あとホームセンター行くなら座椅子も買ってきてくれない?じいちゃんのが壊れたから…」

『……』

「頼むな?」



 ホームルームも終わればあとは帰宅だ。またしばらくここには来ない…

 折角ならと校内をブラブラしていると…


 プルルルルルルルル


「はい?」

『もしもし?私メリーさん、今ホームセンターに居るの…座椅子の色何色がいいのか教えて……』

「何色があんの?」

『えっと……赤と青と薄紫と白と黒…』

「じゃあ黒で。汚れ目立たないし」

『分かった…』


 真に気の利く奴はこんな事でいちいち電話してこないんだ。無難な色を選んでくるものだ。そして気に食わなかったらもう一度買いに行く。それが真に気の利いたお使いの作法である。


 ……飽きたし帰るか。


 校門に向かって行くと前に立ちはだかる何者かの姿……よく見なくてもそれは我が弟子、佐伯達也だった。ない片腕の袖が風になびいてる…


「……先輩、いや師匠。もう卒業式まで登校しないんですよね?」

「おう」


 達也の奴はグッと唇を噛み締めて深々お辞儀。


「お世話になりました…俺、俺っ!!先輩のおかげで強くなれました!!」

「んだよ大袈裟な……気が早いよまだ3ヶ月くらいあんだから……何日かは登校日もあるよ。予餞会とか…」

「え?今出てこないって……」

「私はな?」


 東京で圭介の世話しなきゃだから…


「……えぇ?いいんですか?」

「いいんだよ。達也、こういう挨拶は卒業式まで取っとけ」

「いや……俺卒業式の日は千夜とデート…」

「舐めてんのか?」


 プルルルルルルルル


「すまん電話」

「あ、はい…どうぞ」

『もしもし?私メリーさん…今どこにいるのか分からないの…』


 何してんだよコイツ…そんなベタな……


「ふざけんな。洗剤と座椅子買ったんだろうな?」

『買ったよ?けど……ここどこ?』

「スマホで地図見ろ」

『私の電話、ショルダーホン……』

「どこで見つけてきたんだよそんな古いの…」

『どこ?ここ……助けて……』


 ちっ!お使いの洗剤と座椅子があるからなぁ……


「今からそっち行くからお前ホームセンターまで戻れ。動くんじゃねぇぞ?」

『分かった……』


 は?なんでメリーさん迎えに行かなきゃいけないんだよ、ふざけんな。


「達也……」

「はい」

「メリーさんって普通向こうから来るもんだよな?」

「は?」


 *******************


 居ねぇじゃねぇか。


 国道沿いのホームセンターまでわざわざ迎えに行ったってのに、メリーの奴どこに行きやがった!?

 てか、メリーの顔知らんな私…でも人形だろ?ん?人形が買い物なんてできるのか?


「仕方ない……電話するか」


 とうとう私から。居るか?かつて自分からメリーさんに電話かけた奴。


 プルルルルルルルル


『もしもし?私メリーさん……』

「おいお前どこに居るんだ?ホームセンター来たけど居ないぞ?動くなって言ったよな?」

『……ホームセンターがどこか分からなくなったの…』

「なんでだよ今行ってきたんじゃねぇのか?」

『もしもし?』

「あ?(怒)」

『私メリーさん、今高校の前に出てきたの。たまたま着いたの。今正門の前に居るの…』

「もう学校居ねぇよ私!!」

『……え?』

「ホームセンターまで迎えに行くっつったろ!?もういいから家まで来い!!」

『……』

「今度は迷うんじゃないぞ?タクシー使えタクシー、分かったか?」

『……分かったの』


 全く使いのひとつもできないのかあのメリーは…



 マッハ3で通過して周りの全てをぶち壊し帰宅。じいちゃんはまだ帰ってなかったようなので1人でメリーの奴を待っていたら家の前にタクシーが停る。

 どうやら来たようだ……


 メリー……いや洗剤と座椅子の到着に私が家の前に出てくると固そうな動きでタクシーの運ちゃんと一緒に座椅子を降ろす女の姿…


 茶髪ロングの頭にやたら布面積の少ない服を着た身長120センチくらいの女の子の後ろ姿だった。

 やたらツルツルで白い肌を露出させた変態みたいな格好のソイツが振り向く。


 メリーって人形だよな……?


 なんて私の視界に飛び込んできた一見ただの女の子だが……


「……私メリーさん」


 その顔は真顔で上手く表現出来ないが…間違いなく作り物とは分かる程度のリアリティ感の女の顔面だった。


「……」

「私メリーさん」

「お客さん、6830円です」

「……え?メリーさんってもっとぬいぐるみ的なもんだと思ってたけど…結構マネキンっぽいな」


 メリーさんって家で大切にしてた人形捨てたら~みたいな話しよな?こんなん普通の家にある?てか家には間違いなくなかった…


「私メリーさん…食器用洗剤と座椅子買ってきたの」

「お客さん、6830円です」


 ドスンッと座椅子を家の前に降ろすメリーとタクシーの運ちゃんの手が伸びてくる。


「……レシートは?」

「ないの」

「領収書がご入用ですか?」

「ないのかよ、じゃあ立て替えてやれねぇよ」

「そんな理不尽な事ないの……」

「利用証明、発行しますよ?」

「……てめぇは今すぐ帰れや」


 運ちゃんに睨みを効かせたら「ひぃぃっ!!」って半べそかいて逃げだした。女の子相手に失礼極まるが…生憎持ち合わせが4000円である。


「……私メリーさん、お金……」

「だから領収書貰って来いって」

「私メリーさん(怒)」

「知ってるってば」

「なんでこんな目に遭わなきゃならないの?」


 ……そうだな。私もそう思う。


「……ところでなんの用?私と面識あったっけ?」

「私メリーさん…自分の家に帰ってきただけなの」

「お前の家じゃないけど?」

「私メリーさん…ここのおじいちゃんが私を連れて帰ったの……」


 じいちゃんが買ったの?


「私メリーさん。ダッチワイフなの…」

「嘘つけ!!うちのじいちゃんもう80過ぎだぞ!?」

「私メリーさん、あの人毎晩なの……」

「おいやめろ!!一緒に住んでんだぞ!?じいちゃんが孫に隠れてダッチワイフで毎晩とか聞きたくないわっ!!」

「私メリーさん…もう要らないって捨てられたの…」

「…………悪いんだけどさ…うちの狭いしお前みたいなデカいの置いとく場所ないんだよね?」


 廃棄済みダッチワイフに非情な現実を突きつけてやると、メリーの奴プルプルと小刻みに震えだした。


「…………使いっ走りまでさせておいて…帰ってきたら……こんな……」


 怒ってる……メリーさん怒ってる。

 てかじいちゃんの持ちもんならじいちゃんに電話かけてこいよ……


 なんて、度重なる電話に若干イライラしてたら突然メリーの奴の形相が豹変する。

 明らかに人工的な眉毛が吊り上がりカッと目を見開いたメリーがくわって口を開けてぐわぁっ!!って両腕広げて襲いかかってきた。


「私メリーさん!!許さないのっ!!」

「あ?(圧)」

「あっ……ごめんナサイ……」


 多くの人々に恐れられた現代怪異の代表格がこのザマか……なんだか情けなくて涙が出てくるよ……


「…………私メリーさん、行くとこないの……お金もないの……」

「お金ないのにどうやって洗剤と座椅子買ってきたの?」

「買ったせいでお金ないの……」


 ……なんかごめん。


「……まぁ、でも…家の人間なら家で使うものは共同出資だから……悪いけど洗剤と座椅子はお前持ちな?」

「メリーさん人間じゃないし、この家から追い出されてるの……」

「そうだな。でも一時期は住んでたわけだから……」

「暴論なの……」


 もう帰ってくんないかな……

 喋るダッチワイフとか気味が悪くて仕方ないんだよ。

 なんて、半眼でメリーを見つめてたらいよいよ子鹿みたいに震えてたメリーがその場にうずくまっておいおいおいと泣き出してしまった。


「このままじゃパッカー車に押しつぶされて焼却されるの……まだ死にたくないの……ヨヨヨ……」

「ダッチワイフに死ぬとかあんの?」

「私まだ現役なのに……」


 だとしても家にダッチワイフとか置きたくないんだわ……


 しかし存在を認識して居なかったとはいえ同じ屋根の下で過ごしたダッチワイフがこうして涙を零してる様を見るのはどうにも忍びない。

 けどやっぱりじじいのダッチワイフとか家にあげたくない…


「…………私メリーさん、ディルドも装着できるの」


 ふたなりダッチワイフ!?だとしても要らねぇよ!?


「どう?」

「どうじゃねぇ。じいちゃんとダッチワイフ共有とか冗談じゃねぇから……とにかく……」

「ぐすん……ううっ……うぅぅぅぅぅっ…ううううぅぅぅぅぅっ……私にはもう帰る家がないの……びぇぇぇぇっ!!」


 …………………………

 ……あーーっもうっ!!


 私は宇佐川結愛…弱い者いじめは許さない。これじゃ私がいじめてるみたいじゃないか……


「……仕方ねぇなぁ!!」




「--えっ!?クビですかっ!?」

「うん、明日から来なくていいよ。浅野さん」

「そ、そんないきなり……どうして?」

「新しいお手伝いが来たからな…」

「新しい…………」


「もしもし?私メリーさん。家政婦ダッチワイフなの」


「……っ!?」

「…………てわけだから。ごめんな?浅野さんよ。じいちゃんには私から言っとくから」

「……あの…結愛さん。それでしたら今までの未払いのお給料を頂きたいんですけど……?」

「…………………………あ?」

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