生徒会の愉快な仲間達
--10月。
文化祭に向けて各学年、クラスの出し物が決まり全てが承認され、いよいよ11月に向けて本格的な準備期間に入った。
とはいえ期末考査もすぐだ。浮かれてばかりもいられない。しかしやはり気持ちが浮ついてくるのも仕方ないだろう。
さてそんな昨今の生徒会だが、生徒会役員は自分のクラスと生徒会での出し物の両立が忙しい。
俺、広瀬虎太郎もまた今日は生徒会役員達での生徒会からの出し物を決める会議に出席していた。
生徒会の広報である俺にとって文化祭というのは非常に多忙だ。
各クラスの出すポスターの承認や地域への宣伝、学校ホームページの管理…全て広報の仕事になる。
周辺地域の住人や大学や中学の教員も訪れる文化祭は学校の宣伝にはもってこいで、広報にとってはとても大事なイベント……
なんて言えば聞こえはいいが、実際のところ一生徒である俺にはそんなことは関係ない。仕事は多いが、顧問の監修が入るし責任が大きい訳でもない。
学校の宣伝なんてのは俺の気にするところじゃないし、顧問も仕事よりイベントを楽しめと言ってくれている。
それに俺ら2年生は来年受験だ。この時期になったら文化祭どころじゃないだろう…
本格的にイベントを楽しめるのは今回が最後……
なので俺もたまにははっちゃけたい。
--さて、そんな訳で絶賛文化祭の出し物を決める会議中なんだが……
「だから!食べ物屋やろーよ!」
ホワイトボードの前で声を張り上げるのは2年書記長--花菱百合子。
小柄な体系に茶髪のツインテール。気の強さからくる騒々しさは高校生の落ち着きを感じさせない……
中学生くらいに見える生徒会の仲間だ。
「私はラーメン屋さんやりたい!!」
「……馬鹿、自分のクラスの出し物もあるんだぞ?常に人が要る屋台より他の事のがいいだろ…展示とか……」
花菱に反論するのは眼鏡をかけたいかにもインテリな容姿の生徒会会計長--小河原秀哉。
縁なし眼鏡にオールバック…背が高く整った容姿に落ち着きのある雰囲気。成績は常に学年トップクラスという絵に描いたような優等生。ザ・生徒会役員。
女子にもモテモテのぶっちゃけ会長より会長っぽい小河原が冷静な観点から花菱の要求を真っ向から否定する。
「展示とか私ら参加出来ないじゃん!!」
「いや…俺らの展示なんだから参加してるだろ?」
「じゃなくて当日やることないじゃんってこと!!実質最後の文化祭よ!?そんなんつまんない!!」
……まぁ、花菱の言い分も一理ある。
うちの学校の生徒会は3年からは選ばれない。ほとんどが2年生で構成されたメンバー達にとってこの文化祭は修学旅行を除けば学校生活最後のイベントだ。
ただ参加するだけの修学旅行と違い、文化祭は自分達で何かを作り上げられる最後のイベント……ただ展示で終わらせるのも寂しいのは事実。
……しかし小河原の言い分も正しい。
自分らのクラスと生徒会の出し物の両立では、自分らが楽しむ時間もないだろう。
「……時間を決めてその間だけ出店するというのは、どうでしょう…?」
そう提案してきたのは書記1年長篠風香。
書記長リスペクトなのか同じくツインテールの髪色は金髪と中々派手だ。うちの学校は比較的自由なので髪色についても自由なんだが俺としては生徒会役員として風紀は気にして欲しいところ……
しかし見た目に反してこの子は真面目でよく仕事をする。ただいなり寿司を食べすぎて腹を壊すというおっちょこちょいな一面もある子だ。
「おー、流石風香。そーだよ時間を決めてその間だけやればいーじゃん!」
「はい!私は展示がいーです!クワガタの展示会したいです!!」
花菱の意見をフルシカトして手を挙げたのは庶務1年、田畑レン。
長篠とは親友らしくよく一緒に居る。
長い黒髪からは清楚なイメージを抱くがその実長篠より奔放でいい加減な性格だ。右目を前髪で隠したメカクレヘアーは視力が心配になる。
「……この時期にクワガタって生きてるの?」
両手を顔の前で組んだ司令スタイルの男子--副会長2年、大葉雄太郎。太郎の部分が俺と被ってる…
野球部員でもあるスポーツマンにして生徒会副会長、もはや隙のない学校の中心人物だ。坊主頭が元気のいいやんちゃ坊主を思わせるが生徒会の柱としてぶっちゃけ会長より優秀だったりする。基本うちの生徒会は女子より男子のがスペックが高い。
ちなみに後輩がオカマになったのが最近の悩みらしい。
「オオクワガタとか寿命長いですよ?ね?風香」
「展示したって冬眠中じゃん、何が面白いの?」
「起こそう」
「殺す気か?」
中々纏まらない。そもそも漠然と“これをやりたい”というのすら決まってないから纏まりようがない。
……こういう時纏めるのが会長なんだが……
「……」
生徒会長--潮田紬。
ぼーっとホワイトボードを眺めて話し合いに参加しない彼女の横顔から察するに「あの漢字なんて読むんだろ?」とか考えてるな。
……さて。
話が纏まらず平行線のまま議論は続く。
「……みんな何をやりたいのか1人ずつ案を出してから決めたらどうだろうか?」
副会長の提案にその場の全員が賛同した。このままじゃ時間の無駄だ。全員の意見を聞けばとりあえず何をやりたいかという漠然とした指針は決まる気がする。
「じゃあ浅野さんにも連絡します?」
長篠の言葉に副会長が「いや、あいつはいいだろう…」と苦々しい表情で返した。
浅野とは会計の1年……なのだが、幽霊役員なのだ。生徒会に入ってからろくに生徒会の活動に参加したことのないとんでもない奴…そもそも登校してきてるのかも怪しい。噂じゃ超頭がいいらしく学年トップなんだとか。
さて、そんな生徒会の愉快な仲間達が配られたメモ用紙に各々希望する出し物を書いていく。
……俺は何がいいだろう?
やはり食べ物屋だろうか?しかし文化祭の予算もカツカツだ。あまり金はかけられないし、生徒会も人手がいっぱいある訳じゃないし……
色々悩んで俺は用紙に『映画』と書いた。
制作過程でちゃんと参加してる感味わえるし上映時間を決めておけばその時間だけ居ればいいし映像として思い出にも残るし素人レベルの撮影なら金もかからないだろうし……最近はスマホのカメラですら高性能だから。
「じゃあひとつずつ書いてくねー」
花菱がみんなの案を集めてホワイトボードに書き込んでいく。
会長--唐揚げの売り歩き
副会長--クワガタ展示
花菱--ラーメン屋
長篠--ネイルサロン
田畑--クワガタ展示
小河原--モザイクアート
俺--映画
展示系が四つ…え?副会長クワガタなの?
このままだと多数決でクワガタになりそう…というかみんな癖が強い。
「……クワガタ展示って何すんのよ。レン」
「駒太郎をみんなに見てもらおうよ」
「おい、ネイルサロンってなんだ」
「小河原先輩知りませんか?ネイルアートを……」
「違う。そんなチャラチャラしたのを学校でやるつもりか?」
「小河原だってそんなつまんなそーなの展示してどーすんのさ。大体モザイクアートとかみんなやってるよ?」
「黙れ、ラーメン屋も大概だ。他のクラスでやってるぞ?そもそもラーメンなんて作れるのか?」
「そこは副会長…」
「誰の顔がラーメン屋だ」
やいのやいの--
普段から纏まりのない生徒会。案を出し合ったことで余計に纏まらなくなった。みんな我が強すぎて譲らない。
「…みんな喧嘩しないで」
あーでもないこーでもないと言い合ってるメンバーのやり取りに静かに割って入った会長の一声にその場の全員が黙る。ここだけ切り抜けば会長の貫禄。
その見た目と佇まいからみんなからの信頼は厚いポンコツ会長はホワイトボードをじっと見つめてから提案する。
「…みんなやりたいことをやればいい。折角の文化祭なんだから、楽しくやろう」
鶴の一声--会長のその一言でその場の全員が納得してしまった。流石全校生徒のリーダー…
肝心なのは場を纏めただけで結局なにも解決してないことだけど…
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「ふむ…生徒会は映画が観れてモザイクアートも鑑賞できてネイルアートもしてもらえてクワガタが居る唐揚げを食べられるラーメン屋台ね……」
提出されたカオスな申請書を顧問が真面目な顔で読み上げていく。
結局みんな会長の発言をどう解釈したのかみんなのやりたいことを詰め込んだ手間しかかからない問題だらけのラーメン屋ということで話は着地した。
着地してしまった…
生徒会役員と言えば優等生で成績優秀な人達というイメージだがもしかしたらうちの生徒会はアンポンタンばっかりなのではないだろうか。
「…映画の上映スケジュールを決めて、その間だけ営業するっていう方針で……」
「いいんじゃない?オッケ」
「いいんですか……」
思わず聞き返しちまったよ。クワガタの居る飲食屋台って衛生的にどうなん?
「予算は1万円ね?」
「い、1万……」
「楽しそうじゃないか。頑張れよ」
こいつ絶対もう面倒臭いだけだ。
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「通ったんだ…」
「通ったんだね…」
「すごいね…どーすんの?」
出し物が決定した旨を伝えるとそんな反応が返ってきた。通ると思ってなかったのかよ…
「予算1万円だって」
「1万円でどうやってラーメンと唐揚げ出すんだよ……」
「副会長の家から麺を貰おう」
「誰がラーメン屋だ」
「会長ー」
あまりの低予算に困り顔の面々が会長を見る。先行き不安な生徒会の舵取りは会長に託された。
「……楽しみだね」
相変わらずの鉄仮面からちょっと浮かれた声音が溢れ出た。
ダメかもしれない……
方針が決まったことで再度会議が再開。
とりあえずクワガタは長篠と田畑が飼ってるクワガタを連れてくるということで…
モザイクアートは学校から出る古紙を使って作ろうということで解決。
問題はラーメンと唐揚げと映画とネイルサロン。
「……ラーメンはいいよ。ラーメンは…唐揚げもいいよ」
「予算的にアウトだ」
「ネイルサロンどうすんだよ……」
副会長と小河原が苦々しい顔をして面を突き合わせる。
「長篠、ネイルアートできるんか?」
「…………描くだけじゃん?」
「だめだ」
「……ネイルサロンは、プロから教えてもらおう…お店で研修しよう…」
会長がそう提案しみんなそうしようと同調する。解決したように見えてなにも解決してない。
こいつらもう会長に寄りかかってなにも考えたくないんじゃ……
「ラーメンは袋麺でいいでしょ?唐揚げはコンビニで買おう……」
「予算1万円でしょ?何人分用意できんの?てか、私ラーメン拘りたいんだけど…ちゃんとお店から仕入れよう」
「馬鹿を言うな花菱」
「そうですよ先輩、話をややこしくしないでください」
小河原と田畑からのバッシングにしゅんとして黙りこくる花菱をよそに話し合いは進んでいく。会長のふわふわした提案に乗っかるかたちで進行する会議はひとまず区切りを迎え、とりあえず時間のかかる映画から取り掛かることになった。
……ああ、全部やるなら映画とか言い出さなければ良かった……
「……で、虎太郎。映画って何撮るの?」
「会長は何がいい?」
「ラブロマンス」
「人形劇とかにしよっか」
「……なんで聞いたし」
「広瀬よ…折角やるんだからそんな安易な発想に逃げるな。スポコンにしよう」
「じゃあ野球部の密着ドキュメンタリーにしよう」
「いや…うちの部にはオカマが居るから……」
本気で表情に影が差した。深刻な問題らしい。
「ゴジラ的なやつでいこう。怪獣もの!」
「敵役はクワガタね」
「じゃあクワガタは実写で」
「面倒臭いから全部作り物にしよう」
面倒臭い1年を黙らせて話を進める。言い出しっぺなだけあって映画の構成についてはみんな俺の意見を聞いてくれる。普段は俺の話なんて聞かないのに…
「で?映画ってどうやって撮るんだ?」
小河原の疑問に全員が閉口する。
特撮ものの撮り方の知識も造形もない俺たち…漠然と「映画を作ろう!」と目標があってもふわふわしすぎて何をしたらいいか分かんない。
そもそも撮影時間も編集も手間がかかるし本当になんで映画とか言ったんだよ俺……
「まず脚本……」
「だね。会長はどんな感じのが作りたい?」
「ラブロマンスじゃないよ、会長」
「………………」
なにも案が無い様子。会長が黙ってしまったらもう生徒会は前に進めない。オーマイガー。
そもそも映画という案が出たというだけで組み込まれたので誰もこういうのが作りたいっていうビジョンがない。困った。
完成系もモチベーションもない生徒会が立ち往生してる時、長篠が何かを閃いたようだ。どうせろくな案じゃないだろうけど聞こう。
「1年にすっごい映画好きの子がいるんですよ!その子にアドバイスを貰いましょう!なんなら脚本も書いてもらって撮ってもらいましょう!」
「それはもうその子の作品じゃないか……お前本当はやる気ないだろ」
「やる気ないのは広瀬先輩でしょう…私はネイルサロンがやりたいんですって」
「できないんだろネイル」
「何事も挑戦ですので」
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さてそんな訳で右も左も分からない生徒会に頼もしいアドバイザーがやって来た。
普通科1年、阿部凪さんだ。
「……はわわ。一体何用で……」
まるで警察に連れてこられたような阿部さんの動揺っぷりたるや。なにか咎められるような心当たりでもあるのか?
同学年の長篠と田畑が説明して納得した阿部さんは「そういうことでしたら…」と快く協力してくれることになった。
「特撮ですか……怪獣もの…」
「うん。どうやって撮るの?」
「え…いや撮り方とかは分かんないけど…今は動画編集ソフトとかあるし素人でもそれなりに作れると思う」
「クワガタは?」
「え?クワガタ…?」
「敵役はクワガタって決まってんだ」
田畑よ誰が決めた。
「いいんじゃない…かな?」
「それでだ。俺らは映画とか全く分かんないからアドバイスが欲しいんだよ。ストーリーとかどうやって作ったらいい?」
「……え?そこから…?決まってないんですか?」
やめてくれ俺が恥ずかしい。映画マニアを前に「ノリで作ろうって決めたんだ」とか言えない。
「参考までに阿部さんの好きな映画を教えてくれないか?折角作るならいいものを作りたいし…色んな映画を観てる君のアドバイスが欲しいな」
俺の問いかけに阿部さんは途端にキラキラと目を輝かせた。好きな話をできる時のオタクの目だ。本当に映画マニアなんだろうな。
この人に頼って正解だったかもしれない。モチベーション皆無の俺たちでもこれならいい映画が……
「それでしたら…モンスターパニック系なら『ドSスネーク2』がオススメですね!!」
……ん?
「むかーしの映画なんですけど今観てもグロ描写が秀逸で……ヒロインの恋人がスネークによってたかって嬲られるシーンとか…演出は古いんですけど俳優の苦しそうな演技がなんとも……」
……お、おう。
「あと最近なら『サイコクロコダイル』のリメイク版ですね!シリアルキラーとワニが合体しちゃう話なんですけど、犠牲者一人ひとりの殺戮シーンが凝ってて……」
……なんか違うな。
もっとゴジラとかガメラとかそういう系の話を期待してたんだが、溢れ出るB級臭…しかも評価ポイントがグロ描写ばかり……
「あ!クワガタのクリーチャーを出すなら『ナチスの残滓』もオススメです!中盤にクワガタが品種改良されたクリーチャーが出てくるんですけどあれがまた--」
彼女の熱弁は実に一時間にも及んだ。
最初引いてた生徒会メンバーも彼女の熱に引き込まれて途中からは真面目に話を聞きメモまで取り出す始末…
阿部さん曰く名作の条件とはいかに攻めたスプラッター描写を作れるかということらしいが……それは多分彼女にしか当てはまらないと思う。
レンタルビデオ屋で借りてきたという彼女イチオシのB級ホラー映画の鑑賞会まで始まり、気づけば辺りは暗くなり、ポツポツ明かりの消え出す校舎内にはいつまでも無名俳優の悲鳴と絶叫が響き続けていた--
「……先生、上映する映画が決まりましたので……」
「おう、見せてみろ」
--翌日顧問に手渡された映画の脚本にはでかでかとタイトルが踊ってた。
--殺戮クワガタ〜響く絶叫、血と臓物〜
…………俺らの文化祭は早速暗礁に乗り上げた気がする。




