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ムッチャラキコキコとお風呂に入ろう

『エイリーンの母』退治はまた今度や。

 温泉旅行2日目、夜。

 ウチ、楠畑香菜と小比類巻睦月とムッチャラキコキコと行く温泉の旅、最後の夜や。

 明日には帰ってまうけど……


「…睦月コレどないするん?」

「ミャーーッ」


 また晩飯の魚の骨でダメージを負った馬鹿に摘み上げたムッチャラキコキコを見せるけど、今度は喉にぶち刺さった睦月はそれどころやないらしい。


 激しく吐血しとる。


「かはっ!!」

「…これ、野にでも放てばええんやろか?ええんやろか?」

「ええんやろかって……ここで捕まえたんだからここに放していいに決まってるだろ?」

「特定外来生物とかやない?」

「温泉の妖精だっつってんだろ?」


 ムッチャラキコキコは聖なる温泉にのみ宿る、深層階層魔宮聖殿を攻略する勇者のみが連れられる神聖な生きもん…らしいわ。

 湯ん中に家の建っとる温泉でもろた温泉卵の中に入っとった。

 ちなみに2匹居る。


 ムッチャラキコキコについて今分かっとることはまず肉食やて事。隙あらば目玉ほじくろうとしてくる。卓球でほじくられた睦月の目ん玉は取り返したけど……


「ほら、魚やで〜……」

「ミャーミャーッ」むしゃむしゃ

「白飯やで〜……」

「ミャーミャーッ」むしゃむしゃ

「……白菜やで〜…」

「ミャーミャーッ」むしゃむしゃ


 ちゃうわ、なんでも食うわコイツら。

 あと、1日1回くらい風呂に入れてやらなキレる。現にほら、ウチの手の上で爪立てて肉を抉ろうとしとるやろ?

 ほんで、オスにはチ○コがある。


 今ここに居んのはオスとメス……


「なんだ脱糞さん、愛着沸いちゃった?もしかして連れて帰るつもりか?」

「……しかし家にはゴキブリもムカデもうさぎも居るし…」

「え?うさぎ?」

「この前から飼い始めたんや。今は田畑と長篠に預かってもらっとるけど……喋るうさぎやで?」

「……段々変なのに手を出すようになったな。珍獣コンビの悪影響を受けたか…」

「アホか、ウチは元々動物愛護主義者や。でもコイツら……オスとメスやねん……」

「だから?」

「子供出来たら困るやん?」

「繁殖させてムカデの餌にしたらどうだ?」


 ……サイズ的にウチのゴンザレスならちょうどええ飯って感じやしなぁ…餌は晩飯の残りで事足りるやろうし……


「…………」

「ミャーッ」「ミャーッ」

「おい脱糞女、真剣な顔して悩むなよ!ビビってこっち来たついでに俺の漬物を奪い去って行くんだが!?」

「……睦月のアパートってペットダメなん?」

「俺に飼えと…?」

「だってなんか…放ったらかしにしとったら犬とかに食い殺されそうやんコイツら…睦月ムッチャラキコキコ捕まえようとしとったやんけ」

「俺コイツらに目ん玉取られかけてんだけど?」

「卓球球にするからやろ?」

「ガキこさえたらどうすんだよ……」

「去勢するか?」


 オスのムッチャラキコキコが股間押さえて机から転がり落ちるみたいに逃げよる…コイツらなんかウチらの言葉が分かる風やな…


「……上手く使えば色々役に立ちそうやない?頭ええよコイツら多分」

「ほぅ…ならば俺の役に立つなら考えてやろう。喉の奥に刺さった小骨取ってこい」

「ミャーミャーッ」


 睦月の口こじ開けて中入ってくのはなかなかショッキングな光景やった。満腹なら人にも従順。なんか見とったら可愛ええやんって思えてきたわ……


「むごっ!?もごごごごっ!!」


 睦月はムッチャラキコキコ喉に詰まらせた。


 *******************


 この旅行でウチ、密かにやりたいことがあるんやけど……それは…………


「--さぁ!飯食うたし風呂やで!!」

「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」

「なんやねんホームシックかいな」


 流石にどう持ってこうかっていい案が浮かばんかったから半ば諦めとったんやが…


「ぐすん……脱糞さぁん……俺ここに来て1度も混浴に入れてない……」

「カノジョの前でよう泣きながら混浴への未練を語れるな?」

「猿だって混浴するのになぜ人の混浴がないんだ?俺はそれを楽しみにここに来たと言っても過言では無いのに」

「混浴ねぇ……」

「色白美人と背中流しっこしたかった……」


 これがウチのカレシや。涙が出るやろ?


「……なんか、ただ風呂に入るだけとかもう飽きたし俺いいや…」

「汚いやろ入れや。何しに来たねんアンタ」

「いやもうこの2日で1ヶ月分くらい風呂入ったし……1ヶ月分の垢取れたし…俺ムッチャラキコキコと遊んでるからお前大浴場行ってこいよ」


 ……そうか。


「……混浴なら入るんか?色白美人が背中流してやったらお風呂入る?」


 駄々っ子あやすみたいに言ったら「うん」やて。寝っ転がった腹の上で跳ねるムッチャラキコキコは「はよ風呂入れろ」てキレとる。


「……男はアンソニー…女はモンローにするか……どうだろうか脱糞さ--」

「せやったらウチが流してやるから入ろうや」

「…………?」


 --ウチが温泉旅行でやりたかったこと。

 カレシと混浴。


「部屋の露天風呂やったら男女で入ってもムッチャラキコキコと入っても問題ないやろ。そういえば部屋の風呂1回も使っとらんし…」

「……っ!?」

「嬉しいやろ?夢に見るくらい愛しとるカノジョとお風呂や。はよ脱げ」

「……え?…………えぇ?えぇぇ?」


 なんやねんその顔はっ!!


「おいっ!女に恥かかせるつもりかいっ!?おどれ男やろどうなんやっ!!ウチの肌が見せたろ言うてんねんっ!!」

「なに!?なんで!?どうした急に!?いつからそんなスケベにっ!?いやーーっ!お嫁に行く前の娘がそんな……っ!!いやーーーっ!!」

「おどれは黙って脱げばええんや!!脱げ!!ハダカ見せてみぃやっ!!」

「あーーーーれーーーーっ!!」



 --これぞイチャイチャの極地やろ?

 カレシと温泉やぞ?これくらいのイベントはないとなぁ?帰ってきて「なんもありませんでした」じゃ笑われるやんけ。

 誰に?


 案の定露天風呂からの眺めは最高やった。日が暮れてぼんやり灯りに浮かびあがる夜の温泉街と山のシルエット…外のひんやりした空気と熱い湯の温度の寒暖差は温泉入っとるなって実感させるわ……

 ほんで、部屋付き露天風呂やからやっぱ狭い。


「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」


 結果、2人で入ろうとしたら密着具合が素晴らしい感じになるわ。もち、睦月にとって素晴らしい感じや。

 睦月の脚の間に挟まるみたいに体を入れてウチが入る。ウチらの周りをムッチャラキコキコが気持ちよさそうに目ェ閉じてぷかぷか浮かんどる。


「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」


 ほんで睦月は震えとる。


「え?寒いん?」

「いや……ガタガタガタガタガタどうして……ガタガタガタガタガタこんなことに……?俺達インプラントなお付き合いをしてきたじゃない……」

「プラトニックやなくて?」


 近い……睦月の吐息がうなじにかかる。つむじから背中あたりにかけて視線を感じてなんだかむず痒いわ。


「いいい、いいんですか!?こんな……あわわ……むっちゃん震えが止まらない……」

「女々しい奴やな……ええやん恋人なんやから。開き直ってこのチャンスを存分に満喫したらええやん」

「こんなエロ漫画みたいな展開……」

「エロ漫画言うな」


 振り返ったら青いんか赤いんかよー分からん顔色で睦月の目が凄い勢いで泳いどる。手もどないしたらええのか分からんみたいで変な風にウチの両脇でわきわきしとる。


「くっ……くくっ……ぶっ!!」

「ぶっ!!て……あれ?今屁こいた?」

「吹き出したんやぶち殺すで?……いやぁ、やっぱおどれをからかうのは楽しいな」

「いやぁぁっ!!そんなにこっちの振り返ったらオ○パイが……おぉ……」

「……そこは凝視すんの?現金やな」

「……脱糞さん、旅先の開放感でおかしくなったんじゃない?なんで今日こんなにサービス精神旺盛なのさ。あ、痛、ムッチャラキコキコに足かじられた…」

「アンタがおねだり上手やからやない?」


 ……これは、イける。もっとイける…


 背中を睦月の胸板に添わせるみたいに…引っつけて、少しずつ頭を上げてって…

 顔近。


「だだだだだだ脱糞さん!!」

「……この雰囲気で脱糞呼ばわりされたら色々萎えるんやけど……なぁ……」

「これなに!?何が始まったの!?いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

「いやなんなん?女みたいな悲鳴出すなや。気持ち悪い……」

「脱糞さん今日おかしい…」

「……旅先の開放感やな。こんな日はもう二度と来んかもしれへんで?なぁ睦月…」


 ……コイツ、ヘタレやなぁ。

 なんか焦れったくなって来た。睦月から来て欲しいんやけどコイツ43度の温泉の中で極寒の雪原のど真ん中くらいの勢いで震えとるだけやし……


「…………ウチの事嫌い?」


 段々恥ずかしくなってきたわ。色んな決心揺らぐ前に迫る。囁くみたいに言ったら睦月がビクンってなった。足でムッチャラキコキコ潰しやがったで。悲鳴が聞こえた。


「…………えっと。俺…脱糞女好きだけど……」

「え?あ……おう。そか……まぁ…せやろな……うん」

「なんでお前が照れるんだよ…」

「だけど?」

「……………………いや。脱糞さんの方がどれくらい俺の事好きなのか…分かんないから……」


 とりあえず女々しい口は唇で黙らせとこ。

 実はキスもまだ2回目。告白された時と今とで。しかもどっちもウチからや……


「……脱--」

「全く情けない男やな」

「……え?なに?これはやはりそういう感じなの?今回は邪魔が入る要因がなさそうだし……え?」

「なんや?嫌?」

「嫌じゃない」

「……なら、ウチも嫌やない--」


 *******************


「……ふぅ……いくらなんでも2分で発射は早すぎるんちゃうん?」

「ひぃん……そんなこと言ったって……」


 布団の上で丸まる睦月君はウチの胸の中にすっぽり収まって、汗ばんだ体を引っ付け合っとる。ほぼ肌でも火照った体が合わさると不思議と寒くなかった。


 そして奴は早かった。


「……僕、脱糞さん可愛いから緊張しちゃって……上手くできないんだ…」

「僕!?なんやそれキモっ!!」

「おいそんな言い草はあんまりなんじゃないのか?」


 僕緊張するってのがホンマかどうかは知らんが事が終わってもウチの乳を指でフニフニフニフニしとるんはあれか?緊張紛らわせる為なんか?


 なんかこんな睦月いつもの睦月やなくておかしいんやけど母性的なものが湧いてくるから頭くしゃくしゃ撫でてやる。睦月の頭に触れた事なんて何回もないかもしれんけど髪の毛女の子みたいに柔らかくてサラサラ指の間を流れるわ。


 なんかウチよりつやつやしてね?ウチ染めたりなんやらかんやらしとるけもしかして傷んどる?


「脱糞さん、脱糞さん。俺が修学旅行で告白した時、脱糞さんなんて言ったか覚えてる?」

「脱糞オンナ言うたら肛門にタバスコぶち込む言うた」

「だっ…………香菜ちゃん「お試しから」って言ったんだぜ?覚えてる?」

「……なんが?」

「それを俺が訊きたいんだが…お試しして馬が合わなかったら別れる的な意味じゃなかったのかと俺は思ってたが……」

「…………男女の交際なんてお試し期間みたいなもんやろ?」


 そんなんで奥手になっとたん?正直、そんなこと言うたのか覚えとるらんけど…

 睦月の頭に顔突っ込んで髪の匂い嗅ぎながら答える。


「……結婚の」

「…………え?重。びっくりしたわ…え?割と重たい。脱糞さんって将来の夢お嫁さんとか言っちゃうタイプなん?脱糞の花嫁?」

「正月一緒にウチの実家帰ってくれへん?挨拶しとってや。「娘さんの処女美味しかったです」て…」

「……あの見た目怖いお兄ちゃん、居ない?」

「居る居る。お兄ちゃんもおかあちゃんもお父ちゃんも居るで」


 いつか行くんやけええやんっ!!


 ウチの事が好きすぎて幼児退行しよるカレシを抱きしめてくすくす笑う。とりあえず、ヤる事ヤッたんやからお試し期間は終わりとちゃうん?


「また脱糞言うたけタバスコな?」

「いや違うから、他の奴の脱糞女は蔑称だけど俺のは愛情表現だから。あれ恐ろしいほどきついからマジで勘弁してくんない?」

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