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深層階層魔宮聖殿

「やっほー☆滝川エレキテルだよ♪」

「君が……プロフィールのまんまだね」

「当たり前じゃんwきょーはよろしくねおにーさん☆」


 みんな、JKは恋をしなきゃいけないんだよ?恋してー、ドキドキしてー、甘々な日々を送ること!試験とか〜べんきょーとか〜、そんなんより大事なこと!


 あたし、滝川エレキテルは今日も恋を探す。

 あたしの人生は運命を探す旅…なんちゃって☆

 まーせっかくの冬休みだし?この制服着れるのもあと数ヶ月だし?JKできるのもあと少しだし?JKしとかなきゃ損じゃん?

 いつか現れる素敵なあたしの王子様を探しに今日も参りますか〜。


 今日の相手はマッチングアプリで知り合ったこのおにーさん。

 21歳IT系職らしーけど予想だと多分28歳肉体労働系。かつ、夜勤明け。


「おにーさんの事はYYさんて呼べばいいん?」

「うん…あ、今日はよろしくね…エ…滝川さん」

「エレキテルって呼んで♡」

「……っ、エレキテルちゃん。今日ほんとに制服で来てくれたんだね……はぁはぁ…」

「YYさん、JKの制服好きなん?」

「あぁ……JKとデートしてるって感じがする」

「キモ☆感じってかまんまJKデートだよ?バレたら社会的に抹殺されるやつだよ?ウケるw」

「それでも今日は来た価値があったよ…JKじゃなかったら撲殺しようと思ってほら……警棒持ってきてたんだ今日」

「ヤバw」


 鼻息荒々のJK大好きYYさんとお出かけ☆


「ねーYYさん腕組もー☆」

「……っ!?え?生JKの体に触って…」

「生JKw」


 むぎゅうっ!

 今日は盛れるブラ着けてんだー☆どーよ?生JKおっ--


「くっ!あっ!!」

「なにそのキモい声w」

「……すまないトイレでパンツ洗ってきていいかな?」

「え?w」



 --あたしは男の子に恋してるんじゃなくて恋に恋してんの☆だから基本誰でもいーんだけど、今日の相手はヤバすぎーw

 流石にちょっとキモいわ。暗くなる前にバイバイして後でマッチングアプリで通報しよー♪


「……ふぅ、お待たせ。元気してた?」

「YYさんも元気そーで良かったー♪ね、映画観よー☆」

「映画?いいよ……はぁはぁ……」

「さっきから鼻詰まってんの?w」

「ふふ……気にしなくていいよ?いい匂いだね……」

「さっきから言動全てがキモーイw」


 あたし観たい映画があるんだー♪

 今日は一応恋人だけどコイツキモいからなるべく存在認知しなくていいし、ちょーど観たいやつあるし、これってイッセキニチョーってやつじゃね?マジで草w


「なになに?なにを観るの?」

「秘密ー♪」


 なんかキモいから目隠しさせとこー♪


 なんかキモいからカップルシートやめとこー♪


「はぁはぁ……目隠し取っていい?」

「まだダメー☆」

「手を……繋いでいいかな?」

「イカ臭いからヤダー♪」

「はぁはぁ……ポップコーン……」

「ポップコーンが体で弾けて死んだ人居るんだって☆草」


 今日はそんな映画だよー☆


「そろそろ始まるから目隠し取っていーよ」

「ありがとう……はぁはぁ……」



 --ジャジャジャーーーンッ


「やば☆映画館の音響ってヤバいよねー☆ドキドキしてきちゃった☆」

「90年代のB級映画みたいな雰囲気だけどこれなに?はぁはぁ……」

「サイコーだからこれ、マジで。巨匠ヤリスギーノ監督のサイコー傑作とも名高いんだから!」

「はぁはぁ……聞いた事ないな。誰?ヤリスギーノって……」

「……は?(激怒)」

「あ、ゴメンナサイ……」


 おめーマジで人間か?知らねーなら黙って観てろ猿。ぶち殺すぞ?

 これこそ『ドS村』シリーズに並ぶヤリスギーノ監督の代表作!


 ポップコーン爆弾人間っ!!



『oh......No!!』

『Oh my God!?』

『Helpme!!』


 --バゴォォォンッ!!!!


 あらすじ☆

 ナチスの実験で人間を破裂させるポップコーンが開発されてて、それを商品化しちゃったおバカさん達のせいで町中が人間ポップコーン爆弾だらけになるってお話♪


 見どころとしてはやっぱポップコーンみたいに人間が破裂するとこだよねー☆


「……はぁはぁ…これ、なに?」

「やばくねー?はぁ〜たまんないわ〜この飛び散る内蔵の描写がさ〜☆」

「……?」

「やっば、この小腸ドアップにすんのセンスありすぎwたまんないんですけど☆」

「……はぁはぁ……エレキテルちゃんはこういうのが好きなの?」

「うん好き☆」

「……血と臓物が?」

「人間がズタボロになってるとこ見るのが大好きなんだー☆」

「ガタガタガタガタガタ……」


 猿にも分かる世界のげーじゅつよね☆

 ね!YYさ……


「……あれ?」

「助けて……っ!マッチングアプリで殺人趣向の女の子とマッチングして命を狙われてるんですぅ!!」

「あれ〜?どこ行くの〜?」

「ひぃぃぃっ!!助けてぇ!」


 ……もー映画館で叫びながら走るとかありえなくなーい?やっぱお猿だね☆


「……てか、お客さんあたしらの他に1人しか居なくて草w」


「……あ〜…………やっぱいいなポップコーン爆弾人間……阿部凪、感動してます…」


 *******************


「お客様があの『深層階層、魔宮聖殿』から来られたお客様とは知りませんでした」


 は?


 --カノジョとついでにムッチャラキコキコと行く温泉旅行2日目、朝。


 旅館で朝食も済ませ外湯にでも入りに行くかと支度していた俺こと小比類巻睦月様と脱糞女こと楠畑香菜の元に飛び込んできた女将は両手を合わせて懇願する。


「お願いします!この街を脅かす魔物を倒してくださいませ!深層階層、魔宮聖殿への行き方は何人も知らないのです!!」


 ちなみに深層階層、魔宮聖殿とは昨日俺らが適当に口にした多分……どっかのダンジョンの…Lv90超えくらいの敵が出てくる所。


「何言うてんのかちょっとよく分からんのですけど……」

「女将さん、俺らしがない旅人でごぜぇやす」

「ムッチャラキコキコを従えし勇者…魔宮聖殿より現れし魔物を倒すだろう……この温泉街に伝わる古くからの言い伝えです。」

「「知りません」」

「魔物を倒し勇者…永遠に尽きぬ富を得るだろう……とも」

「女将さん、魔物の被害にお困りならこの小比類巻にお任せ頂こう。報酬を用意してお待ちください」



 --さぁやっていこう!

 温泉旅行2日目は化け物退治だっ!


「なぁ、馬鹿なん?どないすんねん!どこやねん深層階層魔宮聖殿って!」


 朝湯のタイミングを盛大に逃がした脱糞女はご立腹だが、街の人達が困っているというのなら話は別であろう?

 …特に困ってなさそうだが……


「脱糞女…怪物の被害に困ってる人達を助けたらご褒美が貰えるんだぞ?知らんのか?」

「いや、倒せたらやん。どこやねん深層階層魔宮聖殿て」

「かのヘラクレスだって12の試練を突破して神様になったんだぞ?」

「神様にでもなりたいんかおどれ。で、どこやねん深層階層魔宮聖殿て」

「おっ、こんな所にちょうどいい物干し竿が。お母さん借りるね?」

「あっ!ドロボーっ!!」

「ドロボー言われとるやん。てか物干し竿で深層階層魔宮聖殿攻略するつもりなん?」

「お母さん、俺ら今から深層階層魔宮聖殿に魔物退治に行くんです」


 魔物の被害は余程甚大らしい。事情を説明したら「どうぞ」だって。


 …で?深層階層魔宮聖殿ってどうやって行くんだ?


「……脱糞女」

「ウチを見るな。全部おどれのせいや。大体昨日の卓球オリンピック代表に勝って100万もろたのに欲出すからこないなことになっとんねん。ウチの朝風呂どないしてくれんねん」


 そんなに怒るなよ。


「……あの風呂屋で訊いてみよう」


 みんなも覚えておいて欲しい。こういうのは事前の情報収集が大切だ。準備不足で挑むほど失敗のリスクは跳ね上がる。

 まぁみんなはムッチャラキコキコを従えてないから深層階層魔宮聖殿には行けないとは思うんだが…



「オヤジ、深層階層魔宮聖殿への行き方知ってる?」

「…っ!お前さんら…あの『エイリーンの母』と戦う気か!?」

「どないなっとんねん…なんやねん『エイリーンの母』て…」


 ふらりと立ち寄った外湯のオヤジが何やら知ってそうだぞ。


「…詳しく教えてくれ、なんだ?『エイリーンの母』って…」

「深層階層魔宮聖殿に棲む魔物さ…この世の全てを呑み込む、天界の神すら恐れる最悪の災厄…」


 ヤバそうだ……


「この世の全てを憎み……この世の全てを殺戮する……最凶の魔物さ。森羅万象、あらゆる存在を殺し尽くす…殺戮の獣。万象の理の頂点に立つバケモノさ」

「とんでもない肩書きばっかりやで、やめとこ?ウチら旅行しに来ただけやから……」

「オヤジ、その『エイリーンの母』にはどうやったら勝てる?」

「諦めとらんのかい…」

「冗談だろ?兄ちゃん……悪いことは言わねぇ……アレは世界中で恐れられてるバケモノだ。何者も勝てないさ…」

「いや、俺ら予言の勇者なんスけど…」


 とりあえずその証?っぽいムッチャラキコキコを見せておこう。あって良かったムッチャラキコキコ。一家に一台ムッチャラキコキコ。


「っ!?そいつァ…お前さんら…まさか本当に…!?」

「うん」「ちゃう、これ温泉で拾っただけやから」


 オヤジ、ムッチャラキコキコの姿に何かを察した様子…オヤジは下手なごぼうより太い親指を奥へ向ける。


「…アンタらみたいなのを待ってたぜ…うちの床は基礎戦闘力を底上げする効能がある。金は要らねぇ…アンタらが伝説の勇者だってんなら…入ってきな」

「…ありがとう。ところで深層階層魔宮聖殿への行き方は?」

「ちゃうから金は払うわ」



 --基礎戦闘力向上の効能の実感はなかったがとりあえずタダで朝風呂にありつけた。


 それにしても世界最凶の災厄が一温泉街限定で被害を出しているというのもおかしな話だ。

 倒すべき『エイリーンの母』の話は分かった。後は深層階層魔宮聖殿への行き方だけだ。

 待ってろ報酬。


「なぁ、何が悲しくて温泉旅行来て物干し竿担いで魔物退治行かなアカンねん。もう諦めようや…」

「黙れ。永遠に尽きぬ富だぞ?あそこの土産屋のおばちゃんに訊いてみよう」


 今度こそ深層階層魔宮聖殿への行き方を教えて貰おう…


「深層階層魔宮聖殿?あそこは恐ろしい所さ…地獄が極楽に例えられる程のね…」

「で?どうやって行くんだい?おばちゃん…」

「やめときな…悪いことは言わないよ…」

「ミャーーーッ」

「…っ!それは…ムッチャラキコキコかい?」

「なぁ、そろそろ訊いてええ?なんなん…ムッチャラキコキコって……」

「そいつを連れてるってことはアンタら……本物だね。ちょっと待ちな……」


 おばちゃん、奥から何かを持ってきた。そんなことよりどうやったら深層階層魔宮聖殿に行けるんだ?


「コイツを持っていきな…回復のポーションだよ」

「「回復のポーション!?」」

「『エイリーンの母』は強大だ…回復薬は欠かせないからね…この世界の命運、託したからね……」


 ……土産屋にポーション売ってんだ……


 ……で?深層階層魔宮聖殿への行き方は?



「……なぁ睦月もう諦めようや」

「いや、まだだ……あそこの軒先に座ってる爺さんならきっと何か知ってるぞ」


 お茶屋さんの軒先でお茶を嗜む片足の無いおじいちゃんを発見。この人はアレだ、よく居る勇者を助けてくれるお助けキャラ的な…間違いない。


「…この脚か?『エイリーンの母』にやられてな…」

「ヤバいでこの爺さん、なんも訊いてないのに勝手に話し出したで…」

「『エイリーンの母』…憎しみに囚われた哀れなる女王よ…アンタら、彼女の憎しみを解放して救ってやれることができるのかい?」


 ……『エイリーンの母』とやらは何やら複雑な事情を抱えているようだ。


「その為に深層階層魔宮聖殿への行き方を探してるんだが……爺さん知ってる?」

「……これを」


 しわくちゃの手が何かを俺に握らせる。

 何やら手のひらの中にパワーを感じる……気がする。これは……


「……お守りじゃ。そこの神社で買った…あらゆる魔法を防ぐ力があるわい…『エイリーンの母』の魔法攻撃は要注意だからな」

「「……」」

「彼女を苦しみから解放してやってくれ…頼むぞ……」




 ……いや、深層階層魔宮聖殿への行き方は?


「……てか、女将さんが深層階層魔宮聖殿への行き方は何人も知らんみたいなこと言うとったやん」

「じゃあ俺だって知るかよ!!」

「おどれが深層階層魔宮聖殿出身みたいな事言うからこないな事になっとんやろ!!」

「一言も言ってねぇよ!!」


 くそーっ!!このまま宿に帰れねぇぞ!?どうすんだ!?温泉街の連中みんな俺らが『エイリーンの母』倒すもんと思ってんぞ!?宴の準備してるぞ!?


「……なんで温泉入りに来て深層階層魔宮聖殿なんか目指さなきゃいけないんだ?」

「こっちの台詞やボケ!!」


 くそ…戦闘力バフにポーションに魔法防御装備まで揃えたってのに……


 ……


「…そういえばムッチャラキコキコを連れてるのが勇者の証的なこと言ってたな?」

「うん」

「ミャーーーッ」


 ならばコイツが深層階層魔宮聖殿への道案内役的な存在なのでは?

 俺の手の上で俺に威嚇するムッチャラキコキコをそっと地面に降ろす。


「…きっとこいつが知ってる」

「……なぁ、知っとったとしてホンマに行くんか?世界最悪の魔物やぞ?その物干し竿で?」


 黙れ、物干し竿Lv99だぞ?


「ミャーーーッ」

「「……」」

「ミャーーーッ」

「「…………」」

「ミャーーーッ」

「「………………」」


 ……睨み合う俺らとムッチャラキコキコ。ミャーミャー言うだけでまるで動こうとしないだと……?


「…なぜ?俺にどうしろと?」

「ウチに訊くなや。深層階層魔宮聖殿へは自力で行け言うことちゃうん?」

「ミャーミャーーーッ」

「……え?じゃあコイツらなんのために居るの?」

「そもそもなんで温泉の精霊が深層階層魔宮聖殿への道案内やねん。アホか?」


 …………………………

 おいおい……


「……え?どうすんだよ。これ…」

「……」

「……」

「ウチを見るな」


 どこにあんだよ。深層階層魔宮聖殿…

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