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お黙りP!!

 --東京。

 そこは紫信号のない街……信号機の色のバリエーションが三色しかないこの異色の都会へこの僕、橋本圭介が降り立ったのにはわけがある…


「……いよいよだな、圭介」

「はいプロデューサー…もう武道館までの道筋が一直線に見えてますから……」


 ヤッテ・ランネー・プロダクション所属、マネージャー折月早田照。

 僕の…そう、僕の…!!この橋本圭介のマネージャーであるっ!!便宜上(?)プロデューサーと呼ばせてもらう。


 冬休みが始まったのと同時に橋本圭介のトップアイドルへの歩みがとうとう本格始動したのであるっ!!


「……で?今日は何すんだよ」


 ヤッテ・ランネー・プロダクション所属、アイドル専属ボディガード、宇佐川結愛。

 僕の彼女です。

 僕が晴れて正式にアイドル活動を始めたのをきっかけにバイトを始めました。時給1050円だそうです。


 僕らは今、折月Pの運転する車で事務所まで向かっていた。

 そう、今日は--


「今日は圭介とユニットを組む相方との初対面、かつCDデビューに向けての本格始動だ、圭介、気合い入ってるな」

「はい、金髪にしてきました」

「……私それ嫌い」

「あ、はい……」


 金髪のヅラを外したら隣の結愛さんは満足そうに頷く。ボディガードのはずなのに彼女の機嫌が僕の命取りになりそうな気がするんだ……

 なんせ冬休みの2週間はずっと東京で結愛さんと過ごすんだし……


「……ムフフ」

「どうした圭介。アイドルらしからぬ顔をしているが……」

「P、コイツの面はデフォルトでアイドル向きじゃねーだろ」



 --ヤッテ・ランネー・プロダクション事務所。


「おーーーほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!」


 出た。

 本気坂48、城ヶ崎麗子。


 僕らを盛大に出迎えてくれたのはこのヤッテ・ランネー・プロダクションの大看板、トップアイドル城ヶ崎さんだ。

 僕は彼女から目をかけてもらっている。しかし……


「現れましたわね!!ケースケ!!私が以前言ったこと、お忘れですのーーっ!?」

「城ヶ崎さん……」

「おい城ヶ崎、レッスンはどうした?」

「お黙りっ!!P!!それどころではございませんわーーーっ!!ケースケ!!いよいよ正式にデビューするそうですわねーーっ!!」

「あ、はい……」

「なんだよお前……さっきまで武道館までの道筋が見えてたとは思えないへっぴり腰だな」


 黙って、結愛さん。この人の圧はあなたのせい……


「ケースケ!!カノジョ持ちアイドルなどこの城ヶ崎は認めませんわーーっ!!カノジョかアイドルかどちらか、選ぶのですわーーっ!!」

「おい城ヶ崎、スケジュールがあるんだ今日のところは……」

「お黙りP!!」

「……お黙りピーって……なんかしゃべるポケ〇ンみたいだな……」

「……いいですわね…キャラ付けで○○ピーッてつけるの……なんだか可愛くありませんかことーー!?おーーーっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!」


 やめておいた方がいいんじゃないかな…?その高笑いとお嬢様口調だけで胃もたれするくらいキャラ立ってるし……


「ケースケ!!その女を連れたまま事務所の敷居を跨ぐ事は許しませんことよーーーっ!!」

「じょ……城ヶ崎さん……」


 断固として僕と結愛さんを認めない城ヶ崎さんの仁王立ちが立ち塞がる。まさかあなたが僕のトップアイドルへの覇道の最大の障害として立ちはだかるなんて……

 なんて絶望してたら隣から殺気が……


「おい、お前さっきから何様だ?」

「お黙り!!うちの事務所は恋愛禁止ですわっ!!」

「所属前から付き合ってんだよ、こっちは……てめぇこそ黙らねぇと二度と人前に出られねぇ面にしてやるからな?」

「城ヶ崎さん聞いておくれ。結愛さんは正式にこの事務所のスタッフになったんだ。アイドル専門のボディガードに……」

「ボディガードが今私に危害を加える宣言しましたわーーっ!?」

「おいコラ。私は仕事しに来たんだよ。お前のせいで仕事にならなかったらてめぇ……給料代わりに出すんだろうな?今すぐそこをどくか顔面の皮とお別れするかだ。3分待ってやる」


 意外と猶予が長い……


「くっ……なんというオーラですこと!?しかしっ!!トップアイドル城ヶ崎麗子!!私が全てのアイドルのお手本になることこそが、業界の先駆者として後進へ道を示すことになる--ほべぇぅっ!?」


 城ヶ崎さんがなんか言ってた時にはもうグーパンが飛んでた……


「うぉぉっ!?城ヶ崎ぃぃぃっ!?」

「城ヶ崎さぁぁぁぁぁぁんっ!!」

「ぶべらっ!!……おっ…おっほっほー……かはっ!!」


 *******************


 --今日からアイドル専属のボディガードなるスタッフ第一号が来ると聞いていたが初日から解雇されたらしい。なんかアイドルを殴ったんだそうだ…捕まらなかっただけ運がいい。


 ……さて、そんなことよりだ。


 レッスン室で練習着に着替えて今や遅しとその時を待つ俺の心はかつてない程の緊張感に苛まれていた。

 親父の経営するこの事務所にやっとこさアイドルとして採用され、レッスンに次ぐレッスン……

 親のコネでアイドルになったという周りからの冷たい視線を黙らせる為に俺は誰よりも過酷なレッスンに耐えた……


 そしていよいよ、デビューする。


 今日はその、記念すべきユニットを組む相方と初めて会う……緊張で固くなるタマではないが流石に今から心臓が破裂しそうだ。


「いやぁすまんな!遅れたっ!!」

「P!」

「せめてプロデューサーと呼んでくれないか?どいつもこいつも……」


 プロデューサー、折月さんが入室!いよいよか……

 そしてその後ろに続くのが……


「紹介しよう、早川。この男が俺の惚れ込んだ伝説のダンサー……そしていずれお前と共にトップに立つアイドル……橋本圭介だ」


 --現れたのは丸メガネの少年だった。

 マッシュルームカットに牛乳瓶の底みたいなメガネをしたリアル版のび太君みたいな…

 その……申し訳ないがあまりにも冴えないビジュアルの男の子だった。


「へへ……どうも」


 その上笑顔まで締りがない……というか、どこかで会ったような…………



「圭介、彼は早川大地はやかわだいち。君よりほんの少し前にアイドルオーディションに合格してデビューを待っていた期待の新人さ。このプロダクションの社長の息子ではあるが、コイツの実力は本物さ。俺が保証する」


 Pの紹介に乗っかり俺も相棒へと挨拶する。友好の証の握手だ。


「早川大地です。大地って呼んでくれ」

「あ、ども……」

「そんなに固くならないでくれ」

「僕の事はけーちゃんで……」

「…ああ、分かったよけーちゃん」


 握手した手は汗ばんでいた。


「いやぁ……こんなに顔がいい人だと手を握っただけで緊張しちゃうなぁ。へへ…参ったねどーも」

「……」


 なんか…おっさんぽい。


「さ、自己紹介も済んだことだし……これから2人は新ユニットとして来年2月末にCDデビューを目指してレッスンしてもらう!!」

「はい、よろしくお願いします、P」

「ついに始まるんだ……僕のトップアイドルへの覇道が……」

「2人とも気合いは十分だな。ではユニット名を発表する!」


 Pがホワイトボードを引っ張ってきた。さっき落書きしてたポラえもんが…恥ずかしい。


「……お前ら2人のユニット名は……」


 --ああ、この瞬間…俺はどれほど待ちわびたか……

 正直ちょっと相方には期待外れだが、それでもようやく念願のアイドルに俺も……


 駆け上がってやる……!トップアイドルにっ!!

 見せてやるんだ……夢に破れちまったアイツ……戦友、小倉にも……!!

 アイツの分まで俺が--


「--『おひねりちょーだい』だっ!!」


 ダ、ダサい……


「……お、『おひねりちょーだい』ですか、P…」

「そうだ大地。『おひねりちょーだい』だ。お前らはアイドル世界のハングリーさを体現した存在になるだろう。ピッタリだ」

「具体的にはどこが……?」

「なんかこう……ユニット名から金せびってる感じが……なりふり構ってない感が出て……」


 それはハングリーさを表してるのか?


「……けーちゃんはどう思う?」

「え?おひねりってお財布に入れてもいいんですか?」

「いや、お客さんからおひねり貰ったら事務所に1回全部渡せ」

「えぇ……」


 …………どうやら彼と俺とは目指す場所が違う様だ。



「--それじゃお前らのデビュー曲を発表する」


 運命の瞬間だ……

 生唾ごくんの俺の横でくしゃみと鼻水をかますけーちゃん。緊張感がないぞ。


「……題は…」

「ごくりっ」

「『いよーっぽん』…日本の古き良き伝統を感じさせる名曲だ」

「……P、ふざけてんすかさっきから…」

「何言ってんだ!!この曲は素晴らしいぞ!!いずれアイドル業界の頂点に上り詰めるお前らに相応しい!!」

「……これは社長からの、俺を簡単にトップへは行かせないという試練ですね?分かりました」

「考えすぎだ」

「だって……曲もユニット名も相方もこんなにダサい……」

「えっ!?大地君酷くないかい!?こう見えて、可愛いカノジョだって居るんだよ僕はっ!!」

「……大地、曲名だけで判断するな」

「聴かせて貰いましょう」


 Pの指がラジカセのボタンを押して再生させる。なんか…今どきラジカセなのも……

 そして俺は全神経を集中させて流れてくるメロディーに耳を……


 ~イヨーーーッポンッ!!ポンポンポンッ!!ポンポンポンポコ……


「……」

「どうだ?大地。いいだろう。和太鼓と縦笛--」

「流行りますかこれ?」

「流行る」

「いや……」

「いやじゃない」

「なんかマヌケ……」

「大地!!」


 いや、和のテイストで行くのは別にいいんだがいかんせんユニット名と相方が……それに和のテイストは俺に合ってないような気がするんだが……

 しかしPのこの自信……

 俺への嫌がらせではない…強い意志と希望を抱いている。何かあるのか?



 --この時俺は甘く見ていた。

 Pのこの考えを……俺のユニットを……曲を……なにより、彼を……


「この曲はな、圭介を最大限活かすために考えた。器用なお前のことだ……圭介ともきっと合わせられる……2人の持ち味がハーモニーを奏でる時……世界は奇跡を目の当たりにするだろう……」

「……けーちゃんを?」

「この曲は圭介の舞に合わせてある…圭介には“いつも通り”の振り付けで行ってもらう。圭介、見せてやってくれ」

「えへへ……照れるな……」


「しっかり目に焼きつけるんだよ?」となんだか恥ずかしそうにしながらも、されどその目にプロ顔負けの自信を滾らせたけーちゃん。

 何が始まるんだ……?


 流れ出るミュージック……

 そしてそれに合わせて動き出す橋本圭介……


 --そしてそれは……





「おーーーーっほっほっほっほっほっ!!私は認めませんわーーーっ!!恋人が居るアイドル!!認められませんわーーーーーっ!!」

「…………ぐすっ」

「おーーーーーーーっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!!あなたは今度デビューなさる……あなたもそう思いませんことーー!?」

「……ぐすっ、うぅ……」

「……?おーーーーーっほっほっほっほっほっほっ!!どうなさいましたのーーーー!?」

「…………………………か、観音様……」

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